
ラピが残してくれたもの
ラピが旅立った翌日、私たちは家族そろって葬儀場へ向かった。
竹籠の棺に横たわるラピは、まるで眠っているようだった。
白い布団にくるまれた姿を見ていると、今にも目を開けてくれそうな気がした。
棺の中には、大好きだったおやつや花を入れた。
家族みんなで何度も体を撫で、何度も名前を呼んだ。
そして最後のお別れをした。
火葬が終わり、お骨を拾う時間になった。
目の前にあったのは、あまりにも小さな骨だった。
ほんの少し前まで家中を走り回っていたラピが、こんなにも小さくなってしまった。
その現実を前にして、私はようやくラピの死を受け入れ始めていた。
家へ帰ると、静けさが残った。
もともとラピは大きな声で鳴く猫ではなかった。
それでも家の中の空気はまるで違っていた。
ソファーの下を覗いてしまう。
帰宅するとケージへ目が向く。
ふとした瞬間に、
「あ、ラピがいない」
と思い知らされる。
そんな日々が続いた。
我が家はラピを迎えた際、生体保証制度に加入していた。
亡くなった場合、代替の子猫を迎えることができる制度だった。
手続きのためにペットショップへ向かった時、一匹のノルウェージャンフォレストキャットの女の子が目に留まった。
実はラピが元気だった頃から、
「ラピのお嫁さんみたいだね」
と家族で話していた子だった。
不思議と心が惹かれた。
けれど、ラピを失ったばかりだった。
まだ四十九日も迎えていない。
新しい子を迎えることに、どこか後ろめたさもあった。
その日は抱っこだけして帰った。
ところが数日後、もう一度会いに行くと、その子はショーケースからいなくなっていた。
新しい家族が決まったのだろうか。
少しほっとしたような、少し寂しいような気持ちになった。
店員さんに尋ねると、
「風邪をひいて奥で療養しています」
とのことだった。
その言葉を聞いた瞬間、不思議なくらい心配になった。
病気の子のお世話なら、私たちはラピからたくさん学んだ。
そして気が付けば、
「この子を迎えたい」
とお願いしていた。
名前は末娘が付けた。
ラピスラズリのもう一つの名前から、
「ラズリ」。
こうして新しい家族を迎えることになった。
そして、その翌日のことだった。
何気なくペットショップのホームページを開いた私は、思わず息をのんだ。
そこには、販売中の猫の一覧の中に、ラピがいた。
最初は見間違いだと思った。
けれど、生年月日も写真も間違いなくラピだった。
もちろん、ホームページ更新の都合だったのだろう。
偶然だったのかもしれない。
それでも私には、ラピが最後に会いに来てくれたように思えた。
「もう大丈夫だよ」
「次の子を迎えてもいいよ」
そう言ってくれているような気がした。
ラピと過ごした時間は、わずか五か月あまりだった。
短すぎる時間だった。
もっと一緒にいたかった。
もっと大きくなる姿を見たかった。
そんな思いは今でもある。
それでも、私は後悔より感謝の方が大きい。
ラピは私たち家族に、たくさんの愛情と優しさを残してくれた。
そしてもう一つ、大切なことを教えてくれた。
人生は思い通りにならない。
出会いも、別れも、自分では選べないことがある。
けれど、その時間が短かったとしても、心から愛した存在と出会えたことは、決して失われない。
ラピと過ごした夏は、私たち家族にとってかけがえのない宝物である。
そしてブルーの毛並みを揺らしながら家中を駆け回っていた小さな家族は、これからもずっと、私たちの心の中で生き続けていくのだと思う。