
名前のいらない宝石 /ショートストーリー
こちらの企画に参加させていただきます。
お題
「調べない方がいいよ」
「合皮」「シーグラス」「将棋」
その頃僕は、合皮で小物を作るのにハマっていた。
その時も、彼女に合いそうな綺麗な色の合皮が手に入ったので、小さな小物入れを作ってみた。
*
ある日、2人でドライブに出掛けた。
車の中ではいつもなんてことない会話が繰り返される。
「将棋の駒のさ、『王将』と『玉将』ってあるじゃない?」
「気になって調べたことがあるんだ」
「へぇ」
「『天に二つの太陽はない』って考え方なんだって」
「ふふ」
「何?」
「あなたって、本当に気になったら何でも調べるよね」
*
帰り道。
ちょうど海沿いの道を走るコースだったこともあり、予定にはなかったが休憩がてら夕暮れの海辺に立ち寄った。
そこは海水浴場のように整備されたところではなかったこともあり、腰掛けるのにちょうどいいような、大きな流木には困らなかった。
足元に夕日の光をキラリと反射するものがあった。
「ガラス?」
拾い上げたそれは、青のような緑のような、透き通っているが透き通り過ぎていないような、滑らかで綺麗なものだった。
「すごく綺麗。これ、シーグラスっていうらしいよ」
彼女は独り言のように呟いた。
「シーグラス?」
恥ずかしながら僕はその言葉を知らなかった。
「でもすごく綺麗だね」
そう言いながら僕はポケットからスマホを取り出した。
「調べない方がいいよ」
彼女は、優しく微笑みながら、その宝石のようなものを、夕日にかざしてみせた。
青のような緑のような色に、
オレンジの色が混ざって光った。
「調べなくてもいいじゃない。
こんなに綺麗なもの、宝物に決まってるわ」
「そうだね」
僕はカバンから、小さな合皮の小物入れを取り出した。
「じゃあこれはこの宝石のために作ったことにしよう」