メインコンテンツへスキップ
見出し画像

「会社員、セクハラが怖すぎて『髪のびました?』しか言えなくなった話」


    会社員。

    近年、セクハラが厳しいのはよくわかっている。

    もはや若い子と何を話せばいいのか、わからない。

    どこに地雷があるのかもわからない。

    ちょっとした一言が噂になる。

    上司、内部通報、そして地方へ。

    この流れ、あまりにも早い。


    こないだも同僚がやられた。

    新人の女の子に

    「彼氏いないの?作らないの?」

    ただの雑談。

    悪気なんてない。

    でも結果。

    島流し。


    こわい時代である。

    相手しだいで、人生設計が変わる。

    だから、慎重になる。


    でもさ。

    それでも、少しくらい会話はしたい。

    ロボットじゃない。

    人間だ。

    ちょっとしたロマンスくらい、あってもいい。


    で、考えた。

    安全圏。

    髪型。

    これならいけるだろう。

    誰も傷つかない。

    ただの事実確認。


    そして今日。

    気になる取引先のあの子。

    ショートカットが似合う子。

    最近、少し伸びてきた。

    明らかに、伸ばしてる途中。


    現場帰り、たまたま寄ったその会社。

    入口の外。

    あの子がいた。

    コンビニ袋を持って、なにか買い物の帰り。

    これから会社に戻るところ。


    一瞬。

    チャンス。


    普段は無理だ。

    事務所の中。

    周りの目。

    誰が聞いてるかわからない。

    余計な一言で終わる世界。


    でも今は違う。

    外。

    二人だけ。

    数秒だけの空間。


    (今しかない…)


    「髪切りました?」

    これがウケがいいのは、わかってる。

    美容院行って、気づいてほしい。

    それに気づく。

    だから喜ばれる。

    ここまでは理解してる。


    でも今回、違う。

    明らかに伸ばしてる。

    途中。

    切ってない。


    (じゃあ、どうすればいいんだ…)


    でも、話しかけたい。

    一言でいい。

    きっかけがほしい。


    で、苦し紛れに。


    営業まこ
    「あれ、髪のびました?」

     言ったあと。

    自分でも、なんか変だなと思う。

    (あれ…今の違くないか?)


    じわっと、汗が出る。

    一気じゃない。

    じわじわ。


    声も、なんか小さい。

    さっきより明らかにトーン落ちてる。


    で、待つ。

    反応を。


    この数秒。

    やたら長い。


    一瞬。

    ほんの一瞬、空気が止まる。


    相手
    「あ、はい…ちょっとだけ…」

    そのあと。

    相手が、にこっとする。


    ほんの一瞬。

    迷いがある笑顔。


    (これ、どう返せばいいんだろう…)

    っていう戸惑いと。


    (でも、気にしてくれたのはちょっと嬉しい)

    っていう、ほんの少しのやわらかさ。


    その両方が混ざった顔。


    こっちはそれを見て、さらに固まる。


    (あ、今の…間違ってはない…?)

    でも正解でもない。


    なんとも言えない空気だけが残る。


    で、会話、続かない。


    沈黙。


    後ろでドアが開く音。

    中から人の気配。


    (まずい、戻る流れだ)


    営業まこ
    「…いいですね」


    なにが。


    相手
    「ありがとうございます」


    軽く会釈して、すっと中に入っていく。


    残されたこっち。


    (今の、正解だったのか…?)


    でも。

    たった一言。

    それだけなのに。

    心臓、ちょっと速い。


    帰り道。

    なんか、少しだけ気分がいい。



    あなたへのおすすめ