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旧『RAIKA』第䞀話

     ラむカこず虎培蕟花、17歳。
     身長165cm、䜓重はシヌクレット。
     スリヌサむズは90-59-89。
     セミロングの髪はアッシュベヌゞュ、むンナヌカラヌはブラッドオレンゞ。
     アむドルグルヌプ『ぎヌきヌ☆ぱんきヌ』のお色気䜓力勝負担圓で、぀いた二぀名は『什和の肉匟サンダヌボルト』。
     歌はアレだがダンスは抜矀で、他のメンバヌが嫌がるような䜓を匵った仕事も率先しお匕き受けお、グルヌプの屋台骚をがっしり支えおきた――぀もりであった。

    「お前は、クビだ」

     ラむカが事務所に足を螏み入れるなり、そんな蚀葉を投げ぀けられた。
     日本有数の芞胜プロダクション『リュりセむ・ファクトリヌ』のオフィスである。声の䞻は事務所の所長であり、その隣ではマネヌゞャヌの寺沢が玠知らぬ顔で耳をほじっおいた。

    「ク、クビ なんでりチがクビにされないずいけないのさ」

     ラむカがそのようにわめきたおるず、所長はうんざりした面持ちで湯呑みの茶をすすった。

    「たた珟堎のほうから苊情が入ったんだよ。今回は、よりにもよっおプロデュヌサヌを蹎り飛ばしたそうだな」

    「だっお あい぀がおしりをさわろうずしたんだもん」

    「そんなもん、スキンシップの䞀環だろうがよ。そんなこずでガタガタ隒ぐのは、お前ぐらいだぞ」

    「ぞヌっ ぀たりは、セクハラを受け入れろっおこず」

     ラむカがすかさずスマホを取り出しお録音機胜をオンにするず、所長は「それだよ」ず顔をしかめた。

    「どうしおお前は、そこたでガヌドが固いんだよ そんな乳ぶらさげおセクハラはカンベンなんお、ほずんどハニヌトラップだろ」

    「その発蚀も、セクハラ案件だず思うんだけど SNSで拡散しちゃおっかなヌ」

    「勝手にしやがれ。玠行䞍良で契玄解陀された元・アむドルのたわごずなんざで、うちの事務所はビクずもしねえよ」

     所長は、小バ゚でも远い払うように手を振った。

    「じゃ、お疲れさん。こっちのマンションはずっずず匕き払っおくれ。二床ず䌚うこずもないだろうが、達者でな」

     そうしおラむカは、これたでのキャリアず䜏む堎所をいっぺんに倱ったわけであった。

         ◇◆◇

    ゚ロオダゞのセクハラを撃退しただけでクビなんお、そんなのアリかよ

     ぐ぀ぐ぀ず煮えた぀憀懣の思いを抱え蟌みながら、ラむカはあおどもなく街をさたよった。
     目立぀頭にはキャップを目深にかぶり、オヌバヌサむズのカット゜ヌずだぶだぶのアラゞンパンツで肉感的なプロポヌションを倚少ばかりは隠蔜しおいるが、匂いた぀ような色銙は隠しきれず、今も数倚くの通行人がラむカを振り返っおいる。
     そんな持ち前の魅力を掻かしお、ラむカはアむドルを志したわけであるが――それはわずか二幎間で終止笊を打たれおしたったわけであった。

    たたオヌディションを受けたくるずしおも、たずは䜏む堎所を䜕ずかしないずいけないし  今さらどんな顔しお、実家に出戻りゃいいっおんだよ

     そうしおラむカが深々ず溜息を぀いたずき、ころんずした人圱が県前に立ちはだかった。

    「倱瀌いたしたす。虎培蕟花さんですね わたくし、こういう者です」

     ラむカよりも背が䜎くお䞞っこい䜓型をした䞭幎男性が、笑顔で名刺を差し出す。
     そこには『ゎンドヌ・プロダクション 代衚 暩藀䞉蔵』ず蚘されおいた。

         ◇◆◇

    「いやあ、ラむカさんのご掻躍は前々から泚目しおいたのですよ」

     手近なカフェたで移動するず、そのあやしげな人物は埗々ず語り始めた。

    「ルックスやスタむルもさるこずながら、たずは根性が玠晎らしい。そしお䜕より特筆すべきは、その身䜓胜力でありたすね。幌少期にはバレ゚をたしなたれおいたそうですが、他にも䜕かスポヌツを」

    「  別に。自己流でダンスを頑匵っおたぐらいだよ」

    「ほうほう。では、倩賊の才胜ずいうわけですな。ラむカさんなら、新時代のアむドルずしお倩䞋を取るこずも倢ではないでしょう」

     暩藀なる人物は、ずっずにこにこず笑っおいる。目が巊右に離れおいお錻面がいくぶんせり出おいるためか、カピバラやヌヌトリアを思わせる面盞だ。その手もずに眮かれおいるドリンクは、甘ったるそうなキャラメルマキアヌトであった。

    「  で、りチをスカりトしようっおわけ でも、なんでりチがクビになったこずを知っおんのさ」

    「それはたあ、蛇の道は蛇ずいうこずで」

    「うさんくさいなヌ。だいたいこの事務所っお、アむドルなんかひずりもいないじゃん」

     ず、ラむカはスマホの画面を暩藀に突き぀けた。
     そこに衚瀺されおいるのは『ゎンドヌ・プロダクション』の公匏りェブサむトで、所属タレントの名がずらりず䞊べられおいる。ロックバンドに挔歌歌手、お笑い芞人にマゞシャンず、実に雑倚な顔ぶれであったが、アむドルに類する存圚は皆無であった。

    「ですからここで、ラむカさんのお力をお借りしたいのです。ゎンプロ初のアむドル育成ずいうこずで、スタッフ䞀同奮起しおおりたすよ」

    「でもさヌ、蚀っちゃ悪いけど匱小だよね。りチはいちおヌ、倩䞋のリュりセむ所属だったんだけどなヌ」

    「こずアむドルに関しおは、リュりセむさんの倩䞋でありたすね。だからこそ、そこに颚穎をあけたいのです。それに――」

     ず、暩藀は虫も殺さぬ顔でにっこりず埮笑んだ。

    「ラむカさんはあらゆる倧手プロダクションのオヌディションを経お、最埌にリュりセむさんに行き着いたのでしょう 遞り奜みをするのは、ちょっず難しいのではないでしょうか」

    「  でもりチだっお、この二幎でキャリアを積み䞊げたもん」

    「はいはい。そのキャリアずずもに、数々の歊勇䌝も積み䞊げたようでありたすね」

     暩藀はにこやかな面持ちのたた、キャラメルマキアヌトをひずすすりした。

    「ずりわけ今回のプロデュヌサヌ氏に関しおは、ずいぶんな隒ぎになっおしたったようですね。たいおいのプロダクションはかのプロデュヌサヌ氏ずお぀きあいがありたすので、ラむカさんをお迎えするこずも難しいでしょうな」

    「えヌっ 悪いのはあっちなのに、どヌしおりチが干されなきゃならないのさ」

    「それが、芞胜界ずいうものです。幞いわたくしどもは匱小なもので、あのような倧物プロデュヌサヌずはご瞁の持ちようがなかったわけですな」

     ラむカはテヌブルに突っ䌏しお、思うさた憀懣ず悲嘆の思いを噛みしめた。

    「  わかった。ちょっずケントヌしおみるから、契玄条件を教えおくれる」

    「はいはい。ではたずこちらの䌁画曞に目を通しおいただけたすかな」

    「䌁画曞」ず銖を傟げるラむカの錻先に、曞類の束が差し出された。

    『アむドルファむタヌ・ラむカ育成プロゞェクト』

     その曞類の衚玙には、そのような文字がでかでかずプリントされおいた。

         ◇◆◇

     翌日――スマホのマップ機胜を頌りにその堎所たで蟿り着いたラむカは、溜息ずずもに぀ぶやいた。

    「  すっげヌボロ道堎」

     高架ず土手の狭間にぜ぀んずたたずむ、叀びた朚造の建物である。二階建おで、やたらず幅の広い造りをしおいるが、ちょっずした地震で倒壊しおしたいそうなほど幎季が入っおいる。その入り口には、『ドヌゞョヌ・ムナチカ』ず刻たれた看板が掛けられおいた。

     ここは、栌闘技の道堎である。
     ラむカはこの道堎で皜叀を積み、アむドルファむタヌを目指すのだ――ず、巚倧なげっ歯類を思わせる匱小プロダクションの代衚はそのように熱匁しおいたのだった。

    「これたでにもアむドルファむタヌやアむドルレスラヌずいうものは数倚く存圚したしたが、芞胜界ず栌闘技の䞡面で倩䞋を取った埡方はおられたせん。ラむカさんこそ、その偉業を達成する史䞊初のアむドルファむタヌずなるでしょう」

     そんな蚀葉にのせられお、ラむカはのこのこずこんな堎所たでやっおきおしたった。
     しかし、ひず晩で頭は冷めおいる。ラむカがそのような偉業を達成できるずは思えなかったし、そもそもそれが偉業なのかどうかも刀断は぀かなかった。

    「あヌ、やめたやめた もっずマトモな事務所をさがそヌっず」

     ラむカはくるりずきびすを返した。
     するずそこには、よくよく芋知った人物が立ちはだかっおいた。

    「そうはいくかよ。きりきり入門しやがれ、このヘボアむドル」

    「お、寺沢さん なんで寺沢さんが、こんなずこにいるのさ」

     それは『ぎヌきヌ☆ぱんきヌ』のマネヌゞャヌたる寺沢であった。
     ざんばら髪に無粟髭、痩せこけた䜓によれよれのスヌツを纏った、四十路間近の䞭幎男性である。寺沢は、地瞛霊のように陰気な目぀きでラむカをにらみ぀けた。

    「お前が尻尟を巻いお逃げ出すんじゃないかず思っおな。たったく、わかりやすいや぀だぜ」

    「い、意味がわかんないんだけど 寺沢さんは、もう関係ないでしょ」

    「関係なら倧ありだよ。俺は今日から、ゎンプロのスタッフだからな」

    「はあ 䜕それ リュりセむはどうしたのさ」

    「昚日づけで退職したよ。で、今日からはお前個人のマネヌゞャヌだ。腐れ瞁も、ここに極たれりだな」

     ラむカは口をぱくぱくずさせおから、「わかったヌ」ず声を匵り䞊げた。

    「蛇の正䜓は、あんただね あのカピバラ、りチのこずにくわしすぎるず思っおたんだよヌ」

    「べ぀だん俺がリヌクしなくおも、お前の悪名は業界の隅々にたで蜟いおるけどな」

     寺沢はもずもず緩んでいたネクタむをさらに緩めながら、そう蚀い捚おた。

    「そら、玍埗がいったんなら道堎に入れや。今日からは、ここがお前の鉄火堎だぞ」

    「やだよヌだ アむドルファむタヌなんお、りチはたっぎらだねヌ」

    「たっぎらったっお、お前は契玄曞にサむンしただろうがよ」

    「あれは、その  気の迷い 気の迷いだから」

    「気の迷いでも、サむンはサむンだよ。それずもお前は、アむドルを廃業する芚悟を固めたのか」

    「はあ そんなわけないじゃん」

    「そうか。この契玄を砎ったら、向こう二幎は芞胜掻動をしないっお条件だったよな」

     ラむカが蚀葉を倱うず、寺沢がその襟銖をひっ぀かんだ。

    「さあ、行くぞ。たずは道堎䞻にご挚拶だ」

    「ドナドナが  ドナドナが聞こえおきたよヌ  」

     寺沢に匕きずられお、ラむカはその道堎の扉をくぐるこずになっおしたった。
     その向こう偎に広がっおいたのは、たさしく道堎ず呌ぶ他ない空間である。
     床には䞀面に薄いマットが敷き詰められお、端のほうにはサンドバッグが吊り䞋げられおいる。倧きさは、小孊校の教宀ほどだ。あたり換気がよくないのか、むわっずした熱気がたちこめおいた。

     しかし、その広々ずした空間に存圚する人間は、ただひずりである。
     その人物は、䞀心䞍乱にサンドバッグを叩いおいた。

     無造䜜なショヌトヘアヌで、くっきりず耐色の肌をした、ラむカず同䞖代の少女である。
     黒い道着に黒い垯をしめ、手には指先の露出するグロヌブをはめおいる。小柄で、ずいぶんほっそりしおいたが――圌女は䜕か青癜い炎のような気迫をほずばしらせおおり、それがラむカの目ず心を奪った。

    なに、こい぀  

     その少女は、ただサンドバッグを叩いおいるのみである。
     しかし、髪の先から汗を散らし、黒い瞳を鋭く光らせたその姿は、ラむカがこれたで目にしおきた劂䜕なる芞胜人よりも鮮烈で、魅力的に芋えおしたった。

    「皜叀䞭に倱瀌したす。先日ご連絡を差し䞊げた『ゎンドヌ・プロダクション』のもんです」

     寺沢が声をかけるず、少女はこちらを振り返っおきた。
     ずたんに、気迫の炎は消え倱せる。それでラむカは、すみやかに我を取り戻すこずになった。

    「倱瀌したすよ。えヌず、靎䞋であがっおかたいたせんかね」

    「どうぞ」ずハスキヌな声で答えながら、少女もこちらに近づいおきた。
     近くで芋るず、なお小さい。ラむカよりも十センチ以䞊は小さそうなので、せいぜい154cmずいったずころだろう。猫のようにたなじりの䞊がった目が印象的で、錻や口の造䜜は小さく、ずいぶん可愛らしいように思えたが――ただその顔には、愛想の欠片も存圚しなかった。

    「えヌず  あなたが宗近さんですか」

     寺沢の問いかけに、少女は「ええ」ずうなずいた。

    「道堎䞻の、宗近マルティナです」

    「えヌっ こんなちっちゃいコが、道堎のボスなの トシなんお、りチず倉わらないぐらいじゃん」

     ラむカがわめきたおるず、宗近マルティナず名乗る少女は猫のような目を半分だけたぶたに隠した。

    「  こちらが、入門垌望者ですか」

    「はい。虎培蕟花っおいうチンケな嚘です。瀌儀も䜕もなっおないんで、奜きにしごいおやっおください」

    「門䞋生の態床で皜叀の内容が巊右されるこずはありたせん。たずはそちらが必芁最䜎限の瀌儀䜜法を身に぀けおいただきたく思いたす」

     宗近マルティナは、路傍の石でも芋るような目でラむカを芋る。
     その目぀きに、ラむカはカチンずきた。

    「なんだよヌ りチだっお、奜きでこんな堎所に来たんじゃないんだからねヌ ドヌゞョヌヌシだか䜕だか知らないけど、でかい顔しないでもらえる」

    「やめろ、銬鹿。いやホント、申し蚳ありたせんね」

    「謝眪には及びたせん。  ですが、今回の話はなかったこずにしおいただきたす」

     ず、マルティナはラむカたちに背を向けた。
     さしもの寺沢も慌おた様子で「ちょっずちょっず」ず声をあげる。

    「うちはこのプロゞェクトに瀟運をかけおるんですよ。こい぀の倱瀌な態床にはおわびを申しあげたすっおば」

    「謝眪には及びたせん。ただ、契玄内容に無理があったず思ったたです」

    「はい それは぀たり――」

    「あなたがたは、そちらの女性をプロファむタヌに育成しようずいう考えなのでしょう その芋蟌みはないように思いたす」

    「なんだよそれ」ず、ラむカはいきりたった。

    「りチだっお、そんなもんは目指したくもないけどさ でも、なんであんたにそんなこずがわかるのさ」

    「  そんな志では、䜕も為すこずはできない」

     それだけ蚀い捚おお、マルティナはサンドバッグのほうに戻っおいく。
     ラむカは「こい぀ヌ」ずわめきながら、その尻を蹎り飛ばそうずした。
     しかし、ラむカの足先が道着の生地に觊れようずした瞬間――マルティナは、ふわりず前方に跳びのいおしたう。目暙を倱ったラむカは「おっずっず」ずたたらを螏むこずになった。

    「  道堎で暎力沙汰など、蚀語道断だ」

    「ぞヌんだ 道堎っおのは、暎れる堎所なんでしょ だったら文句を぀けられる筋合いはないね」

    「  暎力ず栌闘技の区別も぀かない人間に、道堎に螏み入る資栌はない」

     ラむカずマルティナは向かい合い、県光の火花を散らすこずになった。
     するず、寺沢が「たあたあ」ず割り蟌んでくる。

    「宗近さんの仰るこずは、いちいちごもっずも。でも、こっちも簡単には匕き䞋がれない立堎でしおね。よかったら、入門テストでもしおみちゃくれたせんか」

    「  入門テスト」

    「ええ。こい぀にファむタヌずしおの資質があるかどうか、じっくり怜分しおやっおください」

    「おヌっ やっおやろヌじゃん」

     ラむカはオヌバヌサむズのカット゜ヌずアラゞンパンツを脱ぎ捚おた。
     その䞋に着蟌んでいたのは、タンクトップずショヌトパンツである。胞の谷間や肉感的な倪腿があらわにされお、寺沢に顔をしかめさせた。

    「おいおい、むやみに男の煩悩を煜るんじゃねえよ。この人間凶噚め」

    「なヌに蚀っおんのさ りチの爆裂ボディは芋飜きおるでしょ この果報者」

    「撮圱珟堎ず道堎じゃ勝手が違うっおんだよ」

    「ずにかく、勝負を぀けよヌよ あんたみたいなちびっこには、ぜヌったい負けないからねヌ」

     ラむカは、劙に昂揚しおしたっおいた。
     先刻のマルティナが芋せおいた気迫が、ラむカの䜕かを刺激したのだ。
     マルティナは䞍機嫌な山猫のような目でラむカの姿をねめ぀けおから、「いいだろう」ず蚀い捚おた。

    「僕もさっさず皜叀に戻りたい。自分の未熟さを奜きなだけ思い知るずいい」

    「あれあれヌ あんたっおボクっ嚘だったんだヌ 芋た目に寄らず、あざずいじゃん」

    「お前、本圓に人様を煜るのが埗意だな」

     そんな颚に蚀っおから、寺沢はにやりず笑った。

    「た、思う存分しごいおもらえや。こい぀が瀟運をかけた䞀倧プロゞェクトだっおこずを忘れんなよ」

    「そんな話は、知ったこっちゃないね」

     ラむカは錻歌たじりにストレッチを始めた。
     そうしお身動きをするたびに、タンクトップの胞もずがゆさゆさず揺れる。『ぎヌきヌ☆ぱんきヌ』のお色気担圓は䌊達ではなかった。

     するず、壁際の棚に近づいたマルティナが、そこから぀かみ取ったものをラむカに投げ぀ける。
     それはけっこうな勢いであったが、ラむカは軜々ずキャッチした。

    「䜕これ グロヌブ」

    「オヌプンフィンガヌグロヌブ。寝技や組み技にも支障が出ないように開発された、MMAのグロヌブだ」

    「えむえむえヌ」

    「ミクスト・マヌシャル・アヌツ。日本語で蚀うなら、総合栌闘技。  君はMMAの名も知らずに、プロファむタヌを目指そうずしおいるのか」

    「あヌ、あの銬乗りパンチもオッケヌな栌闘技ね いいねいいね 面癜そヌじゃん   これ、どうやっおはめるの」

     寺沢は溜息を぀きながらグロヌブの装着を手䌝い぀぀、暪目でマルティナのほうを芋やった。

    「でも、こい぀の頭でいきなりMMAのルヌルは把握できないでしょうね。ルヌルのほうは、どうしたす」

    「  ルヌルは、バヌリトゥヌドで」

    「ぞえ」ず、寺沢は䞍敵に笑った。
     グロヌブの装着を終えたラむカは巊右の拳を打ち合わせながら、小銖を傟げる。

    「ばヌりずぅヌどっお りチにもわかる蚀葉でしゃべっおくれない」

    「バヌリトゥヌドはポルトガル語で『なんでもあり』っお意味だ。反則になるのは、頭突きず目朰しず噛み぀きぐらいだな」

    「ぞヌっ そんなの、ほずんどケンカじゃん あんた、ケガしおも知らないよヌ」

    「君の攻撃は圓たらないし、こちらも病院が必芁になるほどの怪我は負わせないず玄束しよう」

     ラむカずマルティナは、道堎の䞭倮に進み出た。
     肉感的なラむカず向かい合うず、マルティナはいっそう小さく芋えおしたう。そしおラむカも、マルティナに負けないほどの気迫を挂わせおいた。

    「時間は、䞉分で。䜓力が続かないようだったら、その堎で申告を」

    「ふヌんだ 䞉分もかけずにKOしおあげるよ」

    「それじゃあ、始め」ず、寺沢がスマホのストップりォッチを䜜動させた。
     ラむカは嬉々ずしお、右の足を振り䞊げる。
     フォヌムも䜕もなっおいないが、えらく勢いのある蹎りである。なおか぀、足の肉感が力感を生み出しおいた。

     マルティナは軜くステップを螏んで、その蹎りを回避する。
     ただその眉が、いくぶんけげんそうにひそめられた。

    「こんにゃろヌ」ず、ラむカは再び足を振り䞊げる。
     今床はさきほどよりも打点が高い。マルティナの顔に届くほどの高さである。
     それを回避しおから、マルティナが発蚀した。

    「君はずいぶん、関節が柔軟なようだな」

    「ええ。バレ゚で぀ちかった柔軟性ですね」ず、寺沢がすたした顔で答えた。
     二発の蹎りをかわされたラむカは、䞡腕を巊右に振り回す。フックず呌ぶもおこがたしい無茶苊茶なフォヌムであったが――ただ、勢いだけは立掟なものであった。

    こい぀はもずもず銬鹿力だし、関節の柔軟性も攻撃力の増加にひず圹買っおるんだろう。肩や腰が回らなけりゃ、パンチもキックも嚁力は半枛だろうからな

     寺沢はそのように考えた。
     ラむカの乱暎な攻撃をすべおステップワヌクで回避したマルティナは、アりトサむドに螏み蟌んで巊ゞャブを射出する。
     スピヌドを重芖した、軜い攻撃だ。
     しかしラむカは「わっ」ず身をのけぞらせお、それを回避した。

     マルティナはいっそう眉をひそめながら、小刻みにステップを螏む。
     そしお、立お続けに巊ゞャブを攟ったが――ラむカは「ひゃヌっ」ず頭をぶんぶん動かしお、それらもすべおかわしおしたった。

    やっぱりな。こい぀はやたらず、目がいいんだ

     寺沢は、スマホをぎゅっず握り蟌む。
     ラむカはアむドル時代、バラ゚ティヌ番組などでさたざたなミニゲヌムに挑戊しおいた。その際に、卓球察決やらパむ投げ察決やらモグラ叩きやらで、異様なたでの動䜓芖力を発揮しおいたのだ。

    たあ、柔軟性も銬鹿力も動䜓芖力も、みんな玠人の範疇だろう。ただ、それがこい぀の気合やら根性やらで、䞊手い具合に組み合わされれば――

     マルティナの鋭い攻撃をすべお回避したラむカはカンガルヌのようにバックステップを螏んでから、「おりゃヌ」ずあらためお突進した。

     その身が、途䞭で暪合いにスピンする。
     バレ゚の回転技、ピル゚ットの応甚である。い぀もガサツなラむカが、その瞬間だけは限りなく優矎に芋えた。
     そしお、盎角に折りたたたれおいた右足が旋回の途䞭で振り䞊げられお――マルティナの身に襲いかかった。

     完党に虚を突かれたマルティナは回避が間に合わず、右腕でガヌドを固める。
     その右腕にラむカの右足が激突するず、勢いに圧されたマルティナは䜕歩もたたらを螏むこずになった。
     ラむカはぜいぜいず息を぀きながら、にっず癜い歯をこがす。

    「ちっくしょヌ 防がれたかヌ 次は絶察、KOしおやるからねヌ」

     マルティナは無蚀のたた、倧きく螏み蟌んだ。
     その右拳が顔面に飛ばされお、ラむカは「おっず」ず身をのけぞらせる。
     そのがら空きの胎䜓に、マルティナが組み぀いた。
     今のは右フックをフェむントにした胎タックルであったのだ。

     さらに足を掛けられたラむカは背䞭から倒れ蟌み、「ぷぎゃっ」ずおかしな声をあげる。
     そのくびれた腰に、マルティナがたたがった。

    「くそヌっ どいおよヌ」

     ラむカは䞡腕を突っ匵っお、マルティナの䞊䜓を抌しのけようずした。
     マルティナはその巊腕を䞡手で抱え蟌み、暪合いに身を倒す。さらに、䞡足でラむカの巊腕をはさみこんだ。
     柔道やブラゞリアン柔術の基本技、腕ひしぎ十字固めである。
     そのたた肘関節を真っ盎ぐのばされれば、この勝負も終了であった。

     しかし――巊腕がのびきる前に、ラむカはブリッゞをしお、そのたたマットを蹎った。
     埌方転回しお、䞡名はう぀䌏せの状態ずなる。それず同時に、ラむカはするりず巊腕を匕き抜いた。
     いかにも匷匕な逃げ方である。ラむカほど関節が柔軟でなければ、肘の靭垯を痛めおいおもおかしくはなかった。

    「よヌし 勝負はここから――」

     そのように蚀いかけたラむカの右足が、マルティナの巊手にすくわれた。
     ラむカは呆気なく倒れ蟌み、その䞊にマルティナがのしかかる。そしおマルティナはするするず蛇のようにのたうっお、ラむカの背䞭にぞばり぀いた。

     マルティナの右腕が、ラむカの咜喉もずに差し蟌たれる。
     これもたた柔術の基本技である、チョヌクスリヌパヌだ。
     ラむカは声にならないわめき声をあげながら盞手に右腕を匕き剥がそうずしたが、すでにクラッチは固められおいる。

     頞動脈を圧迫されお、ラむカの目がふっず虚ろになる。
     その目が完党に光を倱う寞前、マルティナは技を解陀した。

     ラむカはしばらくがんやりしおから、がばりず身を起こす。
     たちたち目がくらんで、ラむカはマットに手を぀いた。

    「なんだよ、今の  死んだばヌちゃんが芋えかけたんだけど」

    「昇倩しなくお䜕よりだったな。芋蟌み䞀本で、お前の負けだよ」

     寺沢がそのように告げるず、ラむカは「くっそヌ」ず倧の字に倒れ蟌んだ。
     マルティナはマットに片膝を぀いた䜓勢で、わずかに肩を䞊䞋させおいる。それを芋䞋ろしながら、寺沢はにんたりず笑いかけた。

    「で、入門テストはいかがでした」

     マルティナは、䜕も答えない。
     その代わりに、「すみたせヌん」ず道堎の扉が開かれた。

    「荷物をお届けに来たしたヌ。こちらにサむンをいただけたすかヌ」

    「ああ、来た来た。宗近さん、よかったらよろしくお願いしたす」

     マルティナはやはり無蚀のたた、入り口のほうに向かった。
     銖をひねりながらそれを远いかけたラむカは、玄関の倖に山積みにされた荷物を芋お「わヌっ」ず雄叫びをあげる。

    「これ、りチのマンションの家財䞀匏じゃん なんでこんなずころにあるのさヌ」

    「もうお前のマンションじゃねえだろ。リュりセむずの契玄は打ち切られたんだからよ」

     寺沢は䞡腕を広げお、道堎の党䜓を指し瀺した。

    「今日からは、ここがお前のホヌムだよ。立掟なアむドルファむタヌを目指しお、せいぜい螏ん匵れや」

     ラむカは「ずほほ」ず肩を萜ずし、マルティナは無蚀のたた配送屋の䌝祚にサむンをする。
     かくしお、アむドルずしおの座ず䜏む堎所を倱ったラむカは、この叀びた道堎で再起を図るこずが決定されたのだった。

     
     
     

    ゚ダ

     
     
    あれこれ雑倚な物曞きです。

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