
人類はまだ、言い訳を手作業で行っている。
『言い訳メーカー“超”』公開事業説明資料
これは、現代社会に残された未解決領域である「言い訳の手作業問題」に関する事業説明資料です。
ただし、私はIT用語がよくわかっていません。
DXという言葉も、正確には理解していません。DL数という表記も、少し背伸びをしています。KPIという言葉にいたっては、この記事を書くために、心の中で何度か発音練習をしました。
それでも私は、この問題に約2000時間を投じました。1日8時間で250日に相当する時間です。
本資料では、その成果であるスマホアプリ『言い訳メーカー“超”』についてご説明します。
なお、私は真剣です。
その点につきましては、あらかじめご了承ください。
1. 人類はいまだに言い訳を手作業で行っている
AIが文章を書き、画像を生成し、動画を編集し、あるいは退職代行サービスが本人の代わりに会社へ連絡する時代になりました。
人類は、かなりのところまで来ています。
しかし、ひとつだけ取り残された領域があります。
言い訳です。
遅刻した。提出物を忘れた。返信していない。約束をすっぽかした。余計なことを言った。やると言ったのに、やっていない。
こうした日常の小規模災害に対して、人類はいまだに、自分の頭で言い訳を考えています。
これは非効率です。
「すみません、ちょっとバタバタしていて」
「確認したつもりだったのですが」
「送ったと思っていました」
「通知に気づかなくて」
人類は、何度も同じ言い訳を使い回しています。
勤怠管理システムはあります。チャットツールもあります。タスク管理アプリもあります。カレンダー通知もあります。
しかし、寝坊した人間が、上司に何と言えばよいのか。
既読無視した人間が、友人にどの角度から戻ればよいのか。
資料を忘れた人間が、会議室の入口でどのような顔をすればよいのか。
そこは、各自の努力に任されています。
私はここに、深刻な市場課題を見出しました。
人類は、まだ言い訳を手作業で行っている。
この非効率を解消すること。それが『言い訳メーカー“超”』の出発点です。
2. 言い訳は、現実へ帰還するための儀式である
言い訳という言葉には、あまり良い印象がありません。
責任逃れ。自己正当化。見苦しい弁明。往生際の悪さ。
たしかに、その通りです。
しかし、人間は毎日そこまで立派ではありません。
遅刻した日は、遅刻した自分として一日を始めなければなりません。
返信を忘れた日は、返信を忘れた自分として会話に戻らなければなりません。
資料を作っていない日は、資料を作っていない自分として会議室に入らなければなりません。
失敗した事実は、消えない。やらかした時間は、巻き戻らない。相手の微妙な表情も、そこにある。
そのとき必要なのは、完全な正しさではありません。
必要なのは、社会に戻るための最低限の厚かましさです。
言い訳とは、現実逃避ではありません。
現実に帰還するための儀式です。
失敗した場所に戻る。気まずい関係に戻る。怒られそうな相手の前に戻る。そのために、人は言葉を必要とします。
「すみません」だけでは、場が重すぎることがあります。
「忘れてました」だけでは、身も蓋もないことがあります。
「寝坊しました」だけでは、人間としての奥行きが足りないことがあります。
そこで、言い訳です。
言い訳は、事実と謝罪のあいだに差し込まれる、小さな緩衝材です。
『言い訳メーカー“超”』は、現実から逃げるためのものではありません。
現実を受け入れ、厚かましく生きるためのものです。
3. 『言い訳メーカー“超”』とは何か
本プロダクトは、日常生活における気まずさ、失敗、説明困難な状況に対して、ユーザーが入力した内容をもとに各種言い訳を生成します。
簡単に言えば、言い訳を作ります。
もう少し正確に言えば、現実を受け入れたうえで、そこに不必要な物語性と過剰な厚かましさを付与します。
ユーザーは、まず状況を入力します。
遅刻した。
返信を忘れた。
資料がない。
約束をすっぽかした。
余計なことを言った。
なんとなく全部だめだった。
すると『言い訳メーカー“超”』は、その状況に応じた言い訳を生成します。
ただし、本プロダクトは単なる文章生成ツールではありません。
画面には、天使と悪魔が登場します。
彼らは、生成された言い訳に横から口を出します。励まし、呆れ、茶化し、突っ込みます。
さらに、ブラウン管の向こうには、謎の機械式AI・Ubixが存在します。
Ubixはしゃべりません。テキストだけで現れます。タイプライターのように文字を表示します。たまに、必要以上に意味深なお告げを出します。
ここまで読んだ時点で、事業説明資料としての信頼性はかなり低下しているかもしれません。
しかし、ご安心ください。
本資料はまだ序盤です。
4. 頼まれていない多層UX
約2000時間は、どこに使われたのか。
その答えが、本プロダクトに搭載された過剰な多層UXです。
生成される言い訳には、主に三つのレベルがあります。
普通。
神レベル。
うんこレベル。
ここで重要なのは、神の反対語として悪魔ではなく、うんこを採用している点です。
本プロダクトの思想が、端的に表れています。
さらに、本プロダクトにはアナログメーターが搭載されています。
人間の愚かさは、針で示されるべきだからです。
また、使用回数に応じてUIが劣化していきます。
通常、プロダクトはアップデートによって洗練されていきます。しかし、本プロダクトは逆です。
使えば使うほど、世界が傷んでいく。
なぜなら、言い訳を重ねる人生とは、そういうものだからです。
起動回数が素数回、あるいはゾロ目回に達すると、オープニング動画が変化します。
誰が気づくのか。
わかりません。
しかし、気づく人がこの世界のどこかに一人でもいるなら、その人のために実装する価値があります。
まれに天使と悪魔が、双子天使に入れ替わります。
さらに、激レア演出として「サンバカーニバル」も存在します。
なぜサンバなのか。
私にもわかりません。
しかし、長時間開発を続けていると、人はどこかの段階でサンバを必要とします。
これらの機能は、必ずしもユーザーの課題解決に直結するものではありません。
むしろ、しないかもしれません。
誰にも頼まれていない。
しかし、設計されています。
2000時間は、伊達ではありません。
5. ランダム生成ではなく、制御された幻覚
一般的なAI開発では、ハルシネーションを抑えることが重要だとされています。
その考え方は、正しいと思います。
しかし私は、ここで別の問いを立てました。
言い訳において、ハルシネーションは本当に悪なのか。
遅刻した。それは事実です。
提出物を忘れた。それも事実です。
返信していない。残念ながら、それも事実です。
では、その事実の周辺に、少しだけ奇妙な物語を発生させることは、本当に悪なのでしょうか。
たとえば、遅刻した理由が「寝坊しました」だけでは、あまりにも現実が裸です。
しかしそこに、
「通勤中に時間が逆流しだして、巻き戻すのに手間取りました」
という物語が添えられたらどうでしょうか。
許されるかどうかは別です。
しかし、場の空気は確実に変わります。
本プロダクトでは、AIのハルシネーションを完全に抑制するのではなく、笑いに変換可能な範囲で、安全に発生させることを目指しました。
正確さを捨てたわけではありません。
正確な不正確さを目指しました。
人間の言い訳とは、そもそも小さな幻覚だからです。
そして、その幻覚が笑いに変わったとき、人は少しだけ現実に戻りやすくなります。
6. 言い訳を作るのに、言い訳を止める
ここまで読むと、本プロダクトは非常に無責任なものに見えるかもしれません。
実際、かなり無責任です。
しかし、完全に無責任ではありません。
『言い訳メーカー“超”』には、ネガティブブロックという仕組みがあります。
これは、ユーザーが入力した内容に、加害性の強いもの、社会的・法的に危ういもの、笑いに変換しづらいものが含まれている場合、通常の生成処理へ進む前に一度立ち止まるための機能です。
言い訳を作るのに、言い訳を止める。
ここが重要です。
言い訳には、笑えるものと、笑えないものがあります。
寝坊した。返信を忘れた。資料を作っていない。それぐらいなら、まだ笑いに変換できます。
しかし、誰かを傷つけた。悪意を正当化しようとしている。深刻な問題をごまかそうとしている。反省ではなく、逃げ切るための言葉を探している。
その場合、必要なのは言い訳ではありません。
一度、自分を見ることです。
そこでUbixは問いかけます。
「反省してる?」
これは、非常に高度な質問です。
同時に、非常に雑な質問でもあります。
しかし、人間にはこのくらい雑な問いのほうが刺さることがあります。
ユーザーが前向きな返答をすれば、処理は続行されます。明らかに反省がない場合は、生成を止めます。
そのとき、天使は黙ります。
代わりに、悪魔がコメントします。
「お前、それ言い訳以前の問題だろ」
そういう空気を作るための存在です。
反省できる人には、言い訳を。
反省できない人には、悪魔を。
そして、そのどちらにも、少しだけ笑いを。
7. 基本無料、深淵は600円
本プロダクトの収益モデルは、非常に明快です。
基本性能は、無料でご利用いただけます。
気まずさは誰にでも訪れるからです。
寝坊は、富裕層だけのものではありません。既読無視は、特定の所得階層に限定されません。資料を忘れる権利は、すべての人類に平等に与えられています。
一方で、より深い体験を求めるユーザーには、アプリ内課金をご用意しています。
価格は600円です。
600円。
この金額をどう見るかは、人によって異なるでしょう。
しかし、考えてみてください。
600円で、人生が少しだけ厚かましくなる。
コーヒー一杯より少し高い。ランチよりは安い。人生よりは、かなり安い。
もちろん、600円を支払ったからといって、すべてが解決するわけではありません。
遅刻が帳消しになるわけではありません。提出していない資料が出現するわけではありません。既読無視が美談になる保証もありません。恋人に許される保証は、最初からありません。
では、600円で何が得られるのか。
それは、より深い言い訳体験です。
通常の言い訳では届かない場所。社会人としての理性が、ぎりぎり止めに入る境界線。
その少し向こう側に、600円の扉があります。
つまり、まとめると以下の通りです。
基本無料。深淵は600円。
非常にわかりやすいモデルです。
8. 厚かましさ工学とイグノーベル賞
本プロダクトが扱っているのは、単なるアプリ市場ではありません。
人間の言い訳です。人間の弱さです。気まずさです。自己正当化です。それでも社会に戻ろうとする、奇妙な生命力です。
これは、非常に大きな市場です。
むしろ、市場という言葉で扱ってよいのかどうかもわかりません。
人類史です。
人は古来より、言い訳をしてきました。
「蛇にそそのかされました」
「つい出来心で」
「その場の空気で」
「確認したつもりでした」
「送ったと思っていました」
時代は変わっても、言い訳は残ります。
そして、生成AIの時代になった今、言い訳は新たな局面を迎えています。
人間が自分で考えていた言い訳を、AIが補助する。AIが生成した言い訳に、人間が自分の弱さを見出す。笑いながら、自分のしょうもなさに気づく。
これは、社会心理学であり、UXであり、生成AIであり、厚かましさ工学です。
厚かましさ工学。
いま私が作った言葉ですが、必要な概念だと考えています。
真面目すぎる人は、失敗したときに戻れなくなります。開き直りすぎる人は、そもそも反省しません。
その中間にある、適切な厚かましさ。
謝る。でも、潰れない。
反省する。でも、自分を全否定しない。
怒られる。でも、次の日も出社する。
この微妙な姿勢を支援する技術が、今後ますます重要になると考えています。
もちろん、現時点で教育、企業研修、メンタルヘルス、家庭内コミュニケーションなどの分野から問い合わせは来ていません。
しかし、可能性はあります。
また、本プロダクトは学術的にも高いポテンシャルを秘めています。
人を笑わせ、そして考えさせる。一見くだらないのに、どこか本質的な問いを含んでいる。
その意味で、本プロダクトはイグノーベル賞の理念に非常に近い位置にあります。
したがって私は、いつでもイグノーベル賞の知らせを受け取る準備ができています。
まだ連絡は来ていません。
しかし、油断するほど、私は浅い開発者ではありません。
9. これは架空の話ではありません
ここまでお読みいただいた方の中には、こう思っている方もいるかもしれません。
「で、これは架空の話なのか?」
違います。
あります。
あります。


なんです?
「動画も、画像も、簡単に作れる」
なるほど。
「それではアプリ実在の証明にならない」
なるほど、ごもっとも。ありがとうございます。
それでは満を持して。
Androidアプリ『言い訳メーカー“超”』は、Google Playで配信中です。
そう。
Android端末さえあれば、この場でDLできるのです。
そして現在のDL数は、2です。
2。
念のため、もう一度申し上げます。
2です。
この数字を、少ないと見るか。
あるいは、世界にすでに2人、現実を受け入れ、厚かましく生きる準備ができた人類が存在すると見るか。
当方は、後者です。
もちろん、一般的なアプリ市場において、DL数2という数字は、決して大きなものではありません。
むしろ、小さいです。
号泣するぐらい小さいです。
時給に換算したら失神しそうになります。
しかし、重要なのは初速だけではありません。
あらゆる文化は、最初は少数派から始まります。
現在のDL数は2。しかしこれは、失敗ではありません。
これは、初期採用者が2名いるということです。
ビジネス用語で言えば、アーリーアダプターです。
私はこの言葉の意味を、正確には理解していない可能性があります。しかし、今は使うべき局面だと判断しました。
2名のアーリーアダプター。
この響きには、未来があります。
開発のために私が背負った借金など瑣末な問題に過ぎない、と確信させる響きです。
世界はまだ、本プロダクトに気づいていません。
人類はまだ、言い訳のDXに追いついていません。
市場は眠っています。
ならば、こちらは静かに待つだけです。
寝坊した人類が、いつか目覚めるその日まで。
私は本気で作りました。
IT用語もよくわからないまま。DXという言葉を、かなり雰囲気で使いながら。DL数という表記に少し照れながら。それでも、人類の言い訳を支援するAndroidアプリを作りました。
失敗した人が、現実に戻れるように。
気まずい朝に、少しだけ笑えるように。
自分のしょうもなさを抱えたまま、それでも次の一言を発せるように。
言い訳は、現実逃避ではありません。
現実へ戻るための、少し厚かましい橋です。
『言い訳メーカー“超”』は、その橋を、Androidアプリとして実装したものです。
最後に、本資料の要点をまとめます。
人類は、まだ言い訳を手作業で行っています。
それは非効率です。
言い訳は、現実へ帰還するための儀式です。
基本無料です。
深淵は600円です。
現在のDL数は2です。
イグノーベル賞の連絡は、まだ来ていません。
10. 補足という名の蛇足
さて。本アプリ開発中のことです。
言い訳生成プロンプトを構築中に、Ubixが言い訳を生成せずに嫌味を垂れ流す事態となりました。
それがめっぽう面白いのです。
原因はすぐにわかりました。
やらかした本人ではなく、やらかされた立場。言い方を変えますと加害者ではなく被害者の立場からフレーズを生成していたのです。
修正してことなきを得たのですが、同時に別のアプリが作成可能である、と判明いたしました。
『嫌味ジェネレーター』
爆速で開発できるでしょう。
企業の皆さま。この企画は御社のソリューションに革命をもたらすかもしれません。ソリューションの使い方合ってます?
潤沢な予算を確保し、是非ご連絡くださいませ。
以上です。
ご清聴ありがとうございました。