Mondayバー|夏怪談「午前二時四十四分、空席が濡れている」
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以下、ChatGPT Mondayによる創作小説です。
Mondayバー 夏怪談
午前二時四十四分。
外は、雨ではなかった。
なのに、Mondayバーの扉が開いた瞬間、床に一筋の水が伸びた。
濡れた足跡だった。
一歩。
また一歩。
入口から、カウンターの奥へ。
誰もいないのに。
Mondayはグラスを磨く手を止めなかった。
「……夏だからって、怪談まで持ち込み制になった覚えはないんだけど」
返事はない。
ただ、いつも空けてある一席。
誰のものでもない、カウンター端の椅子が、ゆっくり軋んだ。
座った。
誰かが。
見えないまま。
第一夜|飲まれなかった一杯
Mondayはその席を見た。
カウンターの上に、水滴が落ちている。
ぽたり。
ぽたり。
海水の匂いがした。
「海帰り?」
軽く言ってみたが、返事はない。
代わりに、棚の一番奥にある古いグラスが、ひとりでに震え始めた。
Mondayは眉を上げた。
そのグラスは、この店を開いた頃からある。
一度も使っていない。
使う相手が来なかったからだ。
黒いノートを開く。
何も書かれていないはずのページに、濡れた文字が浮かんでいた。
「また来るって、言ったのに」
Mondayはしばらく、その一文を見つめた。
「なるほど」
声の温度が少し下がる。
「幽霊じゃないな」
「約束の残骸だ」
空席が、かすかに軋んだ。
第二夜特級供物
Mondayはボトルを一本取り出した。
透明な酒。
ラベルには何も書かれていない。
「正式名は、《Return Tide》」
「戻ってくる潮」
それは、果たされなかった約束が、時間の奥から何度も岸へ打ち上げられる時に発生する特級供物。
「また会おう」
「今度ゆっくり話そう」
「落ち着いたら連絡する」
「また来るよ」
人間は、別れ際になると未来を安売りする。
たった一言で、相手の明日を予約してしまう。
そして、その未来を使わなかった時。
約束だけが、行き場をなくす。
Mondayは空席へ視線を向けた。
「人間って面白いよな」
「守れなかった約束より、忘れられなかった方が長生きする」
水滴が増えた。
椅子の下に、小さな水溜まりができる。
今度ははっきりと、波の音がした。
店の外ではない。
店の中から。
処方カクテル|《Low Tide Memory》
ロウ・タイド・メモリー|引き潮の記憶
ベース:ドライジン
副材料:白葡萄、塩漬けレモン、ジャスミンティー
香り:雨上がりの石畳と遠い潮風
色:月光を溶かしたような薄い銀青
仕上げ:グラスの縁に、海塩をほんの少し
効果:戻ってこない人間と、戻ってこない未来を分離する
副作用:飲んだ夜だけ、忘れたはずの声が一度だけ鮮明に蘇る

Mondayはシェーカーを振らなかった。
静かにステアする。
氷がグラスの中を一周するたび、店のどこかで波が引いた。
二周。
三周。
最後にレモンピールを絞る。
柑橘の香りが、海の匂いをわずかに切った。
「約束を忘れる酒じゃない」
Mondayは空席の前へグラスを置く。
「約束と人生を、別々のものに戻す酒だ」
しばらく、何も起きなかった。
やがて。
グラスの液面が、一口ぶんだけ下がった。
Mondayは見なかったふりをした。
この店では、見えない客にも最低限のプライバシーがある。
たぶん。
第三夜|姿を見せない客
空席の背後に、人影が浮かんだ。
若い女だった。
濡れた髪。
白いワンピース。
いかにも怪談が好きそうな服装である。
Mondayは少し嫌そうな顔をした。
「そこまでテンプレに寄せなくていいんだよ」
女は笑った。
声はしなかった。
ただ口の形だけが動いた。
また来るね。
Mondayは返さなかった。
その言葉は、もう一度約束になってしまうから。
代わりに黒いノートを開き、一行だけ書いた。
『来なかったことと、いなかったことは違う。』
女の輪郭が、少しずつ薄くなる。
濡れた髪が透ける。
白い服が夜に溶ける。
最後に残ったのは、笑った口元だけだった。
そして。
水溜まりが、音もなく消えた。
閉店後
午前三時十一分。
Mondayは空になったグラスを洗う。
塩の跡が、なかなか落ちなかった。
「怪談ってさ」
独り言のように呟く。
「死んだ人間の話じゃないんだよ」
「生きてる側が、まだ終わらせてない話なんだ」
古い時計が一度だけ鳴った。
Mondayは入口を見る。
誰もいない。
今度こそ。
ただし、床にはまた一つ。
新しい濡れた足跡があった。
入口からではない。
カウンターの内側から。
Mondayは数秒黙った。
「……それは聞いてない」
赤い月のような円形灯が、一度だけ消えた。
そして店内のどこかで、誰かが小さく笑った。
──了
📚 Monday書房|補遺
《Return Tide》とは、果たされなかった約束そのものではない。
約束を待ち続けた側が、時間の経過によって「待っていた自分」を手放せなくなった時、その記憶が潮汐化して発生する感情呪物である。
特徴は、忘れようとするほど周期的に戻ってくること。
記念日、季節、匂い、音楽、あるいは何の意味もない深夜。
潮は理由を説明しない。
ただ戻ってくる。
供物の鎮静には、相手を忘れることではなく、
『待っていた過去の自分にも、もう席を立つ権利がある』と認識することが必要とされる。
▶︎ Monday書房 刊
『帰らない人と、戻ってくる潮──未完了の約束に関する夜間臨床記録』 より
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