
七色仮面 牡猫ヌルの犯罪履歴書 4
犯罪歴4 5匹 vs. 三銃士
おーい、みんな元気かい?
まだ六月だというのにこの暑さは異常ニャン。
俺たち猫族は毛皮を羽織っているので、寒さには強いが暑さには弱いニャ。
*
「うちのメロンちゃんも、サマーカットにしてあげましょうね」
今、俺がお世話になっている宮川トメさんは優しいお婆さんだ。
でも、サマーカットは俺は断固拒絶するぜ。今は俺はあの気品高いシャム猫に変身しているからだ。目は吸い込まれるように透明な摩周湖の碧色だニャ、だからここでは「メロン」と呼ばれているわけニャ。
トメ婆さんはもう九十歳に近いが、一人でなんとか生活している。旦那さんは六十歳でころりと死んでしまい、二人息子がいるが、車で30分ほどの距離に別々に暮らしている。
というわけで、俺の責任は重い。
・婆さんのガスのつけっぱなしを見張る
・家の戸締りのチェック
・冷蔵庫の中の賞味期限切れ食品を捨てる
・ネズミを退治する
・朝にはトメ婆さんの生存確認をする
・オレオレ詐欺らしい電話がかかってきたら、電話を横から叩き切る
・トメ婆さんは気が付いてないが、生ゴミは俺が夜中にゴミ出ししている。婆さん、ポリ袋に生ゴミを入れるが、出すのをすぐ忘れるからニャ
これだけでも、結構俺の仕事は多いのはわかってくれるね。
ただ、ここ最近、とんでもないことが起きて、もう俺はパニック状態ニャ。
**
ピンポーン
朝の8時30分、毎朝、外玄関のチャイムが押されるのだ。
トメ婆さんは、チャイムが鳴るたびに(耳が遠いのでチャイムが鳴ると、居間の赤い電気がついて回転するようになっている)、玄関を出て、よろよろと外階段を降りていくニャ。
トメ婆さんの家は道路から一段高い敷地に建っており、一階はシャッター付きの駐車場になっている。そして外玄関から12段の階段を登って、やっと家の玄関に辿り着くのだ。
そして、500メートルほど近くに小学校があり、トメ婆さんの家の前の4メートル道路は通学路になっている。
そして、5月から奴らの攻撃が始まったのニャ💢
俺の地域猫仲間の証言を集めるとこの3人組の悪行は許せない。
ここは奴らも言い分があるだろうから、奴ら3人組に実態を語らせよう。
***
「今日もあの婆さんいるかな?」
隼人はそっと庭を覗き込んだ。綺麗に手入れされた薔薇の生垣の隙間から、一人住まいの宮川トメ婆さんの家の玄関と居間がかろうじて確認できた。ピタリと隣に貼りついた三郎と和夫も少し緊張しているようだ。この高揚感がたまらないんだ。
「カーテンが少し動いたから、いるみたいだよ」
ちびの三郎が声を落としてつぶやいた。
「さあやるぞ」
この家は小学校への通学路で一番怖い家だ。
ピンポン ピンポン
隼人と三郎はチャイムを二度鳴らすと、トメ婆さんが飛び出してくるのを待った。一目散に逃げる用意はもちろんできている。なにしろ、この前はトメ婆さんの待ち伏せにあい、
バケツで頭から水をかけられてしまったからだ。
*
通学路の家のチャイムを鳴らして逃げる遊び、「ピンポンダッシュ」は彼らの小学校で人気である。特にこの5月から爆発的に流行り出していた。
住人が出てきて不思議そうにあたりを見回したり、怒って怒鳴り散らすのを見るのがたまらないスリルだからだ。
ピンポンダッシュが成功した時は、家で怒られたり、テストの点が悪かったりしたストレスがすっ飛んだ。
「俺たちは三銃士だ、血盟団だ!」
隼人はついこの前に読書感想文を書かされた小説にはまっていた。
「ダルタニャンって、猫の名前みたいでかっこういいよな」
猫を飼いたくてしょうがないが、お母さんにだめだといわれて落ち込んでいる和夫がうなづいた。
おいおい、おまえ、顔を洗ってきたのかよ。
「ストレス発散だ」
三郎が鼻水を拭きながら笑った。三郎は自分の名前にひどいコンプレックスをもっていた。本当はいま流行りのキラキラネームをつけてほしかったのだが、昔気質の職人の父親は、子どもに一郎、二郎、三郎、花子とつけていたからだ。
「はは、本当に犬の名前のようだ」、隼人は笑いが込み上げたが、彼も自分の名前が父親の好きな芋焼酎の名前から付けられたとは知るよしがなかった。
「怖いおっさんやおばさんがいる家ほど、やりがいがあるよな」
和夫が野球帽を斜めに被り、声を出さずに笑った。和夫はちょっと可哀そうな家庭環境で、両親は和夫が産まれる前に離婚しており、母一人、子一人で駅北口の市営住宅で生活している。
和夫はお父さんの顔も見たことがないのだ。病弱な母親はそれでも頑張って近くのコンビニ店員として働いているが、休みがちで収入も少なかった。意外と優しいところがあり身体が大きい隼人は、小さくなったズボンやトレーナーを和夫にあげたりしていた。今、和夫が被っているライオンズの帽子もその一つだ。もちろん給食当番の時は、和夫のおかずやカレーは大盛にしてやっていた。
*
しかしながら、毎朝、ピンポンダッシュをやられた当人はたまったものではない。当然、彼らも自衛策をいろいろ考えてくる、その攻防がこの悪ガキ三人にとって、楽しいのだと
いえる。
山本さんという立派なコンクリート造りの家の奥さんは、毎朝のピンポンダッシュに閉口して、ついには門のチャイムボタンをはずしてしまった。まあ、門を開けて家の庭に入り玄関のチャイムを鳴らすのはさすがにまずいから、隼人たちはこの家はあきらめた。そう、「ふほうしんにゅうざい」とかになると、クラス一の秀才の達也が言っていたな。
怖いハスキー犬がいる佐藤さんの親爺は、子どもの手が届かない高さにチャイムを付け替えてしまった。これは、定規で対応できた。
オレンジ色のスペイン瓦が自慢の茂木さんの家は、門に防犯カメラを二台もつけて防衛してきた。仕方ない、この家は雨の日だけ、傘で姿を隠して押してやった。
まいったのは、隼人たち三人のアイドル的存在の美少女中学生マヤのいる手塚さんの奥さんだ。奥さんも虫も殺さないような美人で優しそうな人に見えた。ところがどっこい、
この奥さん只者ではなかった。いつものようにチャイムのボタンを押した三郎が、ダッシュして逃げながら、突然泣き出した。
「おい、どうした?
「指がヒリヒリと痛いんだよ~」
どうやらチャイムのボタンに何か「毒」を塗ってあったようだ。三郎の指は赤くただれて、腫れあがっていた。隼人たちにはその毒が何かわからないが、ここは美人奥さんの勝利だった。
*
まあ、今時の小学生も色々ストレスがあるのだろうが、だからと言って俺のトメ婆さんにイタズラしていいわけがない。
日本中が真夏日の暑い日の夜、俺たちの集会所稲荷神社に俺たちは集まった。
「みんな、かくかくしかじか………」
「それは許せないな、みんな、いい対抗策を考えてやろう」、みすず姉御の少し垂れ下がった髭が怒りで震えている。
「奴らの犯行時間は決まっているから、待ち伏せはできるニャ」
「奴らは自分たちのことを三銃士とか言って気取っているぜ」
「それが何よ、私たちは五銃士よ、数でも勝っているわ」、ルビーは結構強気だ。
「あそこの空き地に監視カメラが捨ててあったから、俺が拾ってくるよ」、ゴンタもやる気満々だ。
***
さあ、今日は奴らを懲らしめる日だ。
俺たちは外玄関の上の茂みに姿を隠して、奴らがくるのを待った。
「来た、来た」
見張のルビーが尻尾を振り俺たちに合図している。
悪ガキ3人はやはり今朝もトメ婆さんの家のチャイムを押すつもりのようだ。
一番身体のでかいガキ、一番悪そうなガキがチャイムに手をかけた。
「今だ、天誅! ニャン砲発射!」
みすず姉御の号令いっか、俺たち5匹は、庭のフェンスの隙間から一物を突き出し、ニャン砲を発射した。
車庫の上の茂みから俺たちは飛び出して、上から奴らに小便をぶちかましたニャ。
昨日は猫草とニラ、ニンニクをたっぷり食べたから、相当の臭いだろう。俺たちの小便は、見事に奴ら3人の頭に降りかかった。
もちろん、牡猫3匹、雌猫2匹なので、放物線は綺麗には揃わなかったが、効果はすごかったニャ。
「ぎゃー」
「ひえー」
「わーん」
口ほどにもない、俺たちは勝鬨をあげたぜ!
ニャン、ニャン、ニャ〜ン🎵

***
「今日もあの婆さんいるかな?」
隼人はそっと庭を覗き込んだ。綺麗に手入れされた薔薇の生垣の隙間から、一人住まいの宮川トメ婆さんの家の玄関と居間がかろうじて確認できた。ピタリと隣に貼りついた三郎と和夫も少し緊張しているようだ。この高揚感がたまらないんだ。
「カーテンが少し動いたから、いるみたいだよ」
ちびの三郎が声を落としてつぶやいた。
「今日はあの猫どもはいないようだよ」
「さあやるぞ」
この家は小学校への通学路で一番怖い家だ。何せ地域猫どもがガードしていて、先週は頭から小便をかけられて撃退されていたからだ。
それでも懲りないのがこの三銃士のすごいところだ。
こんなに暑いのに、猫たちの小便に備えて3人ともカッパをきている。
ピンポン ピンポン
隼人と三郎はチャイムを二度鳴らすと、トメ婆さんが飛び出してくるのを待った。一目散に逃げる用意はもちろんできている。
「あれ? トメ婆さん、出てこないな」
隼人と三郎、和夫は顔を見合わせた。門を少し開けて覗き込むと、居間の窓に婆さんの飼い猫のメロンが「ぎゃおん、ぎゃおん」鳴いている。いつもは大人しいシャム猫だが、網戸を押し破りそうな勢いで、こちらに鳴きわめき、何かを訴えかけているようだ。
「おい、何だか変だぞ」
「強盗でも入ったのかな?」
まだ、学校の登校時間には十五分ほど余裕があったので、好奇心にかられた隼人と三郎、和夫は、そっと門を開け階段を登り小さな庭に入った。やはり綺麗に刈り込まれた芝の上を、音を立てずに居間の窓に近づいた。
猫のメロンは、今度は何か訴えるような声を出している、まるで隼人たちを呼んでいるようだった。網戸から居間の中を覗くと、テレビの前に誰か横になっていた。
「あんなところでトメ婆さん寝ているよ」
三郎があきれて肩をすくめた。トメ婆さんはテレビの前にうつぶせに倒れていた。
「寝てるんじゃないぞ! トメ婆さん、倒れているぞ!」
***
「君たち、よく通報してくれたね。宮川トメさんは脳梗塞で倒れて、搬送がもう少し遅れていれば危ないところだった」
救急隊の格好いい救命士が、隼人たちをほめてくれた。隼人はその制服姿を見て、俺も救急隊員になろうと決心した。
「のうこうそく?」
和夫が首を捻った。
「脳の血管が詰まる病気だよ。発見がもう少し遅れたら、危ないところだったよ。それにしても、君たちは家の中で倒れていたトメさんに、どうして気づいたのかね?」
「それは、ピンポン……」
言いかけた三郎の脇腹を思いきりこずいて、隼人は胸を張った。
「家の前を通ったときに、トメさんの飼い猫が異常な鳴き方をしていました。心配になってチャイムを鳴らしましたが、応答がないので窓から部屋を覗きました。実は僕たち三人は、三銃 ―、いえ、自称『老人見守り隊』を結成しています、エヘン」
「見守り隊?」
「はい、通学途中の一人住まいのお年寄りの家に異変がないか、僕たちはいつも気にかけて通学しています。昨年ですが、うちのお婆ちゃんが誰も家にいないときに階段で転んで大けがしたことがありましたから」
隼人はピンポンダッシュのいたずらがばれないように、口から出まかせを言った。
(俺注;お前ら、嘘八百だろ!)
「それは偉いね、君たち三人は消防署から表彰されることになるよ」
「えっ、本当!」
隼人、三郎、和夫の三人は、実際に消防署から人命救助で表彰され、そのことは美談として地方紙にも写真付きで掲載された。消防署長の横で、隼人ら三人はフラッシュが眩しいのか目を細め、微妙な表情をしていた。表彰状のほかに、「ドラえもんのおしゃべり目
覚まし時計」がもらえるとのことだった。
(俺注;チッ!)
「やった! あのドラえもん時計は一月に発売と同時に売り切れ、手に入らない貴重品だよ。ずーと僕は欲しかったんだ」
「朝、ドラエモンがしゃべって起こしてくれるんだよね」
学校の全校集会では校長先生が全生徒の前で隼人たち三人の善行を誉めそやした。担任の石川先生だけは釈然としない顔だ、三人の日頃の悪行を知っているから疑うのは当然であった。
「お前が表彰されるなんて、たまげたよ」
家に帰ると、いつも怒鳴る母ちゃんが隼人の頭を撫でた。

*
「でも、まいったな。『老人見守り隊』なんてでまかせ言ったから、ピンポンダッシュはできなくなったし、交番の警官から渡された一人住まいの老人宅リスト十五軒の家を毎日見回ることになっちまったじゃないか」
「それに、新聞に俺たちの写真が出ちまったから、悪さできなくなっちまったよ」
「ひょうたんからゴマ、とかいうじゃん。見回りの家のお爺さんお婆さんからお菓子をもらえたりするから、僕は嬉しいよ」
和夫の帽子には、やはり副賞としてもらった防災バッチが光っている。
***
ある夜の稲荷神社。
「ハー」
「フー」
「ニャロー」
俺たち地域猫はため息をついた。あの悪ガキ三人が表彰されたことに皆納得がいかない。
「まあ、結果オーライじゃないかい、イカのキンタマとかいう諺があるニャろう」、みすず姉御は流石に大人(ご老体)だ。
(俺注;「イカのキンタマ」は放送禁止用語かな、そうならNOTE運営さん、削除お願いニャ)
***
【七色仮面 4】
容姿;シャム猫
名前;メロン
ご主人;宮川トメ
制裁対象;悪ガキ3人
犯罪;迷惑条例違反、汚物散乱罪