
世界の継ぎ目(銀座の雨)
この間の土曜日、銀座に行って、ふと「あれ?」と思った。
いつもなら土曜の昼頃には歩行者天国になっているはずなのに、普通に車が走っている。信号も赤になっている。
「あれ、歩行者天国、なくなったのかな」
でも、時間はいつもとほとんど同じだ。私の勘違いだろうか。開始時間が変わったのか、それとも今日は特別なのか。頭の中でいくつもの仮説がぐるぐると回ったが、とりあえずは予約していた整体へ向かった。
帰り際、気になって少し調べてみると、台風や悪天候、イベントなどの影響で、銀座の歩行者天国が中止になることがあるらしい。
確かに、その日は車の台数も少なかったし、走っているのはタクシーが多かったような気がする。
「なるほど、そういうことだったのか」
それで話は終わる。
けれど、もしこれが物語だったら、どうだろう。
もしかしたら私は、ほんの少しだけ違う世界に迷い込んだのかもしれない。
歩行者天国がない。
いつも通っている整体の入口の扉の色はこんなだったろうか。
いつものようにルイ・ヴィトンのお店の前は行列だ。
入る人に傘袋を渡して、装着を促している。
「ぬらすことは許さーん」をオブラートに包んでいるんだな。
あれ、雨のときって、毎回そうしていたっけ。
そんなふうに、ひとつひとつは取るに足らない違いなのに、それがいくつか重なると、人は急に落ち着かなくなる。
「何かが違う」そう感じる。
たぶん、そういうものなのだ。世界そのものが変わったわけではない。
ただ、世界の継ぎ目が、ほんのわずかにずれてしまったように感じる瞬間。
私たちは、そのずれを「違和感」と呼んでいるのか。
異世界への入口は、地下から上への階段を登り切ったところだったのだろうか。
入れ替わった私だけが、気づいてないのかもしれない。
鏡の世界では、顔の左右が入れ替わっても、気づかないみたいに。
雨の中を、黄色い蝶がひらひらと横切った気がした。