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異世界、空の向こう 第三十四章【それぞれの夜明け】

    第三十四章:それぞれの夜明け

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    ━━ 1 ━━


    酒場の隅で、

    シリウスとレオンは

    向かい合っていた。


    シリウスが、

    レオンを飲みに

    連れてきたのだ。


    「……最近、

     お前、おかしいぞ」


    シリウスが言った。


    「おかしくない」


    「ミラさんに

     絡んだのもそうだし、

     聞き込みで

     空回ってるのも見てた。

     何がそんなに

     苛立ってるんだ」


    レオンは、

    酒杯を置いた。


    「……誰も、

     おれを相手にしないんだよ」


    「聞き込みの話か」


    「戦争の気配がするから、

     自分で情報を集めようとした。

     でも、

     街の住人はみんな

     坊っちゃん扱いだ。

     遊びに来てると

     思われてる」


    「……実際、

     これまでそうだっただろ」


    レオンが、

    押し黙った。


    シリウスは、

    続けた。


    「お前が

     今まで何もしてこなかった、

     それは事実だ。

     信頼は、

     積み上げてきた行動で

     生まれる。

     今日明日で

     変わるもんじゃない」


    「分かってる」


    「分かってて、

     他の人間に

     怒りをぶつけるのか」


    レオンは、

    顔を伏せた。


    「……腹が立つんだよ、

     自分に」


    「そうだろうな」


    シリウスは、

    酒を一口飲んだ。


    「だが、

     怒りを向ける

     相手を間違えるな。

     自分への怒りを、

     他の誰かで

     解消しようとするな」


    「……うん」


    「街の住人が

     お前を坊っちゃん扱いするのは、

     お前がまだ

     行動で示してないからだ。

     知ってもらうには、

     行動しかない。

     言葉じゃない」


    二人は、

    それから朝まで語り明かした。


    気がつくと、

    レオンは

    カウンターで

    眠っていた。


    酔い潰れたらしかった。


    シリウスは、

    そんなレオンを

    眺めた。


    ウイスキーグラスを

    片手に、

    レオンの頭を

    そっと撫でた。


    「お前は変わらなくていいんだよ。

     そのままで。

     そうしたら

     ずっとおれが

     兄として守ってあげられる」


    シリウスは、

    静かに続けた。


    「戦争が始まったら、

     おれはきっと

     獣人の味方は

     出来ない。

     そういうことに

     お前は気付かなくていいんだよ」


    気づけば

    ボトルは一晩で空になっていた。


    今日は、

    飲み過ぎたようだ。


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    ━━ 2 ━━


    翌日、悠真とギルは

    引き続き街で

    リナの手がかりを

    探していた。


    昼になり、

    二人は飯屋を

    探し始めた。


    通りに面した

    一軒の店を見つけた。


    「ここにしよっか」


    ギルが言った。


    扉を開けようとすると、

    店主が出てきた。


    「ここは獣人専用だ。

     人間は入れない」


    「……あ、すみません」


    二人は、

    店を後にした。


    「なんだったんだ、

     あれ」


    ギルが言った。


    「分からん」


    夜、ゴルドの店に

    戻ってそのことを話すと、

    ゴルドは少し

    顔をしかめた。


    「……あるんだよ、

     そういう店が」


    「どうしてですか」


    「かつての戦争から、

     他種族との交流を

     避ける風潮がある」


    ゴルドは、

    続けた。


    「獣人は

     他種族を見下している。

     エルフは、

     無用な攻撃を

     避けようとしている。

     理由は違うが、

     どちらも戦争が

     生んだ傷だ」


    「おれの店は、

     全ての種族を受け入れる。

     だから、

     お前らは気づかなかっただろ」


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    ━━ 3 ━━


    そこに、

    ミラが加わった。


    「……私からも、

     少しいいですか」


    ゴルドが、

    頷いた。


    ミラは、

    ゆっくりと

    話し始めた。


    「私、元々この下町の

     産まれじゃないんです。

     親は貴族で」


    「でも、

     目が見えないことで、

     家族からは

     腫れ物扱い。

     妹が産まれたとき、

     この店の前に

     捨てられました」


    ギルが、

    息を呑んだ。


    「だから、

     自分の店を

     持ちたいんです。

     全ての種族が、

     偏見なく

     座れる場所を

     作りたい。

     その店でだけは、

     誰もが

     ただの客として

     扱われる場所を」


    悠真が、

    口を開いた。


    「……すごい夢だと思います」


    「ありがとうございます」


    「でも、一つ聞いていいですか。

     その夢は、

     誰かのためですか。

     それとも、

     自分のためですか」


    ミラは、

    少し考えた。


    それから、

    困ったように

    笑った。


    「悠真さんは

     難しいことを聞きますね……

     今はすぐに答えられないです……

     ちょっと考えてみます」


    悠真は、

    それ以上

    何も言わなかった。


    その笑顔が、

    なぜか

    頭から離れなかった。


    夜が更けた頃、

    ゴルドが二人を

    別室に呼んだ。


    「一つ、教えておく」


    ゴルドは、

    腕を組んだ。


    「ミラは

     捨てられたと

     思っている。

     だが、

     ミラの家族から

     おれは正式に

     ミラを託されている。

     貴族社会のしがらみの中では

     あの娘は生きにくいと

     心配したからだ。

     あの娘の父親とは

     昔から知り合いでな。

     本人にはまだ話してない」


    ゴルドは、

    二人を見た。


    「ミラの話を聞いて、

     印象は変わったか」


    ギルが、

    先に口を開いた。


    「天然で

     ほわほわした

     綺麗なお姉さんだと

     思ってたけど、

     しっかりした考えがあって、

     自分も見習わなきゃと

     思った」


    ゴルドは、

    悠真を見た。


    「……捨てられた訳じゃないことを、

     どうして

     教えてあげないんですか」


    悠真が言った。


    「今のミラは、

     マイナスの感情を

     エネルギーにしている。

     悪いことじゃない。

     でも、

     それだけだと

     いつか限界が来る」


    「……ほう」


    「ミラの夢は

     本物だと思う。

     だけど、

     本当のことを知って

     初めて、

     ミラは自分の

     本当の思いに

     向き合えると思う」


    ゴルドは、

    しばらく黙っていた。


    それから、

    短く言った。


    「……覚えておく」


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    ━━ 4 ━━


    翌朝、シリウスが

    悠真とギルのもとに

    やってきた。


    「昨日、

     この街の

     裏側を覗いたそうだな」


    「獣人専用の店で

     断られた」


    ギルが答えた。


    シリウスは、

    少し考えた。


    「レオンには、

     まだ話さないでくれ」


    「なんで?」


    「レオンは

     ゴルドの店と、

     おれの行きつけの店しか

     行かない。

     偏見を、

     まだ直接は

     知らないんだ」


    シリウスは、

    続けた。


    「あいつには、

     自分で考えて、

     自分で気づいてほしい。

     誰かに教えてもらった

     正義じゃなく、

     自分の目で

     見たものを

     信じてほしいんだ」


    悠真は、

    頷いた。


    その頃、

    レオンは

    久しぶりに

    王城に戻っていた。


    父である王から、

    呼び出しがかかった。


    王の執務室に入ると、

    父は書類を

    見ていた。


    「レオン、来たか」


    「はい」


    「エルフの里に

     攻勢をかける。

     その指揮を、

     お前に任せたい」


    レオンは、

    一瞬、言葉を失った。


    「……エルフと、

     戦うんですか」


    「そうだ」


    「なぜですか。

     エルフが

     何かしましたか」


    王は、

    少し間を置いた。


    その目が、

    どこか遠かった。


    「脅威になりえる

     前に、動く必要がある」


    「でも、根拠が」


    「レオン」


    父の声が、

    静かになった。


    「お前に期待している。

     この戦で、

     お前の力を

     示してくれ」


    その言葉が、

    レオンの胸に

    届いた。


    街で空回り続けた日々。

    誰にも相手にされなかった日々。


    父に期待される。

    その言葉が、

    じわじわと

    染み込んでいった。


    (頑張らなきゃ)


    そう思った瞬間、

    レオンの中で

    何かが傾き始めた。


    それが

    全てマルムの策略だとは、

    知る由もなかった。


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    ━━ 5 ━━


    森の中を、

    リナとミルは

    走っていた。


    突然、茂みが揺れた。


    複数の魔獣の気配。


    「……ミル、後ろに」


    リナが、

    ミルをかばった。


    魔獣が、

    次々と飛び出してくる。


    「走って!」


    二人は、

    走り続けた。


    追ってくる気配が、

    しつこかった。


    走りながら、

    リナは考えていた。


    (このままでは

     ミルを守れない)


    かつて、

    ゼノすら退けた

    自身の力。


    あの力を

    使いこなせれば、

    守れる。


    でも、

    今の自分では

    まだ制御しきれない。


    (守る力をつけなければ、

     やりたいことも

     できない)


    夜になると、

    魔獣たちも

    静かになった。


    二人は、

    木の根元に

    身を寄せた。


    「……ごめんね、ミル」


    「なんで謝るの」


    「守れなかった」


    「でも逃げ切れたじゃん」


    ミルは、

    あっけらかんと言った。


    リナは、

    自分の手を見た。


    「……練習する」


    「え?」


    「力のコントロール。

     ここで始める」


    リナは、

    目を閉じた。


    声が、流れ込んでくる。


    受け取るだけじゃなく、

    外に向けて、

    細く、

    絞り込んで。


    ミルは、

    頑張るリナを

    じっと見ていた。


    (私にも、

     何かできないかな)


    ミルも、

    自分の中に

    眠る力と

    向き合い始めた。


    その時、

    遠くで何かが

    反応した。


    リナの力の波長に、

    ステラが気づいた。


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    ━━ 6 ━━


    街道の休憩中、

    瞬と美緒は

    可愛い動物を見つけた。


    白くて、

    小さくて、

    チワワのような姿だった。


    「……どこから来たんだろ」


    美緒が、しゃがんだ。


    動物が、

    すり寄ってきた。


    「可愛い」


    瞬も、隣にしゃがんだ。


    魔族の国で

    ずっと張り詰めていた

    何かが、

    ふっと緩んだ。


    二人は、

    その動物を

    ぼんやりと愛でた。


    自然と、

    距離が縮まっていた。


    気づいたら、

    手が繋がっていた。


    恋人繋ぎだった。


    少し離れた場所で、

    三人がその様子を

    見ていた。


    テッラは、

    顔を真っ赤にして

    目を逸らした。


    ゼノは、

    羨ましそうに

    眺めていた。


    レインは、

    にやにやしていた。


    「……将軍、

     顔に出てるぞ」


    「うるさい」


    「テッラ様も

     真っ赤ですよ」


    「……黙りなさい」


    二人の距離が、

    さらに近くなった。


    そろそろ

    一線を越えそうな

    空気になった。


    レインが、

    すっと二人の間に入った。


    「はい、今日は

     ここまで」


    「えっ」「なんで!」


    二人の声が、

    重なった。


    「お楽しみは

     取っておけ」


    レインは、

    にやにやしながら

    その場を離れた。


    瞬と美緒は、

    顔を真っ赤にして

    向き合った。


    その時、

    動物が

    テッラの方に

    歩いていった。


    じっと、

    テッラを見上げた。


    テッラは、

    正気を取り戻して

    その視線に気づいた。


    (……この子は)


    テッラは、

    動物を抱えて、

    皆から離れた。


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    ━━ 7 ━━


    木陰で、

    テッラは

    動物と向き合った。


    静かだった。


    「……随分、

     雰囲気変わったわね。

     姉さん」


    声がした。


    テッラは、

    固まった。


    「どうして貴方が

     ここに。

     ステラッ」


    「会いに来たのよ」


    ステラは、

    静かに言った。


    テッラの心が、

    揺れた。


    最近、

    ゼノへの気持ちに

    気づいて、

    少し安定していた。


    でも、

    目の前にいるのは

    ステラだ。


    自身が

    天界から地上に

    落とされた原因だと

    思っていた存在。


    「……何をしに来たの」


    (本当は、

     伝えたいことがあった。

     姉さんが天界から

     地上に行かされた、

     本当の理由のこと。

     姉さんの後任として

     働いてみて、

     女神だった頃の

     姉さんの優秀さを

     日々感じていること。

     悠真やギル、リナとの

     交流で私も変わった、

     そのことを。

     仲直りがしたかった)


    でも、

    言葉にならなかった。


    「……駄目な姉が

     また戦争起こそうとしてるから

     監視しに来たのよ」


    そっぽを向いた。


    こんなことが

    言いたいんじゃない。


    テッラは、

    その一言を聞いて、

    全てを悟った。


    (この子も、

     素直になれない

     同族だ)


    愛おしくなった。


    だから、

    合わせることにした。


    「なによそれ。

     あんたが

     ちゃんと調整しないから

     魔族の地位が

     向上しないんじゃない。

     だから私が

     代わりにやってあげるのよ。

     感謝しなさい」


    「……感謝なんてしないわよ」


    「しなさい」


    「しない」


    「する」


    「しない」


    何千年ぶり姉妹喧嘩だった。


    やがて、

    二人は

    皆のもとに戻った。


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    ━━ 8 ━━


    古い塔の中。


    マルムは、

    部下たちを

    集めていた。


    「再び、

     魔族の国を攻める」


    部屋が、

    静まった。


    「……マルム様、

     前の戦いで

     死傷者が多く出ました。

     治療中の者も

     まだいます。

     戦力は万全ではない」


    「だから何だ」


    「もう少し、

     待ってはどうでしょうか」


    「待つ必要はない。

     奴らは今、

     国を留守にしている」


    「でも……」


    別の声が上がった。


    「そもそも、

     マルム様の目的が

     分かりません。

     何のために

     戦うのですか」


    部屋に、

    重い空気が

    漂い始めた。


    マルムは、

    その声の主を

    ゆっくりと

    見た。


    次の瞬間、

    魔法の炎が

    その部下を

    包んだ。


    悲鳴が、

    上がった。


    誰もが

    立ちすくんだ。


    しかし、

    マルムは

    すぐに回復魔法を

    かけた。


    部下は、

    死の淵から

    引き戻された。


    床に崩れ落ちて、

    震えていた。


    マルムは、

    その部下の前に

    静かに歩み寄った。


    しゃがんで、

    その体を

    抱きしめた。


    額に、

    そっと口付けた。


    部下の瞳に、

    もはや光はなかった。


    マルムは立ち上がり、

    部下たち全員を

    見渡した。


    「他に、

     言いたいことは

     あるか」


    誰も、

    口を開かなかった。


    「準備を進めろ。

     手が足りないなら、

     国の外の魔獣も

     掻き集めろ」


    部下たちは、

    黙って頭を下げた。


    再び、

    戦火の火が

    灯り始めた。


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