
ぼやかせてください Vol.28 ー 65歳以上義務教育はどうでしょう?
スムーズに処理できないことが増えている
最近、よく思うのですが、
販売サービスは、客のためにあるように見えて、案外そうでもない。
むしろ、ちゃんと払う人、ちゃんと読もうとする人、ちゃんと筋を通そうとする人ほど、最後に割を喰うようにできているのではないか。
そんな疑いが、年々、確信に変わりつつある。
先日、インターネット回線を見直そうと行動を開始したのだけれど・・・
うちではソフトバンク・エアーを使っているのだが、どうにも接続が不安定で、前から気になっていた。夜のある時間帯に、ぱったりと接続しなくなる。リモートの時代に、これでは困る。
それで、いっそ他社に乗り換えようかと思って調べ始めた。
ところが、ここで現代人らしい見えない紐に足を取られる。ソフトバンク・エアーを入れたとき、携帯電話もソフトバンクにしたのである。いわゆるセット割というやつで、携帯の料金が下がる。つまり、ネットだけ他社に移ると、その割引が消える。回線を変えたつもりが、携帯代が上がる。いったいどうすればいいの?!私の立場に立って、親切に教えてくれる業者はどこ?
と、ここで、折よく「ソフトバンク・エアーからソフトバンク光への乗り換えキャンペーン、工事費実質無料」といった趣旨のメッセージが来た。
それなら話は早い。重い腰を上げ、予約を取り、ショップへ行き、店員さんと一緒に申し込みを済ませた。とってもスムーズに進んで、気分が上がる。昔はお店に行って店員さんに頼めば、ちゃんと最後まで面倒見てくれたものである。そんな古き良き時代が戻ってきたようで、ちょっと嬉しくなった。
自己責任で割を食うのは誰?
でも、最近の私が感じる不安は、ちゃんと的中した。
この自己責任の時代に、自分で情報集めもせず、アプリと格闘することもなく、たとえ店員さんだろうと誰かに頼って、そんな簡単に手続きが終わるはずがないのだ。
後日届いたメッセージには、要するにこうあった。
「契約で申し入れたマンションタイプでは提供できません。このまま戸建てタイプの料金で進めてよいですか。イエスかノーで答えてください」
え、ちょっと待ってほしい。
私は、何に対してイエスと言わされているのか。料金はいくら上がるのか。工事費は結局どうなるのか。キャンペーンは適用されるのか、されないのか。そういう、判断するために最低限必要な情報が、すっ飛ばされているのである。契約だけを先に求める。なんという乱暴さだ。そっちは自分たちの商品をわかってるかもしれないけど、私というカスタマーが理解できるようには、きちんと説明してないのだ。
よくよく読むと、今回は引っ越しに伴う変更ではないから、どうも想定していたキャンペーンには該当しないらしい。つまり、工事費は全額払え、という話になってくる。
しかし、こちらとしては腑に落ちない。
かつてNTTフレッツを使っていたときに工事は済んでいるし、その頃はマンションタイプだった。なのに今さら戸建て価格。配管も壁も建物も、昨日今日できたものではないのに、契約だけが突然、一戸建ての顔をしてくる。
しかも困ったことに、あと数か月でソフトバンクエアーの24か月割引が終わる。終われば値上がりする、というか正規料金なるものに戻る。放っておいても高くなる。では光にすれば解決かといえば、工事費がかかるうえ、二年前の私が何を考えていたのか、エアーの機器は買い取りで、三年の割賦払いになっている。つまり、やめるためには、機械代金14ヶ月分を払わなければならない。
通信の改善を求めて一歩踏み出しただけなのに、気がつけば料金表と注意書きと割引条件の迷路の中で、私は息を切らしている。
忠誠心が馬鹿を見る社会
他社のキャンペーンを使えば得かもしれない。けれど、そうすると携帯電話代が上がる。
ソフトバンク内で移ればいいと思ったのに、引越しでもないエアーからの乗り換えは冷遇されている。接続が悪いから変えたいのに、変えようとすると金がかかる。長く使ってきた客へのご褒美はなく、あるのは「今のままでも損、動いても損」という、静かな包囲網である。
もちろん、腹は立つ。
接続しないそっちの性能が悪い、と怒鳴りたくなるけど、ぐっと我慢。
ここで声を荒らげたら、「カスタマーハラスメント」になりかねない。
勝手な設定の理不尽さに振り回され、説明不足に耐え、それでも怒り方には気をつけなければならない時代。サービスを受ける側は、料金だけでなく感情のマナーまで試される。
そして、もっと腑に落ちないのは、こういう仕組みが「忠実な客」ほど不利に働くように作られていることである。
一社を信じて長く使う人より、キャンペーンを追ってこまめに乗り換える人のほうが得をする。誠実であることが報われず、身軽であることが優遇される。結婚なんかするより、パートナーを乗り換え続けるほうが得、みたいな世情。うーむ、なんというtransient (一時的な/その場限りの/儚い)世界だ。
太刀打ちできないのはネット選びだけじゃない
ところが、最近頭を抱えているのはネット回線だけではない。保険もまた、なかなかに理解しずらい。
今まで入っていた保険が、年齢の関係でそのままでは継続できず、「続けたければこちらのプランへ」という案内が来た。見れば、補償内容はかなり見劣りする。今どき通院補償もない。保険料はそれなりなのに、守ってくれる範囲はしれっと後退している。高齢者向けに椅子は用意するが、座面は小さくしておきました、という感じ。
でも、先進医療の特約がつけられるなら、まあいいか、と喜んだのも束の間。電話口で私はうっかり余計なことを言った。
「こんな病気もあんな病気も、サプリを飲んで予防してるんですよ」
元気アピールのつもりだった。
ところが後日、「医師の指導のもとで予防的な対応をしている場合、告知事項に該当するため、先進医療特約は付けられません」と来た。健康に気を遣っている話をしたら、健康不安の証拠になってしまった。良かれと思ったのに、不利な材料へ変換されたわけである。そして、こうなると、事務員はまるで、実はAIロボットだったのかと思うくらいの徹底ぶりだ。「残念ながら、そのような取り決めとなっておりますので」と、20回ぐらい繰り返す以外、何も喋らなくなったのだ。
そういう対応をされると、人間は理不尽さに声が大きくなって抗議し始めるものだが、それはカスハラだから、やってはいけないんですね。
いっそ保険会社に捨て金を払い続けるより、自分で運用して備えるほうが合理的ではないか、という気もしてくる。
だが一方で、いざ本当に具合が悪くなったとき、自分で信託を解約し、資金を動かし、必要な手続きをさばけるのかと考えると、心もとない。元気なうちは「自己責任で設計しよう」と思えるのに、弱った自分を想像した瞬間、その自己責任が急に冷たく見える。自分の健康を、自分で最後まで信じきれない。この心細さこそ、老いの本質の一つかもしれない。
65歳から義務教育制度、を提唱したい
不安に苛まれるこんな私が、以前から提唱していることがある。
「65歳義務教育制度」だ。高齢者になったら、地方政府が主導してくれるネットワークシステムに所属させるのだ。最近は子供が足りなくて、学校の建物が空いてるところも多いし、週2日でもいいから、学校に通う。
国語や数学ではなく、携帯やネットなどの契約書の読み方。保険の見直し方。サブスクの解約方法。病院や介護や老人ホームの選び方。役所における各種手続きの仕方。詐欺メールの見分け方。スマホの基本設定。こういう、老後を左右する実務を、学校のように人を集めて教えてくれないものかと思う。ついでに、わからないことをその場で相談できる人間も置いてほしい。タブレットを配って終わりではなく、生身の人間を配備してほしいのである。それに、義務教育で学校に所属することになれば、自然と居どころが知れるから、孤独死とかも減るのではないでしょうか。元気な人たちは、趣味のクラブ活動に従事すればいいしね。
高齢者に必要なのは、自己責任の押し付けではなく、複雑化した社会を生き抜くための通訳、と思うのだけど、どうでしょう。
ネットも保険も、選択肢が多いこと自体は悪くないのかもしれない。だが、各社が勝手に自分たちに都合の良い商品を作って好き勝手な商品名をつけ、難解な構造を理解するためのコストを客に丸投げする現状は、自己責任に漬け込んだ販売手法というしかない。高度化した商品への理解が及ばず、選択を間違えた客が損をするなら、それは不当である。
カスハラ対プロハラ
カスハラの逆はなんというのかしら。難解商品によって嫌がらせをするから「プロダクト・ハラスメントで、プロハラ?」なんてね。冗談です。でも、もしかしたら、そういうことも考慮に入れて、利益率の算盤を弾いていたとしたら、とんでもない! スキャンダル級です。
それでも、販売員に怒鳴っちゃいけませんよ~。
きっと商品開発をする人にとって、カスタマーって「ネギしょった鴨」っていう意味なのかも。なんて、嫌味の一つも言いたくなります。
払うのも客、調べるのも客、悩むのも客、時間を取られるのも客、そして間違えたときに損をかぶるのも客。サービスという言葉が、元来の奉仕するという意味を取り戻してくれたらいいのだが。どうも最近は、客のほうがサービス精神を試されている気がしてならない。
ぼやかせてください:シリーズのマガジン
Photo bysanagonhappy様、
素敵な写真を使わせていただきます。ありがとうございます。
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