
第12話 ダイエットカウンセラー 千道剣の日常
向日葵夕子 ~職場での葛藤~
通勤ラッシュに慣れることはあるのだろうか。周りの人はスマホを見るか骨伝導イヤホンで何かを聞いている。座っている人は考えているのか眠っているのか。誰も通勤ラッシュには慣れたような顔をしているが、それは慣れたのではなく諦めているのだ。仕方ない、どうしようもない、だから自分の世界に閉じこもろう、そんな感じだ。
夕子はあるようでないような隙間を押し広げながら電車を降りた。
「このラッシュはなんとかならないのかな。私は自分の世界に入ることなんて無理!」
夕子は、ぶつくさ言いながら駅の階段を降りて行った。
「おはようございます」
エレベーターのドアが開いたタイミングで、後ろから声をかけられた。
「純子ちゃん、おはよう」
夕子はエレベーターに乗りながら挨拶した。
「先輩、私ダイエットすることにしたんです!夏に向けて気になるじゃないですか、いろいろと」
純子はエレベーターのフロア表示の数字を見ながら言った。
純子は夕子より7つ下の26歳。夕子から見て太っているとは思えない、どちらかと言えばスタイルは悪くない方だ。今日の洋服だって短めの上着にスキニータイプのパンツをはいている。こんな服、今の私には着られないと思いながら純子をうらやましく思った。
「純子ちゃん、ダイエットなんかしなくてもいいんじゃないの?今でも十分だと思うけど」
夕子は言ってからしまったと後悔した。
「夕子先輩、油断大敵です。先輩もどうですか一緒にダイエットしませんか」
「私は食べたいものを食べて、飲みたいものを飲むのが幸せなの」
言ってしまった。これでよけいにダイエット宣言のハードルが高くなってしまった。
「先輩、いつでも相談してくださいね。私、ダイエットは結構得意なので」
純子はそう言いながら、さっそうと歩いて行った。
「ふぅー」
夕子は大きく息をついた。なぜ、私もダイエットすると言えなかったのか。ダイエットする自分に負い目を感じたのはなぜ。純子にダイエットを誘われた時、胸が熱くなり鼓動が高鳴っていたのがわかる。
「はぁー、やっぱ駄目かなぁ私」
ノートPCのディスプレイを開き、電源を入れながら夕子は呟いた。
夕子は千道へLINEを送った。そして、最後に「どうしたらいいのかわからなくなった」と付け加えた。
間もなく、千道から返信が来た。
「夕子さんの気持ちよくわかります。今はダイエットを切り出すタイミングではないと思いますので慌てなくて大丈夫です。伝えるタイミングは必ず来ます。これから飲み会やお食事の誘いがあると思います。出席必須のものでない限り断ってください。ダイエットの宣言がないなかで断るのは少し大変かと思います。上手く断れそうになければ返事を一旦保留にしてください。そして断る理由を考えてください。理由が見つからなければ相談してくださいね」
夕子は少しほっとした。そして、ダイエット宣言をする目的は無駄な飲み会に参加しないためだったことを思い出した。
「神様お願い!私を飲み会に誘われないようにしてっ!」
夕子はそう言いながら、世の中そんなに上手く行くはずがないと思った。