
風のまにまに 第9話
【ただ、そこにいるだけで
愛犬と取り戻した命の温もり】

「私はときどき、愛犬を連れてふらりと旅に出かけます」
愛車、三菱アウトランダーの広いラゲッジに、いつものキャンプ道具と愛犬のベッドを丁寧に積み込んで、那須高原へと走り出す。
窓から入る風に、愛犬の耳がふわりと揺れる。
その瞬間から、もう日常は遠くに消えていく。
キャンプ場に着いて荷物を下ろし終えたら、あえて何もしない。
焚き火の小さなパチパチという音だけ。
愛犬がそばで静かに寝息を立て、時折目を細めてこちらを見る。
木漏れ日が地面にまだらな光の模様を描き、遠くの鳥の声が優しく響く。
何も予定がない。
ただそこにいる。
風が頬を撫で、木々の匂いが胸いっぱいに広がるたび
「生きてるんだな」
と、静かに、深く、心の底から実感する。
この穏やかな一瞬が、忙しない日々の中で忘れかけていた命の温もりを、そっと取り戻してくれる。
愛犬の柔らかい毛を指で撫でながら思う。
この相棒と一緒にいられる今が、 何よりも尊い宝物なんだと。
那須の空の下、ただ二人で息をしているだけで、涙が出そうになるほど、幸せだった。


