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Photo bykee_s_art

Spiceカリー里山

    次の連休。

    リュックを広げて荷物を詰めていく。

    着替え。

    お気に入りのエプロン。

    いつものコーヒー豆。

    そして、小さな缶やガラス瓶に入った、たくさんのスパイス。

    ターメリック。

    クミン。

    コリアンダー。

    クミンシード。

    フェンネルシード。

    マスタードシード。

    パンチフォロン。

    気づけば、洋服よりスパイスのほうが場所を取っていた。

    でも、今回は最初から決めていた。

    里山へ着いたら、スパイスカレーをつくる。

    畑を歩いて、その日に採れた野菜を見て、そこに合う具材を選ぶ。

    料理は、決めておいたほうが迷わないこともある。

    窓の外を流れる景色が、少しずつ街から田んぼへ変わっていく。

    高いビルがなくなり、山の稜線が見えてくる。

    その景色を見るだけで、肩の力がゆるんでいく。

    里山へ着くと、友人が畑から手を振っていた。

    「ちょうどタマネギが大量にあるよ。」

    「じゃあ、今日はそれを入れてカレーにしよう。」

    収穫したばかりの野菜を抱えて台所へ向かう。

    野菜は里山から。

    スパイスは東京から。

    どちらか一方では完成しない。

    この食卓は、二つの暮らしが出会ってできている。

    フライパンに油を熱し、まずはテンパリングをする。

    クミンシード、フェンネルシード、マスタードシードを入れると、小さく弾ける音が静かな台所に響いた。

    香ばしい香りが立ち上る。

    そのあとで、タマネギをじっくり炒める。

    甘みが出てきたところへ、ターメリック、クミン、コリアンダーを加える。

    粉のスパイスは、ここでようやく入る。

    油となじんで、色と香りがふわりと広がっていく。

    友人が台所をのぞき込んで笑う。

    「この匂い、いいね。」

    私は笑いながら答える。

    「今日は、最初からカレーをつくるつもりだったから。」

    里山には、季節の恵みがある。

    東京には、世界中から集まったスパイスがある。

    どちらも、人が長い時間をかけて育て、受け継いできた宝物だ。

    だから私は、その二つを同じ鍋の中で出会わせてみたくなる。

    最後に塩で味を整えると、スパイスの香りの奥から、野菜のやさしい甘みが立ち上がった。

    食卓に並んだ料理は、里山料理でも、本格的なインド料理でもない。

    その日、その場所でしか生まれない一皿だった。

    友人がひと口食べて、ゆっくりとうなずく。

    「畑の野菜って、スパイスとも仲良くなれるんだね。」

    私は窓の外の緑を眺めながら思う。

    里山へ持ってきたのは、スパイスだけじゃなかった。

    東京で過ごした時間も、旅で出会った味も、

    全部この場所へ連れてきた。

    そしてまた、この里山で新しい季節を混ぜ合わせていく。

     
     
    東京・丸の内で働くごく普通のOL。 気づけば毎日、時間に追われていました。 このnoteでは、里山での暮らしや季節の手仕事、美しい風景、おいしいごはんとの出会いを記録していきます。 都会のスピードに少し疲れた人が、ひと息つける場所になれたらうれしいです。

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