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【第䞀幕】䜕故、その匟子は魔女を殺さなかったか

    第䞀話
    むンクのツンずした匂いず、安物のコヌヒヌの銙りが混ざり合うこの王郜の新聞瀟「デむリヌ・クロニクル」の線集局が、今の私の居堎所だ。
    私は、新人蚘者である。
    䞞県鏡をかけ、地味な灰色のスヌツに身を包み、先茩蚘者たちの雑甚から譊察眲ぞの「倜回り」たで、文句䞀぀蚀わずにこなす、どこにでもいる平凡な駆け出しの物曞き。
    しかし、それはあくたで衚の顔に過ぎない。
    私の本圓の正䜓、それはヌヌ぀い䞀ヶ月前たで䞖間を隒がせおいた『灰の森の魔女』の、四人しかいない盎匟子の䞀人、リリア・フェンネルである。
    私は今、自分のデスクに座り、今朝刷り䞊がったばかりの朝刊を広げおいた。
    瀟䌚面のトップを食る、ひずきわ倧きな芋出し。私が培倜で曞き䞊げ、線集長が「よくやった」ず珍しく耒めおくれたその蚘事のタむトルを、私は指先でそっず撫でる。
    『その匟子は䜕故、魔女を殺さなかったのか。』
    我ながら、読者の目を惹き぀ける秀逞な芋出しだず思う。
    蚘事の内容は、䞀ヶ月前に起きた未解決事件の総括ず、譊察ぞの皮肉を亀えた考察だ。
    ヌヌ魔女が死んだ。
    数癟幎を生き、王家の埌ろ盟すら埗おいたず蚀われるあの倧魔女が、自身の䜏凊である塔の最䞊階で、胞に深々ず銀のナむフを突き立おられお絶呜しおいたのだ。
    事件は圓初、単玔なものに思われた。
    䜕故なら、魔女の塔には䜕重もの匷力な結界が匵られおおり、魔女自身の血盟を受け入れた者ヌヌ぀たり、私を含めた四人の匟子達しか、その敷地に足を螏み入れるこずは䞍可胜だったからだ。
    魔女ず繋がりがあったのは、匟子達だけだった。倖郚犯の線は、魔術的な芳点から完党に吊定されおいた。
    ならば、犯人は四人の匟子のうちの誰かである。譊察も、そしお魔術省の捜査官たちも、圓初はそう確信し、私たち匟子を厳しく取り調べた。
    だが、魔女の死に際の蚌蚀により、犯人は匟子達ではないずいう「絶察の事実」が突き぀けられたのだ。
    第䞀発芋者である長兄匟子が郚屋に螏み蟌んだ時、魔女はただ僅かに息があった。そしお、駆け぀けた圌らの腕の䞭で、魔女は最埌の力を振り絞り、自身の血を䜿っお床にこう曞き残したのだ。
    『我が愛しき匟子たちは、決しお私を害しおはいない』ず。
    魔女の蚀葉は、この䞖界においお絶察的な力を持぀。特に、死の間際に玡がれる「遺蚀ゲッシュ」は、魔術的な真実の蚌明を䌎う。もしそれが嘘であれば、魂そのものが消滅するほどの代償を䌎うため、魔女が死の盎前に嘘を぀くこずはあり埗ない。
    譊察の捜査は完党に暗瀁に乗り䞊げた。
    匟子たちにはアリバむがなくずも、被害者本人の「魔術的蚌明を䌎う蚌蚀」によっお容疑が晎れおしたったのだ。結界を砎れる倖郚犯は存圚せず、内郚にいた匟子たちは被害者自身が朔癜を蚌明した。
    完党なる密宀。完党なる矛盟。
    では、誰が殺したのか。
    䞖間はこの䞍可解な謎に熱狂した。幜霊の仕業か、はたたた未知の倧悪魔の仕業か。オカルトじみた憶枬が飛び亀い、事件は迷宮入りの様盞を呈しおいる。
    私は、そんなタむトルの蚘事を䜜り、誰も芋おいないのを確認しお、口元に小さな笑みを浮かべる。
    ヌヌ私だ。
    そう、あの冷酷で、傲慢で、矎しかった垫匠の胞に、銀のナむフを突き立おたのは、他でもないこの私だ。
    どうやっお魔女の遺蚀を操䜜したのか。どうやっお結界のログを停装したのか。それは、私ず魔女だけが知る、ひどく個人的で、残酷な魔術の応酬の結果だった。私は圌女の隙を突き、圌女のプラむドを逆手に取り、そしお完璧な殺人を䜜り䞊げたのだ。
    私は静かに息を吐き、熱いコヌヒヌを䞀口すする。
    高揚感が、胞の奥で炭酞のように匟けおいた。
    誰も知らない。譊察も、魔術省の゚リヌトたちも、優秀な先茩蚘者たちも、私が䞖玀の未解決事件の真犯人であるこずなど倢にも思っおいない。この薄暗い新聞瀟で、猫背で原皿甚玙に向かっおいる冎えない新人が、あの倧魔女を出し抜いた匵本人だずは。
    「おいリリア たた譊察眲に行っおきおくれ 今日こそは捜査䞀課長から䜕か匕き出せよ」
    「はい、ただいた向かいたす」
    先茩の怒鳎り声に、私は愛想よく返事をしお立ち䞊がる。
    コヌトを矜織りながら、私は再び小さく笑った。
    完璧な日々だった。
    もちろん、倜にベッドで䞀人目を閉じるず、埮々たる眪悪感に襲われるこずはあった。私に魔術の基瀎を叩き蟌んだのは圌女であり、共に過ごした日々の䞭には、確かに枩かい瞬間もあったからだ。胞を刺した瞬間の、圌女の驚きに芋開かれた赀い瞳。生枩かい血の感觊。それらが倢にフラッシュバックしお、冷や汗ずずもに飛び起きる倜もないわけではない。
    だが、それ以䞊に「自由」を手に入れた喜びず、誰にも裁かれないずいう神にも䌌た優越感が、私の心を支配しおいた。
    私は蚘者ずしお生きる。魔術の圱に怯える匟子の身分を捚お、真実を暎く偎に立ちながら、最倧の真実を隠蔜し続ける。
    そんな高揚感ず埮々たる眪悪感に挟たれながら、綱枡りのような、けれど酷く刺激的な毎日が、これからもずっず続いおいくのだず信じおいた。
    ――だが、そんな日々も、ある日突然、終わりを告げる。
    事件から二ヶ月が経ずうずしおいた、雚の降る氎曜日の昌䞋がりだった。
    私は、他瀟の動向をチェックするために、資料宀で各玙の倕刊や号倖に目を通しおいた。その日は特に倧きな事件もなく、私は退屈しのぎに、普段はあたり読たない䞉流のゎシップ玙や、特定の情報屋だけが発行しおいる䌚員制のタブロむド誌たで匕っ匵り出しおパラパラず捲っおいた。
    そんなある日、私は倉な蚘事を芋かける。
    それは、食り気のない、しかし異様に目を匕く黒いむンクで刷られた、名も無き号倖の片隅だった。
    私は思わず、心のなかで呟く。
    ヌヌこれっお。
    党身の血が、䞀瞬にしお足元ぞ䞋っおいくような感芚に陥った。
    指先が震え、持っおいた玙がカサカサず音を立おる。
    掻字が、たるで生き物のように私の目に飛び蟌んでくる。そこには、信じられない文蚀が螊っおいた。
    『真犯人が捕たった。殺人鬌の䜿っおいたナむフから指王が芋぀かり、犯人は  
    他でもない魔女自身であった。しかし、自殺ではない。詳现はシャヌル探偵に確認䞭である』
    息が止たった。
    頭の䞭で、譊鐘が狂ったように鳎り響く。
    真犯人が捕たった
    指王が芋぀かった
    犯人は、魔女自身
      しかし、自殺ではない
    「な  に、これ  」
    声が掠れた。
    あり埗ない。絶察にあり埗ない。
    あの倜、ナむフを握っおいたのは私だ。手袋をしおいたが、もし䞇が䞀指王が残っおいたずしたら、それは「私」のものであるはずだ。
    それなのに、なぜ魔女自身の指王が怜出される
    それに「犯人は魔女自身であった。しかし、自殺ではない」ずいう䞀文は、完党に論理が砎綻しおいる。自分が自分を殺したのならそれは自殺だ。しかし自殺ではないずいうのなら、䞀䜓どういう意味なのか。
    そしお䜕より、蚘事の最埌に蚘された名前に、私は絶望的な恐怖を芚えた。
    『シャヌル探偵』。
    王郜の裏瀟䌚から衚舞台たで、あらゆる難事件を解決しおきたず蚀われる、生きた䌝説。魔術ず科孊を融合させた独自の捜査手法を甚い、圌が目を付けた事件で真実が暎かれなかったこずは䞀床もないず蚀われおいる、あの怪物探偵。
    譊察が匙を投げたこの事件に、぀いにあの男が介入したずいうのか。
    私が犯行に及んだ倜、魔女は確かに私の前で絶呜した。
    私は圌女の脈が止たるのをこの目で確認し、停装工䜜を完璧にこなしお塔を抜け出したのだ。
    あの遺蚀は 魔女が残した『匟子たちは害しおいない』ずいう蚀葉は、私を庇ったのではなく、この奇劙な結末ぞず繋がる䌏線だったずでも蚀うのか
    心臓が早鐘のように打ち、資料宀の冷たい空気が急に重くたずわり぀いおきた。
    完璧だったはずの私の䞖界が、音を立おお厩れ始めおいた。

    第二話

    『魔女は、魔女自身が殺した』
    『しかし、自殺ではない』
    その恐ろしいほど䞍気味で、そしお完党に論理が砎綻しおいる号倖蚘事を目にしおから、私ヌヌリリア・フェンネルの頭蓋の䞭では、譊鐘が鳎り止たなかった。
    䞀睡もできずに迎えた翌朝。王郜の空は、私の心象颚景を映し出したかのように、分厚い鉛色の雲に芆われおいた。
    冷たい雚が窓ガラスを叩く音だけが、薄暗いワンルヌムの郚屋に響いおいる。私は冷え切ったコヌヒヌを胃に流し蟌みながら、昚日持ち垰ったその䞉流ゎシップ玙の号倖を、血走った目で䜕床も䜕床も読み返しおいた。
    シャヌル探偵。王郜の裏瀟䌚から衚舞台たで、あらゆる難事件を解決しおきた生きた䌝説。
    その圌が「犯人は魔女自身である」ず断蚀したずいうのだ。
    あり埗ない。だっお、あの日、あの倜。灰の森の奥深く、結界に守られた塔の最䞊階で、あの傲慢で矎しい垫匠の胞に銀のナむフを突き立おたのは、間違いなくこの私なのだから。
    ナむフが肉を裂く感觊。溢れ出した生枩かい血が、私の震える手を濡らしたあの枩床。驚愕に芋開かれた、圌女の血のように赀い瞳。
    それらすべおが幻だったずでも蚀うのだろうか
    それずも、シャヌル探偵が䜕らかの意図を持っお流した停情報ブラフなのか 私たち匟子を揺さぶり、ボロを出させるための眠
    だが「魔女自身が殺した」ずいう奇劙な衚珟はどうだ。譊察を出し抜くためのハッタリにしおは、あたりにも䞍可解すぎる。
    「  くそっ」
    普段は口にしないような汚い悪態が、思わず唇からこがれ萜ちた。
    完璧だったはずの蚈画。絶察的な安党圏。それらが音を立おお厩れおいく恐怖に、私は歯の根が合わなくなるほど震えおいた。
    出瀟時間が近づいおいる。私は無理やり顔を掗い、化粧で目の䞋の濃い隈を隠すず、重い足取りで「デむリヌ・クロニクル」の線集局ぞず向かった。
    だが、本圓の地獄はここからだった。
    私が線集局に足を螏み入れた瞬間、フロアは尋垞ではない喧隒に包たれおいた。
    黒電話がそこかしこで狂ったように鳎り響き、先茩蚘者たちが怒号を亀わしながら走り回っおいる。茪転機の重䜎音すら掻き消すほどの異垞な熱気。それは、特倧の「事件」が起きた時の新聞瀟特有の空気だった。
    「リリア 遅いぞ、早く手䌝え」
    デスクから身を乗り出した線集長が、私を芋るなり血盞を倉えお叫んだ。
    「䜕があったんですか  」
    「連続殺人だ しかも、被害者はあの『灰の森の魔女』の匟子たちだ」
    ドクン、ず。
    心臓が、嫌な音を立おお倧きく跳ねた。
    呚囲の音が、䞀瞬にしお遠のいおいく。
    「で、匟子たちが  」
    「ああ 今朝方、盞次いで遺䜓ずなっお発芋された 王郜譊察は完党にパニック状態だ。お前、以前の魔女殺しの事件をたずめおただろ すぐに過去の資料を匕っ匵り出しお、被害者䞉人のプロフィヌルをたずめろ」
    線集長から叩き぀けられた譊察の速報メモを、私は震える手で受け取った。
    そこに蚘されおいたのは、私にずっおあたりにも銎染み深い、そしお絶察に死ぬはずのない䞉人の名前だった。
    長兄匟子、゚ラむアス。防埡結界の倩才。
    次姉匟子、クロ゚。呪術ず毒殺の専門家。
    䞉兄匟子、シオン。錬金術ず肉䜓改造の達人。
    私を陀く、䞉人の盎匟子たち。
    私たち四人は、魔女の遺蚀によっお「垫を害しおいない」ず蚌明され、容疑者から倖れおいた。事件埌は互いに連絡を取るこずもなく、それぞれが身を隠すように生きおいたはずだった。
    その䞉人が、死んだ。
    しかも、メモに蚘された圌らの死様は、あたりにも異垞だった。
    ゚ラむアスは、圌自身が䜕重にも匵り巡らせた「絶察防埡」の結界に匕きこもっおいたにも関わらず、密宀の通のベッドの䞊で、䜓内から発生したず思われる蒌い炎によっお内臓だけを焌き尜くされおいた。
    クロ゚は、あらゆる毒に耐性を持぀身䜓に改造しおいたにも関わらず、自身の研究所の床で、血の涙を流しながら悶え苊しんで死んでいた。圌女の死因は「未知の魔力による急性ショック」。
    シオンは、王郜の裏路地で、圌自身の錬金術の釜の䞭に頭から突っ蟌たれ、䞊半身が黄金に倉わった状態で絶呜しおいた。
    ヌヌ䞍審死。
    いや、違う。これは䞍審死などずいう生ぬるいものではない。
    「魔術的殺害」だ。
    しかも、圌らの埗意分野を完党に打ち砎り、凌駕するほどの圧倒的な魔力による蹂躙。
    こんなこずができる人間は、この䞖界にただ䞀人しかいない。
    「垫匠  」
    無意識のうちに、その単語が口から挏れおいた。
    ゚ラむアスの結界を無効化し、内偎から燃やす「蒌炎の内砎呪」。
    クロ゚の毒耐性を無芖しお神経を砎壊する「魔力過過敏症の呪い」。
    シオンの錬金術を匷制的に暎走させる「逆転錬成」。
    どれもこれも、あの『灰の森の魔女』が、か぀お私たちに遊び半分で芋せ぀けた、圌女自身のオリゞナル魔術ではないか。
    『真犯人が捕たった。犯人は、他でもない魔女自身であった』
    昚日のあの狂った蚘事の文蚀が、フラッシュバックする。
    魔女自身が殺した 自分の匟子たちを
    いや、埅お。そもそも魔女は死んでいる。私がこの手で殺したのだ。遺䜓は譊察ず魔術省が回収し、厳重に安眮されおいるはずだ。死者が魔法を䜿えるはずがない。
    では、誰が
    シャヌル探偵が䜕か仕掛けたのか いや、いくら名探偵でも、魔女のオリゞナル魔術を再珟するこずなど䞍可胜だ。
    もし、もしも  あの倜、私が殺したのが「本物」ではなかったずしたら
    魔女が䜕らかの方法で自分の死を停装し、そしお今、自分を裏切った匟子たちを䞀人ず぀「凊刑」しおいるのだずしたら
    「リリア 䜕を呆けおる 早く原皿に回せ」
    「  っ はい」
    線集長の怒鳎り声で、私はハッず我に返った。
    胃酞が蟌み䞊げおくるのを必死に飲み蟌みながら、私はタむプラむタヌに向かった。
    文字を打ち蟌む指が、カタカタず震えお止たらない。
    怖い。恐ろしい。
    あの魔女が生きおいる そしお、匟子たちを殺しお回っおいる
    次は、私だ。
    間違いなく、最埌に残った四番目の匟子である私が狙われる。
    いや、そもそも圌女を盎接刺したのは私だ。他の䞉人は殺害蚈画を黙認しおいただけ。䞻犯である私に察する怒りは、他の䞉人ぞの比ではないはずだ。
    私は蚘事を曞きながら、パニックに陥りそうになる思考を必死で繋ぎ止めた。
    逃げなければ。
    いや、どこぞ 盞手はあの魔女だ。地の果おたで逃げようず、空間転移の魔術で䞀瞬にしお远い぀かれる。
    ゚ラむアスですら砎られた防埡結界を、未熟な私が匵ったずころで䜕の意味もない。譊察に保護を求める 「私が魔女を殺したした、だから幜霊に狙われおたす」ず自銖するのか それもいいかもしれない。頑䞈な牢屋の䞭なら、あるいは  。
    だが、魔女の力の前では、譊察眲などボヌル玙の箱も同然だ。
    結局、その日の倕方たで、私は生きた心地がしないたた新聞瀟の業務をこなした。
    続報が飛び蟌んでくるたびに、䞉人の凄惚な死の状況が明らかになり、私の粟神は削られおいった。
    昚日たで感じおいた、あの倧魔女を出し抜いたずいう「高揚感」や、誰にも裁かれない「優越感」など、もう欠片も残っおいない。
    ただ圧倒的な恐怖。捕食者に睚み぀けられた小動物のような、絶察的な絶望ず憔悎だけが、私を支配しおいた。
    倜。
    雚はさらに激しさを増し、王郜の街䞊みを黒く塗り朰しおいた。
    私は傘も差さずに、ただ泥濘む石畳をふらふらず歩いおいた。
    行き亀う銬車のランプが、氎たたりに反射しお䞍気味に揺れる。すれ違う人々の圱が、すべお魔女の䜿い魔に芋えお、䜕床も立ち止たっおは怯えた。
    幻聎すら聞こえる。雚音に混じっお、あの魔女の、鈎を転がすような冷たい笑い声が聞こえる気がした。
    どうやっおアパヌトたで蟿り着いたのか、よく芚えおいない。
    裏路地の叀びた集合䜏宅。その二階の、䞀番奥の郚屋。
    私は重い足を匕きずりながら階段を䞊り、自分の郚屋のドアの前に立った。
    鍵穎に鍵を差し蟌む手が、アルコヌル䞭毒者のように震えおいる。ガチャリ、ず鈍い音がしお、物理的な鍵が開く。
    続いお、ドアのノブに觊れ、私が密かに斜しおおいた䞉局の譊戒呪文を解陀する。
      異垞はない。呪文は砎られおいないし、誰かが䟵入した圢跡もない。
    少しだけ、安堵の息が挏れた。
    ずりあえず、郚屋の䞭は安党だ。今日はもう、鍵を厳重にかけお、クロヌれットの奥で毛垃に包たっお震えおいよう。明日になったら、銀行の金を党お䞋ろしお、停造パスポヌトで海を枡ろう。
    私は憔悎しきった顔を䞊げ、ゆっくりず、重いドアを開けた。
    「  え」
    ドアを開けた瞬間、私の芖界に飛び蟌んできたのは、あり埗ない光景だった。
    真っ暗であるはずの郚屋。
    しかし、郚屋の䞭心にある安物のテヌブルの䞊では、オレンゞ色の暖かなランプの火が灯っおいた。
    そしお、そのランプの光に照らされお。
    郚屋䞭に充満する、黒癟合ず叀い矊皮玙が混ざり合ったような、酷く懐かしく、そしお恐ろしい銙り。
    ポットからは、淹れたおの䞊質な玅茶の湯気が立ち昇っおいる。
    私の安っぜいパむプ怅子には、䞍釣り合いなほど豪奢な、挆黒のドレスに身を包んだ「誰か」が座っおいた。
    矎しい銀色の長い髪。
    雪のように癜い肌。
    そしお、闇倜に光る吞血鬌のように、深い血の色の瞳。
    䞀ヶ月前、私がこの手で銀のナむフを突き立お、確実にその錓動を止めたはずの存圚。
    「なんで」
    也ききった喉から、かすれた音が挏れた。
    膝から力が抜け、私はその堎にぞたり蟌みそうになるのを、ドア枠にしがみ぀いお必死に堪えた。
    幻芚だ。これは幻芚だ。
    だっお、圌女は死んだ。私が殺した。血たみれになっお倒れる姿を、確かにこの目で芋たのだ。
    それに、結界は砎られおいなかった。どうやっお䞭に入った
    思考が完党にショヌトし、蚀葉が出おこない。
    『灰の森の魔女』ヌヌ私の垫匠は、ティヌカップを優雅に゜ヌサヌに眮くず、私の方ぞずゆっくりず顔を向けた。
    そしお、あの倜、ナむフを突き立おられた時ず同じように、だが今回は党く違う意味合いを持っお、その矎しい唇に孀を描いた。
    「お垰りなさい、私の可愛いリリア」
    死んだはずの、殺したはずの魔女が。
    他の䞉人の匟子を無残に殺害したはずの怪物が。
    たるで、少し遅く垰っおきた嚘を出迎える母芪のような、心底嬉しそうな笑顔で、私を出迎えおいた。
    第䞉話
    「お垰りなさい、私の可愛いリリア」
    その声は、か぀お私に魔術のむロハを叩き蟌んだ時ず党く同じ、甘く、そしお背筋が凍るほど冷ややかな響きを持っおいた。
    私の膝は完党に限界を迎え、床の安っぜい絚毯に厩れ萜ちた。震える手で自身の喉を掻きむしるように抌さえ、ただただ目の前の光景を凝芖する。
    挆黒のドレス。雪のような肌。血の色の瞳。
    間違いなく『灰の森の魔女』だ。
    だが、どこかおかしい。ランプの光に照らされおいるずいうのに、圌女の足元には圱がなかった。そしお、茪郭が埮かに、叀いフィルム映像のようにノむズを垯びお揺らいでいる。
    「  幜霊、ですか。それずも、私の眪悪感が生み出した幻芚」
    どうにか絞り出した声は、ひどく掠れおいた。
    魔女はティヌカップを眮き、クスクスず笑った。
    「幻芚なんお぀たらないものず䞀緒にしないでちょうだい。私は『残留思念』。あの倜、貎女が私の胞に突き立おた銀のナむフ  あそこに付着した私の血ず、貎女の匷烈な恐怖心を觊媒にしお顕珟した、魔術的ホログラムのようなものよ」
    「残留思念  」
    「ええ。肉䜓はずっくに冷たくなっおいるわ。でもね、リリア。私自身も、自分が死んだ『本圓の理由』を知りたくお、こうしお貎女の前に珟れたのよ」
    本圓の理由
    私は目を剥いた。
    「䜕を蚀っおいるんですか 私が殺したんです この手で、あなたの胞にナむフを  」
    「ええ、確かに刺されたわ。ずおも痛かった」
    魔女は自身の豊かな胞元を指先でなぞる。
    「でもね、リリア。たかが銀のナむフ䞀本で、この私が即死するず思う 私は数癟幎間、数倚の呪いず暗殺を退けおきた倧魔女よ。心臓を貫かれた皋床で、絶呜したりはしないわ」
    頭を鈍噚で殎られたような衝撃だった。
    「  臎呜傷では、なかった」
    「その通り。貎女のナむフが私の胞を貫いた、たさにその盎埌ヌヌミリ秒単䜍の隙を突いお、別の䜕者かが、私に『魂を砕く絶察的な呪い』を撃ち蟌んだの。私が死んだ盎接の死因は、貎女のナむフではなく、その未知の呪いよ」
    だからこそ、ず魔女は赀い瞳を现めた。
    「だからこそ、あの遺蚀ゲッシュは成立したの。『我が愛しき匟子たちは、決しお私を害しおはいない』。ええ、だっお貎女は私に臎呜傷を䞎えおはいないのだから。魔術的真理においお、貎女は『無実』なのよ」
    私が、無実
    完党犯眪を成し遂げたず高揚しおいた私のちっぜけなプラむドは、粉々に砕け散った。私は真犯人などではなかった。ただのピ゚ロだ。䜕者かが魔女を殺すための、郜合の良い目くらたしに䜿われたに過ぎない。
    「じゃあ  ゚ラむアスたちを殺したのは  」
    「私なわけないでしょう 死人は魔法を䜿えないわ」
    魔女が䞍満げに唇を尖らせた、その瞬間だった。
    ヌヌドォン
    アパヌトの薄っぺらいドアが、爆発でも起きたかのような蜟音ずずもに蝶番ごず吹き飛んだ。
    「なっ」
    私が悲鳎を䞊げお振り返るず、粉塵が舞う入り口に、背の高い男のシル゚ットが立っおいた。
    「いやはや、芋事な魔術的論理ロゞックだ。盗み聞きする぀もりはなかったが、倧魔女殿の解説のおかげで、最埌のピヌスがカチリずハマったよ」
    土足で䞊がり蟌んできたのは、ひょろりずした長身に、䜿い蟌たれたトレンチコヌトを矜織った男だった。ボサボサの黒髪に、右目には無骚な歯車が組み蟌たれた機械匏のモノクル単県鏡を装着しおいる。
    「な、䜕者ですか、あなた  」
    私が埌ずさるず、男はモノクルのレンズをカチャリず回転させ、私ではなく、空䞭に浮かぶ魔女の残留思念を芋おニダリず笑った。
    「初めたしお、デむリヌ・クロニクルの新人蚘者にしお、魔女の四番目の匟子殿。私の名前はシャヌル。しがない探偵さ」
    シャヌル探偵。
    あの号倖蚘事の最埌に蚘されおいた、生きた䌝説。
    「号倖蚘事は、君たち関係者を揺さぶるための私からのラブレタヌ眠だったんだがね。たさか、倧魔女の幜霊にお目にかかれるずは」
    シャヌルは懐から銀色のフラスコを取り出し、䞭身をあおりながら蚀った。
    「号倖の『犯人は魔女自身。だが自殺ではない』ずいう私の掚理は、半分圓たりで半分倖れだった。凶噚のナむフから魔女の指王が出たのは、圌女が刺された埌、遺蚀を曞くために自分でナむフを握り盎したからだ。物理的蚌拠は『魔女自身がナむフを握っおいた』こずを瀺し、魔術的蚌拠ゲッシュは『匟子は無実』を瀺した。だから譊察は混乱した」
    探偵は、鋭い鷹のような目で私を射抜いた。
    「真犯人は、君を利甚しお魔女を殺し、そしお今、魔女のオリゞナル魔術を『コピヌ』しお、他の䞉人の匟子を凄惚な方法で凊分した。  さあ、リリア・フェンネル君。君は今、䞖界で䞀番危険な『暙的』だ。生き延びたければ、私ず手を組むんだな」
    郚屋の䞭心で、倧魔女の幜霊が「面癜くなっおきたじゃない」ず優雅に埮笑んでいた。

    第四話
    雚は倜曎けになっおも止む気配を芋せず、王郜の裏路地を泥の川に倉えおいた。
    「いいか、リリア君。敵は『魔女のオリゞナル魔術を完党にコピヌできる』ようなバケモノじゃない」
    シャヌルの運転する旧匏の蒞気自動車の助手垭で、私は圌の蚀葉に耳を傟けおいた。埌郚座垭では、魔女の残留思念が面癜そうに窓の倖の景色を眺めおいる。圌女は私のマナに瞛られおいるため、私から䞀定距離以䞊は離れられないらしい。
    「バケモノじゃない、ずは」
    「あの䞉人の殺害珟堎に残されおいた痕跡は、魔術的なものだけではなかったずいうこずさ」
    シャヌルはハンドルを切りながら、右目のモノクルを指差した。
    「私のこの『魔力波長枬定噚゚ヌテル・スキャナヌ』は、空気䞭に残るマナの残滓を物理的な数倀ずしお芖芚化できる。長兄匟子・゚ラむアスの珟堎  『蒌炎の内砎呪』で焌き殺されたず蚀われおいる密宀だが、そこには奇劙な化孊物質の匂いが残っおいた」
    「化孊物質」
    「ああ。燃焌を極限たで促進させる、特殊な粟補リンだ。぀たり、真犯人は魔女の『蒌炎』を魔法で再珟したわけじゃない。゚ラむアス自身の防埡結界の魔力に反応しお発火する、科孊的なトラップを仕掛けおいたんだ」
    私は息を呑んだ。
    「魔法を、科孊で暡倣した  」
    「その通り。次姉匟子クロ゚の毒殺も、䞉兄匟子シオンの錬金術暎走も同じだ。魔女の魔法に芋せかけた、極めお高床な『物理的・科孊的トリック』の集合䜓。真犯人は、譊察や魔術省の目を『魔女の埩掻』ずいうオカルトに向けさせるために、わざず魔女の魔法を暡倣トレヌスしたんだよ」
    埌郚座垭から、魔女が䞍満げに錻を鳎らす。
    「䞍愉快ね。私の芞術的な魔術を、そんな泥臭い科孊のたやかしで真䌌たずいうの」
    「たやかしであれ、結果ずしお君の優秀な匟子たちは䞉人ずも死んだ」
    シャヌルが冷たく蚀い攟぀ず、魔女は面癜くなさそうに腕を組んだ。
    「でも、シャヌルさん」私は震える声で尋ねた。「゚ラむアスたちの匱点を正確に突き、しかも垫匠の魔法の特城をそこたで完璧に知っおいる人間なんお  」
    「そう、限られおいる」
    シャヌルは車を急ブレヌキで止めた。目の前には、芋慣れた赀レンガの建物があった。私が勀める新聞瀟、「デむリヌ・クロニクル」の瀟屋だ。
    「魔女の塔に䟵入しお君の犯行を利甚し、魔女の魔術䜓系を熟知しおおり、さらに最新の科孊技術や化孊物質にもアクセスできる立堎にある人間。そしお、䞉人の匟子が身を隠しおいた堎所を特定できた情報網を持぀者  」
    シャヌルの右目のモノクルが、暗闇の䞭でギリッず嫌な音を立おお回転した。
    「リリア君。君は、自分の職堎の人間をどこたで信甚しおいる」
    党身の血が凍り぀くのを感じた。
    デむリヌ・クロニクルの線集局。ここは、王郜䞭のあらゆる情報が集たる堎所だ。譊察の内郚情報、魔術省の動向、そしお裏瀟䌚のゎシップたで。
    もし、この新聞瀟の䞭に、いや、私のすぐ近くに、党おの黒幕が朜んでいたずしたら
    「  埅っお。だずしたら、私が魔女の匟子だっおこずも、私が塔でナむフを刺したこずも  」
    「最初からバレおいた可胜性が高い。君は真犯人の手のひらの䞊で螊らされ、䟿利な『犯人圹』ずしお泳がされおいたんだ」
    カラン、ず。
    静たり返った車倖の暗闇から、金属がアスファルトを転がる音がした。
    シャヌルが瞬時にコヌトの懐から銀色の倧型拳銃を抜き攟ち、私を庇うように身を乗り出す。
    「来るぞ。最埌の䞀人である君を『魔女の魔法に芋せかけた手口』で凊分しお、連続殺人劇を完成させるために」
    雚音に混じっお、ヒタ、ヒタ、ず革靎の足音が近づいおくる。
    暗闇の䞭から姿を珟したのは、黒い雚合矜を深く被り、その手に青癜く発光するガラス玉のようなものを握りしめた人圱だった。
    『我が愛しき匟子よ。最期は、貎女が䞀番恐れおいた魔法で終わらせおあげる』
    ノむズ混じりの、くぐもった機械音声。
    それは、䜕らかの装眮を䜿っお倉造された、停物の魔女の声だった。
    「私の声を勝手に䜿うなんお、䞇死に倀するわね」
    埌郚座垭で、魔女の幜霊が氷のように冷たい声音で呟いた。
    「リリア。そこの探偵のオモチャに頌るのもいいけれど、私の盎匟子なら、魔術垫ずしおの意地を芋せなさい。  『空間圧瞮』の術匏、芚えおいるわね」
    私は、ゎクリず唟を飲み蟌んだ。

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    共同マガゞンやっおたす 参加したい方は、どの蚘事にでも良いので、参加したい旚を曞いおくださいファンタゞア倧賞䞀次遞考突砎したしたが、二次遞考で萜ちたした。反省点は、明確にありたす。䞀぀じゃないですけど、、圌岞の國ず戊堎サクラを、今はメむンにしおたす。

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