
星野源
「いのちの車窓から」が本棚から少しはみ出していることに気づいて手に取った。
「いのちの車窓から2」が発売され、書店の人気新刊コーナーに積んであった。逃げ恥の人、と何気なく手に取り読んだ。数ページ立ち読み、すぐレジに持って行った。
星野源の言葉に初めて触れることになった。言葉の出し方がまっすぐで、よく晴れた北海道の田舎道をイメージさせる。爽やかな気持ちのいい言葉。
しかし、道に生えてる毒草のように、近所に住む迷惑な住民のように、ただ綺麗だけではない言葉が、話の流れを滑らかにしていた。
完読した時にはすっかりハマり、1作目である「いのちの車窓から」もすぐに読みたくなって書店を回った。手に取り読み始めたら、2周していた。
あれからもう2年ほど経つのか。
いのちの車窓からを読みながら本を閉じて目を瞑り、自分に問いかけることが多かった。
本棚からはみ出しているのに気づいた時、読み忘れないようそのまま寝室に移動しておいた。午後9時を過ぎて読み始めた時は眠くなるまで読めればいいと思った。テーブルライトを文字がやっと見えるような暗さに調整した。
寝室の中は静かなゆっくりとした時間が流れている。外からは、猫の鳴声が住宅街に響いている。異様な叫び方に気になって本を置き、ベランダに出て声のする方に目線を移す。同じように何人かの住民が外を見ていた。
誰かが襲われて叫んでいるようにも聞こえたその鳴き声は、発情期を迎えた2匹の猫の声だった。
寝室に戻り本を開く。猫の声が聞こえなくなったのか、私が集中したのかどちらかはわからないけど気づいたら鳴き声は消えていた。
隣で眠る妻の寝息も、気づいたら鳴っていた。
星野源の言葉には、確かな力がもらえる。今こうして言葉を綴っているのも星野源の言葉が背中を押している。
デビューする前、歌詞を書き小さな音でギターを弾きながら音楽を作っていた彼。本書にもあるが、誰かに届けと願いながら、目の前には誰もいない孤独な苦しい時間を過ごしていた。
今こうして自分の言葉を誰かに届けと願いながら書いているが、やはりどこかでその行為は時間の無駄や意味がないのではないかと考えてしまう。
「やっぱり無駄だったね」
心の中で妄想した星野源がギターを持ちながら口角を上げ、声をかけてくる。
「人生はそもそも無駄なものなんだよ。僕にはわかる、君は報われないことに恐れているんだ。確かに、報われない努力はある。そんな人を隣で何人も見てきた。でも、それでも報われない努力をした人にしか感じることのできないものがそこにはある。無駄だけど、確かに心に残るものがあるんだ。そしてそれが君の人生の中の、大切な時を救ってくれるんだ」
本を読みながら彼からのメッセージを受け取った。ちゃんと妄想だけれども。
星野源は、創作をしながら日々生きていくことができたらどれほど嬉しいだろうか、そう売れる前の時期に妄想していたらしい。そして現実になった今、妄想通り、大きな幸せを感じているとも言っていた。
私はまだ、北海道の田舎道を道なかばで歩いているだけだ。星野源も同じようにこの道を歩いた。
先の見えない長い道を、雨の日も雪の日も確かに一歩ずつ歩いたんだ。
私も、私もあとを追うように前に進もう。
彼がずーっと先で口角を上げ、ギターを抱えながら私を待ってくれている。