メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【掌編小説】ちちんぷいぷい

    あき伽耶

    約1000字
    子育てママとその家族、応援ストーリーです。
    (この作品は、小説家になろう、ステキブンゲイにて公開中)


    「もうおうちに帰るよ!」
    「「やだ、もっと遊ぶ!」」

    先ほどから何度繰り返していることか。
    公園で遊ぶ三歳の陽太と二歳の健二はヒーローになりきっていて、帰りたいとはちっとも思っていない。
    イライラして吐いた深いため息の先には、四ケ月の華はなが抱っこ紐の中でぐずり始めていた。私は笑顔であやす気持ちにもなれず、とりあえず華の背中をトントンしながら、夢中で走る兄弟をぼうっと視界に入れた。

    夫の育児休暇が終了して三か月。休暇のしわ寄せで多忙な夫には仕事に専念させてあげたいと、私は一人で懸命に家事と育児をこなしてきた。幼子三人との一日は目まぐるしく、自分の時間なんてない。
    正直、もうクタクタだった。
    しかし先日、見兼ねた夫が手伝うよと言ってくれたとき、私は空元気を出して断ってしまった。夫に心配をかけたくなかったのだ。

    「ママ!」と呼ぶ泣き声で我に返った。
    見ると転んだ健二が膝を抱えて泣いていた。幸い怪我はないようだ。
    私はなぐさめに行こうとしたが、足が重くてすぐには動けなかった。
    先に駆け付けた陽太が私を振り返った。

    「ママの代わりに、僕が健二におまじないしてあげる!」
    (陽太が? 私の代わりに……?)

    かしこまった陽太は一本指を作って両腕をぐるぐると回し始めた。まるでヒーローの変身ポーズだ。

    「ちちんぷいぷいの~プイ!」

    声と同時に、自分の顔と指先を泣き顔の健二にぐいと近づけた。兄の突飛で愉快な行動に、健二は目をぱちくりとさせて泣き止んだ。
    陽太は得意満面だ。
    まさか幼い陽太が、私の代わりに健二を慰めてくれるなんて。
    元気を取り戻した健二は、ぐずり泣く華に気がついて目を輝かせた。

    「健二もプイする!」

    今度は二人で華におまじないをするという。
    ヒーローたちの真剣な表情に引き込まれ、思わず私も華をあやして応援した。

    「「ちちんぷいぷいの~プイ!」」

    おまじないの効果か兄達が面白かったのか、なんと華は泣き止んで笑みを浮かべた。
    やった! とはしゃぐ二人。

    おまじないをかけ合って笑顔になった子ども達を見て、私はふと、何もかも一人で背負い込もうとしていた自分に気がついた。

    「ねえ、ママにもおまじないかけてよ、私も笑顔になりたいな」

    私のお願いに二人は大張り切りだ。

    「「ちちんぷいぷいの~プイ!」」

    弾んだ声が左右で響く。間近で見る紅潮した顔が愛おしい。
    力みすぎて強張っていた気持ちが、和らいでいく。
    夫の申し出を思い出す。

    私、もっと肩を借りよう。

    おまじないをかけられた私の心は、ふわりと温もりに包まれた。



    (了)



    お読みいただきどうもありがとうございました。
    子育て、大変ですよね。
    少しでもこの作品が元気の素になりましたら、嬉しく思います。

     
     
     
    第2回角野栄子もっとあたらしい童話大賞にて「カゲとかけっこ」が最終選考作品となりました。 日本児童文学者協会会員 2022年より創作沼へ。読み手の心と共鳴するモノが書けたら嬉しいです(^^)  童話、ショートショート等々書いてます。他サイトにも作品を投稿、活動詳細はXにて発信中。

    あなたへのおすすめ