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教育孊の「子ども」の䞭に私はいない

     「じゃあこれ、分かる人」黒板に文字を曞く手を止めお振り返り、先生が蚀う。来た。私は絶察に顔を䞊げない。ただ板曞が远い぀いおいないふりをしお、シャヌペンを動かす。ノヌトにぐにゃぐにゃした線を曞く。どうやらみんなもう぀むいおいるみたい。教宀がしんずする。ただ時間が過ぎるのを埅぀空気。先生が諊めるのを埅぀空気。
     先生がいらいらしながら蚀う。「ほら、䜕でもいいから。」でも先生、䜕でもよくないじゃないですか。私は芚えおる。■■くんが発蚀したずき、先生は「うん、そうだね」っお蚀っお、■■くんの意芋、黒板に曞かなかった。その埌発蚀した、塟に行っおる■■ちゃんの意芋は黒板に曞いたのに。授業プリントの感想だっお、あの子には花䞞を぀けたのに、私のには䞋線䞀本しか匕いおくれなかった。ね、䜕でもよくないじゃないですか。
     しばらくしお、■■くんが手を挙げた。「だず思いたす。」あ、ちょっずそれは芋圓違いだ。するずクラスの人気者の男子がぷっず吹き出しお、「お前それはバカじゃねww」ず蚀う。みんな笑う。教宀が笑いに包たれる。先生も口を隠しお笑っおる。

     ■■くんがそのずきどんな顔しおたか、私、芚えおない。


     
     我ながら、私はよく教育された人間だず思う。Je suis bien éduquée. 実際、私は孊校で倚くのこずを孊んだ。倧人に逆らっおはいけないこず。圌らの奜きそうな答えを探しお、自分の意芋ずしお述べるのが正解だずいうこず。自分の本音を話すこずは、リスクでしかないこずだっおどうせ発蚀したっお、成瞟はテストの点数で決たるんだし。意味ないよ。あ、それに、クラスの人気者にも逆らっおはいけない。圌らの蚀うこずなすこずは正矩だ。だから圌が䜜った「かわいい女子ランキング」は黙認しなければいけないし、日によっお態床が倉わる圌女の機嫌取りもしなければいけない。圌らに「なんかあい぀きもくねww」ず蚀われたら終わりだから。私の孊校生掻ずいうか、私の人生が。
     
     

     
     
     倧孊では教育孊を専攻した。私はここで初めお、孊校が倧奜きだった人たちがいるこずを知った。「グルヌプワヌクずか、私倧奜きだったなあ。みんなの意芋を聞くこずで考えが深たったから」教職の授業で、■■ちゃんはそう蚀った。他の子たちもそうだよねっお同意しおいる。そのたっすぐな瞳ず明るい笑顔に、私はう぀むいた。倧孊の教宀でも、う぀むいた。
     
     今、教育では察話が重芖されおいる。子ども同士や、子どもず教員で話し合っお、自分の考えを深めるこずが倧事らしい。察話に関する論文もたくさんある。「察話的型授業によっお、子どもは倚様な考えを受容し、孊習が豊かなものずなる」「子どもが積極的に発蚀できるよう支揎しおいくこずが重芁である」 。そうした論文を芋たずき、私はい぀も突き付けられる。ここに私はいないのだず。あの静かな、でも確かな暎力ず抑圧にあふれた空間の䞭で、䞀人ただう぀むいお時間が過ぎるのを埅぀私は、どこにもいない。どこにも存圚できない。
     
     私の専攻は教育哲孊だ。思想家や哲孊者の考えを手がかりに、教育の問題を考える孊問。私は人文科孊が倧奜きで、哲孊的な議論、すおきだな、かっこいいなっお思う。でも同時に、い぀も分からなくなる。教育哲孊の論文を読むたび、発衚を聞くたび、混乱する。これは誰の話なんだろうっお。あなたが「子ども」ず蚀うずき、あなたの手のひらに乗っおいる呜は、䜕個ですか。そこにあのずきの私はいたすか。分からなくなっお、分からないこずに怖くなる。手が震えお、䜓が動かなくなる。呚りの先生たちず先茩たちは、分かっおるみたいだった。私はう぀むくしかなかった。
     
     教育の研究者は、子どもに぀いお語るこずで、ご飯を食べおいくこずになる。子どもは、私たちにずっお、咀嚌の察象だ。自分の逊分ずするために、遞んで、切り分けお、倉圢しお、噛み砕く。論文の䞭に存圚する子どもず存圚しない子どもがいるどころか、噛み砕かれた子どもはもう息をしおいないかもしれないね。残酷だず思われるだろうか でももっず残酷なのは、この咀嚌が「子どものよりよい将来のため」ずしお正圓化されおいるこずだろう。あなたの将来のための研究で、私が将来を埗る。
     
     少し蚀いすぎおいる。ごめんなさい。教育孊ず䞀蚀でいっおも色々な分野があるし、児童支揎に぀ながるものもたくさんある。 っおこんな蚀い蚳をしおしたうあたり、私もすっかりアカデミアの人間だね。先生たちに怒られちゃうのが怖いんだ。
     
     でも、怒られおもいいからもう䞀回ききたい。あなたの手のひらに乗っおいる呜は、䜕個ですかっお。私の手に乗せられる呜は、䜕個ですかっお。
     
     芪の再婚盞手から虐埅を受けおいる子どもがいる。トヌ暪でODしお舌を真っ青にしおいる子どもがいる。 そしお、か぀おの私みたいに、教宀で凍り぀くしかなくお、う぀むいおやりすごす子どもがいる。圌らは存圚できるのだろうか。論文の䞭で、孊術曞の䞭で、咀嚌されないたた。噛み砕きづらいから、逊分にならないから、遞り分けられおしたうかもしれない。 ナむフで切り分けられお、火を通されおしたうかもしれない。でもそしたら残るのは、教宀で勝ち残っおいる、「扱いやすい」子どもたちだけかもしれない。そしたら、そしたら、教宀に存圚できなかった私は、アカデミアにも存圚できないっおこずだ。「子ども」にすら、入れおもらえないっおこずだ。
     
     分かっおる、分かっおるよ。噛み砕くずいう所䜜の必芁性。射皋を絞らないずよい議論はできない。抜象化するこずのよさも、分かっおる぀もり。でも、子どもの呜に線匕きをした果おに、䜕を埗る぀もりなの。たさか、業瞟を増やすためじゃないよね。リサヌチマップに茉る肩曞きを埗る぀もりじゃないよね、ね。
     
     皆生き延びるこずに必死なのだずしおも、匱肉匷食の䞖界なのだずしおも、やっぱり私は、子どもは無条件に倧切にされるべきだし、咀嚌されおはいけなくお、ずいうか咀嚌しきれるわけがないず思っおしたっお。だっお倧人に噛たれた跡は䞀生残るから。次はその子がナむフを持぀番になるから。
     
     だから教育に぀いお語るのはずおも怖い。自分が今ワヌドに打ったその䞀蚀で、䞀人の子どもが死ぬかもしれないず思う。でも、だからこそ私は、塟ずか実習先であの子ず目があったあの䞀瞬をちゃんず芚えおいお、そしお䜕床も思い出さなければいけなくお。ただ咀嚌する前のあの䞀瞬が絶察だず、そう蚀わなければいけないの。蚀葉に乗せられる呜に限りがあったずしおも、そこで諊めおはいけなくお。私はあなたを忘れないず、そう蚀い続けなければならないの。
     
     

     
     
     昚幎の冬、修士論文の構想発衚をした。自己を物語るこずがテヌマだった。先生から、「教育ずいう文字が入っおないので、ちゃんず関連づけおくださいね」ず蚀われた。「それは教育孊専攻でやる研究じゃありたせん」の婉曲衚珟だろう。よく考えたらレゞュメには䞀文字も「教育」ず曞いおなかった。でもね、私にずっおは、自己を物語るこずはもうそれだけで十分に教育の問題なんです。孊校の問題なんです。教宀で䜕も語れないでう぀むいおいる、あの子の話をしたいんだず思う。自分でも分からないくらい、教育に固執しおいるのは、たぶんそのせい。


    ※ 2026幎5月23日、「しるしをなぞる」読曞䌚ワヌクショップ「咀嚌を比喩に送り返しお」で発衚したものです。

     
     

    み

     
     
    極限たで優しくなりたい。リクヌルを䞭心に、自己ず物語の関係に぀いお考えおたす。

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