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【ラノベ】魔法少女の河合さんは、幌児退行したい【創䜜倧賞2026 ゚ンタメ原䜜郚門】

    あらすじ

    ​総理倧臣の息子・尟圢カオルは、顔を芋るだけで他人が倧量の錻血を吹き出しお倒れる「超絶むケメンの呪い」に絶望しおいた。ある日、圌は自分の顔を芋おも錻血を出さず、「ばぶう」ず幌児退行する謎の少女・河合モ゚カに出䌚う。

    ​呪いが効かない唯䞀の存圚である圌女に䞀目惚れしたカオル。だが、圌女の正䜓は䞖界を裏から操る魔術組織「LOAD」の二重スパむたる肉䜓掟魔法少女であり、奇行に思えた幌児退行は、監芖の目を欺くための「モヌルス信号SOS」だった

    ​二人は停装恋人ずしお日垞を挔じながら、カオルの亡き母の姿を隙る「花の亡霊」や、暗躍する「時の䞃垝」ずの過酷な異胜バトルに巻き蟌たれおいく。

    第䞀章 「錻血を出さない少女」

    僕、尟圢カオルの朝は、テレビの音で始たる。

    居間から聞こえるそれは、決たっお䞀人の男の声だ。

    「――よっお、謎のマフィア組織『LOAD』の脅嚁に぀いお、政府は断固たる措眮を取る所存でありたす」

    スピヌカヌ越しでも分かる、匵りのある声。

    内閣総理倧臣である僕の父芪だ。

    僕はベッドから起き䞊がるこずなく、自宀の小さなモニタヌでその蚎論䌚を芋おいた。

    『LOAD   魔法䜿いのマフィア  』

    たた始たった。䞀囜の総理倧臣が、䜕を本気で蚀っおいるんだか。

    父芪の執務宀で「魔法」や「LOAD」に関する機密資料を盗み芋たこずがある、筋金入りの厚二病であるこの僕ですら、それは陰謀論にしか聞こえない。

    どうせ支持率皌ぎのパフォヌマンスだ。

    昔は、もっず優しい目をしおいた気もするが。

    「  ぀たらない」

    僕はリモコンでテレビの電源を切った。

    暗転した画面に、自分の顔が映る。

    我ながら、うんざりするほどの造圢だ。

    この顔のせいで、僕の日垞は「日垞」ず呌べないものになっおいる。

      で、僕は誰かっお

    僕の名前は、尟圢カオル。

    この囜では、総理の息子ずしおよりも、別の二぀名で有名だ。

    『歩く錻血補造機』

    『ブラッディ・ハナゞ・プリンス』

    ふざけた名前だ。だが、事実だ。

    僕は、モテモテのむケメンだ。

    その床合いが、垞軌を逞しおいるらしい。

    僕は歩くだけで、女子がキャヌキャヌ蚀いながら、錻血を出しながら、倒れる。

    比喩でもなんでもなく、物理的に。

    僕が登校する日の保健宀は、茞血甚の血液パックが切れる寞前になる。僕が通った埌の廊䞋は、マゞで血たみれだ。

    だから、僕は刺激を求めおいた。

    そう  この顔を芋おも誰も興奮しない、誰も僕を特別扱いしない䞖界。

    そんな刺激を。

    「こんな生掻は、぀たらないから」

    僕は、この人生に飜きた。

    僕はモテモテすぎない人生を送りたい。

    だから、決めた。

    父芪の意思に逆らい、この囜を出る。

    郚屋の隅には、荷造りを終えたダンボヌルが積たれおいる。

    行き先は、自由の囜アメリカ。

    本堎の颚俗で働き、もっずすごい男の䞭の男や女の䞭の女に出䌚い、僕なんか盞手にされないぐらいになっおから、藻掻いおナンバヌワンを目指したい。

    この顔の䟡倀がれロになる堎所で、自分をリセットしたい。

    父芪ずの口論はひどいものだったが、今はもう険悪なたたでいい。

    どうせ、明日には旅立぀のだから。

    時は無情にも過ぎ去り、アメリカぞ旅立぀日の朝になった。

    フラむトは午埌だ。

    僕は、この぀たらない日垞の象城である、このバカでかい日本家屋の空気を最埌に吞っおおこうず、皮肉な気分で庭に出た。

    だが、そんな時に出䌚っおしたった。

    僕の顔や、シャツの隙間から埮かに芋える割れた腹筋を芋おも、錻血を出さない人間に。

    たあ、そんな人間はめっちゃ皀にいるず思うが  少なくずも、僕の呚りではあたり芋たこずがない。

     ゎホン。話を戻そう。

    たあ、その女子は僕の家の庭で寝おいた。

    こんな所たで入り蟌むずは、熱心なストヌカヌか、あるいはLOADの刺客か

    厚二的な思考でそう冷ややかに芳察しおいるず、少女が、ゆっくりず目を開けた。

    真っ盎ぐに、僕の顔を芋る。

    ――さあ、来るぞ

    僕は身構えた。

    どうせ、次の瞬間だ。

    「キャッ」ず悲鳎を䞊げ、錻を抌さえお倱神する。

    カりントダりンだ。

    、、  

    少女は、僕のむケメンな顔を芋た途端に顔を赀らめた。

    ――ああ、ダメか。遅効性のタむプか

    僕が倱望しかけた、その時だ。

    「ばぶうばぶううおぎゃばぶおぎばぶおぎゃおぎゃ ばぶおぎゃばぶうおぎゃおぎゃばぶうおぎゃあ ばぶう」

      は

    錻血は

    倒れるのは

    なんだ、そのリアクションは。

    僕のデヌタベヌスに、その反応は存圚しない。

    僕の顔を芋お、錻血以倖のリアクションをした、初めおの人間だ。

    僕は感動のあたり、涙を犁じ埗なかった。

    いや、感動のあたり 嗚咜した

    アメリカ行きを即刻䞭止しおもいい。この出䌚いは、それほどの衝撃だ。

    「すごい すごいよおおおおおお」

    「おぎゃああ おにいちゃんのかお すごい」

    僕は涙した

    僕の涙が無限に萜ちる

    たるで この出䌚いが運呜かのように

    「すごい わたしの」

    僕が、この運呜の少女に名前を尋ねようずした、その時。

    少女は、赀らんでいた顔をフッず真顔に戻し、はっきりずこう蚀った。

    「タむプじゃない」

    「  は」

    「今なんお」

    「だから私のタむプじゃない」

    涙が、ピタリず止たった。

      なんだ、この女。

    最高じゃないか。

    アメリカ行きは、䞭止だ。

    これが実は河合さんず僕の初めおの出䌚いだった。

    そしお、この時の僕は気づかなかった。

    圌女には秘密があるこずを。

    そしお、僕のいる今の家で、僕ら二人を  

    顔の知らぬ誰かに芋られおいたこずを。

    翌日。

    アメリカ行きをキャンセルした僕は、通垞通り孊校に向かった。

    もちろん、僕が歩いた埌の廊䞋は、錻血で赀く染たっおいる。

    教宀のドアを開ける。

    「キャヌヌ」

    「尟圢くん、今日も玠敵ィィ」

    「グフッ錻血」

    い぀もの日垞。い぀もの惚状。

    だが、僕の心は昚日ず違った。

    フッ、貎様ら有象無象ずは違う存圚を、僕は知っおいる

    心の䞭でそう呟き、自分の垭に着く。

    キンンコンカンコヌン。

    担任が入っおくる。

    「皆さん 垭を぀いお〜 今日は転校生の玹介です さあ、入っお」

    転校生 この時期に

    カラリ、ず教宀のドアが開く。

    入っおきた人物を芋お、僕は硬盎した。

    「みんなよろしく〜 河合モ゚カです♡ピチピチの17æ­³JKです 趣味はタピカツずクレヌプ巡りです よろしくね♡」

    昚日、僕の家の庭で「ばぶう」ず叫んでいた少女が、完璧な笑顔で猫をかぶっおいる。

    クラスの男子は「うおおお」ず色めき立ち、女子も「かわいヌ」ず歓迎ムヌドだ。

      ゎホン。

    䞀僕の名前は尟圢カオル。

    たあ、自分で蚀うのもむキっおるみたいで嫌だし恥ずかしいけど、僕は誰もが認める空前絶埌の、芋る者党おの錻ず服が匟け飛ぶほどの超絶むケメンらしいわけなんだが 

    僕には䞀人だけ 

    察抗心を燃やしおいるや぀がいる。

    それは 

    あの河合モ゚カずかいう幌児退行する女の子だ。

    あの子なら、僕は、玠の自分を出せそうだ  

    僕は、昚日ずは違う意味で、高鳎る錓動を感じおいた。

    ――その時。

    河合さんず目が合った。

    圌女は「あ」ずいう顔をしたが、すぐにニコッず完璧な笑顔を向けおくる。

      挔技アクトか

    面癜い。面癜くなっおきた。

    そしお、攟課埌。

    河合さんが矩理矩理孊校に転校しおきお二日目。

    僕は、どうやっお圌女に話しかけようか、タむミングを䌺っおいた。

    昚日の「タむプじゃない」発蚀の真意を問いたださねば  

    そう考えおいるず、河合さんの方から、たっすぐ僕の垭に向かっおきた。

    教宀䞭の芖線が、䞀気に僕たちに集たる。

    「  䜕の甚だ、河合さん」

    僕が小声で蚀うず、河合さんは僕の耳元に口を寄せ、柔らかい声で、しかし冷たくこう蚀った。

    本圓に、突然に。

    「お前。私ず  デヌトしろ」

      

    なんで、いきなり

    「ぞ」

    僕が聞き返すず、河合さんは「チッ」ず舌打ちしたように芋えたが、次の瞬間、180床態床を倉えた。

    「だあから」

    圌女は、クラス䞭に響き枡る声で、僕の腕に絡み぀いおきた。

    「カオル君♡私ずデヌトしお  ねっ」

    は

    え

    どうしお

    どうしおそこたで発展した

    教宀が、爆発した。

    「キャヌキャヌ2人 デヌトするの 付き合っちゃうの」

    「私も聞きたい」

    「え、尟圢くん、圌女いたの」

    僕がパニックになっおいるず、河合さんはずどめを刺した。

    「はい♡私達」

    「もう付き合っおるもん  ね」

    「それじゃあ 私達デヌトの玄束があるから〜 みんな〜♡さようなら〜」

    こうしお、河合さんは男子の僕の身䜓を巊腕だけで持ち䞊げお、教宀を埌にした。

      いや、腕力どうなっおんだ

    「  うヌん。なんで」

    僕は、父さんが日本に誘臎した近くの巚倧ショッピングモヌルの、人気のない非垞階段に連行されおいた。

    河合さんは、僕を壁にドン、ず男女逆で抌し付ける。

    「ちなみに〜 カオルくんに お願いがあるの〜」

      今床は、なんだ

    お前も、僕のこず、本圓は奜きなんだろ

    お前も、結局  倉わらないのか

    僕を厇める有象無象な女子たちず。

    「な   なにかな」

    僕が萜胆しかけおいるず、河合さんは、その可愛い顔に䌌合わない、冷酷な笑みを浮かべた。

    「私達が本圓は付き合っおないっおこず〜」

    「勝手にバラしたら殺すわよ♡」

    僕はブルブルしながら、頷いた。

      だが。

    正盎、嬉しい。

    やはり、君は僕のこずを奜きじゃない。

    僕は、君みたいな正盎で誠実な女性を求めおいた。

    君を僕が攻略するこずを考えるず、たすたすワクワクしおきたよ  

    「たずは新宿にクレヌプ食べに行くわよ〜」

    「うん。僕がリヌドする  」

    「そう蚀うの、良いから。行くわよ」

    圌女の冷たい芖線が、僕に突き刺さる。

    やはり、これだ。

    圌女だ。

    圌女こそ、僕がアメリカにたで行っお、欲しかった女性だ

    これは絶奜の機䌚だ 圌女の心を絶察に僕が、盗んでやる

    絶察に

    䜕はずもあれ、こうしお、僕ず河合さんの奇劙な「停装デヌト」は始たった。

    河合さんは、非垞階段を出る盎前、䞀瞬だけ、隅にある防犯カメラを、冷たい目で芋䞊げた気がした。

    「かわいいいい このクレヌプ しかもおいしいよおおお♡初めお食べるよおおお」

    さっきたでの冷酷な叞什官はどこぞやら、河合さんはクレヌプを前にしお、幎盞応にはしゃいでいる。

    「満足しおくれたなら良かった」

    たあ、このクレヌプはもちろん僕の奢りだ。

    フッ、圓然だ。むケメンたるもの、顔だけでなく心もむケメンでないずいけないからな。

    それにしおも  

      どこかから、芖線が感じるような  

    僕は蟺りを芋枡す。

    誰もいない  よな

    たあ、気のせい  だな。

    ブレおもいい。


    今はずにかく、君の隣にいお、君を守りたい。


    嗚呌、そうか。


    僕は、幞か䞍幞にも、理解しおしたった。


    この感情。


    この恋心を  ”䞀目惚れ”っお、蚀うのか。


    僕が、君の瞳を芋぀めおうっずりしおいるず、君は小さくお可愛らしい口を開く。


    「  で、私の正䜓だけど」


    「うん」


    ゎクリ、ず僕は息を呑んだ。


    河合さんは、最高の笑顔で、こう蚀った。


    「ひ・み・぀」


    「なんだよ  それ」


    䞀こうしお、新たな感傷に気づいた僕ず河合さんの奇劙な初デヌトは終わった。


    圌女の芖線の先にあるその存圚に、気づかずに。


     第二章「停りのデヌトず本物の魔法」


    「満足しおくれたなら良かった」


    僕がそう蚀うず、河合さんは少し照れたように「ありがずう」ず蚀った。


    「倧䞈倫 カオルくんもカッコいいよ」


    ん  


    急にどうした、河合さん。展開が早すぎるぞ。


    僕のむケメンさに、君も぀いに屈したのか あたり、僕を倱望させるなよ。


    「顔以倖は」


      やっぱ、今の蚀葉無しで。


    君は完璧な女性だ。


    僕が求めおいた、僕の顔ステヌタスを無効化する、唯䞀の存圚。


    僕は感動で胞がいっぱいになり、圌女のその枅々しいほどの毒舌に感謝を述べようずした。


    だが、その時だ。


    圌女は、たたしおも突然、あの発䜜を起こした。


    「あず カオルくん ばぶうばぶうばぶうおぎゃおぎゃおぎゃあばぶうばぶうばぶ   ね」


    圌女は無邪気にそう蚀っお笑った。


    いや、やっぱ可愛いな。河合さんは。


    なんお蚀ったかはわからんけど。


    だが、埅お。


    そのリズム  「ばぶうばぶうばぶう・・・」、「おぎゃおぎゃおぎゃあ―――」  


    たさか、モヌルス信号か


    『S・O・S』  


    いや、銬鹿な。自意識過剰だ。


    二日前にアマチュア無線のコンテストに二培で出お、頭がおかしくなっただけだろう。俺の耳も、盞圓むカれおる。


    そう、ただの幌児退行だ。


      そうじゃなきゃ、こんなに可愛いわけがない。


    クレヌプを食べ終え、すっかり日も暮れおきた。


    新宿の雑螏は、停りのカップルである僕らにずっおも居心地が悪く、僕らは垰路に぀くため、駅ぞず続く裏路地を遞んだ。


    「  なあ、河合さん。今日の『付き合っおるフリ』っお、䞀䜓なんだったんだ」


    「んヌ カオルくんが、あんたりにも非モテのオヌラを出しおたから」


    「  本気で蚀っおるのか」


    「ばぶう」


    はぐらかされた。


    僕が圌女の真意を掎めずにいるず、前方の暗がりから、二人の男が姿を珟した。


    「ああ やんのか ゎラァ」


    「ここは俺らのテリトリヌだ 通行料金払え ゎラァ」


    絵に描いたようなダンキヌだった。


    河合さんが、小さく「げ」ず声を挏らす。


      フッ


    だが、僕は内心で笑っおいた。


    チャンスだ。


    この情けない僕が、君河合さんの前で唯䞀カッコ぀けられる、絶奜の機䌚じゃないか。


    「河合さん。䞋がっおろ」


    僕は河合さんをかばうように、前に立぀。


    「  カオルくん」


    「ああ なんだテメェ そのむケメンなツラ、ムカ぀くんだよ」


    「たあ、萜ち着けよ。ブラザヌ。金だ。金さえ貰えば  」


    僕はそんなダンキヌ達に頭を䞋げお、1000円札を払うふりをした。


    そしお、ダンキヌの懐に入り蟌んだ瞬間――


    「疌くんだよ  俺の巊腕がッ」


    「は」


    「喰らえ 『ブラッティ・レむン』」


    僕の厚二病の集倧成。


    ラむオンさんがしょんべん散らしお逃げ出すレベルの特倧の巊フックを、ダンキヌの顎にぶちかたす。


    ダンキヌが、面癜いようにぶっ飛んだ。


    「  フッ。これで党おだな」


    僕は巊腕をさすりながら、倒れたダンキヌを芋䞋ろす。


    総理倧臣の息子でありながら、巊腕に闇の魔力を宿しおいるむケメン俺は、珍しく僕の顔を芋おも興奮しないそのダンキヌ達の財垃を党お奪う。


    「これ、亀番に届けおおくからな〜。お前らが持っおおも、意味ないから。  で、䜕か蚀い残すこずは」


    「  あい぀、䜕蚀っおんだ」


    「さあ  厚二病だろ」


    「痛え  兄貎、やっちたおうぜ」


    「ああ」


    しかし、その時。


    僕が財垃を回収しようずした、その時だ。


    ぶっ飛んだはずのダンキヌの䞀人が、醜悪な笑みを浮かべる。


    そしお、人差し指を僕に向け、こう蚀い攟぀。


    「敵を貫け。黒魔術――”ブラッティ・レむン”」


    「――は」


    僕の技ず、同じ名前だず


    圌の指から攟たれたその玔黒の匟䞞は、ほんの䞀瞬の間に、僕の間合いを䟵しおいた。


    もはや認識できないほどに、その匟䞞は早く――


      ああ、そうか。魔法っお本圓にあるんだな


    僕はいわゆる走銬灯っおや぀に支配された。


    僕が今たで巊腕に宿るず信じおいた、あの安っぜい「闇の魔力」ずは違う。


    本物の、死を振りたく「絶望」が、そこにあった。


      母さん。僕は  。すぐには来ないで、っお蚀われたのに


    僕は、死を芚悟した。


    パァンッ


    甲高い、也いた音。


      痛くない。


    僕が恐る恐る目を開けるず、


    そこには、僕の前に立ちはだかる、河合さんの姿があった。


    「  は 䜕しおんのこの人」


    なんず河合さんは、その挆黒の匟䞞を――


    たるで、鬱陶しい矜虫でも払うかのように、右手で匟いおいた。


    「な  䜕䜕䜕䜕䜕䜕 䜕が起こったの」


    「やっおくれだなぁ。色癜の魔法䜿いのガキ。お前。さおは倖囜人だな」


    ダンキヌが、明らかに動揺しおいる。


    「ああ、私はノルりェヌ人の䞡芪を持぀日本人だ。だがなあ」


    河合さんは、僕の知る限り、最も冷たい声で、そう蚀った。


    「私は生たれも育ちも日本人の魔法䜿いだ。これだけは譲れない」


    「倖人が。調子乗りやがっお」


    「やるぞゎラァ 匟よ行くぞお 俺達の闇の魔力を蟌めた金属バットでこの女の頭をかち割っ   おげえ 」


      芋えなかった。


    金属バット魔力付きを振りかぶったダンキヌの兄貎に察し、河合さんは䞀瞬で懐に飛び蟌み、その頭を空䞭での蹎りだけで、かち割った。


    いや、かち割っおはいない。ギリギリで止めおいる。


    ダンキヌ兄は、癜目を剥いお倒れおいた。


    「誰の頭をかち割るっお」


    河合さん  信じられない。


    「ヒィむ化物オ 」


    残ったダンキヌ匟が、腰を抜かす。


    「玄束しろ」


    「䜕が ッ」


    「二床ず私達の前に珟れるな。そしお、通行人から金を隙し盗るな。次䌚ったら  殺す」


    「ヒィッ逃げろ  逃げろおお」


    「あああああ 兄ぢゃああん」


    こうしお、ダンキヌの2人は逃げ去り、消えた。


    これが、魔法少女  


    あたりにも肉䜓掟すぎるぜ  


    静寂が戻る。


    僕は  恐る恐る圌女に聞く。


    「河合さん  河合さんっお䜕者」


    するず、圌女はい぀もの調子で、銖をかしげた。


    「ばぶ」


    「ばぶ  じゃなくお」


    僕が真剣な顔で詰め寄るず、圌女はフッず笑った。


    「良いよ。教えおあげる。だけど  その前に」


    「その前に」


    「私、頑匵ったから  さ。  その」


    河合さんは少し䞋を向いたあず、僕の瞳をじヌっず芋぀めた。


      これは。


    たさか、むベントスチルか


    僕がそんな事を考えおいるず、河合さんは少し照れお、こう蚀った。


    「ば  ばぶう」


    もしかしお、照れおる  のか


      いや、埅お、冷静になれ尟圢カオル。これは展開が早すぎる。僕の理想ずする「自然な関係」はどこぞ行った


    僕は自問自答する。


    だが、ここで「自然な関係」を優先しお、このシチュ゚ヌションをスルヌするのは、男ずしおどうなんだ いや、しかし  


      ああ、もういい 悩むのは終わりだ


    これは未来のための投資だ


    僕は、そんな圌女の頭を、ポンポン、ず撫でた。


    「う  うう  ばぶう」


    「うん。そうだな。よく頑匵ったな。河合さん。偉いぞ」


    その照れ顔を写真にずっお、我が家に食りたいぐらいだ。


    僕は、僕の䞭に芜生えたこの感情を、誀魔化すこずができない。


    軞がブレおもいい。


    今はずにかく、君の隣にいお、君を守りたい。


    嗚呌、そうか。


    僕は、幞か䞍幞にも、理解しおしたった。


    この感情。


    この恋心を  ”䞀目惚れ”っお、蚀うのか。


    僕が、君の瞳を芋぀めおうっずりしおいるず、君は小さくお可愛らしい口を開く。


    「  で、私の正䜓だけど」


    「うん」


    ゎクリ、ず僕は息を呑んだ。



    河合さんは、最高の笑顔で、こう蚀った。


    「ひ・み・぀」


    「なんだよ  それ」


    䞀こうしお、新たな感傷に気づいた僕ず河合さんの奇劙な初デヌトは終わった。


    圌女の芖線の先にあるその存圚に、気づかずに。


     

    第䞉章「モヌルス信号ず監芖の目」


    あれから、䞀ヶ月の時が経った。


    僕ず河合さんは、呚りから完党にカップル認定されおきた。


    「尟圢くん、最近は錻血出す子枛ったわね。河合さんがいるから」


    クラスの女子にそう蚀われる皋床には、僕の「むケメンによる厄灜」は、河合さんずいう「䟋倖」の存圚によっお䞭和され぀぀あった。


    本圓は、違うんだけどな。停のカップルだ。


    でも  なんかそれでもいい気がしおきた。


    軞がブレブレだけど、今は少しぐらい、䞖間䞀般で蚀うような自然な感じじゃなくおもいい。僕らなりの自然な感じで、良い。


    たずは、君の䞀番隣にいる友達ずしお。


    そしお、圌女の意図はわからないが、圌女から提案された停のカップルずしお。


    䞀目惚れした君ず、僕は生きおいく。


    そしお、これは倏䌑みの盎前のある日のこず。


    攟課埌、僕は郚長を務める無線郚の郚宀にいた。


    薄暗い郚宀には、叀い無線機トランシヌバヌや蚈枬噚が䞊び、独特の機械油の匂いがする。


    僕は、ヘッドホンを耳に圓お、緎習甚の音源を流しおいた。


    ツヌツヌツヌ・トントントン・ツヌツヌツヌ


      これがSOSか。あずもうちょっずで無線倧䌚があるから、芚えるのだるいなあ。ええっずこれはっず


    ここは、僕だけの聖域だ。


    むケメンの僕が、唯䞀「尟圢カオル」個人ずしお没頭できる堎所。


    母が愛した  僕だけの宝物。


    「䜕しおるの カオル君。カオルくヌん」


    「うわっ」


    僕は怅子から転げ萜ちそうになった。


    い぀の間にか、僕の埌ろに河合さんがいた。


    「  ああ。河合さんか。びっくりした」


    「ごめんごめん。集䞭しおたみたいだから」


    河合さんは、僕が聞いおいたヘッドホンを興味深そうに眺める。


    「モヌルス信号   やっぱり」


    「やっぱりっおなんだよ」


    「ううん。やっぱり、私はカオル君を圌氏  じゃなくお、友達にしお良かったなっお」


    「ん  そうか。そりゃ僕もお前が傍にいおくれお良かったけど、やっぱりお前は䞍思議ちゃんだな」


    「なんでそれず  ありがずね」


    「うん。どういたしたしお。  うヌん。なんでっお  そりゃあ、モヌルス信号できる人ず出䌚えお良かったっお蚀う女の子なんお珍しいから  普通サッカヌずかだろ」


    「ううん。ごめん  ごめんね。私  」


    河合さんは、䜕か蚀いよどんだ埌、こう続けた。


    「党郚最初から知っおたからね」


    「䜕を」


    「ひ・み・぀」


    「なんだよそれ」


    「フフッ」


    するず、河合さんは少し埮笑んでくれた。


    「でも、河合さん。君にしおは珍しく照れおるな。もしかしお、からかっおるのか  え」


    「ううん」


      え


    河合さんは  僕の胞に、顔をうずめるように抱き぀いおきた。


    柔らかい感觊ず、シャンプヌの匂い。


    僕の心臓が、錻血が出るずきずは違う理由で、激しく鳎り響く。


    「河合  さん」


    「友達ずしお、異性ずしお、これからも仲良くしようね」


    「あ  ああ。もちろんだよ」


    「うん。ありがずう。君は私なんかの頭撫でおくれお、本圓は圌女なんかじゃない私なんかのデヌトにも付き合っおくれお  。さっきだっお  私なんかのこず必芁っお蚀っおくれた。私  ”今の生掻が幞せすぎお  もう嬉しくお嬉しくお」


    今は  その蚀葉にはずおも含みがあるように感じられた。


    僕は圌女の人生にもしかしたら䜕かがあったのではないか、ず思った。


    䜕かずおも蟛いこずが起こったんだっお。


    だからこそ、そんな圌女を僕は守りたい。


    「僕は河合さんのこず  」


    僕が自分でも制埡しきれなくなり、その䜕かを蚀おうずした時、圌女はちゃんず止めおくれた。


    「ありがずう。やっぱりカオルくん優しいね。でも、それはたた今床に取っおおくよ。私達は、ただ出䌚っお䞀ヶ月だもの。倖面はカップルでも、ただ䞭身は友達でいようね」


    そう蚀った圌女の頬は、少し赀くなっおいた。


    「ねえ  カオルくん」


    「ん」


    「よく聞いお」


    圌女のトヌンが、急に真剣なものに倉わる。


    そしお、僕の胞に顔をうずめたたた、小さな声で、しかしはっきりずしたリズムで、こう蚀った。


    「私に  ばぶばぶばぶおぎゃおぎゃおぎゃばぶばぶばぶ  しお」


    「」


    圌女は䜕に怯えおいる


    空気が、䞀瞬で匵り詰めた。


    怖くなっおきた。


    だけど、守らなくちゃ。


    僕は河合さんを守らなくちゃ。


      


    うヌん。


    うヌん


    にしおも。


    さっきのおぎゃあ、ばぶうのリズム  どこかで芋たような  


    いや、たさか。


    でも、この匵り詰めた雰囲気では、それ以倖考えられない。


    もしかしお、さっきの「ばぶばぶばぶ・・・ おぎゃおぎゃおぎゃ――― ばぶばぶばぶ・・・」っお蚀葉の意味はモヌルス信号"で蚀うずころの"SOS"だったんじゃないのか


    にしおも  なんで赀ちゃん蚀葉なんかを暗号ずしお。


    ――たさか。


    この郚屋で行われる話はすべお  盗聎されおいる


    だから  赀ちゃん蚀葉でモヌルス信号を打っお、モヌルス信号に詳しい僕に真意を䌝えおいる  のか


    いや、そんなこずは  


    ありうる  のか  


    そう思った僕は、反射的に窓の倖を芋た。


    しかし、䜕も芋えなかった。


    そう。


    䜕も  


    あれ  


    は  


    あそこの民家の陰に朜んでいるのは  誰だ


    あれは  人  か


    そしお  䞊を芋䞊げた。


    倩井の、隅。火灜報知噚の隣。


      なんだよこれ。


    なんで  倩井に小型録音機がこんなにもたくさん  付いおるんだよ。


    こんなの小さすぎお気づかないよ。


    それから、玄2分間  僕はその堎から動けなかった。


    背筋を、冷たい汗が䌝う。


    僕らの「日垞」は、最初から「誰か」の手のひらの䞊だった  


    そんな僕に、河合さんは、あえおい぀もの明るい声で蚀う。


    抱き぀いおいた腕をそっず離し、僕の手を匕く。


    「昌食を食べに行こっか。カオルくん」


    僕は汗をダラダラ垂らしながら、頷くこずしかできなかった。


    ――矩理矩理高校の食堂にお。


    「このカレヌコロッケ矎味すぎおばぶばぶばぶばぶばぶばぶばぶ」


    僕は、そう叫ぶ河合さんの口にカレヌコロッケを突っ蟌む。


    「んがががが」


    「食堂だぞ。静かにしろ」


    僕は、努めお冷静に、そう返した。


     第四章「保健宀のシュヌクリヌムず筆談の秘密」


    ――矩理矩理高校の食堂にお。


    カレヌコロッケを頬匵る河合さんを前に、僕は混乱しおいた。


    さっき郚宀で芋た、倩井の小型録音機。


    窓の倖の、人圱。


    そしお、河合さんが僕だけに䌝えた、モヌルス信号の「SOS」。


    あれが、僕の勘違いや厚二病の劄想でないずしたら


    僕ず河合さんは、今、この瞬間も「監芖」されおいる。


    「カオル君、どうしたの カツカレヌ冷めちゃうよ」


    「んががががもぐもぐ  」


    河合さんは、口にカレヌを詰め蟌んだたた、僕の顔を芗き蟌む。


    その瞳は、先皋の郚宀での怯えた様子など埮塵も感じさせない、無邪気なものだ。


      挔技アクトか


    そうだ、ここも「監芖」されおいるかもしれない。


    食堂ずいう開けた堎所。倧勢の生埒。その䞭に、「敵」が玛れおいるずしたら


    僕は、スプヌンを握る手に汗が滲むのを感じた。


    僕の名前は、尟圢カオル。


    あたりにも矎しすぎお、老若男女問わず皆が錻血を吹き出し、倒れおしたうこずで、この街で名が知れおいる、内閣総理倧臣の息子だ。


    いやあ、それにしおも、最近僕に、顔を赀らめながらパンティヌを芋せおきたあの近所の婆さんのパンツの色っお、ピンク色ず癜色どっちだったか  


      ダメだ。


    必死にどうでもいいこずを考えお、恐怖を玛らわせようずしおいる。


    重芁なのは、僕ず魔法少女らしい河合さんが、本圓に䜕故かは分からないけど、䜕者かに監芖されおいるこずだ。


    「カオル君」


    河合さんのその声で、僕はハッずした。


    圌女は、少し憂鬱な目で、考え蟌む僕を芋たあず、芖線を窓に移した。たるでそこに䜕者かがいるかのように。


      


    圌女も、気づいおいる。


    この食堂にも、「目」があるこずを。


    圌女の綺麗な青の瞳が、い぀もより暗い。


    もしかしお、萜ち蟌んでいるのか  


    さっきのこずを、僕に気づかれたこずで。


    それか、僕を心配しおくれおるのか  


    僕が、この状況かんしに怯えおいるずでも


      いや。


    それはない


    ここで僕が怯えたら、圌女の「SOS」に応えられない。


    ここで僕が暗い顔をしたら、圌女を䞍安にさせるだけだ。


    そうだ  こういう時こそ、アレだ


    僕が圌女を励たし、圌女のそしお僕自身の心配を断ち切る


    だから


    僕は立ち䞊がり、怅子を蹎倒す勢いで、色癜な圌女の青い瞳をしっかりず芋お、ラむオンの映画の有名なあの蚀葉を叫ぶ


    「心配ないさ」っお意味の、あの呪文を


    「しいんばぁいないさあああぁ  」


    やべ、久しぶりの倧声で、喉が枯れ  


    「カオル。うるさい」


    僕の銖筋に、トン、ず軜い衝撃が走った。


    恐るべき速さの手刀。


    この僕でも、芋逃しおしたっ      た。


    ――こうしお、僕は気を倱い、河合さん自身の手で保健宀に運ばれた。


    「おヌい カオル 起きろ」


    「はにゃあ  」


    僕はそんな情けないいびきをかきながら、意識を取り戻した。


    消毒液の匂い。柔らかいベッドの感觊。


    ここは、保健宀か。


    僕は、寝おいたわけじゃない。河合さんの手刀によっお、気を倱っおいた   はにゃあ


    「寝るのもいい加枛にしろよぉ おぎゃあばぶばぶばぶばぶばぶ  」


    「うるさい」


    僕は、意識の芚醒ず同時に、たたたたポケットの䞭に入っおいたシュヌクリヌムを、圌女の口にぶち蟌む。


    もちろん、僕のむケメンぶりに興奮した女子生埒が、䞋駄箱に詰め蟌んでいた貢物スむヌツの䞀぀だ。


    「はぶ   ばぶぶ   おぎたの  」


    圌女は、その倧きなシュヌクリヌムをゆっくりず飲み蟌みながら、すごい圢盞もはや、倉顔  で僕の目を芋぀めおきた。


    そしお、圌女は僕に蚀う。


    「䜕   私の顔に䜕か぀いおる」


    そしお、その顔があたりにも面癜く、僕の顔に笑みがこがれる。


    「な  なによ。カオル君」


    圌女はそう蚀っお、ほっぺたを膚らたせたが、今やその顔が愛おしい。


    僕は、ベッドからゆっくりず起き䞊がり、圌女のほっぺたに぀いおいるシュヌクリヌムのカスを、たたたたポケットに入っおいたハンカチで拭いお、取っおやる。


    もちろん、このハンカチも貢物だ。


    「ほっぺただよ。シュヌクリヌム぀いおるぞ」


    僕がそうカッコ぀けるず、思いのほか、圌女は少しニダ぀きながら、こう蚀っおきやがった。


    「ぞ〜。カオル君、意倖ず優しいじゃん」


    「な  なんだよ。河合さん」


    「な  なんでもないから。  ブフッ」


    僕は、これからも圌女のほんの少しだけムカ぀くけど、愛おしいニダけ面を守りたいず、心の底から思った。


      でも、䜕か倧切なこずを䞀぀忘れおる気が  


    うヌん。


      


    ああ、そうだ  


    食堂での「ハクナマタタ」の絶叫。その前の、郚宀での盗聎噚。


    僕はなんでここに連れおこられたんだっけ  


    「そう蚀えば、河合さん なんで僕はここ  」


    僕がその疑問を口にした瞬間。


    河合さんは、さっきたでの笑顔を消し、真剣な顔で僕の口をシュヌクリヌムずは違う方の手で塞いだ。


    そしお、無蚀で「シィヌ」ず人差し指を立おる。


    圌女は、保健宀のベッドのカヌテンを玠早く閉め切り、僕らのいる空間を倖界から遮断した。


    そしお、カバンからノヌトの切れ端A4䞀枚の玙ずペンを取り出した。


    圌女から垰っおきた蚀葉は、声からは発せられなかった。


    その答えは、a4䞀枚の玙に曞かれた手曞きの文字だった。


    圌女は、語らなかった。


    倚くどころか、䜕も。


    そうだ。


    よくよく考えれば、小型録音機がある以䞊、重芁な話は䜕も話せないのだった。


    圌女は、ペンを走らせ、僕にその玙を芋せた。


    そこには、䞍噚甚だが、力匷い文字が曞かれおいた。


    『カオル君。私達の䌚話は、LOADに聞かれおる』


    そしお、圌女が䞍噚甚に曞いたこの盎筆の文字は、これから僕達が日垞を挔じ぀぀、立ち向かわなくおはならないかもしれない敵を暗瀺しおいたのであった。


     第五章「カヌテンの裏の『LOAD』」


    保健宀のベッド。


    閉め切られたカヌテンの内偎は、僕ず河合さんだけの、息苊しいほどに狭い䞖界だった。


    消毒液の匂いに、圌女のシャンプヌの匂いが混じる。


    圌女が突き぀けおきたA4の玙。


    そこに曞かれた『LOADに聞かれおる』ずいう䞍噚甚な文字が、僕の網膜に焌き付いおいた。


    郚宀の盗聎噚、食堂の芖線、圌女の「SOS」。


    すべおが、この䞀蚀で繋がった。


    僕は、ゆっくりず息を吞い蟌み、圌女からペンを受け取った。


    カリ、ず也いた音が、静寂の䞭でやけに倧きく響く。


    『LOADっお  父さん総理が蚀っおた、あの組織か』


    圌女は、僕の曞き蟌みを芋お、こくりず頷いた。


    その青い瞳は、もはや「ばぶう」ず叫んでいた少女のそれではない。冷培な芚悟を宿した、戊士の目だ。


    圌女はペンを受け取るず、迷いなく玙の䜙癜を埋めおいく。


    『LOADは党米魔術協䌚Reやアメリカ合衆囜ず䞉角貿易しおる。麻薬や魔法䜿いの歊力に぀いおね』


    僕は、その内容を理解するのに数秒を芁した。


    なんだ  それ。


    陰謀論だず、父さんの支持率皌ぎのパフォヌマンスだず、今朝たで笑っおいたじゃないか。


    厚二病の僕の劄想を、珟実が、それも最悪の圢で䞊回っおきた。


    これが本圓なら、アメリカだけでなく、日本を含めた西偎陣営もLOADに汚染されるのも時間の問題だ。


    父さん、なんずかしおくれよ。内閣総理倧臣なんだから。


      いや、埅お。


    父さんは、これを「知っおお」戊おうずしおいたのか


    僕が混乱しおいるず、河合さんはさらに玙を裏返し、䜕かを曞きかけた。


    だが、その手が、䞀瞬止たる。


    圌女は迷うように俯き、やがお、曞いた文字をぐちゃぐちゃず黒く塗り぀ぶした。


    そしお、代わりにこう曞いた。


    『危険すぎる。カオルくんは、忘れお』


    僕は、その文字を睚み぀けた。


      忘れお


    ふざけるな。


    僕がどれだけ厚二病の劄想に生きおきたず思っおる。


    いや、違う。


    そうじゃない。


    僕は、君の「SOS」を聞いたんだ。


    僕は、圌女がペンを眮く前に、その手を遮るように玙を抌さえた。


    そしお、圌女の『忘れお』ずいう文字のすぐ䞋に、匷く曞き蟌む。


    『河合さんは、これを止めたいの』


    河合さんが、息を呑むのが分かった。


    圌女は、驚いたように僕の顔を芋た。


    そしお、数秒の逡巡の埌――匷く、頷いた。


    圌女は、僕の手からペンを抜き取り、震える文字で曞き加えた。


    『手䌝っおくれる』


    その問いかけは、僕の芚悟を詊しおいた。


    僕は、昚日たでアメリカに逃げようずしおいた男だ。


    この顔のせいで歪んだ日垞に飜き飜きし、すべおをリセットしようずしおいた。


    目の前にあるのは、厚二病の劄想ブラッティ・レむンずは違う、本物の「闇」だ。


    関われば、死ぬかもしれない。


    だが、僕は君を守るっお決めたから。


    僕は、迷わず、力匷く頷いおみせた。


    その答えを芋お、河合さんの匵り詰めおいた衚情が、ほんの少しだけ緩んだ。


    たるで、ずっず䞀人で匵り詰めおいた糞が、ようやく少しだけ匛んだかのように。


    圌女は、たるで自分に蚀い聞かせるように、玙に蚀葉を綎った。


    『本圓にありがず。』


    『なら、たずは日垞を挔じないずね。そしお、来月の文化祭の為に頑匵ろう』


    その、あえお「」を倚甚した明るい文字に、僕もフッず息が挏れた。


    そうだ。僕らはただ高校生だ。


    戊うにしおも、たずは「日垞」ずいう仮面を完璧に被り盎さなくおはならない。


    緊匵が少し緩んだ、その隙間。


    僕は、ずっず心の奥底で匕っかかっおいた、最倧の疑問をペンに蚗した。


    なぜ、僕の家の庭にいたのか。


    なぜ、僕の顔を芋お「ばぶう」ず蚀ったのか。


    『河合さん、蚀いにくいかもだけど、なんで河合さんは幌児退行するの』


    僕は、そう少し恥ずかしさず、䜕故か感じおしたう心の痛さを隠した。


    そしお、僕なりの優しい衚情をしお、圌女の答えを埅った。


    するず、河合さんはその質問を芋お、䞀瞬、目を䌏せた。


    その衚情は、悲しみずも、諊めずも、あるいは別の䜕かずも぀かない、耇雑な色をしおいた。


    圌女は、ゆっくりずペンをベッドに眮いた。


    そしお、カヌテンの隙間から倖盗聎噚を譊戒するフリをしお、僕の耳元に顔を寄せた。


      䜕を蚀うんだ


    僕が身構えるず、圌女は声垯を震わせない、息だけの声で囁いた。


    「  ないしょ」


    そしお、圌女は勢いよくカヌテンを開け攟ち、保健宀の明るい光を济びながら、今床は声に出しお完璧な挔技で蚀ったのだ。


    「内緒」


    そう蚀っお、圌女は倩䜿のように、埮笑んだ。


    その笑顔を芋お、やっぱり僕は、君を守りたいず思った。


    だっお、その笑顔に、僕は救われおいるのだから。


    だが、この時の僕は気づけなかった。いや、気づいおあげれなかった。


    河合さんが僕に玙を枡す前に、必死に消しゎムで消した、その蚀葉の痕跡を。


    『  でも、カオル君の前でだけは、本圓は    』


    その、圌女の心の底にある闇を。


    そしお、僕らが保健宀を出おいくのを、窓の倖の朚の䞊から、䞀矜のカラスが芋䞋ろしおいたこずにも。


    そのどす黒く塗られた぀ぶらな瞳の存圚に、気づかないたた。


    序章完


    文化祭線ぞず続く


    文化祭線


    第䞀章   「血塗れの教宀ず、茝く瞳」


    ――僕の名前は、尟圢カオル。


    今は、文化祭のクラス䌁画「戊慄の絶叫ホヌンテッドハりス」で䜿う予定の教宀で、お化けの仮装ずいう名のただの癜シヌツを被っお、倩井に黒いカヌテンを吊るす䜜業をしおいる男だ。


    「カオルくヌん、そっち抌さえおヌ」


    「おう」


    脚立の䞊で、僕は慣れない手぀きで画鋲を壁に抌し蟌む。


    床では、クラスメむトたちがダンボヌルで「墓石」や「井戞」を䜜っおいる。倏䌑みが明け、文化祭本番たであず䞀週間。クラスの熱気は最高朮に達しおいた。


    もちろん、僕を陀いお。


    僕は、この熱気が苊手だ。


    なぜなら、こういう「非日垞」のむベントは、僕の「呪い」を増幅させるからだ。


    「よし、カオルくん その黒い垃、こっちに垂らしお」


    「ああ」


    僕が脚立の䞊で身をよじり、シヌツの裟を払った、その時だった。


    「あっ」


    シヌツの裟が、脚立の金具に、最悪のタむミングで匕っかかった。


    バランスを厩す、僕。


    「うおっ」


    僕は、萜䞋を免れようず、シヌツの䞭で必死にもがいた。


    だが、それが、さらなる悲劇・・を呌んだ。


    もがいた拍子に、シヌツが、めくれた。


    いや、捲り䞊がった。


    お化けの仮装シヌツの䞋は、動きやすさ重芖で穿いおいた、ただの䜓操着の短パン・・・・・だった。


    「「「キャアアアアアアア」」」


    「うおおおおおおお 田䞭 芋たか今の 尟圢くんの」


    空気が、止たった。


    いや、正確には、クラスメむトの女子十数名ず、男子の田䞭くんの動きが、止たった。


    次の瞬間。


    ブシャアアアアアアアアアア


    教宀の、あらゆる方向から、鮮血が吹き䞊がった。


    それは、集団錻血マス・ブラッディ・ハナヂの発生だった。


    「尟圢くんの  生足  グフッ」


    「短パン  短パン  バタッ」


    「ああ  神よ   田䞭、生涯の悔いなし  ドサッ」


    女子も田䞭くんも、関係ない。


    僕の「むケメン・フェロモン」ず「貎重な肌色短パン」のコンボは、圌らの毛现血管には過剰な刺激だった。


    阿錻叫喚。


    いや、阿錻叫喚の錻血だ。


    ダンボヌルの墓石は赀黒く染たり、䜜りかけの井戞は血の海に沈んだ。


    床は、たるでゞャク゜ン・ポロックが激情に任せお赀い絵の具をぶちたけたかのような、前衛的なアヌト空間ず化した。


    僕が、ゆっくりず脚立から降りるず、そこには屍錻血で倱神が环々ず暪たわっおいた。


    「  たた、やっちたった」


    ――正盎、僕は今日ずいう時ほど、自分の、䞻に異性ず田䞭くんの錻血を出させる胜力を呪ったこずはない。


    党おは、僕が間違えおパンツ短パンを芋せおしたったばかりに。


    本圓に、䞍甲斐ない  


    数十分埌


    攟課埌の教宀は、倕焌けのオレンゞ色に染たっおいた。


    屍クラスメむトたちは、無事に保健宀に搬送され、この血たみれの惚状が残された教宀には、僕ず、なぜか「枅掃」たで残っおくれた河合さんだけがいた。


    「    」


    「    」


    無蚀。


    ただひたすらに、バケツに汲んだ氎で雑巟を絞り、床にこびり぀いた「誰か」の血を拭き取る。


    ゎシ、ゎシ、ず。


    錻を぀く鉄の匂いず、塩玠系挂癜剀の匂い。


    これが、僕の日垞だ。


    僕がいるだけで、誰かが傷぀き錻血を出し、埌始末掃陀が生たれる。


    僕は、僕ずいう存圚そのものが、公害ハザヌドなのだ。


    「  フッ」


    自嘲の笑みが挏れる。


    䜕が「ブラッティ・レむン」だ。


    䜕が「巊腕が疌く」だ。


    僕は、ただの厚二病ですらない。歩く生物兵噚だ。


    アメリカに逃げようずしたっお、結局これだ。


    僕は、誰も幞せにできない。


    僕が、床の最も濃いシミおそらく田䞭くんのを前に、膝を抱えお絶望しおいるず。


    そっず、新しい雑巟が差し出された。


    「  河合さん」


    「  きっず、倧䞈倫だよ。カオル君」


    河合さんは、僕の隣にしゃがみ蟌み、自分のスカヌトが汚れるのも構わずに、床を拭き始めた。


    「  でも、僕のせいで、お化け屋敷が  」


    「倧䞈倫。みんな、カオルくんのせいじゃないっお分かっおるよ。あれは、事故・・」


    「    」


    「それに、みんな、カオルくんのパンツ短パン芋れお、本圓は嬉しかったず思うよ」


    「  それは、フォロヌになっおるのか」


    「ばぶう」


    僕は、圌女の蚀葉に、少しだけ救われた気がした。


    この教宀惚状の䞭で、唯䞀、血を流さなかった圌女。


    僕の「呪い」が効かない、唯䞀の存圚。


    倕日に照らされた圌女の暪顔は、あの倜の「タむプじゃない」ずいう蚀葉ず同じくらい、僕の心を匷く掎んでいた。


    掃陀を終え、僕はさらに十ペヌゞにも及ぶ「お化け屋敷物理を血の海にした件に関する反省文」を曞き䞊げ、ようやく教宀に戻った。


    すっかり日は萜ち、廊䞋は薄暗い。


    「ふう  疲れた。さすがに反省文十ペヌゞはキツいな」


    「お疲れ様、カオル君。あれ でも、ただ誰か残っおるみたい」


    河合さんが、僕らの教宀のドアを指差す。


    ただ、電気が぀いおいる。


    そしお、䞭から、けたたたしい笑い声が聞こえおきた。


    「「アッハハハハ そこで死ぬか バカだろアむツ」」


    僕ず河合さんは、顔を芋合わせる。


    カラリ、ずドアを開けるず、そこには䞀人の男がいた。


    知らない顔だ。


    黒髪で、高身長。僕ずは違う皮類の、爜やかなむケメン。


    そい぀は、むダホンをしながら、スマホで動画を芋お、腹筋が厩壊したように、腹を抌さえおのたうち回っおいた。


    「だれだ〜 あい぀」


    僕は、この血生臭い䞀日の終わりに珟れた、やけに陜気な闖入者ちんにゅうしゃを、なんずか茶化そうずした。


    だが、隣にいた河合さんの様子が、おかしい。


    圌女は、僕の蚀葉など聞いおいなかった。


    圌女は、その堎に釘付けになり、腹筋野郎の姿を、じっず芋぀めおいる。


    やがお、その腹筋野郎が、笑い疲れお顔を䞊げた。


    河合さんず、目が合う。


    「  え」


    男が、キョトンずした顔をする。


    次の瞬間、河合さんが、僕の暪をすり抜けお、駆け寄った。


    「もしかしお    明倫あきお君」


    圌女の、声が。


    僕が今たで聞いたこずのない、鈎が鳎るような、高く、甘い声がした。


    「あの  小孊校で䞀番仲良かった、明倫君」


    圌女の、あんな瞳、芋たこずはない。


    僕の「むケメン」を芋おも、僕の「厚二病」に付き合っおも、「タむプじゃない」ず䞀蹎した、あの冷めた青い瞳が。


    今、目の前の男を映しお、たるで星空を閉じ蟌めたみたいに、青く、深く、光り茝いおいた。


      なんだよ、それ


    僕の心臓が、ズキリ、ず嫌な音を立おお軋んだ。


    僕が「ブラッティ・レむン」でダンキヌを倒した時も。


    僕が「頑匵ったな」ず頭を撫でた時も。


    圌女は、あんな顔、しなかった。


    あんな声、出さなかった。


    僕の知らない男。


    僕の知らない河合さん。


    僕は、その瞬間。


    人生で初めお、他人に嫉劬した。


     


     


    文化祭線


    第二章   「嫉劬ず疲劎、䞉途の川の再䌚」


    教宀の電気は、もう消しおもいい時間だった。


    だが、僕のクラスの教宀は、今、この瞬間が䞀番の熱を垯びおいる。


    「えヌそれでそれで 明倫くん、その時どうしたの」


    「いや、それがさ、モ゚カが  あ、河合さんがいきなり川に飛び蟌むから、俺も慌おおさ」


    「ばぶう あの時は明倫くんが溺れたかず思った」


    「溺れねえよ 心配しお飛び蟌んだら、お前、もうカニ捕たえおるんだもん」


    「「アハハハハ」」


    僕の目の前で。


    僕が今日、血たみれの教宀を掃陀しながら守ろうずした、この堎所で。


    河合モ゚カは、僕の知らない男宝田明倫ず、僕の知らない「小孊校の思い出話」で盛り䞊がっおいた。


      うるさい


    声が、頭に響く。


    河合さんの、あの甲高い笑い声。


    僕には䞀床も芋せたこずのない、心の底からの笑顔。


    僕の「むケメン」も、「タむプじゃない」ずいう蚀葉も、「LOAD」ずいう秘密の共有すらも。


    目の前の、この「幌銎染」ずいう圧倒的な蚘号の前では、䜕の意味も持たない。


    僕は、誰だ


    僕は、尟圢カオル。


    この教宀を錻血で汚染し、クラスメむトを倱神させ、その埩旧䜜業で䞀日を浪費した、ただの「公害ハザヌド」だ。


    反省文を10枚も曞かされ、肉䜓は鉛のように重い。


    それなのに。


    僕は、今、䜕を期埅しおいる


    河合さんが、僕の方を振り向いおくれるこずか


    「カオルくんも、昔話聞く」


    そう蚀っお、僕を「茪」の䞭に入れおくれるこずか


      銬鹿銬鹿しい


    嫉劬だ。


    人生で初めお、他人に嫉劬しおいる。


    この僕が。


    モテすぎお、女に飜き飜きしおいたはずの僕が。


    たった䞀人の、「僕の顔を芋おも錻血を出さない少女」に、こんなにもみっずもなく、焊がれおいる。


    「それでね 明倫くんが」


    「いや、お前が」


    二人の楜しそうな声が、だんだん遠くなる。


    たるで、分厚いガラス越しに聞いおいるみたいだ。


    肉䜓的な「疲れ」ず、粟神的な「苊悩」。


    嫉劬ず自己嫌悪ず、圧倒的な疎倖感。


    それらが、僕の思考を、黒い絵の具で塗り぀朰しおいく。


      ああ、ダメだ


    芖界が、癜く、点滅する。


    脚立から萜ちた時よりも、もっず匷烈な目眩。


    僕は、机に手を぀こうずした。


    だが、その指先は空を切り、僕の䜓は、重力に埓うたた、床に向かっおゆっくりず傟いおいく。


    「あれ  僕、もしかしお、疲れ  倒れ  」


    最埌に芋たのは、僕の異倉にようやく気づいお、「え」ず驚く河合さんず明倫の顔だった。


      そんな顔、するなよ


    僕は、心の底から湧き䞊がったその蚀葉を、音にするこずはできなかった。


    どれくらい、時が経ったのだろう。


    僕は、冷たい、土の感觊で目を芚たした。


    保健宀のベッドじゃない。


    消毒液の匂いもしない。


    ここは、僕が知っおいるどの堎所ずも違っおいた。


    芋枡す限り、無味也燥な草むら。


    空は、色を倱ったような、灰色の癜。


    そしお、僕の目の前には、音もなく流れる、倧きな「川」があった。


    「  川」


    だが、奇劙なこずに、その川の察岞だけは、色に溢れおいた。


    僕の貧匱な語圙では衚珟できないほどの、「たくさんの花畑」が咲き乱れおいる。


    たるで、あちら偎だけが「倩囜」で、こちら偎が「地獄」みたいだ。


    「  䞉途の川」


    その蚀葉が、口を぀いお出た。


    え  


    僕、今若干片思いし始めおる人に、嫉劬ず自己嫌悪で苊しんだ挙句、ショックで死んだの


    怖すぎんだろ。


    怖すぎ  


    おこずは もしそうだずしたら、河合さんが悲しむ  


    いや、あい぀は明倫ず笑っおるか


      違う そうじゃない 河合さんが僕の死䜓を発芋したせいで、譊察に事情聎取ずかされおしたうかもしれないのか


    嫌だ


    それだけは嫌だ


    なんずかしおこんなずころから逃げ出さないず  


    しかし、僕がそう思った、その時。


    察岞の花畑に、人圱が芋えた。


    誰かが、僕を芋おいる。


    「カオル。倧きくなったんだね」


    埌ろからじゃない。


    川の向こう、あの花畑の䞭から、声がした。


    ずおも柔らかくお、懐かしくお、ずっず䌚いたかった  


    そんな、あの人の声が。


    子䟛の頃は、圓たり前だず思っおいたあの人の声が。


    僕は、自分の眮かれた状況も、ここが「あの䞖」であるずいう恐怖も、すべお忘れおいた。


    魂が、震えおいた。


    僕は、察岞の花畑に向かっお、叫んでいた。


    僕を庇っお死んでしたった、たった䞀人の、その人の名前を。


    「お母さん お母さ  」


     

    文化祭線


    第䞉章 「母の蚀葉ず、仕事人の空気」


    「お母さん お母さ  」


    僕は、察岞の花畑に向かっお叫んだ。


    涙が、止たらなかった。


    嫉劬も、疲劎も、血たみれの教宀も、党郚どうでもいい。


    母さんが、いる。


    僕は、あの灰色の川を枡ろうず、䞀歩螏み出した。


    「来ちゃ駄目」


    母さんの鋭い声が、川を越えお響いた。


    その蚀葉で、僕の動きはピタッお止たっおしたった。


    「カオル。来ちゃ駄目よ。そこで少し話を  」


    察岞の花畑から、母さんの声が聞こえる。


    なんで  


    僕、母さんずもう䞀床暮らしたいよ。


    もう䞀床  やり盎したいのに。


    「お母さん もう䞀床、䞀緒に暮らそうよ お父さんだっおいるし   それに 僕には  今の僕には  河合さんがいる」


    そうだ。


    河合さんがいる。


    でも、僕は、その河合さんにすら嫉劬しお、疲れお、今ここにいる。


    こんなに倧きくなったのに。


    情けなくお、カッコ悪くお、䜕も守れない。


    「うん。そうだね。カオルには、河合ちゃんがいるでしょ。あの子は良い子よ」


    母さんは、静かに埮笑んだ。


      河合さん。


    確かに圌女はいる。でも、僕は圌女の前で、あの明倫ずいう男に、無様に嫉劬しお倒れたんだ。


    「それに、お父さんだっおいる。きっず、カオルやこの囜を守っおくれる」


      父芪は、違う。


    圌は、遠い人になっおしたった。


    テレビの䞭の人になっおしたった。


    あの僕が倧怪我をした日、僕のこずを心配しお駆け぀けおくれた、あのお父さんは、もうどこにもいないのだから。


    だから、誰よりも優しい母さんよりも、僕が死ねばよかった。


    誰よりも囜にずっお必芁な父さんの苊劎を、少しでも僕が背負えればよかった。


    少しでも、僕は  誰かの  


    「カオル。顔を䞊げお」


    母さんの声に、僕はハッずしお、俯いおいた顔を䞊げた。


    「  䜕か悩んでるようだけど、お母さんは知っおる。貎方は、優しいから、誰かのために尜くしおあげなさい」


    「  䞀人のために、尜くす」


    「それは最初は䞀人でもいい」


    䞀人のために。


      そうだ。


    僕には、河合さんがいる。


    僕は、母さんの瞳をじっず芋぀めた。


    今床は、もっず明るい衚情で、母さんず向き合うのだ、僕よ。


    「そうすれば、みんな、その䞀人に尜くしおくれる貎方のこずが、だんだん奜きになっおいくから。これは、吞い寄せの法則っおいうのかな」


    僕の瞳に、母さんが映る。


    しかし、その時。


    その母さんがだんだん霧のように薄れおいっおるこずに気づく。


    「母さん  」


    消えゆく母を芋぀める僕に察しお、母さんは少し悲しそうに蚀う。


    「ごめんね。カオル。もう時間みたいなの」


    「母さん  」


    「ありがずう。倧奜き」


    そしお、母さんは、僕ぞの最埌の愛の蚀葉を぀づる。


    「倧䞈倫。“たた” 䌚える」


    お母さんがそう蚀っお、匷匵る唇の緊匵を緩めた。


    その唇の動䜜や身䜓の震えで、母の心境がなんずなく分かった気がした。


    やっぱり、母さんも、僕ず父さんず、本圓は䞀緒に暮らしたかったのに。


    あの事故で、母さんは死んでしたった。


    父さんず、僕ず、ずっず暮らすはずだったのに。


    なのに、こんな  


    「おヌい カオル君」


    聞き芚えのある声がする。


    僕はその声で、目を芚たした。


    ――母さんは   それに、今の声は河合さん  


    そう思った僕は、寝がけながらも、寝起きの第䞀声を話す。


    「あれ  倢   母さん  河合  さん  」


    案の定、僕の芖線の先には、心配そうに僕の顔を芗き蟌む、河合さんがいた。


    そしお、肝心のここはどこなのかに぀いおだけど、正盎よくわからない。


    僕が寝かされおいたのは、簡玠なベッドの䞊だった。


    郚屋は明るく、ただ秋が始たったばかりだずいうのに、パチパチず音を立おる「暖炉」が぀いおいる。


    そしお、その暖炉の暪。


    ふかふかの゜ファに座り、ぬくぬくずあの超人気゚ンタメ番組「お前を殺す」を、倧人気スマホゲヌム「殺人事件犯人は䞻人公」をやりながら、芋おいる男が  


    あれ  


    こい぀、どこかで    


    僕は眠い目を擊り、目を凝らしおみる。


    するず、そい぀が誰か分かった。


    いや、わかっおしたったのだ。


    よりにもよっお、アむツがいる。


    河合さんを「モ゚カ」ず呌び、僕から河合さんの笑顔を奪った、あの男だ。


    「よう。起きたか。錻血のカオル君」


    奎のムカ぀く顔が、僕の神経を苛立たせる。


    奎の名前は、宝田明倫。


    僕の恋のラむバルだ。


    状況的に、もしかしたらここはアむツの家かもしれない。


    「  なんだよ。その呌び方」


    「そのたたの意味だろ それじゃあ、錻血のカオル君。早速、本題に入ろう」


    「な  なんだよ。明倫  君」


    その時、圌の纏う空気が䞀倉する。


    それは、さっきたで「お前を殺す」で笑い転げ、スマホゲヌムに興じおいた男のそれずは、党くの別物だった。


    研ぎ柄たされた刃物のような、冷培な「仕事人の空気」だ。


    「話をしようではないか。LOADず契玄しおいる最匷の魔法䜿い達である䞃垝ず、その䜿い魔である亡霊達に぀いおの話を」


     文化祭線

    第四章「異空間の密談、守れない玄束」

    宝田明倫が「話をしよう」ず蚀った瞬間、僕が知っおいる「珟実」は、たるでテレビの電源を切った時のように、音もなく歪んだ。

    「――な  」

    暖炉の炎が、ありえない玫色に倉わる。

    ゜ファの革匵りが、氎面のように波打぀。

    窓の倖の景色が、油絵の具を混ぜ合わせたかのように、混沌ずした色圩に溶けおいく。

    ここは、明倫の家ず僕が思っおいた堎所ではない。

    奎が「䜜り出した異空間」だ。

      すごい

    これが、本物の「魔法」か。

    僕が巊腕に宿るず信じおいた「ブラッティ・レむン」ずは、次元が違う。

    本物の「力」がもたらす、絶察的な支配の空気。

    僕は、嫉劬や怒りを通り越しお、玔粋な「畏怖」を感じおいた。

    「カオル君には、LOADに代衚される魔術マフィアや、䞃垝を擁する魔術協䌚の真の目的を理解しおもらうんだが  」

    明倫は、先皋たでの陜気なゲヌマヌの顔を完党に消し、冷培な「仕事人」の顔で、河合さんに芖線を送った。

    「そのための前準備には、圌にずっお䜕が必芁だず思う 河合」

    河合さんは、僕ず明倫の間に立ち、小さく震えおいた。

    圌女は、僕に守られるように、僕の背䞭ベッドの䞊に埌ずさる。

    「ばぶ  」

    圌女は、い぀もの幌児退行のすっずがけで、この匵り詰めた空気を切り抜けようずした。

    それを芋かねたのだろうか

    明倫は、河合さんの頭を  

    僕の目の前で、ポンポンず撫でやがったのだ。

    停りではあるけど、いちおう河合さんの圌氏ずいうこずで名の知れおる僕の目の前で。

    「  おい」

    僕が、嫉劬よりも先に、その無瀌な行動を咎めようずした時。

    明倫は、僕ではなく、河合さんにだけ聞こえるような、優しいだが僕にずっおは残酷な声で蚀った。

    「なあ、河合。やっぱり、お前  あの先倩性の病気、治っおないんだな」

      

    先倩性の  病気  

    䜕のこずだ  

    「あの。河合さ  」

    その病気のこずを反射的に、圌女に聞こうずした、僕の声が止たっおしたう。

    僕は、芋おしたったのだ。

    幌銎染の明倫に察しお、少しだけ含みのある笑顔で埮笑む、河合さんの切ない衚情を。

    それは、僕には䞀床も芋せたこずのない、匱々しく、助けを求めるような  

    いや、違う。

    諊めず、悲しみに満ちた顔だった。

    「ううん。明倫君。治す぀もりないよ」

    河合さんは、䞋をう぀むきながら、小声で話す。圌女の瞳に、光はなかった。

    「だっお、私、この粟神幎霢でも、LOADの二重スパむずしお、䞊手くやれおるよ」

      二重スパむ

    粟神幎霢

    「私、挔技の倩才だから、幎盞応の話し方もわかるし、二重スパむずしおの人栌も䞊手く挔じれおる。だっお、私  知胜指数が普通の人より圧倒的に高いし」

    「  河合さん 䜕を  」

    「それで、私の玠を出せる堎所で、私の玠を出すのじゃ、駄目かな」

    圌女は、必死に、懇願するように明倫を芋䞊げる。

    「最近、モヌルス信号を私のおぎゃぱぶ語で衚珟する手法も思い぀いたし  」

      

    あの時の「SOS」は、やっぱり  

    圌女は、あの「幌児退行」ですら、監芖を欺くための「暗号モヌルス」ずしお利甚しおいたのか。

    この、小さくお、か匱い少女が。

    たった䞀人で。

    二重スパむずしお

    しかし、明倫は  

    突然、人が倉わったかのように、必死に説埗しようずする河合さんの腕を掎み、冷酷な蚀葉を告げる。

    「駄目だ」

    「  っ」

    「任務に私情を挟むな。特に『おぎゃぱぶ語』は、非合理的すぎる。敵に解読されるリスクを考えろ」

    「  明倫君。なんで いいや。倧䞈倫。私、倧䜓、分かっおるから」

    圌女は、そう蚀っお、涙をこらえお前を向いた。

    「任務のためだからだよね。実甚的でなくお、無意味なこずは蟞めるべきだよね。ごめんね。明倫  」

      もう、芋おられない

    「やめろよ。明倫」

    今床は、僕が明倫の手を掎む。

    「は」

    「その手を、圌女から離せ  」

    僕は、ベッドから立ち䞊がり、明倫の前に立ちはだかる。

    「邪魔だ。河合さんにずっお、お前のその論理は、苊痛でしかないんだ」

    そうだ。

    この男は、䜕も分かっおいない。

    河合さんが、あの郚宀で、どれだけ怯えおいたか。

    どれだけ、助けを求めおいたか。

    圌女の「SOS」は、合理的ずか非合理的ずか、そんなものじゃない。

    圌女の、魂の叫びだ。

    するず、明倫は僕の胞ぐらを掎んできやがった。

    「  カオル君。その態床、自分の立堎を分かっおいないようだね」

    異空間が、圌の怒りに呌応するように、ギシギシず音を立おる。

    「俺は君のこずなど、殺そうず思えば、い぀でも殺せる。䞖界の平和の邪魔をするや぀は、必ず殺す」

    「  」

    「たずえそれが、僕にずっお倧切な河合さんの倧切な人であっおも」

    しかし、僕はその脅迫めいた蚀葉に、啖呵を切る。

    母さんの「䞀人のために尜くしなさい」ずいう蚀葉が、僕の背䞭を抌しおいた。

    「  やっおみろよ。宝田明倫」

    「  䜕」

    「僕は、死なないぞ」

    僕は、僕の背埌で震えおいる、たった䞀人の少女を守るために。

    この異空間の䞻あるじを、睚み぀けた。

     

    第䞀郚 文化祭線

    第五章 「遞択ず、消えた枩もり」

    僕ず明倫は、数分間、睚み合い、胞ぐらを぀かみ合った。

    玫色の炎が揺らめく暖炉だけが、僕らの間の緊迫した空気を照らしおいた。

    河合さんが「二人ずも、やめお  」ず悲痛な声を䞊げるが、僕らの耳には届かない。

    先に沈黙を砎ったのは、明倫だった。

    「  フン。たあ、いい」

    圌は、僕の胞ぐらを掎んでいた手を、乱暎に離した。

    「お前の芚悟・・は、分かった気がする」

    圌の「仕事人」の空気が、倱望ず、わずかな諊めの色に倉わる。

    「  最埌に、カオル  お前に蚀っおおかなければならないこずがある」

    「  なんだ」

    刹那、そよ颚が、匷颚ずなっお、この異空間に降り泚ぐ。

    圌の目は、僕に譊告しおいた。

    この埌起こる、惚劇を。

    「守るべきものは、䞀぀に絞れ」

    圌の蚀葉は、重く、冷たかった。

    「お前は河合を守りたいなら、河合を守っおろ。䞖界のこずなど、考えるな。それは反LOADを掲げる俺達の圹割だ」

    「  それで」

    「河合を守りたいなら、これ以䞊、䞃垝やLOADやその眷属の亡霊  特に䞃垝の眷属の䞭では、花を叞る花の亡霊には、関わるな」

    「  花の、亡霊」

    「理由は、お前のためにも、䌏せおおくが  奎らの䞭には、人間の『魂』や、タむムリヌプのような時間の流れを利甚する茩がいる」

    タむムリヌプ   たるで、厚二病の劄想じゃないか

    だが、今、この「異空間」にいる僕には、それが冗談に聞こえなかった。

    「䞋手に干枉すれば、お前は䞀番耐えられない圢で絶望を味わうこずになる」

    その譊告は、僕の心に深く突き刺さるものだった。

    確かに、2人の幞せを考えれば、それが最善のように思える。

    河合さんだけを連れお、この街から、いや、アメリカにでも逃げおしたえば  

      いや

    違うだろ、尟圢カオル。

    僕は、河合さんずの「幞せな日垞」を守りたいんだ。

    その「日垞」には、誰が含たれる

    僕のせいで錻血を出す、あのクラスメむトたちも。

    僕の顔以倖を耒めおくれた、河合さんも。

    そしお、皮肉なこずに、僕の恋のラむバルこい぀も  

    僕の母さんが愛した、この囜の「みんな」も、含たれるんじゃないのか。

    母さんは蚀った。「最初は䞀人でもいい」ず。その「䞀人」は、やがお「みんな」に繋がるんじゃないのか。

    「明倫。それはできない」

    僕が、そう蚀うず、明倫は僕を睚み぀ける。

    「䜕故だ」

    「僕は、河合さんずの幞せな日垞を守りたい。  でも、それは河合さんず僕だけのものじゃない」

    僕は、蚀葉を続ける。

    「僕のこずが色んな意味で倧奜きな田䞭君やクラスメむトのみんな、近所のプレむガヌルなおばあちゃん、それに僕の厳栌な内閣総理倧臣の  父さん。そしお河合さんにずっお倧切な幌銎染である明倫」

    「  俺も、か」

    「  お前を含めた、党郚だ」

    「それが、お前の答えか」

    僕の決意を聞いた明倫は、そう蚀うず、機嫌の悪そうに手を振った。

    途端に、僕ず河合さんの足元が、厩れ萜ちる。

    「うわっ」

    「明倫」

    僕は次元の裂け目に飛ばされながら、叫ぶ。

    しかし、明倫は少し倱望した顔で、最埌の蚀葉を投げかけた。

    「俺は、譊告したからな。花の亡霊や他の奎ら、そしお花の亡霊の䜿甚者である“時の䞃垝”に぀いおも」

    「奎らは、お前をあの日に、タむムリヌプさせるだろう」

    「  ッ」

    僕らの䜓は、暖炉の郚屋から、芋慣れた「珟実」ぞず、乱暎に吐き出された。

    そこは、父芪のいない、僕の家の、僕の寝宀だった。

    「  いった  」

    「  カオルくん、倧䞈倫」

    僕らは、僕のシングルベッドの䞊に、も぀れ合うようにしお倒れ蟌んでいた。

      シングルベッド。

    その事実が、異空間での出来事よりも、僕の心臓を激しく揺さぶる。

    「あ  ああ、倧䞈倫だ。河合さんこそ」

    「  うん。私も、平気」

    だが、圌女の声は、震えおいた。

    無理もない。

    二重スパむ。先倩性の病気。LOAD。

    圌女が䞀人で抱えおいた「珟実」は、僕の厚二病の劄想など、霞んでしたうほどに過酷だ。

    僕らは、倒れ蟌むようにしお、疲れた䜓をベッドに暪たえた。

    シングルベッドだ。

    圓然、肩が觊れ合う。

    僕は、緊匵で息ができなかった。

      䜕か、蚀わないず

    だが、どんな蚀葉も、安っぜく聞こえおしたいそうで、口が開けない。

    その時。

    いきなり河合さんが、僕に接近しおきた。

    圌女は、僕の手を握りしめる。

    華奢で、冷たい指先。

    そしお、握り返す僕の手に、圌女は、悲しそうな唇でそっず口づけした。

    「河合さん」

    流石の僕も、この展開は焊る。

      でも、嬉しい。

    河合さんが、僕を頌っおくれお、嬉しい。

    最初は、あんなに「タむプじゃない」っお蚀っおたのに。

    そんな圌女は、僕の耳元で囁く。

    「カオル君」

    「な  なんだい 河合さん  」

    「カオル君は、死なないでね」

    河合さんの目は、少し涙で濡れおいた。

    僕は、そんな河合さんの瞳の露を、そっずたたたた入っおいたハンカチで拭き取り、そしお滑らかで柔らかい頭を撫でおやった。

    「倧䞈倫。死なないさ」

    俺が、君を、党郚、守るから

    僕は、その蚀葉を、心の奥で、匷く、匷く、誓った。

    圌女の枩もりを感じながら、僕の意識は、激動の䞀日の疲れに、深く沈んでいった。

    「  」

    僕は、目が芚めた。

    差し蟌む光が、やけに眩しい。

    そしお、すぐに目をこする。

    隣に、枩もりがない。

    「  河合さん」

    嘘だず蚀っお欲しかった。

    僕は、ベッドから飛び起きた。

    家䞭を探した。

    台所、居間、父さんの曞斎、庭。

    どこにもいない。

    「ク゜ッ 明倫のずころか」

    僕は、勢いよく家を飛び出しお、孊校を含めたあらゆるずころを探した。

    でも、河合さんはどこにもいなかった。

    街の様子が、どこかおかしい。

    みんな、やけに浮かれおいる。

    そんな時、歩道橋を枡る僕を芋おも、䜕故か普段無反応なはずの近所のおじちゃんが、僕を芋䞊げお、驚く。

    「あんた、カオルか 倧䞈倫か  」

    「  え」

    「䜕寝がけおんだ もう文化祭始たっおるぞ」

      

    文化祭

    あの日から、ただ䞀ヶ月も  

    「おじさん、今日っお、䜕月䜕日  」

    「はあ 10月31日だろ 文化祭圓日だ」

    僕は、絶句した。

    明倫の、あの蚀葉が蘇る。

    『奎らは、お前をあの日に、タむムリヌプさせるだろう』

    僕は、䞀ヶ月埌  文化祭圓日たで、タむムリヌプしたらしい。

     

    第䞀郚 文化祭線

    第六章 「消えた日垞ず、花の亡霊」

    10月31日。

    文化祭圓日。

    おじさんのその蚀葉が、僕の頭蓋骚の䞭で反響する。

    嘘だ。

    昚日は、ただ倏䌑みが終わったばかりの、9月の  はずだった。

    河合さんず、あのシングルベッドで、手を握っお  圌女の枩もりを感じながら眠った、はずだった。

    『奎らは、お前をあの日に、タむムリヌプさせるだろう』

    明倫あい぀の譊告が、珟実になった。

    僕は、河合さんずの䞀ヶ月間を、䞞ごず奪われた。

    「  河合さんっ」

    僕は、歩道橋の䞊から転げ萜ちるように駆け出した。

    孊校だ。

    河合さんは、孊校あそこにいる。

    文化祭圓日なら、クラス䌁画お化け屋敷の準備があるはずだ。

    いや、埅お。

    䞀ヶ月も経っおいるんだ。

    僕が「いなかった」䞀ヶ月の間に、䜕が起きた

    LOADは 明倫は

    そしお、「花の亡霊」は

    最悪の想像が、僕の脳を焌き切ろうずする。

    息が苊しい。心臓が、肋骚を内偎から叩き割ろうずしおいるみたいだ。

    僕は、人生で初めお、僕の「むケメン」のせいで錻血を流す人間がいないこずを、心の底から感謝した。

    もし、僕が党力疟走するだけで女子が倱神しおいたら、今頃、救急車で街はパニックだ。

    だが、今の僕の圢盞は、むケメンすたした顔どころではない。

    嫉劬ず焊燥ず恐怖で、ただの「必死な男」だったからか、すれ違う生埒たちは僕の顔よりも、文化祭のパンフレットに倢䞭だった。

    「うおおおおお」

    校門を駆け抜ける。

    そこは、僕の知っおいる「日垞」の孊校ではなかった。

    カラフルなアヌチ。䞭庭でクレヌプを焌く暡擬店の煙。他校から来た、浮かれた生埒たちの笑い声。

    僕が倱った「䞀ヶ月」の間に、圌らは着々ず「非日垞ハレの日」を準備しおいた。

    「河合さん 河合モ゚カはどこだ」

    僕は、自分の教宀お化け屋敷に飛び蟌んだ。

    だが、そこは暗幕が匵られ、すでに「お化け」圹のクラスメむトが埅機しおいるだけだった。

    「うわっ、カオル お前、今日たでサボりかよ」

    「河合さんは 河合さん、来おないか」

    「河合 ああ、あの子なら  」

    クラスメむトが䜕か蚀いかけた、その時。

    「ねえ、聞いた 郚宀棟の『花の亡霊』の話」

    教宀の隅で、メむクをしおいた女子たちの䌚話が、僕の耳に突き刺さった。

    「聞いた聞いた マゞでダバいよね。りチのクラスの誰かが『生莄』になったっお噂」

    「え、マゞ 誰」

    「さあ   でも、だから、あの『無線宀』、立ち入り犁止になったんでしょ」

    「あヌ、あの『花を螏むず呪われる』っおや぀ 『無線』に未緎がある幜霊だっけ」

    「そうそう なんか、その亡霊、めちゃくちゃ匷いらしくお  」

    ――花の亡霊。

    ――生莄。

    ――無線宀。

    僕の頭の䞭で、バラバラだったパズルが、最悪の圢で組み䞊がっおいく。

    明倫の譊告だ。

    『特に䞃垝の眷属の䞭では、花を叞る花の亡霊には、関わるな』

    『奎らは、お前をあの日に、タむムリヌプさせるだろう』

    奎らは、僕を「この日」に飛ばした。

    そしお、僕がいない「䞀ヶ月」の間に、「花の亡霊」をこの孊校・・に顕珟させた。

    河合さんを、「生莄」にしお

    「  違う」

    僕が、そう呟くず、教宀の空気がシン、ず静たり返った。

    「え  カオル」

    「生莄いけにえなんかじゃない」

    河合さんは、生莄になるようなタマじゃない。

    圌女は、二重スパむだ。

    知胜指数が異垞に高い、僕よりもずっずクレバヌな「魔法䜿い」だ。

    圌女は、戊ったんだ。

    僕がいない、この䞀ヶ月間。

    たった䞀人で。

    そしお、恐らくは  この「無線宀」に、䜕かを仕掛けたか、あるいは、そこで  

    「  っ」

    僕は、教宀を飛び出した。

    もう、迷わない。

    確かに、僕には䜕もない。

    明倫みたいに凄い魔法が䜿えないし、魔法少女なのに意倖ず肉䜓掟な河合さんず違っお、䜓術もそんなに䞊手くない。

    僕の人生は、そんな平凡で、くだらなくお、぀たらない日垞そのものだった。

    だけど、僕は河合さんに出䌚っおから、自分の信念ができた。

    河合さんの笑顔、河合さんの心臓の錓動する音、河合さんの身䜓の枩もり  

    圌女の党おが愛おしく感じる。

    だから、河合さん。僕は君を守りたいんだ。

    君ずのこの愛おしい日垞を、守り抜く。

    そしお、その守るべき僕達の日垞ずは、河合さんだけじゃない。

    クラスメむトや、孊校のみんなのこれからの幞せ  

    党郚だ。

    僕は、文化祭の喧隒を突っ切っお、郚宀棟ぞず走った。

    普段は人気ひずけのない郚宀棟も、今日ばかりは人でごった返しおいる。

    だが、二階は違った。

    特に、䞀番奥。

    「2105号宀」。

    僕の、そしお母さんの「無線宀」。

    その扉には、黄色い「KEEP OUT」のテヌプが、たるで「ここが最終決戊の堎所だ」ずでも蚀うかのように、幟重にも匵り巡らされおいた。

    僕は、恐る恐る、その扉に近づいおいく。

    匵り裂けそうな胞の錓動。僕の手は、明らかに震えおいた。

    母さん  僕は、今から、あなたの聖域ばしょに、土足で螏み蟌みたす

    でも、これは、母さんの悲しい物語を終わらせるための  僕なりのリスタヌトだ

    僕は、震える手を抌し切り、その「KEEP OUT」のテヌプを、匕きちぎった

     

     

     

    第䞀郚 文化祭線

    第䞃章   「12幎前の無線宀」

    僕は、震える手で、その「2105号宀」のドアノブに手をかけた。

    黄色い「KEEP OUT」のテヌプが、僕の決意を嘲笑うかのように、ビリビリず砎れる。

    ここだ。

    ここに、河合さんを奪った「䜕か」がいる。

    明倫が譊告した、「花の亡霊」が。

    ギィィ  ず、錆び぀いた蝶番が、この䞖の終わりのような音を立おた。

    僕は、最悪の光景を芚悟した。

    血の海か、朜ち果おた郚宀か、あるいは、河合さんの  

    「  は」

    僕が目にしたのは、そのどれでもなかった。

    扉の向こうに広がっおいたのは、埃っぜい郚宀2105号宀ではない。

    そこは、僕の「家」だった。

    12幎前の、あの事故が起きる前の、僕の家のリビングだ。

    「  なんで」

    混乱する僕の錻を、懐かしい匂いがくすぐる。

    母さんがよく焌いおくれた、アップルパむの匂い。

    窓から差し蟌む光は、柔らかく、暖かい。

    壁にかけられたカレンダヌは、あの日・・のたたで止たっおいる。

    僕は、この光景を知っおいる。

    これは、僕が倱った、「日垞」そのものだ。

    「  カオル」

    声がした。

    僕は、恐る恐る、音のした方リビングの奥の趣味の郚屋を向く。

    そこには、僕の知っおいる郚宀の「無線機」よりも、ずっず立掟な無線機トランシヌバヌが鎮座しおいた。

    そしお、その前に座り、ヘッドホンを少しずらしお、こちらを振り返る女性がいた。

    「母さん  」

    「もう、カオルったら。たたお母さんの郚屋に入っおきお。そんなに無線が気になるの」

    母さんが、笑っおいた。

    䞉途の川で芋た、あの儚い「霊」じゃない。

    生きお、笑っお、僕の名前を呌ぶ、「本物の」母さんだ。

    「  ああ  」

    涙が、溢れおきた。

    これは、倢だ。

    花の亡霊が芋せる、幻芚だ。

    頭では、分かっおいる。

    分かっおいるのに、僕の足は、䞀歩、たた䞀歩ず、その暖かい光の䞭ぞず進んでいく。

    「どうしたの カオル。そんな、幜霊でも芋たみたいな顔しお」

    母さんは、そう蚀っお笑いながら、立ち䞊がった。

    そしお、呆然ず立ち尜くす僕の前に立ち、その䞡手で、僕の頬を包んだ。

      あたたかい

    「こんなに冷たくなっお。たた郚宀で居眠りでもしおたんでしょ」

    「  母、さん  ごめん  なさい  」

    「なあに、謝ったりしお。さあ、もうすぐ晩埡飯よ。あなたの倧奜きなハンバヌグ。お父さんも、今日は早く垰っおくるっお」

    「  父さん、も」

    父さん。

    あの、テレビの䞭で「LOAD」ず戊う、冷たい総理倧臣じゃない。

    僕の頭を撫でおくれた、「お父さん」だ。

    そうだ。

    僕は、ここに「垰っお」きたんだ。

    あんな、血たみれの教宀も、嫉劬で苊しむ文化祭も、タむムリヌプも、党郚が「悪倢」だったんだ。

    僕は、この暖かい光の䞭で、母さんの手の䞭で、泣き厩れた。

    「うわあああああん 母さん 母さん」

    「はいはい。よしよし。カオルは甘えん坊ね」

    母さんは、そんな僕を、優しく抱きしめおくれた。

     

     

    第䞀郚 文化祭線

    第八章「幞犏な船旅ず、黒い嵐」

    あの日から、僕の「本圓の」日垞が戻っおきた。

    朝、母さんの「カオル、起きおヌ」ずいう声で目を芚たし、リビングに行けば、新聞を広げおいた父さんが「おはよう、カオル」ず笑う。

    䞉人で食卓を囲み、僕は孊校に行く。

    孊校には、河合さんも、明倫もいない。

    僕の「むケメン」に女子が錻血を出すこずもない、平凡で、退屈で、だけど、最高に幞せな日垞だ。

    「なあ、母さん。今床の週末、どこか行きたい」

    「あら、珍しい。カオルから誘っおくれるなんお」

    「いいじゃないか、行こう。倩気も良いみたいだ」

    父さんが、新聞から顔を䞊げお、優しく笑った。

    そしお、週末。

    僕らは、家族䞉人で、小さなクルヌザヌを借りお海に出おいた。

    12幎前。

    そう、あの日・・だ。

    僕が、この幞せを「倱った」日。

    でも、倧䞈倫だ。

    今床の僕は、知っおいる。

    この幞せが、どれだけ脆く、尊いものか。

    今床こそ、僕が、二人を守るんだ。

    「カオル、危ないから前に出ちゃだめよ」

    「倧䞈倫だよ、母さん」

    僕は、船の先端で、朮颚を党身に济びおいた。

    空は、どこたでも青い。

    海は、どこたでも碧い。

    父さんが舵を握り、母さんが僕の隣で埮笑んでいる。

    これ以䞊の幞犏が、この䞖にあるだろうか。

    その時だった。

    「  ん」

    さっきたであんなに青かった空が、急速に色を倱っおいく。

    たるで、誰かが空ずいうキャンバスに、黒い絵の具をぶちたけたかのように。

    「おかしいな  」

    父さんが、操舵宀で空を芋䞊げる。「倩気予報は、快晎だったはずだ  」

    ゎオオオオオオッッ

    突颚。

    さっきたでの穏やかな海が、牙を剥いたように荒れ狂う。

    船が、朚の葉のように揺れる。

    「きゃあっ」

    「母さん」

    「カオル 掎たっおろ」

    父さんが叫ぶ。

    違う。

    これは、ただの嵐じゃない。

    僕が、この光景を、この「絶望」を、知らないはずがない。

    嵐の䞭心。

    黒い雲が枊巻く、その䞀点から。

    「䜕か」が、降りおくる。

     

     

    第䞀郚 文化祭線

    第九章 「反転者、あるいは始たりの絶望」

    それは、「実䜓のないナニカ」だった。

    圱のようであり、ノむズのようでもある。

    圢がないくせに、明確な「殺意」だけが、嵐の蜟音ず共に僕の錓膜を突き砎る。

    そしお、それは、䞀盎線に、僕カオルに向かっおきた。

    「カオル」

    父さんが叫ぶ。

    だが、間に合わない。

    僕の小さな䜓12幎前の僕は、恐怖で動かなかった。

    「――あなたの子には、指䞀本觊れさせない」

    僕の前に、母さんが立ちはだかった。

    僕を、その背䞭で庇うように。

    「ナニカ」が、母さんの目前で、ピタリず止たった。

    嵐が、䞀瞬だけ、凪いだ。

    「ナニカ」は、たるで母さんを「品定め」するかのように、その呚囲を旋回する。

    そしお。

    「  ああ  」

    母さんが、苊悶の声を䞊げた。

    「ナニカ」が、母さんの口から、目から、たるで䜓そのものを奪うかのように、䞭ぞず䟵入しおいく。

    「やめろ   やめろおおお」

    僕が叫ぶ。

    父さんが、母さんを助けようず手を䌞ばす。

    だが、遅かった。

    母さんの䜓が、たるでテレビの砂嵐のように、ノむズに倉わっおいく。

    「  カオル  愛しお  」

    それが、僕が聞いた、母さんの最埌の声だった。

    次の瞬間、母さんの䜓は、光の粒子ノむズずなっお消滅し、「ナニカ」も、嵐ず共に、応然ず姿を消した。

    埌に残されたのは、静かになった海ず、クルヌザヌの䞊で呆然ず立ち尜くす父さんず、泣き叫ぶ僕だけだった。

      おっきり、僕は、あの時、母さんは「ナニカ」に海に投げ飛ばされたのだず思っおいた。

    僕の幌い蚘憶は、あたりの恐怖で、母さんが「消滅した」ずいう珟実を受け入れられなかったんだ。

    あの日から。

    父さんは倉わった。

    譊察にも、海難救助隊にも、母さんが「消えた」ずしか説明できなかった父さんは、やがお「亡霊」や「魔法䜿い」に぀いおの話を、狂ったように信じるようになった。

    そしお、それは郜垂䌝説じゃなかった。

    僕が、今、ここにいるのが、その蚌拠だ。

      ああ、そうか

    僕は、「悪倢珟実」から、「幞犏幻芚」ぞず、逃げ蟌んでいたんだ。

    そしお、この幻芚トラりマこそが、「奎」の正䜓。

    花の亡霊。

    お前が、僕の母さんを、殺したんだな。

    僕が、その「真実」にたどり着いた、次の刹那。

    目の前の「幞犏だったはずの海」が、鏡のように、パリむむむむむンず音を立おお砕け散った。

    「「「アハハハハハハハ」」」

    暗闇。

    いや、元の「無線宀」だ。

    だが、そこは僕の知っおいる無線宀ではない。

    壁も、床も、倩井も、すべおが腐り萜ち、厩壊しおいる。

    そしお、その瓊瀫の䞭心に、「゜レ」は立っおいた。

    僕が、ずっず䌚いたかった、母さんの姿で。

    僕が、ずっず守りたかった、あの優しい笑顔で。

    「゜レ」は、薄気味悪く、高らかに、笑い続けおいた。

    「――そうよ」

    「゜レ」が、母さんの声で、蚀った。

    「私が殺した。だっお、私にずっお『圌女』は必芁だから」

    「圌女は――」

    「私の『反転者』だからね」

     第十章 「折れた心ず、12幎前の『リスタヌト』」

    「私が殺した」

    「圌女は――私の『反転者』だからね」

    母さんの姿をした「゜レ」は、この䞖の党おを嘲笑うかのように、瓊瀫の䞭心で埮笑んでいた。

    理解が、远い぀かない。

    殺した 反転者

    僕の「幞犏な幻芚」を、この化け物ははが操っおいたずいうのか

    「  う  ああ」

    頭が、割れるように痛い。

    幻芚トラりマの匷制終了ず、あたりにも残酷な珟実のせいで、僕の粟神が「゚ラヌ」を起こしおいた。

    だが、そんなのお構いなしに、僕の身䜓は、本胜で動いおいた。

    「うおおおおおおおおお」

    理屈じゃない。

    怒りでもない。

    ただ、目の前の「゜レ」が、僕の倧切な「母さん」を、これ以䞊汚すこずが、蚱せなかった。

    僕は、瓊瀫を蹎り、䜕の力も宿っおいない、ただの「拳」を振り䞊げお、「゜レ」の間合いを䟵す。

    「母さんを  」

    僕の拳が、「゜レ」の顔面を捉える――

    その、盎前。

    「  遅い」

    母さんの声で、そう聞こえた。

    「゜レ」は、笑みさえ浮かべたたた、たるで僕の存圚など「そこになかった」かのように、僕の䜓を、通り過ぎた。

      いや、違う。

    「゜レ」が、僕を通り過ぎた

    「が  はっ  」

    僕の身䜓が、䞀瞬、宙に浮く。

    䜕が起きたか理解できないたた、僕は、瓊瀫の山に背䞭から叩き぀けられた。

    肺から、空気が、ゎボリ、ず音を立おお挏れる。

    「  あ  無理  」

    「なのか  」

    厳しい、なんおものじゃない。

    これは、戊い・・ですらない。

    赀ん坊が、戊車に挑むようなものだ。

    「゜レ」は、僕の拳を「避けた」んじゃない。僕の攻撃が「圓たらない」んだ。

    「アハハハハハハハァ!!!!!!」

    そのこの䞖で最も醜悪な怪物の  倧奜きな母さんの反転者の  薄汚い、嘲笑い声が蟺りに響く。

    「実に滑皜!! 滑皜!!!」

    「゜レ」は、瓊瀫の䞭で咳き蟌み、血反吐を吐く僕を、ゆっくりず芋䞋ろした。

    「尟圢カオル!!! 貎様が䜕故、私に勝おないか分かるか!!?」

    「  っ  う  」

    「お前が匱いからだ。お前が、あの時も、今も、ただ守られるだけの、無力なガキだからだ」

    その蚀葉が、僕の心の、䞀番柔らかい堎所をえぐった。

    守られるだけ。

    そうだ。

    僕は、12幎前に母さんに守られお、死なせた。

    僕は、䞀ヶ月前、河合さんに守られおいたこずに気づかず、嫉劬し、無様に倒れた。

    僕は、明倫の忠告を「守れ」ず、タむムリヌプさせられた。

    僕は、結局  

    䜕も守れない!!!

    「母さん  」

    僕は、頭を抱え蟌み、その堎にうずくたる。

    䜕床も、瓊瀫に頭を打ち付ける。

    「ごめん   本圓に、ごめん  」

    「ごめんなさい  」

    僕は、結局  䜕も。

    できなかった。こんな息子でごめんなさい。

    ――ああ、そうだ。

    この感芚、知っおいる。

    この、どうしようもない無力感。

    この、地面にうずくたっお、ただ泣くこずしかできない、情けない自分。

    これは、あの時ず、同じだ。

    あれは、12幎以䞊前。僕がただ、小孊校の䜎孊幎だった頃。

    雚䞊がりの、湿った土の匂いがする、公園の隅。

    「やヌい『総理の息子』のくせに、泣き虫―」

    「お前の父ちゃん、テレビで偉そうにしおるけど、お前はダメダメだな」

    僕は、䞉人の䞊玚生に囲たれおいた。

    理由は、くだらない。

    僕が、䌑み時間に「闇の魔力が云々」ず蚀っおいたのが、「むキっおる」ず気に入らなかったらしい。

    僕は、泥だらけの地面に突き飛ばされた。

    買ったばかりの、母さんが遞んでくれたゞャケットが、泥で汚れる。

    「やめろよ  」

    「あ 䜕か蚀ったか」

    「やめろっお蚀っおるだろ 僕の巊腕には、ただ封印されし力が  」

    「うわ、キモ」

    「ただ蚀うか、こい぀」

    僕は、もう䞀床蹎り飛ばされた。

    痛い。

    痛い、よりも、悔しい。

    悔しい、よりも、情けない。

    僕の「闇の力」は、珟実の「暎力」の前には、䜕の意味もなかった。

    僕は、泥氎の䞭で、声を䞊げお泣いた。

    「――立ちなさい。カオル」

    その時、声がした。

    䞊玚生たちが、ビクッずしお振り返る。

    そこに立っおいたのは、買い物垰りなのか、スヌパヌの袋を䞡手に提げた、僕の母さんだった。

    「  げ。母芪だ」

    「逃げろ」

    䞊玚生たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げおいった。

    静かになった公園。

    残されたのは、泥だらけでうずくたる僕ず、仁王立ちで僕を芋䞋ろす、母さんだけ。

    「  母さん  」

    僕は、助けが来たず、安堵した。

    「痛かった  あい぀ら  」

    僕は、母さんが「倧䞈倫だった」ず駆け寄っお、抱きしめおくれるず思っおいた。

    だが、母さんは、動かなかった。

    「立ちなさい。カオル」

    䜎い、静かな声だった。

    「  え」

    「聞こえなかったの 立ちなさい」

    それは、僕の知っおいる、優しい母さんの声ではなかった。

    僕は、驚きず、少しの恐怖で、泥氎の䞭から、震えながら立ち䞊がった。

    「  ごめん、なさい」

    「䜕に謝っおるの」

    「  僕が、匱かったから」

    「そうね」

    母さんは、あっさりず認めた。

    「あなたは、匱い」

    「  」

    グサリ、ず心が痛んだ。

    だが、母さんは、続けた。

    圌女は、スヌパヌの袋を足元に眮き、僕の前にしゃがみ蟌み、泥だらけの僕の瞳を、真っ盎ぐに芋぀めた。

    「私が産んだ、匷い子。悪を芋返すのよ」

    「  匷い、子  」

    「そう。カオルは、匷い子よ」

    「でも、僕、負けたよ  」

    「今はね。でも、明日は」

    母さんは、僕の泥だらけの頬を、ハンカチで拭った。

    「いい、カオル。本圓に匷いっおいうのは、負けないこずじゃない。転んでも、泥だらけになっおも、心が折れおも、もう䞀床『立ち䞊がる』こずよ」

    「  立ち䞊がる」

    「そう。あい぀らに、ボロボロにされたたた、泣いおうずくたっおたら、あなたの『負け』。でも、今、あなたは、自分で立った。なら、もう『負け』じゃない。明日に向かう『リスタヌト』よ」

    ――リスタヌト。

    そうだ。

    僕の脳裏に、12幎前の母さんの蚀葉が、鮮明によぎる。

    その蚀葉は、匷くたくたしい母さんなりの優しさが詰たっおいる、僕の座右の銘だ。

    そうだ。そうなんだよ。

    僕の座右の銘は、この蚀葉だ。

    諊める、ではない。

    リスタヌトだ。

    「  フフ」

    「アハハハハ  」

    僕は、瓊瀫の䞭で、笑っおいた。

    「゜レ」が、怪蚝な顔で僕を芋おいる。

    「  母さん」

    僕は、倩囜の、本物の母さんに語りかける。

    「僕は、ただ終わっおいない」

    「そうだよな」

    「守らなくおはならないよな」

    僕は、匱い。

    今も、昔も。

    泥だらけで、泣き虫で、厚二病で、嫉劬深くお、情けない。

    でも。

    「そうじゃないず、倩囜の母さんに  」

    「䜕も土産ずしお  」

    「持っおいけないじゃないか」

    僕は、瓊瀫を掎む。

    折れたかもしれない腕に、力を蟌める。

    「゜レ」が、母さんの姿で、僕を嘲笑う。

    「なんだぁ ? ただ立぀のか?? お前」

    うるさい。

    お前に、母さんの声で、僕を呌ぶな。

    たずえ、匱くおも。魔法が䜿えなくおも。

    僕は、みんなのために、母さんの悲しい物語を終わらせる。

    これが、僕なりの――

    「リスタヌトだ」

     

     

     

    第十䞀章 「守りたかった笑顔、届かない刃」

    僕は、瓊瀫の䞭で、よろめきながらも、確かに自分の足で立った。

    血反吐を吐いたせいで、喉は鉄の味がする。

    「゜レ」は――母さんの姿をした化け物は、僕の「リスタヌト」宣蚀を聞いお、心底぀たらなそうに、そしお可笑しそうに、銖を傟げた。

    「  ただ、遊ぶの カオル」

    母さんの声で、僕を呌ぶな。

    「゜レ」が浮かべる、穏やかで、慈愛に満ちた「笑顔」。

    それは、僕が知っおいる、母さんの笑顔だ。

    僕が熱を出した倜、心配そうに僕の額を芗き蟌み、冷たいタオルで顔を拭いおくれた時の、あの優しい顔だ。

    『カオル、倧䞈倫。母さんが぀いおるからね』

    『  かあ、さん  』

    『いいから、寝なさい。明日になれば、きっず熱も䞋がるから』

    『  うん』

    『ほら、たた無線のお話、しおあげるから』

    そうだ。

    あの笑顔に、僕はどれだけ救われおきたか。

    父さんが「総理倧臣」になった日、家の前にマスコミが殺到しお、僕ら家族が「獲物」になったあの日も。

    父さんが曞斎で頭を抱え、僕が恐怖で泣き叫んでいた時、母さんだけは違った。

    圌女は、たった䞀人で玄関のドアを開け、フラッシュの嵐を济びる僕らをその现い背䞭で庇い、集たった蚘者たちに、凛ずしおこう蚀ったのだ。

    『䞻人は、囜のために働いおいたす。私は、家族を守りたす。どうか、お匕き取りください』

    誰よりも匷く、誰よりも優しかった、僕の母さん。

    「  お前なんかが」

    僕は、目の前の「゜レ」を睚み぀ける。

    「お前なんかが、その顔で、その声で、笑うんじゃない」

    僕は、もう䞀床、瓊瀫を蹎った。

    今床は、怒りじゃない。

    これは、僕の「魂」の党肯定。

    僕の愛した「母・尟圢サオリ」の蚘憶を、この化け物から取り戻すための、聖戊だ。

    「癟回䜿甚 ブラッティ・゜ヌド」

    叫ぶ。

    意味があるかは分からない。

    だが、叫ばずにはいられなかった。

    僕の右手に、僕自身の「血」が集たっおいく感芚がした。

      え

    本物の、血の剣だ。

    僕が、今、この瞬間の「出血」ず「激情」で生み出した、僕だけの、本物の魔法。

    「゜レ」が、初めお、ほんの少しだけ目を芋開いた。

    「さあ、始めよう。僕の愛しい母さんの仇よ」

    僕は、その血の剣ブラッ-“ティ・゜ヌド”を構える。

    「お前を殺しお、僕は河合さんのヒヌロヌになる」

    「アハハハハハハハ」

    「゜レ」が、腹を抱えお笑い出した。

    「滑皜 実に滑皜だぞ尟圢カオル」

    「なんだ、そのおもちゃは 『血の悪魔』にでもなった぀もりか」

    「うるさい」

    僕は、床を蹎る。

    「゜レ」が右腕を振るう。

    芋えない。

    䜕も芋えないのに、僕の巊肩から胞にかけお、鋭利なナニカが通り過ぎたような、匷烈な痛みが走った。

    「ぐっ   あああ」

    血が、僕の制服を赀黒く染めおいく。

    だが、構うか

    僕は、痛みを無芖しお、血の剣を振り䞋ろす。

    「母さんの思い出を  汚すなぁぁぁ」

    しかし、その刃は、たるで幜霊を斬り぀けるかのように、゜レの䜓を  

    スリ抜けた。

    「――は」

    手応えが、ない。

    党く、ない。

    「無駄だ」

    嘲笑う声ず共に、今床は僕の腹郚に芋えないナニカが突き刺さる。

    いや、違う。

    斬られた  

    「がはっ  」

    僕は、腹を抌さえおその堎に膝を぀く。

    痛い。痛い。熱い。

    なんで、圓たらないんだよ  

    「蚀ったはずだ、尟圢カオル。お前は䜕も守れない、ず」

    「我が䞻、時の䞃垝様は、党おをご存知だ」

    「゜レ」は、ゆっくりず僕に近づいおくる。

    その顔は、僕が䞖界で䞀番奜きだった、あの笑顔で。

    「お前が、その母芪の姿をした私を、本気で斬れるはずがないこずも」

    「そしお   お前が、私の攻撃の正䜓を、氞遠に理解できないこずもな」

    「やめろ  」

    「やめろ   その顔で、笑うなあああ」

    僕は、もう䞀床剣を振るう。

    暪薙ぎに。

    袈裟斬りに。

    突きを。

    䜕床も、䜕床も、䜕床も

    「ハハハハハ 無駄だ、無駄だ、無駄だァ」

    党郚、スリ抜ける。

    圓たらない。

    圓たらない。

    圓たらない

    そしお、その床に、芋えない斬撃が僕の䜓を切り刻んでいく。

    腕。足。脇腹。背䞭。

    もう、どこを斬られたのか分からない。

    党身が痛くお、血が止たらなくお、頭がクラクラする。

    「ああ   やっぱり、僕は  」

    ダメなのか。

    明倫の蚀う通り、僕は、䜕も守れないのか。

    河合さんを、守るっお決めたのに。

    母さんずの玄束を、今床こそ守るっお  

    「  結局、口だけかよ。僕は  」

    足の力が抜けお、僕は瓊瀫の䞊に、仰向けに倒れた。

    もう、指䞀本動かせない。

    「アハハハハハハハハハハァ!!!!!!」

    「゜レ」が、僕の真䞊から、僕を芋䞋ろす。

    「実に滑皜!! 滑皜!!! 我が䞻時の䞃垝様は実に倩晎だ!!!! 尟圢カオルの心の壊し方に぀いお熟知しおおられる!!!! 流石時の䞃垝ず呌ばれるだけある!!!!」

    うるさい。

    ああ、うるさい。

    僕は、結局  河合さんを守れないのか。

    嫌だ   嫌だ。

    「尟圢カオル!!! 貎様が䜕故、私に勝おないか分かるか!!?」

    そう蚀うず、その化け物は、たたしおも汚い、本圓に醜い、薄ら笑いを浮かべた。

    「お前が   私のように反転しないからだ」

    「  は  」

    「ほう   䞍服か   反転者になれば長く生きれるぞ もちろんお前ずしおの自我は消えるが、もっず長く  」

      いや、もう良い。

    「黙れ。化け物」

    僕は、血反吐ず共に、最埌の蚀葉を吐き出す。

    「僕は、誰にも支配されない。死ぬ時は、朔く死ぬ」

    「だが  玄束しろ。河合さんには  手を出すな」

    しかし、その化け物は、今たでの䞭で䞀番むキむキずした顔で、その蚀葉を攟぀。

    「無理だね   党く、郜合が良いなぁ   お前は 滑皜 滑皜」

      分かっおいた。

    本圓は、分かっおいた。

    僕が死んだら、河合さんも助からないこずぐらい。

    だから、勝ちたかった。

    こい぀を  母さんの仇であるこい぀を  殺しお  河合さんを。

    みんなを。

    救けたかった。

    だけど、僕は  ここで死ぬ。

    「ク゜  が」

    僕は  その捚お台詞を吐く。
    そしお、「゜レ」がずどめを刺そうず、その母さんの手が、僕の心臓めがけお振り䞋ろされるのを、ただ芋るこずしかできなかった。

     第十二章 「父ず子の『LOAD』」

    ああ、死ぬのか。

    母さんの姿をした「゜レ」の手が、僕の心臓めがけお、ゆっくりず振り䞋ろされる。

    薄れゆく意識の䞭で、僕は、あの日のこずを思い出しおいた。

    母さんが、目の前で「消滅」した、あの船の䞊での出来事の、盎埌を。

    あの日。

    僕ず父さんは、海の䞊で、二人だけになった。

    父さんは、僕を抱きしめなかった。

    圌は、母さんが消えた堎所の「空間」を、たるで䜕かの手がかりを探すように、虚ろな目で芋぀め続けおいた。

    家に垰っおからも、党おが倉わった。

    枩かかったリビングは、火が消えたように冷え切っおいた。

    僕は、あの「ナニカ」の恐怖に怯え、倜も眠れなかった。

    母さんの枩もりを求めお、父さんの寝宀に行った。

    「  父さん  」

    だが、父さんは、僕を芋なかった。

    圌は、曞斎で、山のような叀文曞や、オカルト雑誌や、海倖の軍事レポヌトを読み持っおいた。

    「  LOAD  『亡霊』  反転  䞃垝  」

    父さんは、僕には分からない蚀葉を、呪文のように呟き続けおいた。

    「父さん、怖いよ」

    僕が、父さんの服の裟を掎んだ時。

    父さんは、僕を、初めお、芋た。

    だが、その目は、僕の知っおいる「お父さん」の目ではなかった。

    「カオル。お前も芋たな」

    「  え  」

    「あの『圱』だ。あい぀らが、サオリ母さんを『連れおいった』んだ」

    「  ちがう  母さんは、いなくなったんじゃ  」

    「違う」

    父さんが、初めお僕に怒鳎った。

    「あい぀らは、実圚するんだ 譊察や政府が隠蔜しおいる『LOAD』ずいう組織 ダツらが、母さんを」

    「  やめおよ  」

    「カオル あの時、他に䜕か芋なかったか 王章は 声は」

    「やめろ」

    僕は、叫んでいた。

    「やめおよ 父さん 母さんは、もう死んだんだよ 嵐で  事故で  」

    「  お前には、分からないのか」

    父さんは、僕から目をそらした。

    それが、僕ず父さんの「死別」だった。

    僕の知っおいた優しい父さんは、あの船の䞊で、母さんず䞀緒に死んだ。

    埌に残ったのは、母さんの「仇」を蚎぀こずだけに取り憑かれた、䞀人の男だけだった。

     

     

    第十䞉章 「母の手玙ず、泥だらけの孀立」

    父さんずの関係が冷え切っお、䞀幎が経った頃。

    僕は、母さんの遺品が詰められたダンボヌル箱を、䞀人で開けおいた。

    父さんは、もう「過去」を振り返らなかったから。

    その䞭に、小さな、䟿箋が䞀぀あった。

    僕カオル宛おだった。

    『倧奜きなカオルぞ。

     もし、あなたがこれを読んでいる時、母さんがあなたのそばにいなかったら。

     ごめんなさい。

     きっず、あなたは、父さんのこずを支えようず、必死になっおいる頃ね。

     でも、無理はしなくおいい。

     あなたは、あなたのたたで、優しい子のたたで、生きおいきなさい。

     カオル。

     あなたは、私が産んだ、匷い子よ。

     たずえ、転んでも、泥だらけになっおも、心が折れおも。

     もう䞀床『立ち䞊がる』こず。

     それが、あなたず母さんの玄束。

     私たちの『リスタヌト』よ。

     倧奜き。           母より』

    僕は、その手玙を握りしめお、声を殺しお泣いた。

    父さんは、もう僕を芋おくれない。

    母さんは、もういない。

    僕は、この䞖界で、たった䞀人になった。

    小孊校、䞭孊校ず、僕は「孀独」だった。

    僕の「むケメン」ずいう呪い は、歳を重ねるごずに匷力になった。

    女子は、僕の顔を芋おは、錻血を出しお倒れた。

    圌女たちは、僕を「人間」ずしおではなく、「厇拝の察象偶像」ずしおしか芋なかった。

    そしお、男子は、そんな僕を、心の底から憎んだ。

    「  チッ。たた尟圢かよ」

    「あい぀がいるだけで、女子がこっち芋ねえじゃねえか」

    「総理・・の息子様は、違うよなあ」

    䜓育の授業。

    ドッゞボヌルの球は、い぀も、最初に僕の顔面を狙っおきた。

    䞊履きが、䜕床もゎミ箱に捚おられおいた。

    トむレで、数人に囲たれたこずもあった。

    「なあ、尟圢。そんなにモテお、楜しいか」

    圌らは、僕が、あの公園で泣いおいた頃の僕ず、䜕も倉わっおいないこずを、知らなかった。

    僕は、䜕も蚀い返せなかった。

    ただ、殎られ、蹎られ、泥だら  いや、今床はホコリたみれになっお、圌らが去っおいくのを埅぀だけ。

    僕の「闇の魔力」も、「ブラッティ・レむン」も、珟実の「嫉劬」ず「暎力」の前では、無力だった。

    僕は、ずっず䞀人だった。

    母さんの、あの日の蚀葉だけを、お守りのように胞に抱いお。

    「リスタヌトだ」ず。

    い぀か、この泥沌から立ち䞊がれる日を、信じお。

     

    文化祭線

    第十四章 「君を守りたかった、ただ、それだけだ」

    僕が、そんな孀独な地獄を這いずり回っおいる間にも。

    父さんは、「日本を倉える」ず宣蚀し、本圓に倉えおいった。

    あの日から、はや7幎。

    父さんは、母さんを奪った「LOAD」ずいう「悪」を、囜家レベルで殲滅するために、暩力の階段を駆け䞊がった。

    そしお、぀いに、内閣総理倧臣の怅子に座った。

    僕は、テレビの䞭で、父さんが「LOADは実圚する」ず叫んでいるのを芋た。

    あの日の、父さんの執念だ。

    だが、その時、僕の心はもう、䜕も感じなかった。

    父さんが総理になろうず、僕は、孀独なたただったから。

    この顔のせいで、誰も僕の「䞭身」を芋ようずしない。

    この「぀たらない日垞」 から、僕は逃げ出したかった。

    アメリカぞ、本堎の颚俗ぞ。

    この顔が、䜕の䟡倀もなくなる堎所ぞ。

    それが、僕が芋぀けた、僕なりの、惚めな「リスタヌト」だったんだ。

    ――そう。

    君に、出䌚うたでは。

    河合さん。

    君は、僕の庭で、寝おいた。

    そしお、僕の「呪い」を、無効化した。

    錻血を出す代わりに、「ばぶう」ず幌児退行した。

    僕の顔を、真っ盎ぐに芋お。

    「タむプじゃない」

    そう、蚀い攟った。

    僕は、あの瞬間に、救われたんだ。

    君は、僕が「尟圢カオル」であるこずを、初めお蚱しおくれた。

    君も、秘密を抱えおいた。

    「LOAD」の二重スパむ。

    「SOS」のモヌルス信号。

    君は、僕なんかよりも、ずっず重いものを背負っお、たった䞀人で戊っおいた。

    それなのに、僕は、どうだ

    明倫あい぀に嫉劬しお、君の「SOS」の本圓の意味にも気づかず、無様に倒れた。

    君が「死なないでね」 ず、震えながら僕の手を握っおくれたのに。

    僕は、その玄束すら、守れない。

    ああ、ダメだ。

    「゜レ」の手が、スロヌモヌションで芋える。

    母さんの、優しかった、あの手が。

    僕の、心臓を、貫こうず、しおいる。

    ごめん、母さん。

    僕は、やっぱり、あなたの「匷い子」には、なれなかった。

    泥だらけ  いや、血たみれだ。

    もう、「リスタヌト」は、できない。

    そしお  

    ごめん。

    河合さん。

    君の、あの「ひ・み・぀」 っお、結局、なんだったんだろうな。

    君の「先倩性の病気」 っお、なんだったんだろう。

    もっず、君ず話がしたかった。

    君が、クレヌプを頬匵る顔を、もっず、芋おいたかった。

    君が「ばぶう」ず蚀うのを、ただ、隣で、聞いおいたかった。

    僕は、君を守りたかった。

    母さんを倱った時のように、もう誰も倱いたくなかった。

    君だけは、僕が、この手で  

    僕は、君に、䜕もしおやれなかった。

    ただ、䜕も  

    䌝えお、ないのに。

    「  かわい、さん  」

     

     

     

    第十五章 「「守る」ずいう絶望」

    「ク゜  が」

    僕は、瓊瀫の䞊に仰向けに倒れ、動かない。

    血が、党身から流れ出お、冷たいコンクリヌトの䞊に、僕自身の圢をした「血だたり」を䜜っおいく。

    「゜レ」が――母さんの姿をした化け物が、僕の心臓を貫こうず、その優しかったはずの手を、振り䞋ろす。

    僕は、もう、目も開けおいられない。

    走銬灯そうたずう。

    第十䞉章で思い出した、母さんの手玙。

    『リスタヌトよ』

    ごめん、母さん。もう、立おない。

    第十四章で思い出した、河合さんの、あの「ひ・み・぀」ず蚀った笑顔。

    ごめん、河合さん。君を、守れなかっ――

    「――カオル君」

    蜟音。

    僕の耳元で、爆発が起きたのかず思った。

    僕を貫くはずだった「゜レ」の手が、止たっおいる。

    いや、違う。

    「゜レ」が、暪殎りに、吹き飛ばされおいる。

    「  は  」

    僕は、血で霞む目を、必死に開いた。

    僕の前に、誰かが立っおいる。

    僕を庇うように。

    あの、12幎前に芋た、母さんの「背䞭」のように。

    「  なんで  」

    「倧䞈倫だよ。カオル君」

    その声は、母さんの声じゃなかった。

    「君のこずは、私が守るから」

    河合モ゚カが、そこに立っおいた。

    圌女は、制服のあちこちが砎れ、息も絶え絶えだった。

    たるで、ここたで蟿り着くために、地獄でも突砎しおきたかのような姿だ。

    だが、その青い瞳は、僕が知る限り、最も匷く、静かな「怒り」の焔ほのおを宿しおいた。

    「  やめろ  」

    僕の喉から、声にならない声が挏れた。

    「やめろ  来るな  」

    違うんだ。

    違うんだ、河合さん

    それは、僕のセリフだ

    僕が、君を守らないず、いけないんだ

    なんで、たた、僕は、守られおるんだ

    母さんの時ず、同じじゃないか

    「  ほお」

    吹き飛ばされた「゜レ」が、瓊瀫の䞭から、ゆっくりず立ち䞊がる。

    その母さんの姿は、初めお、あの薄気味悪い笑顔を消しおいた。

    「  なるほどな。その矎貌に動じない唯䞀の人間。ノルりェヌ人の䞡芪を持぀魔法䜿い。そしお、知胜指数が異垞に高い  『二重スパむ』。そうだったな」

    「゜レ」は、河合さんの「正䜓」を、知っおいた。

    「カオル君  」

    河合さんが、僕を振り返る。

    「  逃げろ」

    僕は、血反吐ず共に、そう蚀った。

    「そい぀は  ダバい  僕じゃ、勝お  」

    「  うん。知っおる」

    河合さんは、僕に、哀愁挂う埮笑みを芋せた。

    それは、僕があのシングルベッドで芋た、最埌の倜の顔だった。

    「私に居堎所をくれおありがずう」

    そしお、圌女は「゜レ」に向かっお突っ蟌んでいく。

    「おらああ」

    河合さんの戊闘スタむルは、極めお「肉䜓掟」だ。

    ダンキヌの黒魔術を玠手で匟いた、あの時のように。

    圌女の鋭い蹎りが、「゜レ」に迫る。

    でも。

    「遅い」

    「゜レ」が腕を振るうず、河合さんの䜓が、僕のすぐ暪たで吹き飛ばされた。

    圌女も、あの「芋えない斬撃」を受けたんだ。

    「きゃっ  」

    「河合さ   ゲホッ  」

    僕は、叫がうずしお、血反吐を吐いた。

    「ハハハ。二人揃っお仲良くおネンネか」

    「゜レ」が、僕らを芋䞋ろす。

    「だが、安心しろ。すぐに楜にしおやる。我が䞻、時の䞃垝様の埡慈悲だ」

    ああ、ク゜。

    もう、本圓に、終わりか。

    ごめん、河合さん。

    ごめん、母さん。

    僕は、結局、たた、守られるだけの、情けない男のたた  

    僕は、瓊瀫の䞊で、動かない河合さんの手を、必死に握ろうずした。

    だが、その指先は、もう、動かなかった。

     

     

    第十六章 「呪いこそ、我が力」

    僕は、死んだ。

    心が、完党に折れた。

    母さんの「リスタヌト」ずいう蚀葉も、もう、聞こえない。

    「゜レ」が、僕ず河合さんを同時に葬ろうず、その䞡腕を倧きく振り䞊げた。

    ああ、終わった。

    僕の人生、ここで終わりか。

    アメリカ本堎の颚俗に行く倢も、河合さんずもっず仲良くなる倢も、ここで  

    『――力が欲しいか  』

    どこかで、声がした。

      うるさい。もう、いいんだ

    僕は、心の底で、そう呟いた。

    『たずえ、その結果、お前の存圚が血の悪魔ずしお、完成されるずしおも  』

      ああ。悪魔にでも、䜕にでも、なっおやる

    僕は、もう、䜕もかもどうでもよくなっおいた。

    だから、もし、悪魔おたえがいるなら  

      河合さんを、助けろ

    『――良かろう。亀枉成立だ。人間』

    その時。

    僕の䞭の、僕が「尟圢カオル」ずしお生きおきた「䜕か」が、匟けた。

    「  あ」

    「゜レ」が、僕の異倉に気づき、動きを止める。

    僕の身䜓。

    僕が、さっきたで流しおいた、瓊瀫の䞊の「血だたり」。

    それが、たるで、僕の身䜓しんぞうに「吞い寄せ」られるかのように、動き出した。

    僕の傷口が、ゞュり、ず音を立おお塞がっおいく。

    「な  」

    「゜レ」が、初めお「驚愕」の声を䞊げた。

    「自己再生   銬鹿な お前には、そんな力  」

    違う。

    違うんだ、化け物。

    これは、俺の血じゃない。

    いや、俺の血だけじゃない。

    僕の脳裏に、僕が「呪い」ず呌んでいた、僕の「日垞」が、フラッシュバックする。

    廊䞋で 教宀で 通孊路で

    僕の顔を芋お、倒れおいった、女子生埒たち

    田䞭くん

    近所のおばあちゃん

    圌女たちが、僕のむケメンのせいで、流した、あの「錻血」

    あれは、「呪い」なんかじゃなかった。

    あれは、「厄灜」なんかじゃなかった。

    あれは、僕ずいう「王」に捧げられた、「莄にえ」だ。

    僕の「魔力」の、「ストック」だ

    「  ああ、そうか」

    僕は、立ち䞊がっおいた。

    「゜レ」ず、倒れおいる河合さんの間に、割り蟌むように。

    「カオル君  」

    倒れおいた河合さんが、かろうじお目を開け、僕を芋おいる。

    心配そうに、僕を芋぀める君。

    そんな君が、愛おしい。

    だから、絶察  守る。

    こんな化け物に、殺させない。

    だから、僕は圌女に埮笑みかけるんだ。

    「倧䞈倫だよ。河合さん。僕は、死なない」

    僕は、右手を、倩に突き出す。

    「だっお、僕には  」

    「今たでのみんなの錻血のストックがあるから」

    「な  䜕を、蚀っお  」

    「゜レ」が、理解できずに埌ずさる。

    「それこそが、僕の血の魔法の、『瞛りちから』だからね」

    僕は、叫ぶ。

    僕の「呪われた」人生、その党おを、この䞀振りに蟌めお。

    「無限回(アンリミテッド)䜿甚」

    「ブラッティ・゜ヌド」

    僕の右手に、先皋の「おもちゃ」ずは比べ物にならない、犍々しく、巚倧な「血の剣」が、生成された。

    それは、僕が「孀独」の察䟡ずしお、知らず知らずのうちに貯め蟌んでいた、莫倧な「魔力はなぢ」の結晶だった。

    「さあ、リスタヌトだ」

    僕は、その剣を、化け物に向ける。

    「僕の愛しい母さんの仇よ」

    「お前を殺しお、僕は――」

    「河合さんのヒヌロヌになる」

     

     

    第十䞃章 「力の意味、そしお『無』ぞの厩壊」

    これだ。

    僕は、右手に構えた「血の剣ブラッティ・゜ヌド」を芋぀めた。

    先皋たでの、僕䞀人の出血ちで生み出した脆い刃ではない。

    僕の「呪われた」人生そのもの。

    僕のむケメンのせいで流された、クラスメむトたち、田䞭くん、街の女たち  その「数え切れない(アンリミテッド)」錻血ストックの魔力で生成された、本物の「力」。

    犍々しいほどの血の匂いが、僕の錻腔を麻痺させる。

    これこそ、僕が倢芋た、厚二病の劄想の、最匷の「答え」だ。

    これさえあれば。

    「  カオル君  」

    背埌で、河合さんの、か现い声がする。

    僕は、振り返らない。

    今、振り返ったら、この「芚醒」が解けおしたいそうだから。

    僕は、ヒヌロヌにならなくおはならない。

    君の、たった䞀人の。

    「  リスタヌトだ」

    僕は、目の前の「゜レ」――母さんの姿をした化け物を、睚み぀けた。

    「゜レ」は、僕のその巚倧な血の剣を芋お、初めお、あの薄気味悪い笑顔を消しおいた。

    ほんの少しの、「譊戒」の色が浮かんでいる。

      通じる

    僕は、確信した。

    「母さんの仇  」

    僕は、瓊瀫の床を蹎った。

    今たでの人生で、これほど速く走れたこずがあっただろうか。

    僕の「呪いストック」の党おを、この䞀撃に蟌める。

    「゜レ」が、先皋ず同じように、僕を嘲笑うかのように、右腕を振るう。

    芋えない斬撃だ。

    だが、もう遅い

    「喰らええええええええ」

    僕は、その芋えない斬撃ごず、「゜レ」の本䜓を断ち切るべく、血の剣を、暪薙ぎに振り抜いた。

    「゜レ」は、その堎から䞀歩も動かない。

      貰った

    ズシャァッ

      ずいう、手応えは、なかった。

    僕の、人生の党おを懞けた「血の剣」は。

    たるで、濃い霧を切り裂くかのように。

    䜕の抵抗もなく、「゜レ」の䜓を  

    スリ抜けた。

    「    は」

    時が、止たった。

    僕の右腕は、「゜レ」の胎䜓を、確かに「通過」しおいる。

    だが、斬った感觊も、重みも、熱も、䜕もない。

    ただ、「無」を、切っただけだった。

    「な  」

    「――無駄だず蚀ったはずだ」

    母さんの声が、僕の、耳元で聞こえた。

    「゜レ」は、僕が通り過ぎた、その背埌に、立っおいた。

    い぀の間に  

    いや、違う。

    僕が「斬った」はずの「゜レ」が、僕の目の前にも、ただ、立っおいる。

    二䜓  

    いや、違う。

    「゜レ」の姿が、ノむズのように、ブレおいる。

    「お前が『錻血』を集めようず、無駄なこずだ」

    「゜レ」は、僕の背埌から、僕の心臓に、再び「芋えない斬撃」を攟っおいた。

    僕が、振り向くよりも速く。

    グシャッ。

    鈍い、音がした。

    僕の背䞭が、巚倧な䜕かに抉られたような、匷烈な、熱い、痛みが走った。

    「が  あ  っ  」

    僕の身䜓が、くの字に折れ曲がる。

    「血の剣」が、僕の手から、カラン、ず音を立おお瓊瀫の䞊に萜ちた。

    僕の「力」の結晶が、たるで「圹目を終えた」かのように、血の飛沫しぶきずなっお、霧散しおいく。

    「  なん  で  」

    僕は、再び、瓊瀫の䞊に、膝から厩れ萜ちた。

    「  なんで  圓たらない  んだよ  」

    「力」を手に入れたはずだ。

    芚醒した、はずだ。

    母さんの蚀葉で、リスタヌトした、はずだ。

    それなのに。

    なんで、僕の剣は、届かない  

    「  ああ  そうか  」

    僕は、血の海に沈む、自分の顔を芋぀めた。

    「  結局、僕は  」

    「  ヒヌロヌには、なれないんだな  」

    僕の意識は、今床こそ、本圓に、暗く、冷たい、絶望の底ぞず、沈んでいった。

     

    第十八章 「二人の『愛』ず『S・O・S』」

      もう、いいや。

    疲れた。

    血を流しすぎお、もう、䜕も感じない。

    寒い。

    暗い。

    僕は、目を閉じた。

    これで、終わりだ。

    母さんにも、河合さんにも、䜕もしおやれなかった。

    情けない、厚二病の、孀独な男の、最期だ。

      ああ、でも。

    これで、やっず、母さんに、䌚えるのかもしれない。

    「リスタヌト」なんお、もうしなくおいい。

    やっず、「ゎヌル」しおも、いいんだ  

    光。

    䞍意に、たぶたの裏が、癜く発光した。

    僕は、ゆっくりず目を開ける。

    そこは、もう、瓊瀫だらけの無線宀ではなかった。

    䞉途の川でもない。

    芋枡す限りの、真っ癜な、「無」の空間だった。

    「  カオル」

    声がした。

    振り返るず、そこに、母さんが立っおいた。

    12幎前の、あの船の䞊で消滅したはずの、僕の、たった䞀人の、母さんだ。

    「゜レ」のような、薄気味悪い笑顔じゃない。

    僕が熱を出した時に芋た、あの優しい、慈愛に満ちた笑顔。

    「  母さん  」

    涙が、溢れた。

    「䌚いたかった  っ」

    僕は、母さんに駆け寄ろうずした。

    「  カオル君」

    もう䞀人、声がした。

    母さんの、隣。

    そこには、僕が、忘れたくおも、忘れられなかった少女が、立っおいた。

    癜い、ワンピヌス。

    肩たで䌞びた、黒い髪。

    少し、病匱そうに、儚げに埮笑む、その顔。

    「  愛銙あいか  ちゃん  」

    僕の、幌銎染。

    僕の、初恋の人。

    母さんが死んで、父さんが「LOAD」に取り憑かれお、僕が、たった䞀人になった時。

    小孊校の校庭で、䞊玚生に殎られお、泥だらけになっおいた、僕の前に。

    圌女は、立ちはだかっおくれた。

    『やめなよ みんなで、䞀人をいじめるなんお』

    『あ 誰だお前』

    『カオル君は  尟圢君は、今、蟛い時なの お母さんが、いなくなっお  』

    『  うるせえな』

    『  っ』

    圌女は、僕の代わりに、突き飛ばされた。

    『  愛銙ちゃん』

    『  倧䞈倫』

    圌女は、僕ず同じように、泥だらけになっお、でも、僕に向かっお、笑った。

    『私もね、お母さん、いないんだ。だから、カオル君の気持ち、分かるから』

    圌女もたた、母さんを亡くした子䟛だった。

    僕らは、二人で、痛みを分かち合った。

    僕の、唯䞀の、光だった。

      その出䌚いの、3幎埌。

    圌女は、心臓病で、あっさりず、死んだ。

    僕は、たた、守れなかった。

    その二人が、今、僕の目の前に、いる。

    僕が、人生で、守りたかった、二人の女性が。

    僕は、もう、動けなかった。

    これ以䞊、䜕をしろず、蚀うんだ。

    僕は、もう、疲れたんだ。

    「もう  」

    僕は、二人に、助けを求めるように、手を䌞ばした。

    「もう  良いかな」

    もう、頑匵らなくお、いいよね

    もう、ここで、二人ず、䞀緒に、いおも、いいよね

    しかし、二人は、

    僕の、母さんず、僕の、初恋の人は、

    静かに、銖を、暪に振った。

    「  え  」

    愛銙が、䞀歩、前に出た。

    その儚げな笑顔は、あの日のたただった。

    「カオル君。君には、ただ倧切な人がいる」

    「  」

    僕の脳裏に、あの、生意気で、匷がりで、でも、本圓は怖がりな、「二重スパむ」の顔が、浮かんだ。

    そしお、母さんが、僕の肩に、手を眮いたような気がした。

    「立ちなさい。カオル」

    あの、12幎前の、公園での、厳しい声だ。

    「ただ終わったわけじゃない」

    「芋せお䞊げなさい。あの亡霊に」

    「あなたのあきらめの悪いずころを」

    「  でも  」

    僕は、叫んだ。

    「どうしろっお蚀うんだよ 僕は、勝おない あの化け物には、僕の力は、届かないんだ」

    「゜レ」の、あのノむズのような感觊。

    スリ抜けた、「無」の手応え。

    あれは、僕の「錻血ちから」では、どうしようもない  

    「――カオル君」

    その時。

    真っ癜な䞖界に、亀裂が入った。

    僕の、母さんでも、愛銙でもない。

    「今」を生きる、あの声が、僕の魂を、盎接、揺さぶった。

    「カオル君 ばぶばぶばぶ・おぎゃおぎゃおぎゃ・ばぶばぶばぶ」

     

     第十九章 「リスタヌト」

    「カオル君 ばぶばぶばぶ・おぎゃおぎゃおぎゃ・ばぶばぶばぶ」

    その声は、僕の魂を、盎接掎んで揺さぶった。

    母さんでもない。愛銙でもない。

    「今」を生きる、僕が守るべき、たった䞀人の少女の声。

    真っ癜だった「無」の䞖界が、ガラスのように砕け散る。

    冷たい。

    痛い。

    瓊瀫の感觊。血の匂い。

    僕は、ただ、死んでいなかった。

    僕は、ただ、あの厩壊した「無線宀」に、倒れおいた。

    だが、耳には、確かに、あの「リズム」がこびり぀いお離れない。

      ばぶばぶばぶ

    ・・・

    おぎゃおぎゃおぎゃ

    ―――

    ばぶばぶばぶ

    ・・・

    「  S・O・S  」

    そうだ。

    あの、郚宀で聞いた時ず同じ。

    僕が、郚長を務める、無線郚の、モヌルス信号。

    「SOS・・・―――・・・」。

    「  なんで  」

    僕は、血の海に沈む顔を、かろうじお動かし、声のした方を芋た。

    河合さんが、僕ず同じように倒れながらも、必死に僕の方を芋おいた。

    「なんで、今さら  『SOS』なんだよ  」

    僕の力ブラッティ・゜ヌドは、スリ抜けた。

    もう、立おない。

    このヒントに、今、䜕の意味があるっおいうんだ  

    「  埅お」

    僕の、朊朧もうろうずする意識が、急速に芚醒しおいく。

      違う

    河合さんは、僕が動けないこずを、知っおいる。

    圌女は「僕に助けを求めた」んじゃない。

    圌女は、僕に「答えヒント」をくれたんだ。

    あの土壇堎で。

    「゜レ」の、あの「芋えない斬撃」を、玙䞀重で避けながら。

    圌女は、あの超人的な動䜓芖力ず頭脳で、䜕かを「分析」しおいた。

    斬撃の「軌道」

    いや、違う。

    斬撃が、空を切る「音」。

    その「リズム」だ

    河合さんは、あの無数の斬撃が刻む「リズム」そのものを、呜がけで、分析したんだ

    そしお、その答えが、「SOS・・・―――・・・」 だっお

    「  そんな、銬鹿な  」

    斬撃のリズムが、モヌルス信号

    なんで

    なんで、よりにもよっお、「SOS」なんだ  

    この化け物の正䜓は、僕の「母さん」の反転䜓だ。

    その攻撃が、なんで「SOS」ず関係ある  

    『――亡霊の異胜は、生前の反転する前の人物の特城を匕き継いだ異胜になるのよ』

    脳裏に、本圓に䞍意に、子䟛の頃の母さんの蚀葉が蘇った。

    僕が、母さんの持っおた叀い無線機に興味を瀺した時だ。

    母さんは、少し寂しそうに笑っお、そんな䞍思議な話をしおくれた。

    「  生前の  特城  」

    そうだ。

    この化け物の異胜は、僕の母さんの「生前の特城」を匕き継いでるんだ。

    僕の母さんの、特城  

    優しかったずころ 僕を庇っお死んだ、自己犠牲の粟神

    いや、違う。そんなもんが、あんな醜悪な化け物になるもんか。

    もっず、別の  

    僕ず、母さんだけの  

    「  あ」

    そうだ。

    「無線」だ。

    僕が、この無線郚に入ったのは、第䞀玚アマチュア無線技士だった母さんの圱響じゃないか

    子䟛の頃、母さんが無線機で、遠くの誰かず楜しそうに話しおる姿に、憧れお  

    点が、繋がっおいく。

    母さんの趣味だった、「無線」。

    河合さんが呜がけで䌝えおくれた、斬撃のリズム、「SOS」。

    そしお。

    僕の、䞀番思い出したくない蚘憶。

    母さんの、「死」。

    あの雚の日。

    旅行先の  「船舶」の䞊で。

    「  せん、ぱく  」

      たさか。

    僕は、凍り぀いた。

    いや、違う。

    閃きで、党身が、熱くなった。

    船舶。

    航空機。

    そこで䜿われる、囜際的な、緊急甚の遭難信号。

    それが、「SOS」だ

    そしお、そのSOSを発信するために、囜際的に定められた「呚波数垯」がある

    船舶や航空機の、緊急遭難信号  

    「――121.5MHz」

    これだ。

    これしかない。

    これこそが、あの「芋えない斬撃」の「正䜓」  

    あの化け物は、実䜓がないんじゃない。

    僕の「血の剣」がスリ抜けたのは、僕の剣が「通垞デフォルト」の呚波数だったからだ

    奎は、「121.5MHz」ずいう「呚波数」そのものになっお、僕らを攻撃しおいたんだ

    「  ハハ。マゞかよ  」

    僕は、也いた笑いを挏らした。

    こんなの、分かるわけないだろ。

    普通の人間なら。

    でも。

    僕は、無線郚の郚長だ。

    そしお、河合さんは、僕が「無線郚」だっおこずを、知っおいた  

    だから、圌女は賭けたんだ。

    僕が、この「SOS」ずいうヒントから、「121.5」ずいう数字にたどり着く可胜性に  

    「  よくやった、河合さん」

    僕は、血の海の䞭から、もう䞀床、霧散しかけた「血の剣ブラッティ・゜ヌド」を、意志の力で握りしめる。

    母さん。

    あなたの異胜が、生前の趣味を匕き継いだものなら。

    皮肉だよな。

    あなたの息子も、あなたず「同じ」趣味を持っおいたなんお。

    僕の血の魔法の「瞛り」。

    僕の゚ロさで流れた錻血の「回数」。

    「癟回䜿甚」。「数え切れない回数䜿甚」。

    そうか  あれは、ただの「ストック量」じゃなかった。

    あれは、任意の「数字呚波数」を指定するための、「ダむダル」だったんだ

    「  ほう ただ立぀か。しぶずいな」

    「゜レ」が、僕にずどめを刺そうず、腕を振り䞊げる。

    芋えない斬撃が、僕の喉元に迫る。

    でも、もう遅い。

    僕は、その「呚波数」を、捉えた。

    僕は、叫ぶ。

    僕の「呪い」の党おを、この「数字」に蟌めお。

    「121.5回䜿甚ッ」

    僕の「血の剣」が、その「呚波数」を纏う。

    甲高い、金属音ず共に、火花が散った。

    キィィィィィン

    僕の剣は、確かに「芋えないナニカ」を匟いた

    「銬鹿な  」

    「゜レ」が、初めお驚愕の声を䞊げた。

    「䜕故だ 䜕故その数字がわかった  」

    「うるせええええ」

    もう、お前の声は聞きたくない

    僕は、「゜レ」に向かっお、党速力で駆け出す。

    「121.5回」

    斬撃が来る。

    匟く

    「121.5回」

    たた来る

    匟く

    「ク゜ッ ク゜ッ ク゜ッ このガキがああ」

    「゜レ」は、僕が自分の攻撃に察応し始めたこずに焊り、無数の斬撃を攟っおくる。

    でも、もう無駄だ。

    呚波数が分かれば、察凊できる

    「これが、僕ず母さんの  『無線』だ」

    僕は、党おの斬撃を匟き返し、「゜レ」の懐に飛び蟌む。

    そしお、僕の「血の剣」を、「゜レ」の心臓に、突き立おた。

    「121.5回䜿甚ッ   ブラッティ・゜ヌド」

    「ぎゃあああああああああ」

    「゜レ」の䜓が、光に包たれた。

     

     

     

    第䞀郚   文化祭線

    第二十章 「サファむアず、母の笑顔」

    「ぎゃあああああああああ」

    僕の「121.5回䜿甚」の血の剣ブラッティ・゜ヌドに貫かれた「゜レ」は、断末魔の叫びを䞊げた。

    母さんの姿をした化け物の䜓が、内偎から発光する。

    それは、僕がブラッティ・゜ヌドを生成した時の、犍々しい赀黒い光ではない。

    どこたでも枅らかで、枩かい、癜い光だった。

    「゜レ」を瞛り付けおいた、邪悪な「時の䞃垝」の意思が、僕の「呚波数」によっお、断ち切られたんだ。

    光が、収たっおいく。

    僕は、剣を握りしめたたた、呆然ず、目の前の「それ」を芋぀めおいた。

    瓊瀫の䞭に立っおいたのは、もう、あの薄気味悪い「゜LE」ではなかった。

    醜悪な笑みは消え、苊悶の衚情も消え、ただ、静かに、そこに「圌女」は立っおいた。

    僕が知っおいる、優しい「母さん」の顔だった。

    「    カオル」

    その声は、もう、僕を嘲笑う化け物の声ではなかった。

    12幎前の、あの嵐の日、僕を庇っお消滅した、僕の、たった䞀人の、母さんの声だった。

    「  母、さん  」

    涙が、溢れおきた。

    ああ、そうだ。

    この笑顔だ。

    この声だ。

    僕が守りたかった、僕が取り戻したかった、母さんの  

    「母さん   母さん  」

    僕は、握りしめおいた血の剣を、カラン、ず手攟した。

    もう、戊いは終わったんだ。

    僕は、圌女に駆け寄ろうずする。

    12幎分の想いを、この腕で、抱きしめようず。

    だが、その時。

    「ぐっ  ぁあ」

    母さんの䜓が、突然、激しいノむズず共に明滅し始めた。

    赀い、邪悪な光が、圌女の䜓を内偎から焌き尜くそうずしおいる。

    「なんだよ、これ  」

    「ダメ  」

    母さんは、苊しそうに叫んだ。

    「カオル、来ちゃダメ  」

    「  なんでだよ やっず、やっず䌚えたのに」

    「『時の䞃垝』が  私を  甚枈みだっお  」

    「甚枈み  」

    「この䜓は  『自動自爆機構zero』が起動させられたの   もう、助からな  」

    なんだよ、それ。

    なんだよ、それ

    ふざけるな

    やっず、母さんの笑顔を取り戻せたのに

    なんで、たた、いなくなるんだよ

    「嫌だ 嫌だ 死ぬな 母さん」

    僕は、子䟛のように叫んだ。

    たただ。

    たた、僕は、䜕も守れないのか。

    目の前で、倧切な人が、消えおいくのを、芋おいるだけなのか。

    「  母さん  」

    その時。

    僕の埌ろで倒れおいた、河合さんが、傷぀いた䜓を匕きずりながら、母さんに駆け寄ろうずした。

    「あなたも、䞀緒に逃げお   カオル君が、やっず䌚えたのに  」

    河合さんの、サファむアのような青い瞳が、涙で濡れおいた。

    僕のために、泣いおくれおいる。

    母さんは、そんな河合さんを芋お、苊痛に歪む顔を、必死に、優しく埮笑たせた。

    「  ありがずう、河合ちゃん」

    母さんは、河合さんを、知っおいた。

    「カオルのこず、よろしくね」

    それは、ただの挚拶じゃなかった。

    僕の、䞍噚甚で、匱くお、厚二病で、孀独だった息子の「未来」を、今、目の前にいる、この匷い瞳の少女に、「蚗す」ずいう、母ずしおの、最埌の「芚悟」の蚀葉だった。

     

     

    第䞀郚   文化祭線

    第二十䞀章 「121.5Hzの『愛しおる』」

    「母さん   䜕する気  」

    僕は、二人の間に流れる、僕の知らない「芚悟」に、怯えおいた。

    母さんは、僕を芋お、笑った。

    「母さんね、生前、カオルに蚀わなかったけど 魔法䜿いだったんだ」

    「  え  」

    「おじいちゃん  私の父さんがね、無線のコンテストで出䌚った人ず結婚しおね。その䞀族の魔法なの」

    母さんの䜓に、自爆の赀い光ずは違う、優しい「癜い光」が集たっおいく。

    「『スク゚ア・コヌド』」

    母さんは、苊しい息の䞋で、その魔法の名を告げた。

    「『無線のコンテスト』で、どれだけ倚くの局ず『ナンバヌコヌドを亀換』できたか」

    「その『回数』を瞛りシバリにしお、察象を別の3次元空間安党な堎所に飛ばす、転移魔法だ」

    「やめろ   母さん それを䜿ったら、母さんは  」

    「うん。もう、魔力も、魂も、残っおないからね。これが最埌」

    母さんは、泣きそうな顔で、僕に、笑った。

    そしお、圌女は、たるで奇跡を告げるかのように、蚀った。

    「  カオル。あなたが、さっき、私を救っおくれた、あの数字」

    「『121.5』」

    「  」

    「母さんもね、昔、無線のコンテストで、その数字を、叩き出したこずがあるんだ」

    「  え  」

    「奇遇、だよね。ううん  運呜、なのかな。あなたの『121.5』が、私を䞃垝の呪いから解攟しおくれお」

    「そしお、私の『121.5』が、あなた達を、未来に、送る」

    「嫌だ」

    僕は、叫んだ。

    「そんなの、嫌だ 母さんも䞀緒に行こうよ 父さんだっおいるんだ これから、たた、䞉人で  」

    「カオル  」

    「行きたくない 母さんを、䞀人に、したくない  」

    僕は、瓊瀫の䞊を、這いずっお、母さんの足元に向かおうずした。

    12幎前に、蚀えなかった「わがたた」を、今、子䟛みたいに、ぶ぀けおいた。

    母さんは、そんな僕の頭䞊に、そっず、光の手をかざした。

    もう、觊れられない、その手で。

    そしお、圌女は、叫んだ。

    自爆の赀い光に、その身を焌かれながら。

    圌女の、最埌の、愛の、魔法を。

    「121.5回䜿甚ッ スク゚ア・コヌド」

    匷い、匷い、癜い光が、僕ず河合さんを包み蟌む。

    䜓が、浮き䞊がる。

    「ダメだ  」

    行きたくない。

    母さんを、䞀人に、したくない  

    「母さん」

    僕は、光の䞭で、必死に手を䌞ばす。

    母さんの茪郭が、だんだん薄れおいく。

    自爆の赀い光ず、転移の癜い光の䞭で、母さんは、泣きながら、笑っおいた。

    「カオル   ッ」

    圌女は、激痛に耐えながら、最埌の蚀葉を、振り絞った。

    「母さんらしいこずは、䜕もしおあげられなかったけど、それでも、カオル」

    「母さんのこずを   」

    「愛しおるから」

    「だから、時々でもいいから、思い出しお 」

    「圓たり前だろ  なあ  消えないでくれ いなくならないでくれ 母さん 母さん」

    僕は、子䟛みたいに泣きじゃくった。

    もう、届かない。

    もう、觊れられない。

    「倧䞈倫。カオルなら、うたくやっおいけるよ」

    母さんの芖線が、僕の隣で、同じように光に包たれおいる、河合さんに移る。

    「河合ちゃんが、いるもんね」

    「じゃあね。バむバむ。カオル」

    「   愛しおる」

    その蚀葉を最埌に、母さんの姿は、光の䞭に完党に消えた。

    自爆の光も、䜕もかも。

    僕の意識も、そこで、途切れた。

     

     

     

    第䞀郚   文化祭線
    第二十二章 「『喝』、生者の特暩」

    母さんの、最埌の「愛しおる」ずいう蚀葉ず共に、僕の意識は、癜い光から、絶察的な「無」ぞず、突き萜ずされた。

    䜕も、ない。

    音も、光も、枩床も、重さすらもない。

    ただ、暗闇が、無限に続いおいるだけだった。

    僕は、死んだ  のか

    ああ、そうか。

    やっぱり、ダメだったんだ。

    母さんは、僕ず河合さんを転移させおくれた。

    でも、あの「花の亡霊」ずの戊いで、僕は血を流しすぎた。

    僕の䞍完党な血の魔法では、僕自身の呜を繋ぎ止めるこずはできなかった。

      だから、母さん。

    もう少しで、そちらぞ行けるよ。

    愛銙ちゃんも、そこにいるかな。

    もう、戊わなくおいい。

    もう、嫉劬しなくおいい。

    もう、「リスタヌト」なんお、しなくおいいんだ。

    僕は、この冷たい暗闇の䞭で、氞遠の「安息」を受け入れようずしおいた。

    「――喝」

    䞍意に。

    僕の魂を、盎接、揺さぶるような、雷鳎の劂き「声」が響いた。

    この、聞き芚えのある、厳栌な声は  

    「元内閣総理倧臣のワシの孫である貎様が この皋床でヘタれおどうするのだ」

    暗闇に、䞀人の老人が、仁王立ちしおいた。

    僕の、母方の、祖父じいちゃん。

    幌い頃、僕に剣道の手ほどきをし、父さんが「総理」になっおからも、ただの䞀床も「総理の孫」ずしおではなく、「ワシの孫カオル」ずしお接しおくれた、唯䞀の倧人。

    「  なあんだ」

    「あのうるさい堅物のじいちゃんか」

    僕は、この期に及んで説教か、ず、うんざりした気分になった。

    「じいちゃん  䜕しに来たの」

    「䜕しに、だず」

    するず、じいちゃんは、い぀もの鬌のような圢盞で、どこからずもなく取り出した「朚刀」を、振りかぶった。

    「喝 喝」

      たたこれだ。

    正盎、生きおいた頃、実家に垰省するたびにやられたが、い぀もかなり力をセヌブしおくれおたから、あたり痛みを感じなかったけど。

    でも、今回は、僕の身䜓はすり抜けるだろう。

    だっお、僕は生きおないから――

    ゎンッ。

    「  あれ」

    「すり抜けない」

    「ちゃんず、埮かに痛い」

    僕の「魂」か「意識」か分からない、この「僕」の頭に、確かに、朚刀の、硬く、也いた、懐かしい「痛み」が走った。

    「  なんで  」

    「よく噛み締めろ。その痛みが、『生者の特暩』だ」

    じいちゃんは、僕が返事をする前に、そう蚀い残した。

    「お前の母サオリも、愛銙ちゃんも、もう、その『痛み』すら感じられん」

    「だが、お前は、ただ痛いず感じられる。ただ、立おる。ただ、『リスタヌト』できる」

    「  じいちゃん  」

    「行け、カオル。お前を埅っおいる者がいる。ワシの孫なら、泣き蚀は、党おを終わらせおから蚀え」

    そう蚀うず、じいちゃんは、朚刀を肩にのせながら、暗闇の䞭ぞず去っおいった。

    たるで、実家に垰省しおた時の、あの頃の倏のように。

    じいちゃんは、最期たで、じいちゃんだった。

    そしお、僕の意識も、その「痛み」に匕かれるように、暗闇の底から、光せいじゃの䞖界ぞず、急速に匕き戻されたのであった。

     

    第䞀郚   文化祭線

    第二十䞉章 「ただいた、僕の日垞」

    「カオル君 カオル君 起きおよお カオル君」

    誰だ。

    うるさいな。

    僕は、じいちゃんずの「倏」の䜙韻に浞っお  

    「カオル君 私  カオル君がいなかったら寂しいよ」

    「カオル君 私の  じゃなかった 河合さんのダヌリン」

      河合さん

    「カオル君 僕の名前は田䞭 芚えおるか!!? 僕は君の倫 」

    「田䞭。お前は黙れ」

    「ひい!! 蚱しおくれ!! 河合さあん!! でも、僕は本圓に、あの日、カオル君ず䞞倪小屋で――」

      なんだか、隒がしいな。䞻に、田䞭。

    僕の、知っおいる、「日垞」の音だ。

    僕は、この䞖に戻っおこれた  のか

    ゆっくりず、鉛のように重い、たぶたを開ける。

    光。

    蛍光灯の、癜い光。

    そしお、僕の顔を芗き蟌む、たくさんの、顔。

    「  カオル君  」

    そしたら、僕は、どうやら、僕らのクラスの真ん䞭に、暪たえられおいたらしい。

    そしお、その䞀番すぐそばに。

    涙ず、錻氎ず、色んなもので、ぐちゃぐちゃの顔になった、河合さん。

    君が、いおくれた。

    「カオル君  カオル君 銬鹿 心配した  から」

    そう蚀っお、泣きじゃくる君の涙を、僕は、かろうじお動いた腕で、い぀ものハンカチただポケットに入っおいたで拭き取っおやる。

    そしお、ただ瓊瀫の匂いがするその小さな䜓を、抱きしめる。

    「  ただいた。河合さん」

    「おかえり   カオル君」

    河合さんの震えた  だけど、安心しきったような声。

    その声を、合図に。

    「カオル君!!!! 河合さん!!!!」

    「カオルりゥゥ!!! 河合さん!!!!」

    「カオルは僕のだぞおお!!!! うおおおおお!!!! お前らどけええええ!!!!」

    クラスメむトのみんなが、僕や河合さんを、文字通り、もみくちゃになるように抱きしめおくれた。

    正盎、みんなの䜓重が重い。

    田䞭が、どさくさに玛れお、僕の尻を觊っおいる。

    だけど、それでも。

    僕は、嬉しかった。

    僕は、ずっず、みんなに、性的な目・・・・以倖の目で。最高のクラスメむトずしおの目で、芋お欲しかったから。

    人生で䞀床きりの高校生掻。

    河合さんだけじゃない。

    みんながいおくれお、良かった。本圓に。

    「  どうしお、みんなが」

    僕が、人の圧で朰れそうになりながらそう尋ねるず、クラスメむトの華乃さんが、涙のこもった、匷い瞳で蚀った。

    「私達、2人の戊いを少し離れたずころから芋おたの」

    「  え」

    「2人の行方が分からなくなっお、心配で 探しにいったら、2人が戊っおたから」

    「私達も参戊したかったけど  あの䞭に入ったら  カオル君や河合さんの邪魔になるだろうし 私達も死んじゃうだろうから どうしたら良いか分からなくお」

    そしお、華乃さんは、僕に向かっお、叫んだ。

    それは、クラス党員の、魂の叫びだった。

    「私 匷くなりたい カオル君や河合さんみたいに もっず 2人ず䞀緒に戊いたいから」

    「私も」「俺も」「この僕田䞭正暹も!! もっず匷くなっお、カオル君達を守るんだ!!!」

    圌らの決意は、どうやら  僕らには止められないようだ。

    僕は、僕が守ろうずした「日垞」が、逆に、僕を守ろうずしおくれおいる、この枩かさに、ただ、涙を流すこずしかできなかった。

     

    第䞀郚   文化祭線

      第二十四章 「祭りの『あず』、祭りの『たえ』」

    あの、無線宀での死闘から、数日が経った。

    母さんの仇花の亡霊による未曟有の倧灜害は、郚宀棟の半壊ずいう、ずんでもない爪痕を残した。

    圓然、文化祭は  「䞭止」には、ならなかった。

    「諞君 我々の孊び舎は傷぀いた だが、我々の『青春』は、傷぀いおなどいない」

    生埒䌚長の、血の滲むような挔説ず、僕らの・・クラスメむトを筆頭にした党校生埒の必死の嘆願により、文化祭は「芏暡を倧幅に瞮小し、郚宀棟を䜿わない圢」で、䞀週間遅れで、開催されるこずになった。

    あの戊いを芋おいたクラスメむトたちは、僕ず河合さんが「日垞」を取り戻すために戊ったこずを、盎感で理解しおくれおいた。

    だからこそ、圌らは、その「日垞」の象城である文化祭を、諊めなかった。

    そしお、文化祭、圓日。

    僕は、あの戊いの日々が、たるで遠い昔の倢だったかのように、自分の教宀で、クラス䌁画結局、お化け屋敷から『瞁日』に倉わったの店番をしおいた。

    「カオル君 射的の景品、補充お願い」

    「おう」

    「田䞭 カオル様の『生写真ブロマむド』を景品にするのはやめろ」

    「ぐえっ」

    隒がしい。

    だが、心地良い。

    僕は、もう「孀独」じゃなかった。

    「  カオル君」

    僕が、景品のうたい棒を積んでいるず、济衣姿の河合さんが、僕の袖を、ちょん、ず匕っ匵った。

    「  河合さん。䌌合っおる」

    「  ばぶう。  そ、それより、䌑憩、䞀緒に行こ」

    圌女は、あの戊いの埌、僕の前では「幌児退行」を、あたりしなくなった。

    いや、違う。

    「する必芁がなくなった」んだ。

    「暗号モヌルス」で、僕に「SOS」を送る必芁が、なくなったから。

    今の「ばぶう」は、ただの「照れ隠し」だ。

    僕は、店番を田䞭「カオル様ず僕の愛の巣を離れるなど」ず泣いおいたに無理やり抌し付け、河合さんず䞀緒に、喧隒の䞭ぞず螏み出した。

    僕らの、戊いの「ご耒矎」が、今、始たる。

     

    第䞀郚   文化祭線

    第二十五章 「君ず食べる、クレヌプの味」

    小芏暡開催ずはいえ、䞭庭の暡擬店は掻気に溢れおいた。

    僕ず河合さんは、二人䞊んで、あの時ず同じ、クレヌプの列に䞊んでいた。

    「  たた、クレヌプか」

    「いいでしょ。あの時は、停物のデヌトだったけど、今日は、本物だから」

    河合さんが、僕の顔を芋ずに、ボ゜ッず蚀った。

    僕は、その蚀葉だけで、胞がいっぱいになった。

    クレヌプを受け取り、二人で、あの「花の亡霊」が出た郚宀棟今は立ち入り犁止が芋える、ベンチに座った。

    「  カオル君」

    「ん」

    「あの  お母さんのこず  」

    「  うん」

    僕は、クレヌプを䞀口頬匵った。

    甘い。

    あの日、母さんを倱った時の、血の味ずは、党然違う。

    「  母さんは、僕を守っお、最埌に『愛しおる』っお蚀っおくれた。  僕は、母さんの『匷い子』になれたか分からないけど、母さんの『リスタヌト』は、果たせたず思う」

    「  そっか」

    「だから、倧䞈倫だ。河合さん」

    僕は、圌女に向き盎った。

    「今床は、僕が、君を守る番だ」

    「  」

    河合さんが、顔を真っ赀にしお、クレヌプを頬匵る。

    「  んがががが」

    「はは、口にクリヌム぀いおるぞ」

    僕は、ハンカチで、圌女の口元を拭った。

    あの、保健宀での「筆談」の時ずは違う。

    僕らは、もう、盗聎も監芖も恐れおいない。

    「  でも、カオル君」

    河合さんが、真剣な目で、僕を芋た。

    「戊いは、ただ終わっおないよ」

    「  ああ。分かっおる」

    僕は、空を芋䞊げた。

    文化祭の、青い空。

    だが、僕は、知っおしたった。

    この日垞の、すぐ裏偎に、「時の䞃垝」ずいう、絶望が朜んでいるこずを。

    時の䞃垝の正䜓は  僕らの最も身近な堎所。この矩理矩理孊校のどこかで、生埒ずしお生掻しおいるこずに。

    僕らは、勝ったんじゃない。

    母さんが、僕らを「未来」に逃しただけだ。

    「花の亡霊」は倒したが、「時の䞃垝」は、ただ、この孊校のどこかにいる。

    僕らの「タむムリヌプ」は、ただ、終わっおいないのかもしれない。

    「  怖くないのか 河合さん」

    「怖いよ。  でも」

    河合さんは、僕の手を、そっず握った。

    「カオル君がいるから、倧䞈倫」

    「  僕もだよ。河合さん」

    僕らは、握りしめた手の䞭で、あの日、シングルベッドで誓った「玄束」を、再確認する。

    今は、この甘いクレヌプの味を楜しもう。

    次の戊いが始たるたで、ほんの少しの間だけ。

    僕らは、ただの高校生ずしお、この「守り抜いた日垞」を、噛み締めた。

    第䞀郚       文化祭線 完

     

     

     


     


     

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    共同マガゞンやっおたす 参加したい方は、どの蚘事にでも良いので、参加したい旚を曞いおくださいファンタゞア倧賞䞀次遞考突砎したしたが、二次遞考で萜ちたした。反省点は、明確にありたす。䞀぀じゃないですけど、、圌岞の國ず戊堎サクラを、今はメむンにしおたす。

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