
なんだコノヤロー!
二年前に諸事情で退職した会社から二度目の連絡が来た。一回目は、そう、ちょうど一年前である。今回も、なんでもいいから早く来い、と切羽詰まった声であった。
それだけで事情を理解した。つまり、昨年の繰り返しである。タクシーで会社が入っているビルの正面に乗りつける。かつての同僚が私を認めるや、
「来たぞー!」
そこいらに集まっていた社員が拍手をしたりバンザイしたりする。女性陣から歓声を浴びる。私は先を急がせる元同僚に言った。
「もうシステム入れ替えろよ」
「ばか言え。六年償却だ。あと二年ある」
そうして待機させていたエレベータに押し込まれた。
さて。ここまで読んだ諸君は、なんの話かわからぬであろう。説明しよう。私が退職する二年前のことである。入退室管理のシステムが社長の一声で刷新された。顔と音声、挙動などで認証するシステムらしい。通常は、まあ顔だけで認証される。ところがである。
原因不明だが、時折システムが初期化されてしまうのだ。その時は私の出番となる。いや、私がその道のスペシャリストだ、という話ではない。私はただ、導入時に実験台となっただけである。
社長監視の下、データの入力作業が行われた。つまり社員の顔、音声、簡単なアクションを順次読み込ませるのである。最初の一人がカメラに向かい、所属と名前を言った。そこで社長から注文が入る。
「それ、普通だよな? このシステムはもっとアクティブなんだ。なんでもいいから、なにかやって」
二人目は振り付きで歌った。これが先の元同僚である。私の番となった。アントニオ猪木のモノマネをして、大いにウケた。社長賞をもらった。このデータがパイロット版として使われ、システムの作動確認に使われる。元同僚が歌う。私がモノマネをする。するとシステムが正常作動する。実験完了。
さて、システムの運用が始まり、初めての「謎の初期化」が起こった。メーカーの担当を呼んでも原因は不明である。もしかしたら、ということで「パイロット版」を再現してほしい、と要望された。元同僚が歌い踊り、私が猪木になる。するとシステムが復旧した。意味がわからぬ。
そういった次第で、「謎の初期化」が起こると「パイロット版」の再演となる。それが私の退職後にも起こっている、ということである。
会社のフロアに着いた。カメラの前に最初に立つのは同僚である。同僚は仏頂面で、『ヘビーローテーション』を歌い、踊った。
私の番である。上半身、裸となる。首から赤いタオルをぶら下げる。顎を盛大に突き出し、般若のごとき形相を拵える。ファイティングポーズを決める。そうして雄叫んだのである。
「なんだコノヤロー!」