四年間モテなかった男。
うちの柴犬、さっくんは犬付き合いがあまり得意ではない。
人見知りではない。
むしろ、その逆だ。
初対面でも、お構いなしにグイグイ近づいていく。
「こんにちは」の前に鼻先を突っ込むような勢いだから、相手はたいてい引いてしまう。
しかも柴犬らしい精悍な顔つき。
本人は遊びたいだけなのに、「ケンカ売ってる?」と思われているような目をしている。
さっくんは少し長くペットショップにいた子だ。
そのせいなのか、生まれつきなのかは分からない。
散歩へ行っても、他の犬と仲良く遊ぶことはほとんどなかった。
さっくんを見つけると、あちこちからワンワン大合唱。
本気で噛みつかれたこともある。
柴犬を飼うまで知らなかったけれど、他の飼い主さんからはよく、
「柴ちゃんはねぇ……」
と言われた。
そのあとには決まって、
「犬付き合いが難しいんですよ。」
という言葉が続く。
だから私は、「この子には犬友達はできないのかな」と、どこかで思い込んでいた。
そんなさっくんも四歳になった。
オス犬らしく胸板が厚くなり、がっちりした体つきになった。
ある日、娘が散歩へ連れて行った。
いつもなら歩く道を、その日は一歩も動かなかったらしい。
リードを引いても踏ん張る。
娘が根負けして、さっくんの行きたいほうへついて行くと、そこには犬仲間のグループがいた。
さっくんは、その輪に入りたかったのだ。
その中に、豆柴の女の子、さくらこちゃんがいた。
今まで見向きもされなかったさっくんに、さくらこちゃんは自分から近づいてきた。
二匹は、お互いのお尻をくんくん。
私は話を聞きながら、心の中で拍手した。
「さっくん、犬付き合い覚えたじゃん。」
ところが、その喜びも束の間だった。
もう一匹いた柴犬の女の子とも、さっくんがお尻をくんくんし始めた瞬間、さくらこちゃんが猛烈に怒り出した。
二匹はその場で大げんか。
どうやら、さっくんをめぐる三角関係が勃発したらしい。
四年間モテなかった男が、初参加で修羅場である。
思わず笑ってしまった。
でも、それ以上にうれしかった。
あんなに犬に避けられていたさっくんに、仲間ができた。
帰ってきた娘の話を聞きながら、私は子どもが初めて友達を家へ連れてきてくれた日のような気持ちになっていた。
今は、なかなかあの時間に散歩へ行けない。
それでも、さっくんはあの日会った子たちがいた場所を通るたび、きょろきょろと探している。
よっぽどうれしかったんだろう。
私はその姿を見て思った。
犬にも、家族以外の居場所が欲しいんだなって。
だから、たまにはあの時間に散歩へ連れて行ってあげたい。