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Photo byomochi999

西が揺れた


    笠部 凪 (かさべ なぎ)筆名


    あらすじ


     西で起きた大きな地震の後、離婚以来別れて住む娘に電話をする直樹。

     メールばかりで久しぶりに聞いた娘の声に少し引っかかりつつ会話を続けるうちに、元家族の本気のぶつかり合いがひたすらに続いてゆく。




    本文はじまり


     シーン1 直樹の家の近くの二十席ほどの定食屋


    西が大きく揺れた。

    地震のニュースを店のテレビで見る客たちの関心はすぐどこかへ。

    上着の内ポケットに入っているスマホの重みを感じる直樹。

    目の前の皿は空なのに腰をあげるきっかけが拾えずにいるが、メールではなく家で西日本に住む娘に電話しようと家路を急ぐ。


     シーン2 直樹の家


    食卓に着き、固定電話の方に電話しようと番号を押す。娘のあすかはまだ塾の前で家にいる、元妻はまだ帰宅していない、、、はず。

    長い呼び出し音。


    直 樹   (もう塾に行ったか。それとも知らぬ間に迷惑番号表示となっているか)「、、、」

    あすか/凪 「はい、岡村です」そのまま変えないでいてくれる苗字。

    直 樹   「あ、よかった、繋がった、父です、直樹です」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   (あすかは座っているのか?自分の部屋にいるのか、立っているのか?声からは全く想像ができない)「あ、あの、、、ニュースを見たから、ひどく揺れたみたいで。電話が繋がるのか、ライフラインとか、うん、心配でこっちにかけた」


    二人の動作は、ふと上を見上げたり、壁を見たり、常に呼応しているが、表情は概ね対照的に続いていく。


    あすか/凪 「うん」

    直 樹   「とりあえず電話は繋がってるみたいだけど、、、。怪我はなかったか。家の中は」

    あすか/凪 「それほど。テレビも倒れてないし、食器も」

    直 樹   「よかった。うん、よかった。一人か」

    あすか/凪 「あ、ううん、一緒」

    直 樹   「あ、そうか。そうなのか。なら安心だな。電話しなくても大丈夫だったかな」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「、、、あの、、、まあ、何喋ろうか。うん、、、。学校はどう。勉強は大変か」

    あすか/凪 「まあ、それなりかな」

    直 樹   「うん、そうだな。高校はもう決めたんだっけ」

    あすか/凪 「え、メール読んだよね」

    直 樹   「あ、うん、あ、そうそう、うん、知ってる。読んだ。うん、決めたんだった」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「いつもメールだし、声が、こうだったかなって。なんかメールだと色々聞けるけど、電話だとあれだ、(なんか、、、)」声がかぶる。

    あすか/凪 「間が持たない」

    直 樹   「あは、まあ、自分はしゃべったところで余計なこと言っちゃうし、面白いことも言えないし」

    あすか/凪 「そんなことないよ」即答する。

    直 樹   「えっ、、、。あ、そうかな、まあ父親として偉そうにならないように、でもまあ頼りになるような人ではいたい気はあるんだけど」

    あすか/凪 「別にカッコつけなくてもいいと思うけど」

    直 樹   「あ、あは、言うねえ。ま、そうだな。格好つけてもオレはもうこのまんま。頼りない父のまんまだな」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「元気なの?」

    直 樹   「あ、え?えっ?あ、元気だ。うん、このあいだ人間ドックに行ったんだ。大丈夫だった。こっちは大丈夫。うん」(気にしてくれるんだ、、、)

    あすか/凪 「そう、よかった」

    直 樹   「うん」

    あすか/凪 「これ、大丈夫なの。電話料金高くならないの」

    直 樹   「ん?あ、どうだったかな。スマホから固定って。まあそんなのはどうでもいいよ。うん別にどうでもいい。大したことじゃない、うん」

    あすか/凪 「隣の米田さん家。リコちゃんのところも離婚したんだ」

    直 樹   「、、、あ、米田さん。リコちゃん、同級生だったな。そうか米田さん。あそこは、ん、、、ちょっとびっくりだな。そうか、米田さんのところは、、、びっくりだな。うん、びっくりだな。あ、ところで塾の時間は」

    あすか/凪 「今日は休む。鼻風邪が流行ってて。ちょっと来てる感じ」

    直 樹   「ああ、だからか、そっか、だからだ(声が少し違う気がするのは)」

    あすか/凪 「そう、だから(まだ家にいるの)」

    直 樹   「ん、え、あ、ああ、そう、だから話せて嬉しい。うん」

    あすか/凪 「ん?」

    直 樹   「あの、それ以外は体大丈夫かな、その、んー二人とも」

    あすか/凪 「二人とも健康だから」

    直 樹   「うん、そうか。うん、よかった。うん、その、心配してたというか。メールにも書いたけど、、、。うん、心配してたから」

    あすか/凪 「百日詣ね」

    直 樹   「情けない。それしかできなかったから。まあ、散々苦労かけて、二人に。オレは好き放題して、ダメな夫、ダメな父だし。まあ、それしかできなかった」

    あすか/凪 「手術は成功したし良かったんじゃない」

    直 樹   「本当に良かった、、、。母親に似てあすかはしっかりしてるから、それも助けになったと思う」

    あすか/凪 「母親?」

    直 樹   「お母さん似だ」

    あすか/凪 「しっかりしてるかなあ」

    直 樹   「しっかりしてるよ、あすか。母親に似て明るいし」

    あすか/凪 「明るい、か。本当にそう思ってる?」

    直 樹   「明るいよ。ケラケラ笑うと周りが明るくなる」

    あすか/凪 (どっちのこと?)「明るさの下には辛いことがあるから大体」

    直 樹   「え?」

    あすか/凪 「わかってないな、やっぱり」

    直 樹   「え?学校で大変なのか」

    あすか/凪 「学校じゃないよ」

    直 樹   「ごめん、わからなくて。もし良かったら聞かせてほしい」

    あすか/凪 「もし良かったらって、、、。言わないとダメなんだ、、、」

    直 樹   「あーごめん。離れてると本当に、うん本当にわからないんだ」

    あすか/凪 「離れてなかった時もでしょっ」

    直 樹   「!」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「あっ」

    直 樹   「うん、うんそうだった。何もわかってなかった。ごめん」

    あすか/凪 「いつもごめん、だ。いつも」

    直 樹   「いや、本当に。うん、わからない。その、それが、その、それがあすかの、その、悩みというか、それが原因で、それが、そのわかってあげられなかったから。それが、その、それが、心労になって、抱え込んで、病気になって、手術になったのかな。こんなこと言っちゃダメかな。いや、あすかが、悩みが理由という意味じゃなくて。絶対、あすかが原因じゃなくて、その、何も気づいてない、オレ気づいてなかったから、一人であすかのこと心配していたのかなって。上手く言えないな、、、ごめん」

    あすか/凪 「、、、」ため息

    直 樹   「その、やっぱり離婚して、色々大変だったはずだし、いくらあすかがしっかりしてるとはいっても、やっぱり、その、母と子と二人で、いや、母親が一人で育てていくってことは、日常の、その生活は、大変なはずだし。父さんは会社行って帰ってきてそして時々あすかやお母さんにメールしてどうしてるか聞くだけで、時々あすかと会っても、そんなに会話もなく大きくなったなって言って、、、」

    あすか/凪 「、、、」ため息

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「ねえ、そういうのって、離婚してからのことかな」

    直 樹   「え、」

    あすか/凪 「気づいてたとか気づいてなかったとか。そういうの、離婚してから起こったことかな、って言ってるの」

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「たとえば、、、」

    直 樹   「、、、」身構える。(あれこれ言われるだろうか)

    あすか/凪 「たとえば、あなた今誰と話してるの」

    直 樹   「へっ」

    あすか/凪 「ねえ、もしかしてだけど、あなたあすかと話してるつもり」

    直 樹   「!」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「え、あれ、ちょっと待った」居間に飾ってあるあすかの写真を見る。

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「え、母さんの声に似てきたなって。でも鼻風邪って言ったからそのせいかって」

    あすか/凪 「え、何言ってるの?」

    直 樹   「あ、鼻風邪ひいてるって言ったから。もしくは思春期の女の子の声も変わるのかなと」

    あすか/凪 「いい加減にしてよ。私よ。おかしいと思ったのよ」

    直 樹   「ええっ。メールばっかりで声はしばらく聞いてなかったから。その、なんとなく、父親からの電話はうざったいんだろうって」

    あすか/凪 「そういうところなのよ」

    直 樹   「ごめん」

    あすか/凪 「あなた会社でもそうやってずっとごめんやってるの?ピシッとぴしりっと言えてないの?」

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「あ、ごめんこれは言っちゃダメだったね、あなたの問題」

    直 樹   「いやそういうことも話すべきだった」

    あすか/凪 「うん、話すべきだったというか、そういう時間、持とうとしなかったよ。ね、そうだよね。食べに帰ってきてテレビ見て寝る。何しに帰ってきてたのあなた。まあこれは私にも非があるね。帰ってきていっぱいいろんなこと話したい!聞いて欲しい!ってあなた思ってなかったってことだから。そういう空気がなかったってことだから」

    直 樹   「いや、そういうつもりじゃなかったけど。オレは、三人の時間を持とう、持ちたいと思って帰宅してなかった。確かに。食べて寝に。当たり前に思っていたというか。確かに」

    あすか/凪 「もっと、どうっでもいいこと話してくれたら良かったじゃない。私はどうでもいいこといっぱいしゃべってたよ。糠に釘だったのよ、あなたは。ああ、もっと建設的な高尚な話が、会話がないのかって空気振り撒いてたじゃない。あなたがそうやって遮断するからこっちももう、今日電車でこんな変な人いたとか、そういうどうっでもいいこと喋れないじゃない。どうでもいいこと話す時間はオレにはないっていうあなたの手のひらがはっきり見えるわけ。いつからか。昔は違ったじゃない。結婚前は。どうでもいいこと面白おかしく話して笑ってたじゃない。あなたは面白い人なのよ。ねえ、いつから?私が、そういうことに反応しなくなっていったんだろうか。だからあなたも言わなくなった?」

    直 樹   「いや、その多分、オレより先に君が帰ってるってことが、、、嫌だったかも」

    あすか/凪 「はあ??」

    直 樹   「いや、こっちは上から下から挟まれて社内から社外から挟まれて色々頑張ってやっと帰ってきたのに君はもう帰宅している」

    あすか/凪 「はあ??」

    直 樹   「あ、君の仕事がどうということじゃなくて、その、、、いいなあもう帰っててっていうか」

    あすか/凪 「あなた何歳のつもり?」

    直 樹   「いや、もちろん医者の方が大変だってことわかってる。でも、だから、その、、、医者より遅い帰宅のオレってなんて大変なんだ、、、ていうか」

    あすか/凪 「私、ものすごく調整能力あるのよ。自分しかできない仕事以外は全部手伝ってもらってるの。お願いできる?って言えるの。強がらないから私。まあ、そういう職場でラッキーではあるけど、、、。私しかできないことって仕事のことだけじゃなくて、母と妻もなんだよね。あなたわかってないよね当然、それ」

    直 樹   「、、、。あすかの母は君だけです。僕の妻は、、、」

    あすか/凪 「ボク、に変えるよね、都合よく」

    直 樹   「妻は君だけでした」

    あすか/凪 「もっとさ、どーっでもいいこと話してたよね、毎日。いくらでもあったよね喋ること。一日中喋ってたよね。結婚してからだよ、偉そうなこと話し出したの、あなた」

    直 樹   「偉そうなこと?、、、あの、話が元に戻ってきてるけど」

    あすか/凪 「偉っそうに株がどうとか経済がどうとかこの国は首相がコロコロ変わるな、とか。だから何?だから何なの。何で?」

    直 樹   「でも、会社でも話題になるし、大事なことだし」

    あすか/凪 「会社じゃないようちは。会社って、何言ってんのよ。みんな自分をよく見せようと知識ありますフリしてるだけでしょ。あなたそれもわからず会社でそんな話題についていってんだ」

    直 樹   「家でも話していいじゃないか。そんなことって、、、」

    あすか/凪 「家で国会開かなくていいのよ。もっと日常のどうでもいいことを話すのが市民の義務なのよ」

    直 樹   「ギム?」

    あすか/凪 「そういうことを話すことが次の選挙ではどこに投票するとかそういうことにつながるのよ。小難しい話は家でしなくていいのよ。そういうことが未来の有権者を育てるのよ。選挙率の増加につながるのよ」

    直 樹   「多少は小難しいこと話さないと、あすかにも聞かせないと」

    あすか/凪 「聞かせないとって、、、。なっに今更。小難しくなくて、選挙率の増加につながる話なんていくらでもできるのよ家で。買い物の途中で工事現場を通ったら、これは何のためにいつまで、そしてここ重要、誰が働いてるのかとか、そういうの話したいわけよ。それは市民の義務なのよ」

    直 樹   「えっ?ああ、なるほど。スーパーの入り口で躓いた人がいた、オレはあんなところで躓かないぞ、いや、でもオレは健康だから躓かなかったんだ、あそこは車椅子の人にとっちゃたいそうな障害になるぞ、何でそもそも自動ドアの前に段差なんかつけるんだ、いや、あそこだけじゃないぞ、よく見るといっぱい障害あるぞ、オレだって明日松葉杖になる可能性があるんだし、後ろからスマホ見てるやつに遅いってどつかれる可能性もあるし」

    あすか/凪 「ほーら、やればできるじゃない。あなたは面白い人なんだから」

    直 樹   「まあ、そ、、、」話を遮られる。

    あすか/凪 「面白い方が人の心に刺さったりするんだから」

    直 樹   「え、そう?」少しニンマリして。

    あすか/凪 「話戻すわよ。滑稽なのよ。株だか政治だか、そもそも自分でそういう話題の記事を読むなりしてたらいいじゃない。どの媒体のどの会社のかは別の問題だけど。目に浮かぶようだわよ。あなたが賢く見せようと、読んだ記事そのまんまみんなに披露してるの。あたかもずっと知ってました雰囲気まとわりつけて。みんなそういうの見透してるから」

    直 樹   「え、みんなも言ってるけど。中東情勢は古くから、とか、どうして日本経済は将来暗い、とか」

    あすか/凪 「だから、みんな賢く見せようとしてるのよ。日本経済の未来は明るいって言ったところでみんな話に乗ってこないでしょうが。そりゃそうなのよ。だから、だから、ねえ、しっかりしてよ。そういうことじゃないのよ」

    直 樹   「どういうことだよ」畳みかける。

    あすか/凪 「そう書いてたけど、あれで見たけど、とかそういうことみんな付け加えてるでしょ」畳みかける。

    直 樹   「ん?意味がわからない」

    あすか/凪 「あなたと違って、こういう記事を読んだんだけど、こんなドキュメント見たんだけど、とかみんな言うでしょ。あなたそこすっ飛ばすのよ。だってオレ様は当然の知識として知ってるんだ。人からの知識じゃなくて、オレは知ってるんだそもそも。そういう空気。あそこの国も前の元首の時は良かったけど今のは不安だよなって私に振ってたでしょ」

    直 樹   「へっ何を、、、」

    あすか/凪 「私にそういう言い方するでしょ。で、私があなたの期待通りの答え方をすると思ってるでしょ」

    直 樹   「期待通りって、どんな期待だよ。どんな期待をしてオレがそんな話するんだよ。何言ってるかさっぱり」

    あすか/凪 「今の元首だと不安なの?どうして?って答えを期待してるでしょ、って言ってるの!」

    直 樹   「う、、、」

    あすか/凪 「そこで始まるのよ、あなたの劇場。あれ?これってよく知られてるはずなんだけど君は知らない?あれ?まだ?みたいな。じゃあ、ほら、あそこの国ってさ、前の元首の時ってさあ、、、君も当然知ってる通りさあ空気入れ込みながら結局私は知らないってこと知っててあなたは知ってるってことを私に見せつけたいのよ。私より上に立ちたいの。テレビだかネット記事だか知らないけど、すぐ私に試すのよ。その時点で玉が小さいのよ。私は見抜いてるの。ああ、この人昨日までそのこと知らなかったんだなって」

    直 樹   「は?え?そんな上に立つなんてこと思ったこと、、、」

    あすか/凪 「あるのよ。ずっとそう思ってるのよあなた。結婚前の、ずっと同じ横を歩いてた感じ。並列の感じ。あの感じがなくなっちゃってたの。上に立ってるぞ、オレ、って思ってるのよいつの間にか。全然違うじゃない。あなた私より知ってるわけないじゃない。ずっと横を歩いてくれていたのに!!」

    直 樹   「、、、、」

    あすか/凪 「ずっと横にいてくれたのに、気づいたら横にいないじゃない。コレオグラフィーがずれたじゃない!カコフォニー」

    直 樹   「君こそそうやって時々混ぜるよね。オレが知らないの知ってて。カコフォニー、まあもう覚えたけど」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「どこまで素因数分解するのオレたち」

    あすか/凪 「シリアを歩き続けて逃れてきた子もいるのよ」

    直 樹   「そうやって話がどこかへずれていくのが嫌なんだよ。共鳴はどうしたんだよ。並列は」

    あすか/凪 「私は市民の義務の話をしてるの。今あなた笑ったわよね。何だ、いきなりシリアって。悲惨な事実よ。平和ボケしてんじゃないわよ。ここにも難民がたくさん逃れてきてるよね。そこ話すことが市民の義務なのよ。命の保証はされても、言葉とか食事とか文化っていう日常が盗られちゃってるのよ、あの人たち。そこを私たちが話すことが市民の義務なのよ」

    直 樹   「その話題は経済とか政治とかそういう大きい括りなんじゃないの?君がいう高尚な話題。どれだけ難民を受け入れるとか」

    あすか/凪 「あれ?反抗するんだ。いつもなよっとすりかわすのに。黙りこくって反抗しないのに。それ離婚してから学んだんだ?」

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「やっぱり人間って染まっちゃうから」

    あすか/凪 「会社に染まったの?私に染まったの?」

    直 樹   「どうだったのかな。オレの場合、家に帰っても仕事のことは話しちゃダメだから。あ、その、君も秘匿義務はあるだろ?うん」

    あすか/凪 「そ、そういうところ。オレの方が大変だって主張するの。消極的主張」

    直 樹   「オレは難民はやっぱりある程度受け入れるべきだしそれが世界市民の義務だと思うし。そもそも、、、」

    あすか/凪 「外交的回答はやめてくれる?世界市民って、、、何人受け入れるって。数字の話してんじゃないわよ。家庭内の話なのよ。まあ元家族内のね」

    直 樹   「、、、違いがほんっとにわからない」

    あすか/凪 「ほら、不動産王トランプが、あの頃占拠された大使館の、あのインタビュー」

    直 樹   「覚えてるよ。政治的傾向なんてそうそう変わらないんだなって思ったあれな」

    あすか/凪 「あの時、その頃のインタビューの音声聞いたんだけどなって言えばいいじゃない。あなたの言い方ねえ、真似するわよ。なんか、あのトランプの意見もさあ、変わってないよな、不動産王だろうが大統領だろうが。結局思想や政治姿勢なんて変わらないよな。何なのよあれ。いきなり脈絡なく話し始めて。私と政治の話したかったわけじゃないでしょ。ねえ?あなたがどこかで聞いたその音声、ほんとたまたま聞いたその音声、それを聞いた瞬間あなたの脳内は、よし、これを言って優位に立とう、オレの方が知ってるんだって。そういうチビっこい思考回路なのよ」

    直 樹   「やめてくれ。どこまで話がずれる。そもそもあすかが無事か確認したかったんだよ」

    あすか/凪 「はあ?あすかが吐いた時、空眺めてた人があ?あなたね、あの日ね、」

    直 樹   「あ、やめてくれ、繰り返すな」

    あすか/凪 「、、、、」

    直 樹   「、、、、」

    あすか/凪 「、、、繰り返す。聞きたくなかったら耳から遠ざけてればいいわよ。あすか、まだ五歳だったのよ。公園で、いきなりね、かわいそうに、吐き始めて。口から出てくる出てくる。こうなったら出るだけ出さなきゃいけないって思って、抱き上げて草むらに行って背中さすってさすって。で、あなた何してたのよ。空眺めてたのよ」

    直 樹   「見えなかった。気づかなかった」

    あすか/凪 「ウソ!!あなたはあすかをしっかり見てから、吐いたものを、地面をしっかり見てから空を愛で始めたのよ。今日は快晴だあ、とでもいいたげに。何だったのよあれ。嘘つくんじゃないわよ」

    直 樹   「ぐっ、、、」

    あすか/凪 「あそこで私はあなたを軌道から蹴落としたのよ」

    直 樹   「、、、、、、でも、じゃあそう言ってくれればよかったよ」

    あすか/凪 「言ってればどうしてたの?」

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「吐いてるもんは仕方ないだろ、とかなんとか言ってたよね。自分が吐いてる側ならギャースカギャースカ騒ぐくせに。性を決められずにいる人のための公衆トイレを作るべきなんじゃない?そういうこと考えるのが市民の義務でしょ?男性トイレ女性トイレって入り口で決められちゃって」

    直 樹   「何の繋がりだよ」

    あすか/凪 「あの時近くにトイレがなかったのよ。着替えを持って行ってなかったから抱いてるあすかの服が臭ってたのを思い出したのよ」

    直 樹   「インクルージョンのつもり?男性女性関係なく使えるトイレって。それ君の満足のためでしょ?そういう人たちのこともちゃんと考えてあげてますよっていう。そもそもどんな健康状態でも体の形状でも入れるトイレを作ることが先でしょう?どんな人間でも入れるトイレ」

    あすか/凪 「ぐっ、、、」

    直 樹   「って感じで言ってみたかっただけ。電話だと言えるな」

    あすか/凪 「言えるね。面と向かって言い合いしてる人たち見ると羨ましいぐらいだわ」

    直 樹   「あったね、そういうの。いたなあ、あのホテルの上のフロア客だけのバー。あんな限られた空間で言い合っちゃって」

    あすか/凪 「いいよね、あんなふうにぶつけ合えるって」

    直 樹   「まあ、アルコールも入ってたけど、女性の方がね、特に」

    あすか/凪 「言われてる男性の方も満更でもないっていう。特に、やめてくれよ、とは思ってなかった感じ。言うだけ言わせておけ、みたいな。議論、というのか、別に内容に興味はなかったんだけど、あの言い合ってる感じはずっと聞いていたかったんだよね、おかしくっておかしくって」

    直 樹   「ホテルの人が来ちゃって。見事な捌き具合で追い出しちゃったから」

    あすか/凪 「母性でしょうが」

    直 樹   「へっ」

    あすか/凪 「目の前で自分の子供が吐いてたらそばにいるのは母性でしょうが」

    直 樹   「へっ?あ、そっちの話か」

    あすか/凪 「その話をしてるんでしょうが。話逸らさないでよ」

    直 樹   「そうだったっけ(逸らしたのは)。まあ。うん、空眺めてて、ごめん」

    あすか/凪 「やっぱりそうじゃない」

    直 樹   「ん、、、。まあいいや。あと、さっきのシリアの件だけど、君のことだからその人たちに大きくゆっくり話しかけてるんじゃないの?そういうのダメだよ、語学力とインテリゲンツを比例させるの。その時点で君の知性のほう下げちゃってるから。君がバカになっちゃってるから。語学できないから理解力ないってわけないだろ」

    あすか/凪 「でも病気とか投薬のことはしっかり正しく理解してもらわないと」

    直 樹   「誰を診察してるんだよ。人間だよ。語学力が心配なら先に質問したらいいだろ。ゆっくりならわかりますか?写真を見せながらの方がいいですかって。そもそも専門用語を使いがちな君たちなんだから日本語がわかる人でももう一回説明してくださいって言いづらいんだよ」

    あすか/凪 「診療待ちの列がね、、、」

    直 樹   「目の前にいる人のことだけ考えてたらいいじゃない。待合室じゃなくて」

    あすか/凪 「目の前の人って、、、。そっくりその言葉返すわよ」

    直 樹   「ぐ、、、。ともかく、外見だけで日本語わからないだろうって判断して声の大きさと話すスピード、これ連動させちゃダメだよ。その時点で同じ目線に立ってないでしょ」

    あすか/凪 「気をつける」

    直 樹   「うっ、、、」(しおらしいじゃないか)

    あすか/凪 「ん?」

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「でも、本当にあの人たちのこと考えるとね。シリアの国外に出るまでずーっと歩き続けてた男の子がいるのよ。ひたすら歩き続けた。成長期とも重なって、脊髄が歪んでしまったの。設備の整ったところで医療行為してる私は何なんだろうって思っちゃうわよ」

    直 樹   「あれ?メランコリックになってるんだ。いちいち反応してたら医者なんかやってられないって言ってなかったっけ?」

    あすか/凪 「ひどい、、、。あなたの裏切りにも、どうせ医者だから無反応だろうって思ってたんだ?謝ってよ。謝りなさいよ。ねえ、謝れ!あと、あすかにも、彼女にも謝りなさいよ。彼女も将来裏切られるわよ。それあなたのせいだから!」

    直 樹   「えーっ!?」

    あすか/凪 「断ち切りなさいよ!」

    直 樹   「断ち切るってどういう意味だかさっぱり」

    あすか/凪 「私の側からは断ち切ったから!」

    直 樹   「、、、(何なんだよ)」

    あすか/凪 「、、、ねえ、お父さん、、、」

    直 樹   「、、、え、?」

    あすか/凪 「ねえ、お父さん、今、さっきから、はじめからね、私としゃべってるんだよ」

    直 樹   「へっ、、、、」

    あすか/凪 「、、、」

    直 樹   「、、、」

    あすか/凪 「わかる?何のことか」

    直 樹   「二人が、、、お母さんとあすかが代わる代わる話してた?」

    あすか/凪 「違うよ、何言ってるの。ずっと私とだけしゃべってたの」

    直 樹   「私ってどっちだ」

    あすか/凪 「娘。お父さん、あなたの娘とだけずっと話してたの」

    直 樹   「へ、」

    あすか/凪 「、、、」ため息

    直 樹   「だって、さっき玉が小さいとか何とか、あれもあすかが言ったのか」

    あすか/凪 「ねえ、私を何歳だと思ってるのお父さん」

    直 樹   「いや、メールばっかりで、その、、、。娘の声の変化にも気づいてなかったのかオレは。離れて暮らすってそういうことなのか。じゃあ途中で、でもお母さんしか知らないこと話してたぞ、あすか」

    あすか/凪 「そんなわけないじゃない。何でもすぐ言ってくれるよお母さん」

    直 樹   「あー、結局のところアンコミュニカビリテ。この言葉も覚えたよ」

    あすか/凪 「あのね、百日詣ね。私はすごく嬉しかったんだ。お母さんも嬉しかったはず。百日詣したみたいよ、としか言わなかったんだけど。私は嬉しかったけど、でも結局お父さん、あれ自分の罪滅ぼしでしょ。自分でわかってるでしょ」

    直 樹   「ぐっ、、、。罪滅ぼしって、、、。それは、それはどうだろ。いや本当にお母さんのこと心配してたから」

    あすか/凪 「もう子宮も胸もないんだよ」

    直 樹   「ぐ、、、、、、」

    あすか/凪 「ねえ」

    直 樹   「うん、、、。だな、、、。うん。申し訳ない」

    あすか/凪 「やっぱりね、その、私はお母さんみたいに医者じゃないけど、でも、悪くなる臓器でわかるんだよ、その人が何に苦しんでたのか。お母さんはずっとお父さんに面白くいてもらいたかったんだよ。高校生の感性でいてほしかったんだよ。そんなお父さんにずっと恋していたかったんだよ」

    直 樹   「、、、そうだろうか」

    あすか/凪 「お母さんはずっと怒ってたの、悲しかったから。お父さんが恋しかったから。だから私さっきからずーっと、ずーっとお母さんの代わりに恨みつらみをずーっと語ってきたの。お母さんはお父さんにずっと溜めてたの恨みつらみ。抱え込んでたの。それが子宮と胸を傷め続けてたのじわりじわり。そういうことお父さんに言いたかったの。でも言えなかったの。お父さんは食べに寝に帰ってきてたから」

    直 樹   「あー、、、、」(仰ぐ)

    あすか/凪 「でしょ?」

    直 樹   「そうかもしれない。百日詣は罪滅ぼしだ。自分でわかってたんだな、無意識に。オレが悪い、オレのせいだって。ちゃんとしてれば癌にはならなかったかもしれないって。後悔だ。罪滅ぼしだ。後悔してたからそれを少しでも軽くするために、自分のために、オレのためにしてたんだ、、、」

    あすか/凪 「お母さんに子宮と胸を返してよ」とても低い声で。

    直 樹   「いや、それは、きついよ、それは」

    あすか/凪 「もしお父さんだったらどの臓器になるんだろうね、悪くなる臓器」

    直 樹   「ぐ、、、」

    あすか/凪 「intrafamiliärer wiederholungszwang」

    直 樹   「なんだ」

    あすか/凪 「あとで綴りメールするわよ。調べたらびっくりするから。私は絶対起こさせない」

    直 樹   「今度は何言い出すんだ」

    あすか/凪 「intrafamiliärer wiederholungszwang」

    直 樹   「勘弁してくれよ。イントラファミリ。わかるぞ、家庭内の何ちゃらかんちゃらか」

    あすか/凪 「私はお母さんみたいにはなりたくない。子宮も、どんな臓器も夫が理由で失くしたくない」

    直 樹   「、、、申し訳ない」

    あすか/凪 「私には声をあげる義務も権利もある。だから私は絶対にお母さんみたいにはならない。絶対に止めてみせる」

    直 樹   「申し訳ない」

    あすか/凪 「そうじゃなくて。お母さんみたいにはならないって言ってるの。 I am voicing myself」

    直 樹   「あーーーーー、、、、」

    あすか/凪 「ユスティティアのつもりだから。私」

    直 樹   「ほんとにぐるぐる変えるよな。ユスティティアね。なるほど。一緒に映画見に行ったな」

    あすか/凪 「、、、なんかね、サティの四番だねお父さんとお母さん」

    直 樹   「まさかグノシエンヌ?不協和音?」

    あすか/凪 「ううん、まさか。限りなく不協に近い和音だよ、あれは。あれは私にはカコフォニーには聞こえない。絡み合ってる、絶妙に」

    直 樹   「でもお母さんみたいにはなりたくない?」

    あすか/凪 「うん、お父さんとお母さんは四番なんだよ。でも、でもお母さんの体の中で、かわいそうに、お母さんの体の中は色々叫んでた。悲鳴をあげてたよ。だから私はお母さんみたいにはならない。止めてみせる」

    直 樹   「それでか、さっきの長ったらしい言葉、、、。あすかは強いな」

    あすか/凪 「強いわけないじゃない!何言ってるの。シャワーの下でベシャベシャ泣いたんだから私。泣いたこといっぱいあるから。枯れるまで泣いたこといっぱいあるから。シャワー浴びながらしか泣けなかったんだよ私。あなたの前では一度も泣けなかったんだよ」

    直 樹   「あれ、え?あすかと話してるんじゃなかったのか」

    あすか/凪 「そんなことどうでもいいのよ」

    直 樹   「何だよこれ。こんがらがってるよ」

    あすか/凪 「ずっとこんがらがってたらいいのよ!一人で!もつれてるのよみんな。もつれてたらいいのよ」

    直 樹   「話がぐるぐる回ってないか?」

    あすか/凪 「回ってないわよ。あなたのこととっくに弾き飛ばしたんだから」

    直 樹   「、、、。結局揺れないとダメなのかな、オレもこの国も。将来を良くするために」

    あすか/凪 「何でそういうふうにまとめようとするの。(ため息)ここ外交会議じゃないから。そういうところなのよ、そういうところ。ね、セネカみたいに笑ってればいいのよ。どうせ人生なんてこんがらがってんだから」

    直 樹   「いや、セネカが笑ってたんじゃなくて、セネカは、笑い飛ばせばいいって言ったんだよ。これは受け売りじゃない。ちゃんと本を読んでたんだから。高校の時に出会ったんだからセネカに」

    あすか/凪 「知ってるよ。だからあなたは面白いのよ。セネカさまさまなのよ」

    直 樹   「面白いかな、まだ。なんか、、、結局なんかセラピー受けたみたいだな、この電話」

    あすか/凪 「あららあ、ずっと前からそのまま受け続けてたらよかったのに」

    直 樹   「追い出したのそっちだろ」

    あすか/凪 「私たちを拒否し続けたのはそっちでしょ。家庭の外に居場所見つけちゃったんだから」

    直 樹   「共鳴できなくなったんだよ」

    あすか/凪 「、、、、」

    直 樹   「、、、、」

    あすか/凪 「ひどい」

    直 樹   「、、、、」

    あすか/凪 「私は書き換えたよ。私は子宮と胸を失くした時に私の中のコンパスの向きを変えたよ」

    直 樹   「向き」

    あすか/凪 「あなたは?向きを変えたの?いつ?向きを変えたから外に居場所ができた?それとも逆?」

    直 樹   「そう急に言われても。それにコンパスの向き変えたところで北を示すでしょ結局。仕事が少しずつオレを変えていったかもしれないし」

    あすか/凪 「共鳴できないって言ったじゃないたった今。いつからなの。なんで?いつから?」

    直 樹   「いつからって、そんなことわからないよ。でも、もしかしたら、君の母性かもしれない」

    あすか/凪 「母性?」

    直 樹   「その、、、君の母性がちらつくようになったというか。あすかが生まれてから」

    あすか/凪 「なに?何もできない赤ちゃんがいたらそれは母性が反応するでしょう?」

    直 樹   「だから、その、その、母性とか女とかって理由にしないで欲しかったんだよあの頃のオレは。あすかが物事の中心になったんじゃなくて、君の母性の主張が中心になったというか」

    あすか/凪 「何言ってるの」

    直 樹   「国によっちゃ男だけ軍隊に行く義務があるとか、差別だよ。女だからって行かなくていいとか」

    あすか/凪 「何言ってるの?私の方が帰宅が早いから嫌だとか、男は軍隊とか。じゃあ、いうけど、戦わなきゃいけないからって不倫しても相殺されるんだ?そうなんでしょ。どんな理屈よ」

    直 樹   「そんなこと言ってないだろ」

    あすか/凪 「それとも、」

    直 樹   「っ」身構える。

    あすか/凪 「それとも、浮気がしたかったんじゃなくて、浮気して私に怒られたかったんじゃない?そうでしょ。で、びっくりした。私は怒りもせずあなたを追い出したから。ね、正解でしょ?」

    直 樹   「怒られたかった??」

    あすか/凪 「よーく自問してみなさいよ。揺れたから心配して電話したって甘えてんじゃないわよ。淋しかっただけでしょ。どうしよう、一人だよオレって。みんなお互い温め合ってるように見えたんでしょ。で自分だけ一人だよ、どうしようって淋しくなったんでしょ。メランコリックになってるのはあなたでしょうが」

    直 樹   「ぐ、、、うん、確かに、急に気づいた。その、彼女とはもう別れてるし、ニュース見て最初に浮かんだのはあすかじゃなくて君なんだ」

    あすか/凪 「正直、私は地震の後にあなたの顔は浮かばなかった。子宮と胸がなくなった時に書き換えたから、記憶を修正したから」

    直 樹   「強いな。あ、いや、これは本当に本心から思ってる。感服するというか」

    あすか/凪 「みんな辛いことはあるでしょ。あなたにもあるでしょ」

    直 樹   「辛いこと、悲しいこと」

    あすか/凪 「だからあなたも記憶を修正したらいいじゃない」

    直 樹   「記憶をオレの中で捏造しとけばいいか」

    あすか/凪 「捏造って、、、ちゃんと聞いてる?捏造したら、記憶と捏造の狭間で何かが叫んじゃうでしょ。そうじゃなくて、書き換えておくの。微妙に違うよ」

    直 樹   「わかった。書き換えておくよ」

    あすか/凪 「何やってるんだろうね。電話越しでやっと言いたかったこと言えたよ」

    直 樹   「そもそもオレたちの会話は面白かったんだよな、いつも。今更ながら思い出した」

    あすか/凪 「面白さの底にある悲しみか、悲しみの底にある面白さか、、、。確かにあなたもだけど私だって面白い人間なんだよね。どこかに置いてきちゃったかな」

    直 樹   「その部分、オレが奪っちゃったかな」

    あすか/凪 「書き直しちゃったかな。そこだけ書き戻しとくよ。そして、、、私は知ってるから。直樹が経験してきたこと」

    直 樹   「、、、うん、わかってる」

    あすか/凪 「直樹だって色々経験してきたんだよ。私の知らない事情もあるっていうことも知ってる。色々吠えちゃったけど、でもそれでもあなたには私の知らない事情がある。そこに噛み付くつもりはない」

    直 樹   「うん。ありがとう」

    あすか/凪 「生きててね」

    直 樹   「うん」

    あすか/凪 「生きててね。面白いこと考えながら。でも、面白いからって、あとで考えたらこれきっと面白いだろうって、それを言い訳に私たちを傷つけないで」

    直 樹   「わかった。申し訳ない」

    あすか/凪 「うん」

    直 樹   「楽しかったから、そういうところを思い出してそう記憶を書き換えてもいいかなって。あれほど君とは合わないと思っていた時もあったのに。オレが君の軌道に乗っかればいいだけのことだったかな」

    あすか/凪 「だからそうやってまとめようとしなくていいのよ。人生なんて所詮アドリブでしょうが。役を演じてればいいのよ」

    直 樹   「アドリブはね、何かしらの反応を相手から期待してると思うんだ。でも人生ってそうじゃないよ。こうしたからあなたはどう来る?的な。こうしたからこう来るでしょ?的な。そんなふうに生きてたら疲れるよ。アドリブというよりふわふわかわしていく方がいい」

    あすか/凪 「相当上級者向けだね」

    直 樹   「そしてあかるいほうへ行けばいい。あかるいほうに乗っかればいいんだよ。なんていうか自分が、自分のど真ん中が震える方に行けばいいと思うんだ」

    あすか/凪 「なに、軌道に乗っかるとか、明るい方とか震える方とか、まとめすぎて二の句が継げないわ。そうやってまとめようとしなくていいってば。人生なんて所詮アドリブでしょ。相手の反応を期待してるのよ。共鳴したいのよ。役を演じてればいいのよ。誰でも外でも中でもいろんな役を演じてるのよ」

    直 樹   「で、そこからミスコミュニケーションやらミスインタープリテーションが発生する、っと」

    あすか/凪 「そこは折り込み済みなのよ」

    (終わり)


    #創作大賞2026
    #エンタメ原作部門

     
     
    ヨガ歴18年 Teacher Training Modern Meditation&Mindfulness 150時間チューリッヒにて終了 ヨガやヨガ哲学、瞑想を暮らしに欠かせないものとして取り入れ、学びの姿勢、自分の中庸に敏感に過ごしています。誰かに届く接点になれれば幸せです。

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