メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byrei20000815

【アマノ文筆クラブ】ショートショート『過激な淑女』

    茜子(あかねこ)

     念願の三ツ星商事の本社総務部に配属された初日、新人の私に先輩の女性社員が耳打ちした。

    「気をつけるのよ。うちには『春日局』と呼ばれる厳しい方がいらっしゃるから。本社の重役や社長でさえ一目置く方だから、絶対に逆らっちゃダメよ」

     「春日局」。その高貴で厳格そうな響きに、私は生唾をのみ込んだ。どれほど行儀作法や言葉遣いに厳しいお局様なのだろうと、想像を膨らませて怯えていた。

     しかし、紹介された彼女を見て息をのんだ。
     整った顔立ち、上品な仕草。三十代にしか見えない美貌と漂う品格は、まさに完璧な淑女の鑑だった。私は「作法に厳しいのも納得のお方だわ……」と密かに憧れを抱いた。

     その日の午後、私は尊敬する彼女と共にお茶を配膳するため、応接室へと向かった。
     室には、取引先の社長が座っていた。いかにも成り上り風なでっぷりした社長は、お茶を差し出す彼女を見るやいなや、ニヤニヤした。

    「いやあ、キレイなねーちゃんだねぇ。今夜どう?」

     応接室の空気が凍りついた。
     彼女は静かにお盆を下ろす。ゆっくりと振り向いたその顔は鬼の相貌だった。

    「この、カスがぁぁぁッ!?」
    「へっ?」

     ドゴォン!?

     右ストレートが、取引先社長の顔面を完璧に撃ち抜いた。社長の巨体がすっ飛び、茶碗が宙を舞う。
     居合わせた本社の社員たちが囁き合った。

    「で、出た……!」
    「『カスがぁ』が出たぞ……!」
    「こうなると、もう誰にも止められないんだよな……」

     彼女は倒れた社長の襟首を掴み上げる

    「お上品な言葉遣いもできないんか、カスがぁ!」

     怒涛の連続パンチを叩き込んでいく。

    「客なら何言っても許されると思ってんのか、カスがぁ!」

     荒れ狂う彼女の姿を見上げながら、私は心の中で叫んだ。

    (作法に厳しい春日局だと勝手に思い込んでたけど……まさか『カスがぁ』の局だったなんて!)

     了

    こちらの企画に参加させていただきました。ありがとうございました。

    #アマノ文筆クラブ
    #小説
    #ショートショート
    #掌編小説
    #超短編小説

     
     
     
    今年から小説のようなものを書き始めました。しばらくは、テイストの違うショートショートを掲載しようと思います。 元プログラマー。

    あなたへのおすすめ