
大工道3 「鋸」
大工にとって道具は命だ。
「素手じゃ木も切れない」
道具を忘れれば、よく怒られた。
中でも鋸は、最も基本であり、最も差が出る道具だと思う。
鋸は木を切るための道具。
それだけのことだけど、一流になればなるほど、その「当たり前」が難しくなる。
目指すのは、墨通りに一発で切ること。
鋸で切れずに、鑿でさらい、鉋で整える。
そうやって形を合わせているうちは、まだ半人前だと教わった。
「鋸で終わる所を、色々な道具に頼っていたら一人前にはなれないぞ」
その言葉は、今でも残っている。
鋸は、力で引くものじゃない。
軽く、引く。
腕だけで引くのではなく、身体の芯で引く。
無理な体勢で墨を覗き込みながら引けば、刃はすぐにブレる。

真っ直ぐ切るには、まず自分が真っ直ぐであること。
姿勢、呼吸、力の流れ。
すべてが整って、はじめて刃が素直に走る。
木にもクセがある。
でも、それ以上に人間のほうがブレる。
だからこそ、木を相手にしているようで、
実はいつも自分を見ているのかもしれない。
木も、自分も、素直で真っ直ぐであること。
それが、いい木になり、いい大工になるための
一番基本なのかもしれない。
