
あんなに楽しかったのにね
しおちゃんと数ヶ月ぶりの喧嘩。
最近、ぼくたちはあるアニメにハマっていて、しおちゃんが作ってくれた晩ごはんを食べながらそれを見るのが日課だ。
「わたしはこの時間が本当に幸せだ!」としおちゃんが言うから、ぼくは嬉しくてたくさん食べてしまう。
お腹がパンパンになって、そのままリビングの床で寝転がっていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
「洗い物しておくから、先にお風呂に入っておいでよ」しおちゃんに肩を揺らされ、ぼくはその言葉に甘えてお風呂に向かった。
熱いお湯につかると目が覚めた。
「洗い物代わるよ。しおちゃんもお風呂入っておいで」そう声をかけたけれど、「ううん、私が最後までやるよ」と返ってきた。
この時、なんだか胸の奥が少しモヤモヤした。
ぼくは優しさのつもりだったし、せっかくご飯を作ってくれたのに、洗い物まで全部任せるのは忍びないと思ったから。
なにより、ここで交代したほうが二人の準備が早く終わって、また寝室でアニメの続きを見られるのに。
それが、ぼくの本音だった。
そっけなく拒絶されたと感じたぼくは、「なんでそんなに頑固なんだろう」と、少し冷たい態度をとってしまった。
でも、あとでポツポツと話してわかったのは、それはしおちゃんの優しさだったということ。
リビングで寝てしまったぼくを見て、「りうくん、今日は疲れてるんだな。家事は全部やるから、そのまま先に寝かせてあげよう」と思ってくれていたらしい。
ぼくはそれに気づかず、ただ「早くアニメを一緒に見たい」という自分勝手な効率を、正解として押し付けようとしていたんだ。
しおちゃんが「ぼくを休ませたい」と動いてくれていたことにも気づかずに。
彼女はごはんを作り、片付けまで頑張ってくれた。それなのに感謝もされず、ぼくから冷たい態度をとられて、どんなに悲しかっただろう。
お互いモヤモヤを抱えたまま寝るのは嫌で、少し話し合った。けれど、そこでぼくは最悪な一言を放ってしまう。
「さっきまでは、あんなに楽しかったのにね」
ちょっと前まであんなに笑っていたのに、なんでこうなっちゃうんだろう。
ただそれだけの気持ちだった。
でも、しおちゃんには
「私のせいで台無しになった」
と責められているように聞こえたみたいで、ひどく傷つけてしまった。
ぼくはなにも悪くないって思いたかった。
けど、ため息混じりに放ったその言葉は、彼女の優しさごと、今日という一日を否定する響きを持っていたのかもしれない
自分のやり方を通すために、しおちゃんを思い通りに動かそうとしていたような気がして、そんな自分が少し怖い。
大好きなのに、うまくいかない。
お互いに思い合っているはずなのに、どうしてか裏目に出てしまう。
みんなも、こういう夜があるのかな。
そういう時、どうやってやり過ごしているんだろう。
暗い寝室で天井を見ながら、そんなことを考えている。
足元で丸くなっている猫のふじの重みだけが、今はあたたかくて、少し重たい。