メインコンテンツへスキップ
見出し画像

ありふれた出会いのはずだった

    最初、正直タイプではあった。

    でも、恋に落ちるとは思ってなかった。

    年齢の割にベビーフェイスで、整っていて、でも全然笑わない人だった。

    無愛想で、反応も薄くて。

    「この人、女の子苦手なのかな」

    って思うくらいには、距離があった。

    ただ、一度だけ。

    一緒に来ていた人と話して、ふっと笑った瞬間があった。

    その時だけ、空気が変わった。

    真顔だと大人っぽくて、どこか近寄りがたいのに。
    笑うと、びっくりするくらい幼さが出る人だった。

    そのギャップが、なんだかずるかった。

    だから後日、

    「俺、アオイちゃんがいいんだよね」

    って言われた時、本気で意味がわからなかった。

    え、どこで刺さった?

    そう聞きたくなるくらい、彼はずっとクールぶっていたから。

    ──いや、今思えば、ただの人見知りだったのかもしれないけど。


    最初は、完全に営業のつもりだった。

    むしろ、無愛想で何を考えているかわからない彼に対して、

    「この人、本当に楽しんでる?」

    くらいに思っていた。

    だから、

    “会いたくて会いたくて震える”

    なんて、半分ふざけながら送ったLINEに、

    想像以上の熱量で返ってきた時の方が、むしろ私が戸惑った。

    気付けば彼は、
    来れない日も私が仕事を終える時間を狙ったみたいに連絡をくれて、

    気付けば私は、

    「この人、なんでこんなに会いに来るんだろう」

    って考えるようになっていた。

    ──いや、クールな人じゃなかったんかい。

    そう思った頃には、
    もうだいぶ遅かったのかもしれない。

    ただ、今思えば。

    彼から映画に誘われる頃には、もうだいぶ距離は近付いていた。

    最初の同伴も、彼からだった。

    LINEをしていた時、

    「今度、アオイちゃんと同伴したい」

    って、彼の方から言ってきた。

    “忙しい人だから、社交辞令みたいなものかな”

    なんて思っていたのに、彼は割とすぐ予定を組んできた。

    その日は雨だった。

    食事を終えて店へ向かう時、彼が先に傘を開いて、おそるおそる私の方へ傘を寄せてきた。

    だから私は、

    「え、アイアイ傘してくれるの? じゃあ私、傘開くのやめよーっと」

    なんて、半分ふざけながら笑った。

    すると彼は、面食らったみたいな顔をして。

    そのあと、小さく、

    「かわい……たまらないんですけど」

    って呟いた。

    ──いや、クールな人じゃなかったんかい。

    ある日、彼に映画に誘われた。

    「今度、昼間空いてる?」

    珍しいな、と思いながら予定を聞くと、

    「観たい映画あるから、一緒に行こうと思って」

    そう言ったあと、彼は急に、

    「あ、でも仕事あるか……」

    と、自分から誘ったくせに、急に引いた。

    本来なら、同伴に繋げる場面なはず。

    でも、この頃には彼を深掘りしてみたいと思うくらいには、私は彼に興味津々だった。

    平日だったし、私としてはどうにでもなる日だったから、

    「じゃあ休み取ろっか」

    って軽く返した。

    すると彼は、

    「え、休み取ってくれるの!?」

    って、本気でびっくりした顔をした。

    その時ちょっとだけ、

    この人、本当に私のこと好きなんだ。

    って思ってしまった。

    その頃にはもう、

    “お客様”

    って言葉だけでは、少し説明がつかなくなっていた。

    でも私はまだ、
    ちゃんと線を引けると思っていた。

    ──海外勤務の話を聞くまでは。


    この記事が参加している募集

     
     
    実体験を元にしたエッセイを書いています。 モラハラを断ち切り、今の彼との関係で安心を知って行くまでの恋愛エッセイがメイン。 時々ふっと浮かんだ感情を思いつくまま書いたりもします。 noteを通して記憶と 感情の整理をしている最中です。

    あなたへのおすすめ