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Photo byshigekumasaku

長寿のトリセツ92【寿呜ず銙りの䞍思議な関係⑀】䞖界暙準の嗅芚トレヌニングず立ちはだかる「シニアの壁」



    科孊が実蚌したリハビリ「嗅芚トレヌニング」ずは


    前回は、銙りず寿呜の因果関係の3぀めずしお「おいしい」を倱う恐怖に぀いおお話ししたした。嗅芚の䜎䞋が食欲枛退を招き、高霢者を䞀気に芁介護状態ぞず陥れる「フレむル・ドミノ」の匕き金になる、ずいう生掻に盎結する切実なリスクでした。

    「錻の利きが寿呜を巊右する理由は分かった。では、䞀䜓どうすればいいのか」今回からはいよいよ、劣化モヌドに入りかけたシステムを自らの手で「再起動」させるための具䜓的な解決策に螏み蟌んでいきたす。

    か぀お、䞀床倱われた嗅芚や衰えた嗅芚神経を元に戻すこずは非垞に難しいずされおきたした。しかし近幎、医孊界でその効果が実蚌され、䞖界的な暙準治療ずしお認められ぀぀ある画期的なアプロヌチがありたす。それが「嗅芚トレヌニング嗅芚リハビリテヌション」です。

    このトレヌニングの基本は、ドむツのドレスデン倧孊のトヌマス・フンメル教授らが考案した非垞にシンプルなものです。甚意するのは、脳の異なる嗅芚受容䜓をバランスよく刺激するために遞ばれた、系統の異なる「4぀の銙り」の゚ッセンシャルオむル粟油です。

    ロヌズ花系、レモン果物系、ペパヌミントハヌブ系、クロヌブスパむス系

    この4぀の粟油ボトルの蓋を開け、毎日「朝ず晩の2回」、それぞれの銙りを10秒〜15秒間ず぀、リラックスしお深く嗅ぐ。たったこれだけのトレヌニングです。

    ポむントは、ただ挫然ずにおいを嗅ぐのではなく、「これはレモンのツンずした爜やかな銙りだ」「これはロヌズの華やかな銙りだ」ず、頭の䞭でその銙りのむメヌゞや過去の蚘憶を匷く意識し、想像しながら嗅ぐこずにありたす。

    人間の神経の䞭で、䟋倖的に絶えず生たれ倉わり続けおいる嗅神経の性質を利甚し、錻から脳海銬や嗅球ぞの䌝走路を意識的に「マッサヌゞ」しお再構築しおいく。これこそが、科孊が導き出した脳ず錻のハッキング技術なのです。

    アロマの銙りで嗅芚識別胜力・過敏性などが「有意な改善」ずいう結果に


    では、このトレヌニングの効果はどのように蚌明されたのでしょうか。それに぀いお、少し探っおみたしょう。

    フンメル教授らが2009幎に発衚した初期の代衚的な臚床研究では、原因感冒埌、倖傷埌、特発性などを問わず嗅芚障害を持぀患者を察象に、4皮類の銙りロヌズ、レモン、ナヌカリ、クロヌブを毎日朝晩2回嗅ぐトレヌニングを12週間玄3ヶ月実斜したした。

    この研究の成果は次の通りです。トレヌニングを行ったグルヌプは、行わなかったコントロヌル察照グルヌプず比范しお、においを識別する胜力どの銙りがどれか圓おる力および嗅芚の閟倀どれだけ埮量なにおいを感知できるかにおいお、統蚈孊的に極めお有意な改善が芋られたした。この研究を機に、嗅芚リハビリテヌションの有効性が䞖界䞭に広く認知されるようになりたした。

    脳の構造が倉化するこずが分かった


    このトレヌニングの効果に関するさらに重芁な゚ビデンスずしお、嗅芚トレヌニングが「錻」だけでなく、「脳の構造そのものを物理的に倉化させる」ずいう事実が、機胜的磁気共鳎画像装眮fMRIなどを甚いた脳画像研究によっお蚌明されおいたす。

    トレヌニングを継続した被隓者の脳を解析したずころ、においの初期凊理を行う「嗅球きゅうきゅう」の䜓積が増加しただけでなく、蚘憶を叞る「海銬」や感情を叞る「倧脳蟺瞁系」、さらには思考を叞る「県窩前頭皮質」を繋ぐ神経ネットワヌクの結合性぀ながりが匷化・拡倧しおいるこずが確認されたした。䞀蚀でいうず、「脳領域のネットワヌク匷化」です。これは、錻からの定期的な刺激が、脳を盎接マッサヌゞしお若返らせる最高のアプロヌチであるずいう匷力な蚌拠でした。

    しゃべり方たで流暢になる


    2010幎代以降には、加霢に䌎う自然な嗅芚䜎䞋や、アルツハむマヌ病などの認知症前駆期MCI軜床認知障害の患者を察象ずした研究も進められたした。高霢者がこの嗅芚トレヌニングを5〜8ヶ月ずいった長期で継続した堎合、嗅芚そのものの回埩にずどたらず、蚀語の流暢性や、党䜓的な認知機胜の評䟡スコアにも良い圱響を及がす可胜性が耇数の独立した研究Konstantinidisら、2013幎などで報告されたのです。

    においを意識的に識別しようずする行為が、脳の「前頭葉」や「海銬」の血流を促し、现胞の衰えにブレヌキをかけるこず(認知機胜の維持・改善を瀺唆)が゚ビデンスずしお瀺されおいたす。フンメル教授らの研究が蚌明したのは、「人間の嗅芚神経や脳のネットワヌクは、高霢になっおからでも、適切な倖郚刺激正しい信号を送り続けるこずで、可逆的に匕き䞊げ、再構築できる」ずいう事実でした。

    なぜ玠晎らしい方法なのに「シニアの壁」にぶ぀かるのか


    ずころが、これほどシンプルで、か぀科孊的な根拠もある䞖界暙準の嗅芚トレヌニングなのに、いざ日垞で実践しようずするず、日本のシニアの倚くが共通の「高い壁」にぶ぀かり、途䞭で挫折しおしたうこずが分かっおきたした。

    マネゞメントの芳点から芋るず、継続を阻む壁には䞻に次の3぀がありたす。

    1「毎日同じ銙りをただ嗅ぐだけ」ずいう猛烈な飜き
    フンメル教授の手法では、同じ4皮類の銙りを最䜎でも3ヶ月から半幎以䞊、毎日朝晩欠かさず嗅ぎ続けるこずが掚奚されおいたす。最初は新鮮で楜しく取り組めおも、数週間が経぀ず「今日もたた同じ䜜業か  」ず、匷烈なマンネリ化ず飜きが襲っおくるのです。

    2アロマオむルの「扱いづらさ」ず手間の壁
    小さなアロマの小瓶を4぀甚意し、毎日朝晩、1瓶ず぀蓋を開けおは閉め、開けおは閉めを繰り返す。指先が少し䞍自由になっおきたシニアや、面倒な䜜業が苊手な方にずっお、この「蚈8回ボトルの蓋を回しお開閉する」ずいう行為そのものが、日垞の倧きなハヌドルおっくうの皮になっおしたうのです。

    3「効いおいるのか分からない」ずいう䞍安の壁
    嗅神経のタヌンオヌバヌには時間がかかるため、トレヌニングを始めおも数日や数週間で劇的な倉化が珟れるわけではありたせん。ビゞネスにおける数倀管理ず同じで、自分の珟圚の「正解率」や「回埩床」が目に芋えお可芖化されないため、「本圓にこれをやっおいお意味があるのだろうか」ず疑心暗鬌になり、モチベヌションが維持できなくなっおしたうのです。

    トリセツ1たずは「1皮類の銙り」から気軜に始める


    4皮類を完璧に揃えようずせず、たずは家にあるお気に入りのアロマや、コヌヒヌ豆、柑橘の皮など、身近な銙り1぀から始めおみおください。「毎日必ず4瓶」ずいうハヌドルを䞋げるだけで、継続のしやすさは倧きく倉わりたす。慣れおきたら少しず぀皮類を増やしおいけば十分です。

    トリセツ2カレンダヌに「◯」を぀けるだけの蚘録を぀ける


    「効いおいるか分からない䞍安」ぞの察策ずしお、正解率を厳密に蚘録する必芁はありたせん。トレヌニングを行った日にカレンダヌやスマヌトフォンに「◯」を぀けるだけの、ごく簡単な蚘録習慣を取り入れおみおください。積み重なった◯の数そのものが、継続の実感ず達成感を支えおくれたす。

    日本ず西欧、銙りぞの向き合い方はこう違う
    䞖界暙準の嗅芚トレヌニングは確かに玠晎らしいものですが、それが簡単に日本のシニアに定着できないのは、銙りに関する文化的な土台が日本ず西欧で異なるこずに原因があるのかもしれたせん。ここからちょっず本論から倖れお、日本における銙りぞの向き合い方の問題点を挙げおみたいず思いたす。

    日本には叀くから銙道の文化がありたした。日本の銙道は、茶道・華道ず䞊ぶ日本䞉倧芞道の䞀぀です。「銙りを嗅ぐ」のではなく、「銙を聞く聞銙」ずいう衚珟を甚いるこずに特城がありたす。これは、銙朚が語りかけるような繊现な銙りに耳を柄たす、ずいう粟神を衚しおいたす。

    銙道の歎史は6䞖玀頃、仏教ずずもに銙朚が日本ぞ䌝来したこずに始たりたす。その埌、平安時代には貎族が衣服や手玙に銙を焚き染める「薫物たきもの」文化が発達したした。宀町時代には歊家や公家の間で芞道ずしお䜓系化され、珟圚の銙道が成立したす。

    銙道では、最高玚の銙朚である沈銙や䌜矅を少量ず぀枩め、その埮劙な銙りの違いを味わいたす。たた、「組銙くみこう」ずいう、銙りを聞き分ける遊びや競技も発達したした。『源氏物語』を題材にした「源氏銙」は、その代衚䟋です。

    銙道で重芖されるのは、銙りの優劣ではなく、その個性を味わうこず、心を静め、粟神を敎えるこず、自然ぞの敬意や季節感を感じるこずです。぀たり、銙道は感芚を磚く芞術であるず同時に、粟神修逊の道でもありたす。

    これに察しお、西欧では銙りは叀くから身だしなみや瀟亀文化ず深く結び぀いおきたした。特に1719䞖玀のペヌロッパでは、公衆衛生や入济習慣の違いもあり、䜓臭を和らげる目的から銙氎文化が発展したした。その埌は、銙氎が個性や魅力を挔出する芞術ぞず発展し、珟圚ではファッションの䞀郚ずしお広く芪したれおいたす。

    日本ず西欧では、このように銙りに察する倧きなスタンスの違いがありたした。そしお、このスタンスの違いに無自芚なたた1980幎代埌半にむギリスやフランスから「アロマテラピヌ」ず称する文化が流入し90幎代から21䞖玀初頭にかけお䞀皮のブヌムを䜜り䞊げたした。

    どのブヌムも䌌たずころはありたすが、西欧アロマテラピヌが日本でブヌムを圢成する時期、「テラピヌ(治療法)」ず称し぀぀も孊術的、医孊的な理論基盀はあたり確立しおいなかったのも事実です。

    次回、シニア向けの脳のための銙りトレヌニングを玹介したす。

    参考文献


    Hummel, T., et al. (2009). Effects of olfactory training in patients with olfactory loss. Laryngoscope, 119(3), 496-499. 䞖界暙準の嗅芚トレヌニングの効果を実蚌したフンメル教授の代衚的論文
    López-Otín, C., et al. (2023). The hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186(1), 24-44.生掻習慣の継続的な倉曎が゚ピゞェネティックな乱れをリセットする重芁性を論じた基本論文
    Haehner, A., et al. (2013). Effects of olfactory training in patients with postinfectious olfactory loss. The Laryngoscope, 123(9), 2233-2237.
    Kollndorfer, K., et al. (2014). Olfactory training induces connectivity changes in task-related brain networks. Frontiers in Human Neuroscience, 8, 432. トレヌニングによっお脳の神経ネットワヌクが再構築される様子をfMRIで蚌明した論文
    Konstantinidis, I., et al. (2013). Olfactory training in ageing and Alzheimer's disease. European Archives of Oto-Rhino-Laryngology, 270(5), 1589-1595. 高霢者および初期認知症リスク局に察する嗅芚トレヌニングの有効性を怜蚌した研究


    【長寿のトリセツからお知らせ】「寿呜」を远いかけおいたら「人間ずは䜕か」ずいう問いに行き着いた

    この問いを小説ずいう圢にしおみたした。
    執筆は梶岡隆。
    6月15日より、『现胞は二十幎きみを悌む』党16話を毎日1話ず぀公開しおいたす。第1話公開埌はこちらからお読みいただけたす。
    #现胞は二十幎きみを悌む


     
     
    科孊的根拠ず医孊研究デヌタから健康長寿を考える線集者。珟代医孊ず䌝統医孊の双方に粟通し、論文・実䜓隓・読者知芋を吟味しお発信。健康情報に絶察の正誀はなく「自分にずっおの䟡倀」を軞に、明日から実践できる知恵を届けたす。

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