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私は、この町の人間にはなれないと思っていた|第7話

    防災無線が夕方を知らせる頃になると、

    私は今でも、

    この港町の空気を身体で感じることがあります。

    潮の匂い。

    少し湿った風。

    港へ向かう軽トラック。

    「おぅ、もう帰んのか?」

    「はい、お疲れ様です」

    気がつけば、

    そんな会話を交わすようになっていました。

    養子縁組。

    言葉にすると簡単です。

    でも、

    当時の私には、

    あまり簡単なことではありませんでした。

    結局、

    葬式の日まで、

    私は一度も、

    父さん、

    母さんとは呼べませんでした。

    その頃、

    子どもたちは、

    「じいちゃんとテレビ見てる」

    と言ったり、

    「今日はばあちゃんと寝る」

    と言ったりしていました。

    子どもたちにとっては、

    ごく当たり前のことだったのだと思います。

    私は、

    ただ聞いていました。

    それでも、

    時間は過ぎていきます。

    潮の香りを感じながら、

    港町の時間はゆっくりと流れていきます。

    防災無線が鳴ると、

    「ああ、もう夕方か」

    そう思うようになりました。

    潮の匂いも、

    港へ向かう軽トラックも、

    いつの間にか、

    特別な景色ではなくなっていました。

    昔は、

    この町の人間にはなれないと思っていたのに。

    防災無線の音が、

    今日も港町の空に流れています。





    港町には、
    まだ書いていない話があります。

    この町で起きた出来事は、
    すべて「港町編集室」に綴っています。

    気が向いたら、また港へ来てください。




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    『港町編集室』は、
    役職定年を前に港町で暮らし直す100話のエッセイです。
    毎週土曜日に更新しています。


     
     
    役職定年を前に、 人生を編集するエッセイ『港町編集室』を書いています。 毎週土曜日更新。 地方で働きながら、 人との出会い、 土地の言葉、 人生後半の時間を綴っています。 初めての方は、 第1話から読めるマガジンへどうぞ。 土地には、まだ名前のない時間がある。

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