
都会の地下に棲む魔物の吐息
私は都会のコンクリートの下に魔物の存在を感じた。
旅に出た時、多くの人たちが行きかう場所に降り立つ。
けれど、特に人の多い場所に行くと、何だか怖くなる。 それは人混みが嫌いだとか、そういった単純な話ではない。
見上げれば、コンクリートを積み上げただけの、ジェンガみたいなビル群。
そこには無数の窓があり、無数の生活が詰め込まれているはずなのに、なぜか生命の鼓動が聞こえてこない。
外に出ても、すれ違う人々は皆、手元のスマホという「自分の世界」に閉じこもり、隣にいる他者の存在を消し去っている。
一瞬でたくさんの人の存在が1か0の信号の様に見えて、チリとなる。
太陽すら拒むようなビルの隙間。
そこには流れていかない風が淀み、ねっとりとした熱だけが支配している。
巨大なビルの影が動いている様に見えて、誰も気付かない、地下からたまに顔を出す魔物なのだ。そこに流れている風も、また、魔物が出す吐息なのかもしれない。
人々のエネルギーを少しずつ吸い取り、代わりに無機質な孤独を吐き出す装置なのだ。
ふと足元に目を落とすと、小さな公園に無数の煙草の吸い殻が捨てられていた。
皮肉なことに、それがこの無機質な空間に「生身の人間が存在する」という、最も生々しい唯一の証拠に見えるが、見えるはずの人間という存在に疑問を感じる。
魔物は、私たちの「野生」や「心」と引き換えに、便利さを与える。
古代文明が滅びたのは、外敵に襲われたからでも、天災のせいでもないのかもしれない。 こうして都会という魔物に、内側からすべてを喰い尽くされたのではないかとさえ思ってしまうのだ。
生きるってなんだろう?
足元のコンクリートから出てくる熱に、眩暈がする。
一歩間違えたら、そこから動けなくなって、私の存在すらも消えてしまいそうになった。
あぁ。帰りたい。
私が私でいられる、自分の世界の大きさを決められる場所へ。
風が吹き、命が当たり前に呼吸している、あの場所へ。