
さかあがり
わたしは、ふつうに、順調に、わかりやすい、
大通りを歩いていくのが苦手かもしれない。
目についた猫道、
猫が散歩につかうような通り道を
必ずとおってみたくなる。
樹木が放置されて、
必要以上に繁茂している家のたたずまいに
とてもひかれる。
真っ白に光っている
グラウンドよりも、
配管が露出して、
砂利の敷かれた建物の裏側を
探検したくなる。
鉄棒を握った手に力をこめて、
自分の体重を持ち上げて、
ぐるっと逆上がりをしたときの
世界が一回転した
あの感じが面白い。
気が小さく、
短く、
あきっぽく、
すぐがっかりして、
なにもかもいやになってしまうとき、
ぐるっと一回転してみたい。
雛が巣立てなかったツバメの巣や、
コンクリートにくっついていたセミの抜け殻や、
倉庫に閉じ込められた羽虫や、
毎日同じ電車に乗るのに飽きてしまった自分や、
何もかもが少しつまらなくなってしまった時、
ぐるっと一回転してみたい。
おかしな顔をしながら歩いてくる小学生をみて、
自分も傘のかげで、
うんとおかしな顔をしてみる。
目をぎょろぎょろさせ、
口をとがらせたり引っ込めたり、
首をぐるぐる回してみる。
小学生がサッカーをしている公園で、
空いているブランコに乗って、
ぐいぐい漕いでみる。
上半身をうんとそらして、
顔を空に向けてみる。
思いついたことが
みんなつまらなく思えてくるので、
全部、想像ですませる。
早く床に入ったのに
眠れないので、
どんどん妄想がひろがってゆく。
過去にむかってゆくのを
途中でひきとめて、
未来へむけなおし、
やっぱり途中でとめる。
あれを捨てよう、
これも捨てよう、とおもって
週末になると他にやることができる。
意地悪だった人や、
意地悪されていることに気づきもしなかった自分に
あらためて驚く。
どこにも行き着かず、
ぐるぐる似たようで
そのつど違うことを
ずっと考えている。
逆上がり、
何度もやっているうちに
いつか手を離すときがくる。
いつか、終わる。
終わりがくる。
本当に?
今はただ、
ときどき、ぐるっと
一回転してみたいだけ。
わたしを放っておいてほしい。