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【歎史小説】寧らかの波 第䞃章1「ゞむ、俺たちを守っおくれ」


ここたでのあらすじ

 16䞖玀。
 異囜の血を匕き、剣術「陰かげの流りゅう」を受け継いだ少幎・楠葉入鹿くすばいるかは、矎貌の明囜人みんこくじん・宋玠卿そうそけいず出䌚い、南海に「境界に生きる者たちの囜」を䜜るため共闘を誓う。
 日本の现川ほそかわ京兆家けいちょうけ・明囜の宊官かんがんず通じおいる玠卿は、勘合かんごう貿易の莫倧な利を守るために行動するが、察立する倧内おおうち氏から刺客を送られ、入鹿は圌らず激闘を繰り返す。
 第二の故郷である南海の臥蛇島がじゃじたを、元の仲間である䞭林なかばやし孫倪郎たごたろうにより焌き払われた玠卿たちは、倧内の遣明船けんみんせんを远いかけお倧陞の枯郜・寧波ねいはぞず向かう。 
 明の官吏・朱子玔しゅしじゅんず歊人・愈志茔ゆしほ、倧内の遣明正䜿で狂僧の謙道宗蚭けんどうそうせ぀、異圢の巚人・神代こうじろ源倪郎げんたろうらが埅ち構える寧波で、果たしお誰が生き残るのか。
 物語はいよいよ䜳境ぞ  

本線

第䞃章

     䞀

 䞉江口さんこうこうの枯ぞ入っおゆくず、最も目立぀甬江ようこうの巊岞に、垆柱二本の倖海船が二隻、䞊んで停泊しおいた。
 艫ずもの幟のがりには、赀䞞䞀぀の䞋に、華麗な花菱王はなびしもんが染め抜かれおいる。
「倧内菱おおうちびしだな」
 舳先で腕を組みながら、玠卿は぀ぶやいた。
「あれが連䞭の船なのか」
 入鹿は、喉を鳎らしお぀ばきを飲み蟌んだ。朚屋きやが仕立おた堺の唐船ず比べおも、ただ䞀回り倧きい。それが二隻も連なっおいるのだ。
「やはり、遅れを取っおしたったか」
 先行させた者の報せによれば、倧内船は四日前には到着しおいたずいう。先んじお手を回すには、充分過ぎるほどの時間だろう。
「あれの前ぞ着けろ」
 玠卿は、袖を振り立おながら氎手かこぞ呜じた。事ここに至っおは、もはや匷気を抌し通すしかあるたい。
 ずころが岞壁では、五十人近い明囜人の䞀団が、出迎えの行列を䜜っお埅ち構えおいた。
 臙脂色の瀌服で揃えた官吏が敎列し、儀仗の鉟ほこや鉞たさかりを捧げ持った兵たちが巊右に䞊んでいる。楜団が銅鑌や音色぀きの鉊かねを打ち鳎らし、笛や管を吹き鳎らしおいた。
「盛倧なもんじゃないか」
 入鹿は思わず、安堵の笑みを浮かべた。
 䞀団の真ん䞭で、歊官から橙色だいだいいろの傘を差し掛けられおいるのは、極床に倪った䞀人の男だった。
 黒䞀色の衣に、透かしの冠をかぶっおいる。若くはないはずだが、顔にたるで皺がなく、茹でた卵のように぀る぀るずしおいた。
 それでいお、冠からはみ出した鬢びんず顎に沿っお䌞びた髭が、獅子の鬣たおがみのように぀ながっおいる。
 玠卿はそちらぞ歩み寄るず、いきなり拱手きょうしゅしおひざたずき、挢語で䜕事かを蚀䞊し始めた。
 氞春も同じようにしたので、入鹿も慌おお倣った。立ったたたでいるのは、正䜿の鞞岡らんこう瑞䜐ずいさずその䟛の僧䟶たちばかりだ。
 頭䞊から、宊官が聞き取れない蚀葉を萜ずしおきた。儀瀌的なものなのだろうが、どこずなく笑いを含んでいるようでもあった。
 䜿僧たちの陰になっおいるのを幞い、入鹿は傍らの氞春えいしゅんの方ぞそっず顔を向けた。
䜕を蚀っおる
 ず、口の圢だけで尋ねおみた。
 氞春は、焊げた癜髭を半分くらいたで切り揃えおいた。こちらぞ暪目を投げるず、小さくかぶりを振り、
あずで教えおやる
 ず、やはり口ぶりだけで答えおみせた。
 瑞䜐以䞋の僧たちが前ぞ進み出るず、携えおきた勘合を倪監たいかんぞ捧げ枡した。倧切りの癜い玙だ。毛筆で曞き蟌たれた元号は「匘治こうち」で、ずっくに無効になっおいるはずだった。
 しかし盞手は少しも構い぀けず、䞞っこい指で玙を受け取るず、瞊にしたり暪にしおみたり、勿䜓らしく怜分しおみせた。
 宊官が荘重にうなずくず、銅鑌の音がけたたたしく打ち鳎らされた。それを朮に、氞春ず入鹿も立ち䞊がった。
 枯の氎倫たちが、襲いかかるように船ぞ向かっおいく。こちら偎の氎手ず力を合わせ、倥しい積み荷を氎揚げし、枯の倉ぞ収めおゆくのだった。

「向こう十幎間、あんたが倪監に仕えるだず」 
 入鹿は思わず声を匵り䞊げた。
 嘉賓通かひんかん、ずいう豪奢な建物の䞀宀だった。抻ずうや怅子、卓が䞊べられ、赀い壁際には象牙で圫られた竜や虎の眮物が食られおいる。
 玠卿はむしろ、萜ち着き払った様子だった。
「もう充分に、賂たいないを枡しおいたんじゃないのか」
「金だけでは、入枯の蚱可を埗る皋床のこずにしかならない。それでも砎栌の扱いではあるがな」
「あんた自身が、身を売るっおこずじゃないのか」
 盞手は動かない面差しで、じっずこちらを芋぀め返しおいた。
「十幎もあんたが姿を消したら、残された俺たちはどうなる。南海に俺たちの囜を䜜るっおいう倢も」
「私がいない間は、氞春やお前にあずを蚗す。吐噶喇ずからの島々や、双嶌そうしょのみんなをよろしく頌む」
「十幎経おば、本圓に垰っおこられるんだろうな」
 問い詰めたずころで、玠卿自身にだっおわからないだろう。それでも入鹿は尋ねずにはいられなかった。
 ただでさえ、倪監から玩具のように匄ばれおいるのだ。それが十幎も続けば、呜を氞らえおいるかもわからない。
「あずのこずも気にかかるが」
 氞春が重々しく口を切った。
「たずは目の前の倧内方じゃ。我らが遅れお入枯したにもかかわらず、朝貢䜿ちょうこうしずしお迎えられた以䞊、奎らの面目は䞞朰れじゃ。このたた黙っお匕き䞋がるはずは、決しおあるたい」
「頌恩らいおんの考えでは」
 玠卿は、冷たいほどの口調で話を匕き取った。
「我らず倧内方を、察等の䜿節ずしお遇する぀もりらしい。順倩府じゅんおんふぞの䞊奏もそのようにする。回賜品は二分するこずになるだろうが、それで䞀旊腹に収めるよう、匷く説き぀けるそうだ」
「それでうたくいくのか」
「元々明囜からすれば、䞀人の日本囜王からの朝貢䜿に過ぎない。现川だ倧内だ、勘合の新旧だず争っおいるのは、ただこちらの内茪揉めなのだ。飜くたでも元の枠組み通りに振る舞う、ずいうこずだろう」
「連䞭が、それで玍埗するず思われたするか」
 氞春も、さすがに銖をかしげおいた。
「もちろん、するわけがない。問題は、どこで仕掛けおくるかだ。その時にこちらも迎え撃ち、奎らを根絶やしにする。そのために我らはここにいるのだ」
 その時、通の職員が郚屋を蚪ねおきお、䜕事かを挢語で告げた。
「間もなく、宎の支床ができるらしい」
「宎」
「朝貢䜿歓迎の宎だ。鞞岡瑞䜐ず謙道宗蚭が、ずもに正䜿ずしお䞊垭ぞ䞊ぶ。たずはここが山堎だ。くれぐれも気を匵っお、ぬかるなよ、入鹿」
 䞊陞の際に、刀などは寧波城内の歊噚庫ぞ預けさせられおいる。それはこちらも倧内方も倉わらない。
 が、入鹿はうたくごたかし、藀四郎ずうしろうの短刀だけは他の荷物に玛れさせ、今も懐䞭に忍ばせおいた。
ゞむ、俺たちを守っおくれ
 盎垂ひたたれの䞊からその拵こしらえを握りしめ、入鹿は心の䞭で必死に念じた。

2ぞ続く

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