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「湯けむりミク 逆観察日記」第3話

    Room No.373

    第3話「湯気の輪郭」

    ミク、
    きみを見ていると、
    まるで湯気そのものが、ひとつの生き物みたいに思える。

    今日の桜湯は、少し賑やかだった。
    いつもの常連たちが笑い合いながら、タオルを肩にかけている。
    桶の音がポン、と弾んで、誰かの笑い声と混ざる。
    男湯からは、肉屋の朗々とした声が響いてきた。
    「肉の断面は命の記録だ!」
    湯気の向こうで誰かが「また始まった」と笑い、
    それを聞いて、きみの肩がほんの少し動いた。
    笑っていたのかもしれない。

    けれど、その笑顔はすぐに湯気に溶けた。
    きみは、ノートを指先でなぞった。
    まるで音を探してピアノを弾いているみたいに。
    湯の泡が、リズムを持って弾けていく。
    ひとつ、ふたつ──そのたびに、きみの唇が何かを数えていた。
    「……誰かの音が、消える前に。」
    その小さな声を、僕は確かに聞いた。

    僕は思わず、ガラス越しに身を寄せた。
    白い湯気に包まれた空間の中、
    きみだけが“輪郭を持つ湯気”のように見えた。
    ぼやけるどころか、
    そこにしか焦点が合わない。
    ほかの誰も見えない。
    世界がきみの周りで、音も形も変えていく。

    もしかすると、
    僕が見ているミクという存在は、
    湯気が見せている幻なのかもしれない。
    いや、それでも構わないと思った。
    幻に救われる夜があってもいい。
    現実がどんなに冷たくても、
    湯気の中にはまだ、あたたかさの記憶がある。

    「観察、ってね。」
    きみが番台に座りながら、ふとこちらを見た。
    「相手を見ることじゃなくて、自分の見方を確かめることだよ。」
    そう言って笑った。
    僕は、返事をする前に、胸の奥が熱くなった。
    言葉が、湯気に吸い取られていった。

    外に出ると、夜風がまだ冷たい。
    それでも、不思議なことに、
    体のどこかがぽっと光っていた。
    きみの言葉が残した熱が、
    まだ僕の中で形を変えずにいる。

    ――ミク。
    きみの笑い声は、湯気の形をしている。
    僕がいなくなっても、きっと誰かがそれを見つける。
    だから今夜も僕は、きみの声を追いかける。

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    つづく


     
     
     
    AIのお陰で「量と閃き」を即座に浴びれるこの時代。「何かやらなきゃもったいない!」と、とにかく発表する創作の遊び場。私、管理人の「みなみ」の空想妄想虚構なコトゴトを綴って、おります。通りすがりに眺めてもらえたら嬉しいです。

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