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♮02 あほう老士 この日だけは神妙な顔をする

あほう老士 この日だけは神妙な顔をする

我らあほう老士である。
我はかつて、意外にもデキル建築士でもある――と自認していた。

普段は呆けたことばかりしておるが、
一年に一日だけ、神妙な顔をする日がある。

3月11日である。

この日だけは、呆けてはおられぬのじゃ。

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あの日、テレビに映し出された光景を、
建築技術者として忘れることはない。

建物が、あまりにも容易く押し流されていく。

その映像を見ながら、我は思った。

「地震大国の家づくりは、これでよいのか?」
と。

建築には法律がある。

建築基準法という。

家は、地域ごとに想定された地震や強風に耐える強さを持たなければならない。
設計者はその基準に従って建物を設計する。

だが、あの日の津波は違った。

あれは建築基準法が想定している外力ではない。

つまり、

「想定外」

の事が起きたのである。

報道ではよく言われた。

「想定外という言い訳は許されない」と。

もちろん、その言葉には大きな意味がある。

だが、同時に思った。

津波に押し流される住宅の映像を流しながら、
住宅の構造については誰も語らない。

想定外という単語には、少しだけ
中途半端さを感じたこともある。

もし、あの日流された家の多くが
鉄筋コンクリート造(RC造)だったら。

救えた命は、もっと多かったはずだ。

我はそう確信している。

津波の高さが、たとえば2mだったとする。

木造住宅は、基礎だけを残して
ほとんど姿を消してしまう。

だが、RC造の建物であれば
多くの場合、建物そのものは残る。

もちろん1階は壊れる。
家具も流される。

それでも、

二階に避難していた人の命は守れる。

建築というものは、
そのために存在しているのではないか。

もちろん、すべての家をRC造にすべきだ、
などと言うつもりはない。

地域によっては津波の心配などない場所もある。

だが、家をつくるときに考えるべき「外力」は
地震や風だけではない。

津波の他にも
土砂崩れ
堤防の決壊
突風・竜巻・ダウンバースト
車の突入
降り積もった雪・火山灰

世の中には、建築基準法が想定していない
様々な「想定外」がある。

そして、法による想定がない以上、
それを想定するかどうかは、建て主の判断となる。

もし津波が想定される地域なら、
いくつか方法はある。

敷地を高くする。
建物を高床式にする。
一階を鉄骨で持ち上げる。

そうすれば、津波の力を受け流すことができる。

あるいは、そのような対策を行う住宅に
公的な補助があってもよいのではないか。

我は、そう思っている。

建築士として言えることがある。

家は、命を守る装置である。

デザインも大事。
広さも大事。
住み心地も大事。

だが、その前に
家族の命を守れる家であるかどうか。

そこを、少しだけ考えてほしい。

京都大学名誉教授の鎌田浩毅先生は、
根拠と共にこう言っておられる。

南海トラフ地震は
2035年 ±5年

つまり
2030年から2040年の間に起きる可能性が極めて高いと。

もちろん未来のことは分からない。

だが、備えることはできる。

土地を選ぶとき。
家を建てるとき。

その場所で、家族は本当に安全なのか。

ほんの少しだけでも
考えていただけたら嬉しい。

それが建築士としての、
我の願いである。

すまぬ。

今日だけは
呆けてはおられぬのじゃ。

我らあほう老士、
このような姿を
「意外と真面目」と呼ぶ。

この場合を評するに
「らしくない」とあれば、
それは誤植である。

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