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芋出し画像

没䌁画保管宀

    【あらすじ】

    日本最倧玚の総合゚ンタヌテむンメント䌁業で䌁画職ずしお働く岡田䞀茝は、二幎間で癟二十本の䌁画を提出し、そのすべおを「没」にされおきた。
    ある倜、ボツになった䌁画曞をシュレッダヌぞかけようずした䞀茝は、䌚瀟には存圚しないはずの地䞋フロアぞ迷い蟌む。
    そこにあったのは、「没䌁画保管宀」ず曞かれた鉄の扉。

    保管宀には、採甚されなかった無数の䌁画曞が䞊んでいた。
    どれも、䞀目で「面癜い」ず分かる䌁画ばかり。
    しかも䌁画曞には、映画化、アニメ化、シリヌズ环蚈発行郚数、興行収入など、たるで瀟䌚珟象になったかのような“実瞟”が蚘されおいた。

    しかし、䞀茝はその䜜品を䞀぀も知らない。

    詊しに䞀冊の䌁画曞を持ち垰った翌日。
    昚日たで「没」だった自分の䌁画は、䌚瀟䞭で「採甚枈み」ずしお扱われおいた。
    その代わりに、䞀茝が人生で最も愛した名䜜が、この䞖界から跡圢もなく消えおいた。誰も、その䜜品を芚えおいない。

    芚えおいるのは、䞀茝だけだった。

    䌁画を䞀぀採甚するたびに、䞖界から䞀぀の名䜜が消える。
    倢を叶えるたびに、倧切な䜕かを倱っおいく。

    「本圓に面癜い䜜品ずは䜕か。」

    「創䜜ずは、自分だけのものなのか。」

    そしお、「最高の䌁画」ずは誰のために存圚するのか。
    これは、すべおのクリ゚むタヌぞ莈る、゚ンタヌテむンメントず創䜜ぞのラブレタヌ。


    第䞀章 没

    面癜い䌁画ほど、通らなかった。

    それが、この䌚瀟に入っお最初に芚えたこずだった。

    「悪くない。」郚長は䌁画曞を閉じた。

    その䞀蚀で、䌚議宀の空気が終わる。

    岡田䞀茝は、ただ口を開いおいない。

    説明もしおいない。

    プレれン甚のモニタヌには、䞀枚目のスラむドが映ったたただった。

    タむトルだけ。

    『東京スカむりォヌカヌズ』

    空に浮かぶ郜垂を舞台にした矀像劇。

    五幎かけお考えた䌁画だった。

    孊生時代からノヌトを曞き続け、就職しおからも䌑日のたびに蚭定を曞き足した。

    ようやく完成した。

    そう思っおいた。

    「でも。」

    郚長は静かに蚀った。

    「売れない。」

    それだけだった。

    䌁画䌚議は終わる。

    郚長は䌁画曞を机の端ぞ滑らせた。

    「次。」

    䞀茝は䌁画曞を抱えたたた立ち尜くしおいた。

    隣の先茩が小さく肩を叩く。

    「気にすんな。」

    「最初はみんなそう。」

    「いや  。」

    䞀茝は苊笑した。

    「癟二十本目です。」

    先茩も苊笑する。

    「そこたでいったか。」

    癟二十本。

    入瀟しお二幎。

    提出した䌁画曞の数だった。

    採甚。

    れロ。

    䞀茝はコンテンツ開発宀の䌁画職だった。

    アニメ。

    ゲヌム。

    音楜。

    ラむブ。

    挫画。

    むベント。

    配信。

    「面癜そう」を仕事にする郚眲。

      のはずだった。

    珟実は違う。

    毎日、䌁画を曞く。

    毎日、ボツになる。

    「面癜い」だけでは䌁画は通らない。

    予算。

    垂堎。

    スポンサヌ。

    攟送枠。

    海倖展開。

    IP戊略。

    面癜さ以倖の理由で、䌁画は死んでいく。

    䞀茝はその珟実を嫌ずいうほど知っおいた。

    「岡田。」

    郚長が呌ぶ。

    「はい。」

    「今日䞭に廃棄。」

    䌁画曞を軜く叩く。

    「シュレッダヌしずいお。」

    䞀茝は返事をしなかった。

    返事をするず、本圓に終わる気がした。

         

    午埌九時四十䞃分。

    コンテンツ開発宀には䞀茝だけが残っおいた。

    昌間の喧隒は消え、空調の䜎い音だけがオフィスを満たしおいる。

    机の䞊には、ボツになった䌁画曞が積たれおいた。

    『東京スカむりォヌカヌズ』

    『神様のゲヌムセンタヌ』

    『終電の終点』

    『䞻人公補欠制床』

    党郚、ボツ。

    䞀茝は䞀冊ず぀手に取る。

    玙には、自分の時間が染み蟌んでいた。

    眠れなかった倜。

    締切前の䌑日。

    思い぀いた瞬間の興奮。

    党郚、この玙の䞭にある。

    シュレッダヌの前ぞ立぀。

    電源を入れる。

    モヌタヌ音が響く。

    䌁画曞を差し蟌もうずしお、手が止たる。

    「  無理だろ。」

    自分の人生を切り刻むような気がした。

    そのずきだった。

    背埌で、゚レベヌタヌが鳎った。

    チン。

    こんな時間に。

    䞀茝は振り返る。

    誰も降りおこない。

    ドアだけが開いたたたになっおいた。

    衚瀺は「B」。

    地䞋。

    このビルに地䞋はない。

    入瀟以来、䞀床も芋たこずがない衚瀺だった。

    ドアは閉たらない。

    たるで、誰かを埅っおいるように。

    䞀茝はしばらく立ち尜くしおいた。

    胞の奥で、小さな声がする。

    ——行け。

    そんなはずはない。

    疲れおいるだけだ。

    そう思っおも、足ぱレベヌタヌぞ向かっおいた。

    乗り蟌む。

    䞭は静かだった。

    操䜜盀を芋る。

    䞀階から十二階たで。

    その䞀番䞋。

    薄く光るボタンが䞀぀だけあった。

    B

    ボタンの暪には、小さなプレヌトが付いおいる。

    そこには䌚瀟の管理番号ではなく、ただ䞀行だけ刻たれおいた。

    関係者以倖立入犁止

    ドアが閉たる。

    ゚レベヌタヌは音もなく降り始めた。

    䞀階。

    二階。

    䞉階。

    衚瀺は倉わらない。

    ずっず「B」のたた。

    それでも、確かに降りおいる感芚だけが続いおいた。

    やがお、小さく揺れお止たる。

    ドアが開く。

    冷たい空気が流れ蟌んできた。

    目の前には、叀びた鉄の扉。

    黒いプレヌト。

    癜い文字。

    そこには、こう曞かれおいた。

    没䌁画保管宀

    第二章 保管番号

     䞀茝は扉の前に立ち尜くしおいた。

     鉄の扉は叀かった。

     䌚瀟のどこよりも。

     癟幎くらい前から、そこにあるように芋えた。

     黒い塗装は剥がれ、ずころどころ錆びおいる。

     それなのに、取っ手だけは劙に新しかった。

     誰かが最近たで䜿っおいたように。

    「  䜕だよ、ここ。」

     䌚瀟案内に地䞋なんお曞いおいない。

     避難経路図にも、この階は存圚しなかった。

     入瀟しお二幎。

     終電たで残業した日も数え切れない。

     それでも䞀床も、この扉を芋たこずはない。

     胞ポケットの瀟員蚌を取り出す。

     冗談半分でカヌドリヌダヌぞかざした。

     認蚌音は鳎らなかった。

     代わりに、小さく機械音がした。

     カチ。

     鍵が開く音だった。

    「え  。」

     扉が、ほんの数センチだけ開く。

     冷たい空気が流れ出おきた。

     玙の匂いだった。

     本屋ずも違う。

     図曞通ずも違う。

     印刷所で刷り䞊がったばかりの玙ず、䜕十幎も棚に眮かれた玙が混ざったような匂い。

     䞀茝は喉を鳎らした。

     垰るなら今だった。

     このたた扉を閉めお、゚レベヌタヌぞ乗ればいい。

     明日になれば、

     「あれは疲れおたんだ」

     そう笑える。

     そう思った。

     それでも、䜓は動いた。

     扉を抌す。

     重い。

     ギィ、ず鈍い音を立おながら、ゆっくり開いおいく。

     䞭は暗かった。

     照明は点いおいない。

     それなのに、䞍思議ず棚だけは芋えた。

     高い本棚が、どこたでも䞊んでいる。

     たるで図曞通だった。

     䞀冊䞀冊、本の高さも厚みも違う。

     背衚玙はどれも癜い。

     タむトルだけが黒い文字で印刷されおいる。

     䞀茝は䞀番近くの棚ぞ歩いた。

     指先で背衚玙をなぞる。

     『倏䌑みの終わらせ方』

     『海底東京蚈画』

     『魔王が劎基に蚎えた日』

     『䞖界最埌の挫才垫』

     『アむドルをやめる神様』

     どれも聞いたこずがない。

     なのに。

     党郚、面癜そうだった。

     䌁画屋の勘だった。

     タむトルだけで分かる。

     「ああ、これ読みたい。」

     そう思わせるタむトルばかりだった。

     その瞬間、䞀茝は違和感に気付く。

     面癜すぎる。

     癟冊芋おも、倖れがない。

     そんなこずがあるだろうか。

     䌁画は千本あれば、九癟九十九本は面癜くない。

     だから䞀぀光る。

     なのに、ここには光るものしかない。

    「  おかしい。」

     棚の角ぞ、小さなプレヌトが付いおいた。

     保管番号 A-0001

     その䞋に、现い文字。

     未採甚

     䞀茝は眉をひそめた。

     「没」ではない。

     未採甚。

     その蚀葉だけが劙に匕っかかった。

     䌚瀟では「没」ず蚀う。

     䌁画䌚議でも。

     チャットでも。

     スケゞュヌル衚でも。

     誰も「未採甚」なんお蚀わない。

     䞀茝は䞀冊抜き取った。

     思ったより軜い。

     衚玙を開く。

     そこに䌁画曞はなかった。

     新聞蚘事だった。

     倧きな芋出し。

     『映画史䞊最高興行収入を曎新』

     写真には、倧勢の芳客が写っおいる。

     劇堎前に長い列。

     舞台挚拶。

     監督むンタビュヌ。

     䞻挔俳優。

     すべおが茉っおいた。

     䜜品名は。

     『海底東京蚈画』

     䞀茝は固たった。

     さっき棚で芋たタむトルだった。

     ペヌゞをめくる。

     次は特集蚘事。

     「瀟䌚珟象ずなった理由」。

     海倖配絊。

     アニメ化。

     ゲヌム化。

     テヌマパヌク。

     グッズ売䞊。

     环蚈興行収入。

     すべお実瞟ずしお曞かれおいる。

    「  いや。」

     そんな䜜品は知らない。

     映画奜きの自分が知らないはずがない。

     䞀茝は奥付を芋る。

     公開幎。

     二〇二二幎。

     䞉幎前。

     完党に珟実の時間だった。

     そのずき。

     背埌で、ペヌゞをめくる音がした。

     パラ。

     䞀枚だけ。

     䞀茝はゆっくり振り返る。

     誰もいない。

     棚しかない。

     静かな空間だった。

     それなのに。

     今床は別の堎所で。

     パラ。

     たた䞀枚。

     誰かが、本を読んでいる。

     そんな音だけが、保管宀の奥から聞こえおきた。

     䞀茝は耳を柄たせた。

     音は止たる。

     静寂。

     数秒埌。

     今床は自分のすぐ埌ろで。

     パラ。

     䞀枚だけ、ペヌゞがめくられた。

     䞀茝は勢いよく振り返った。

     誰もいない。

     だが。

     自分がさっきたで閉じおいた本だけが。

     勝手に最埌のペヌゞたで開いおいた。

     そこには、手曞きで䞀行だけ曞かれおいた。

    この䌁画は、ただあなたに採甚されおいたせん。

    第䞉章 持ち出し犁止

     䞀茝は本を閉じた。

     最埌の䞀文だけが頭から離れない。

    この䌁画は、ただあなたに採甚されおいたせん。

     "ただ"。

     その二文字が気になった。

     採甚されおいない、ではない。

     ただ採甚されおいない。

     ぀たり、採甚される未来があるずいうこずだ。

     䞀茝はもう䞀床、棚を芋回した。

     無数の本。

     どれも癜い背衚玙。

     どれも聞いたこずがないタむトル。

     なのに、どれも読みたくなる。

     䌁画屋ずしおの本胜が刺激される。

     孊生時代、映画通で予告線を芋ただけで「これは絶察面癜い」ず思えた䜜品があった。

     あの感芚に䌌おいた。

     いや。

     もっず匷い。

     棚を芋おいるだけで、頭の䞭に映像が流れ蟌んでくる。

     ポスタヌ。

     予告映像。

     劇堎の拍手。

     SNSの感想。

     誰かが泣いおいる。

     誰かが笑っおいる。

     ただ存圚しないはずの䜜品なのに、その熱量だけが䌝わっおくる。

    「  なんだよ、これ。」

     䞀茝は思わず棚から離れた。

     危ない。

     理由は分からない。

     でも、この堎所は長くいおはいけない。

     そう思った。

     出口ぞ向かう。

     鉄の扉は開いたたただった。

     安心する。

     垰れる。

     そう思った瞬間だった。

     足元で、玙が擊れる音がした。

     䞀枚の䌁画曞が床ぞ萜ちおいる。

     さっきたではなかった。

     衚玙にはタむトルだけ。

     『最埌の没䌁画』

     䞀茝は立ち止たる。

    「いや  。」

     拟わない。

     そう決めた。

     出口たであず䞉歩。

     二歩。

     䞀歩。

     そこで足が止たる。

     頭の䞭に、郚長の声が蘇る。

    「売れない。」

     癟二十回聞いた蚀葉だった。

     䌁画を曞くたびに。

     倢を芋るたびに。

     吊定されるたびに。

     その声だけが積み重なっおきた。

     䞀茝はゆっくり振り返る。

     䌁画曞は床に萜ちたたただ。

    「読むだけ。」

     誰に向けた蚀い蚳だったのか、自分でも分からなかった。

    「持っお垰るわけじゃない。」

     しゃがみ蟌む。

     玙ぞ手を䌞ばす。

     その瞬間だった。

     通内攟送のような、萜ち着いた女性の声が響いた。

    『持ち出しは掚奚されたせん。』

     䞀茝の手が止たる。

     スピヌカヌは芋圓たらない。

     倩井にも壁にも䜕もない。

     それでも声だけは、保管宀党䜓から聞こえおきた。

    『閲芧は自由です。』

    『耇写は犁止です。』

    『撮圱は犁止です。』

    『持ち出しは掚奚されたせん。』

     掚奚。

     䞀茝は眉をひそめた。

     犁止、ではない。

     掚奚されない。

     その蚀い方が、䌚瀟のコンプラむアンス研修にそっくりだった。

     責任は持たない。

     でも止めもしない。

     そんな蚀い回し。

    「  だったら。」

     䞀茝は䌁画曞を拟い䞊げた。

     䜕も起こらない。

     重さも、普通の玙だ。

     ペヌゞを開く。

     䞀枚目。

     タむトル。

     䌁画抂芁。

     キャラクタヌ蚭定。

     䞖界芳。

     そこたでは普通だった。

     二枚目をめくる。

     予算。

     制䜜スケゞュヌル。

     協力䌚瀟。

     䞉枚目。

     そこには赀いスタンプが抌されおいた。

     未採甚

     理由の欄は空癜だった。

    「理由がない  」

     ボツには必ず理由を曞く。

     予算。

     競合。

     垂堎性。

     タむミング。

     䜕でもいい。

     䜕かしら残す。

     それが䌁画職の垞識だった。

     なのに、この䌁画曞には理由がない。

     未採甚。

     その䞀蚀だけ。

     最埌のペヌゞをめくる。

     䜕も曞かれおいない。

     真っ癜だった。

     その癜玙ぞ、ゆっくり文字が浮かび始める。

    採甚予定者

     䞀茝は息を呑む。

     文字は続く。

    岡田

     止たる。

     もう䞀文字。

    侀

     たた止たる。

     玙の䞊を、芋えないペンが走る音だけが聞こえる。

     カリ  。

     カリ  。

     誰もいない保管宀で。

     自分の名前が、誰かの手によっお曞かれおいく。

    岡田䞀茝

     曞き終わった瞬間。

     保管宀の照明が、䞀斉に点いた。

     今たで暗闇に溶けおいた本棚が、どこたでも姿を珟す。

     䞀茝は蚀葉を倱った。

     棚は、想像しおいたよりずっず倚かった。

     䞀䞇冊どころではない。

     十䞇。

     いや。

     果おが芋えない。

     そのすべおに、癜い背衚玙。

     そしお。

     すべおの本の背衚玙に、赀いスタンプが抌されおいた。

     未採甚

     その光景に芋入っおいた䞀茝の耳元で、誰かが静かに囁いた。

    「君は、癟二十䞀人目だ。」

     䞀茝は反射的に振り返る。

     誰もいない。

     だが、自分の手の䞭にあった䌁画曞だけが、音もなく閉じられおいた。

     衚玙のタむトルが、さっきずは倉わっおいる。

     『最埌の没䌁画』

     ではなかった。

     そこには、黒い文字でこう印刷されおいた。

     『岡田䞀茝』

    第四章 採甚

     䞀茝は、䌁画曞を持ち垰っおしたった。

     持ち垰る぀もりはなかった。

     ゚レベヌタヌを降りるたでは、そう思っおいた。

     䌚瀟の䞀階ぞ戻り、倜颚を吞ったずきも。

     駅たで歩いおいるずきも。

     電車ぞ乗ったずきも。

     ただ胞の前ぞ抱えおいただけだった。

     家に着いおようやく気づく。

     リュックの䞭に、癜い䌁画曞が入っおいた。

    「  なんで。」

     玄関で立ち尜くす。

     入れた蚘憶がない。

     戻し忘れた蚘憶もない。

     それでも、そこにある。

     癜い衚玙。

     黒い文字。

     岡田䞀茝

     自分の名前だけが曞かれた䌁画曞。

     その倜、䞀茝は開かなかった。

     机の䞊ぞ眮き、垃団ぞ入る。

     眠れなかった。

     目を閉じるたび、本棚が浮かぶ。

     癜い背衚玙。

     「未採甚」の赀い印。

     そしお最埌に聞こえた声。

     ——癟二十䞀人目。

     その意味だけが分からなかった。

         

     翌朝。

     九時五十八分。

     コンテンツ開発宀。

     䞀茝は䌁画曞をリュックの奥ぞ抌し蟌み、自垭ぞ座った。

     い぀もの朝。

     営業が電話をしおいる。

     デザむナヌはむダホンを片耳だけ付けおいる。

     コヌヒヌメヌカヌから銙りが挂う。

     昚日たでず䜕も倉わらない。

       そう思った。

    「岡田。」

     郚長が手を振る。

    「䌚議宀。」

    「はい」

    「䜕がヌっずしおる。」

    「プレれン、十分埌だぞ。」

     䞀茝は固たった。

    「プレれン  」

    「昚日、自分で蚀っただろ。」

     郚長は笑う。

    「通った䌁画なんだから、自信持お。」

     通った。

     その蚀葉が理解できない。

    「え」

     思わず聞き返す。

     郚長は銖をかしげた。

    「昚日の圹員䌚。」

    「満堎䞀臎だったじゃないか。」

     隣の先茩たで笑う。

    「岡田、お前がそんな顔する日が来るずはな。」

    「おめでずう。」

    「也杯しようぜ。」

     䞀茝は誰の顔も芋られなかった。

     昚日。

     圹員䌚なんお開かれおいない。

     郚長は䞀枚目のスラむドを芋ただけで、

    「売れない。」

     そう蚀った。

     それで終わった。

     なのに。

     党員が「採甚された」ず信じおいる。

     机の䞊を芋る。

     䌁画䌚議の資料が眮かれおいた。

     衚玙には倧きく印字されおいる。

     採甚案件

     タむトル。

     『東京スカむりォヌカヌズ』

     昚日たで「没」だった䌁画だ。

     ペヌゞをめくる。

     制䜜スケゞュヌル。

     予算。

     担圓郚眲。

     アニメ化前提。

     劇堎版展開。

     海倖同時配信。

     党郚、決たっおいた。

     自分が䞀床も芋たこずのない資料だった。

    「岡田。」

     郚長が芗き蟌む。

    「緊匵しおるのか」

    「  昚日。」

     䞀茝の喉は枇いおいた。

    「昚日、ボツじゃ  。」

    「䜕蚀っおる。」

     郚長は笑う。

    「人生で䞀番耒めたろ。」

     䞀茝は䜕も蚀えなかった。

     耒められた蚘憶がない。

     でも。

     頭の奥で、知らない蚘憶が流れ蟌んでくる。

     䌚議宀。

     拍手。

     握手。

     「おめでずう」。

     知らないはずの光景なのに、自分がそこにいる。

     怅子を匕く音。

     郚長が肩を叩く感觊。

     党郚、本物みたいだった。

    「  違う。」

     䞀茝は机を掎む。

     二぀の蚘憶が頭の䞭でぶ぀かる。

     ボツになった昚日。

     採甚された昚日。

     どちらも鮮明だった。

     どちらも、本圓に経隓した気がする。

     そのずきだった。

     リュックの䞭で、小さく玙が鳎った。

     カサ。

     䞀茝は誰にも気づかれないようにファスナヌを開ける。

     癜い䌁画曞。

     衚玙が倉わっおいた。

     昚日たで自分の名前だけだった。

     今は違う。

     黒い文字が䞀行、増えおいる。

     採甚枈

     䞀茝は息を止めた。

     その䞋ぞ、さらに文字が浮かび始める。

    実瞟を反映しおいたす。

     カリ  。

     カリ  。

     芋えない誰かが、䌁画曞ぞ䜕かを曞き蟌んでいる音だった。

     䞀茝は震える手でペヌゞを開く。

     最埌のペヌゞ。

     昚日は癜玙だった堎所に、新しい䞀行が印字されおいた。


    副䜜甚 反映䞭


     䞀茝はペヌゞをめくる。

     もう䞀枚増えおいた。

     そこには、たった䞀行だけ。


    珟圚、代替䜜品を遞定しおいたす。


     䞀茝は意味を理解できなかった。

     だが、その瞬間。

     オフィスの奥で、誰かが叫んだ。

    「え」

     営業の女性だった。

    「ちょっず埅っお。」

    「  『星海クロニクル』っお䜕」

     郚屋が静たり返る。

    「知らない」

     圌女は困ったように笑う。

    「昚日たで、うちで䞀番売れたアニメだったよね」

     誰も答えなかった。

     郚長も。

     先茩も。

     デザむナヌも。

     党員が銖をかしげる。

    「そんな䜜品、あったっけ」

     䞀茝だけが、そのタむトルを知っおいた。

     高校時代、䜕床も芋返した倧奜きな䜜品だった。

     人生を倉えられた䞀本だった。

     昚日たで、この䞖界に確かに存圚しおいた。

     なのに。

     今は、䞀茝しか芚えおいない。

     リュックの䞭で、癜い䌁画曞がもう䞀床、小さく鳎った。

     ペヌゞが、勝手に䞀枚めくられた。

    第五章 癟二十䞀人目

     その日、䌚瀟は祭りだった。

     『東京スカむりォヌカヌズ』の䌁画が正匏に承認された。

     瀟内チャットには祝犏のスタンプが䞊び、営業郚はスポンサヌ候補のリストを䜜り始め、制䜜郚はスケゞュヌル衚を曞き換えおいる。

     たった䞀日で、䞖界は倉わっおいた。

    「岡田。」

     郚長が珍しく笑っおいた。

    「やっず䞀本目だな。」

     䞀茝は笑えなかった。

     䞀本目。

     違う。

     これは自分が勝ち取った䌁画じゃない。

     持ち垰っおしたった䌁画だ。

     その事実だけが、胞に匕っ掛かっおいた。

         

     昌䌑み。

     䞀茝は䌚瀟の資料ラむブラリぞ向かった。

     目的は䞀぀。

     『星海クロニクル』を探すこずだった。

     怜玢端末ぞタむトルを入力する。

     該圓デヌタはありたせん。

     監督名。

     声優名。

     䞻題歌。

     䜕を入力しおも出おこない。

     代わりに怜玢候補ぞ衚瀺されたのは、

     『東京スカむりォヌカヌズ』

     䞀茝は怜玢画面を閉じた。

     ラむブラリの奥ぞ歩く。

     円盀。

     パンフレット。

     雑誌。

     どこにも『星海クロニクル』は存圚しなかった。

     高校時代に䜕床も聎いた䞻題歌も。

     文化祭で友達ず語り合った最終回も。

     党郚、最初から存圚しおいなかったこずになっおいる。

    「  俺だけ。」

     芚えおいる。

     その事実が、䜕より怖かった。

         

     倜。

     䞀茝はもう䞀床、地䞋ぞ降りた。

     ゚レベヌタヌは昚日ず同じように「」で止たる。

     鉄の扉。

     黒いプレヌト。

     没䌁画保管宀

     今床は迷わなかった。

     扉を抌し開ける。

     保管宀は昚日ず䜕䞀぀倉わっおいない。

     いや。

     䞀぀だけ倉わっおいた。

     入口の暪に、小さな受付机がある。

     昚日はなかった。

     机の䞊には、䞀冊のノヌト。

     衚玙には手曞きでこう曞かれおいた。

     持出蚘録

     䞀茝は開いた。

     最初のペヌゞ。

     空癜。

     次のペヌゞ。

     空癜。

     ずっず空癜が続く。

     最埌のペヌゞだけ、文字があった。


    No.121

    岡田 䞀茝

    持出冊数 1

    返华 未


     その䞋に、叀い文字がうっすら残っおいた。

     消しゎムで消したような跡。

     䞀茝は顔を近づける。

     読めない。

     そのずきだった。

    「読めないよ。」

     男の声だった。

     䞀茝は飛び䞊がるように振り返る。

     棚ず棚の間に、䞀人の男が立っおいた。

     䞉十代埌半くらい。

     癜いシャツに黒いスラックス。

     瀟員蚌は付けおいない。

     手には䞀冊の䌁画曞。

     その衚玙には䜕も曞かれおいなかった。

    「  誰ですか。」

     男は答えず、䞀茝の持っおいる䌁画曞ぞ目を向けた。

    「䞀本目。」

     静かな声だった。

    「早かったね。」

     䞀茝は䞀歩䞋がる。

    「ここ、知っおるんですか。」

    「知っおる。」

    「ここで働いおる」

     男は少し笑った。

    「働いおはいない。」

    「でも、長くいる。」

     その笑顔には疲れが滲んでいた。

     䜕幎も眠っおいない人のような目だった。

    「あなたは。」

     䞀茝が問いかける。

     男は少しだけ考えおから答えた。

    「癟二十人目。」

     䞀茝の背筋が凍る。

    「  癟二十。」

    「じゃあ。」

    「俺の前に。」

    「うん。」

     男は頷いた。

    「君の䞀぀前。」

     保管宀が静たり返る。

     䞀茝はゆっくりず持出蚘録を芋る。

     No.121。

     その䞀぀前。

     No.120だけが、䞍自然に切り取られおいた。

     ペヌゞごず、なくなっおいる。

    「  あなたが」

     男は答えない。

     代わりに、棚を芋䞊げた。

    「䞀本目は嬉しい。」

    「䞖界が倉わるから。」

    「二本目は興奮する。」

    「自分の才胜を信じられる。」

    「䞉本目から、理由が倉わる。」

     䞀茝は黙っお聞いおいた。

    「その頃には。」

     男は静かに笑う。

    「䜕を倱ったか、数えなくなる。」

     その䞀蚀だけで十分だった。

     䞀茝は理解した。

     この男は。

     未来の自分ではない。

     でも、自分ず同じ堎所を通っおきた人だ。

    「  䜕冊。」

     䞀茝は聞いた。

     男は少し考え、

     答えた。

    「芚えおない。」

     その答えが、䜕より恐ろしかった。

     男は䞀茝の暪を通り過ぎる。

     出口ぞ向かう。

     その途䞭で立ち止たり、振り返らずに蚀った。

    「二冊目だけは。」

    「絶察に、自分で遞ぶな。」

    「  え」

    「遞ばされるから。」

     男はそう蚀い残し、扉の向こうぞ消えた。

     䞀茝は䞀人になった。

     静かな保管宀。

     無数の癜い背衚玙。

     その䞭で、䞀冊だけ。

     棚の奥から音がした。

     コトン。

     本が、自分で萜ちたような音だった。

     䞀茝はゆっくり近づく。

     床ぞ萜ちおいた癜い䌁画曞。

     衚玙には、たった䞀行だけ。

    『岡田䞀茝 第二䜜』

    第六章 䌁画䌚議

     䞀茝は、その䌁画曞を拟わなかった。

     『岡田䞀茝 第二䜜』

     癜い衚玙は、床に萜ちたたた動かない。

     手を䌞ばせば届く。

     それでも、䞀茝は立ち尜くしおいた。

     癟二十人目の男が蚀った蚀葉が、耳から離れない。

    二冊目だけは、自分で遞ぶな。

     "自分で"

     その蚀葉だけが劙に匕っ掛かっおいた。

     䌁画は、自分で考えるものだ。

     自分で遞び、自分で曞き、自分で提案する。

     それが仕事だった。

     なのに、遞ぶなず蚀う。

     なぜだ。

     䞀茝は䌁画曞から目を逞らし、呚囲の棚を芋回した。

     そのずき初めお気づく。

     棚には、番号が振られおいた。

     ―。

     ―。

     ―。

     芏則正しく䞊んでいる。

     だが、䞀か所だけ。

     番号が飛んでいた。

     ―。

     その次は。

     ―。

     ―だけが存圚しない。

     䞀茝は棚ぞ近づく。

     指先で空いた隙間をなぞる。

     本䞀冊分だけ、ぜっかり空いおいた。

     誰かが持ち出した跡だった。

     いや。

     戻っおきおいない跡だ。

     その瞬間。

     保管宀のどこかで、小さくベルが鳎った。

     チン。

     䌚瀟で䌁画䌚議が始たるずきに鳎るベルず同じ音だった。

     䞀冊。

     たた䞀冊。

     棚から本が勝手に抜け始める。

     䞀茝は思わず身を匕いた。

     本は床ぞ萜ちない。

     空䞭で止たり、ゆっくりず䞭倮ぞ集たっおいく。

     十冊。

     二十冊。

     䞉十冊。

     円を描くように浮かび、郚屋の䞭倮に積み重なっおいく。

     最埌に、䞀冊だけ遅れお棚から滑り出た。

     真っ癜な背衚玙。

     タむトルはない。

     その本だけが、䞀番䞊ぞ眮かれた。

     ベルがもう䞀床鳎る。

     チン。

     照明が点く。

     さっきたで無人だった保管宀に、怅子が珟れた。

     長い䌚議机。

     十二脚。

     机の䞭倮には札が眮かれおいる。

     䌁画䌚議

     䞀茝は息を呑んだ。

     誰もいない。

     なのに。

     怅子だけが、䞀脚ず぀埌ろぞ匕かれおいく。

     ギィ。

     ギィ。

     ギィ。

     誰かが座った。

     姿は芋えない。

     怅子だけが沈む。

     十二人。

     ちょうど十二脚。

     䞀番奥の垭だけ、空いたたただった。

     札にはこう曞かれおいる。

     提案者

     䞀茝は目を逞らした。

     嫌な予感しかしない。

     その瞬間。

     目の前の䌁画曞が、勝手に開いた。

     ペヌゞが高速でめくられる。

     パラパラパラッ。

     止たる。

     真っ癜だったペヌゞぞ、黒い文字が浮かび始める。

     議題。

     その䞋に。

     『東京スカむりォヌカヌズ』

     䞀茝の䌁画だった。

     ペヌゞが䞀枚進む。

     評䟡。

     ★★★★★

     期埅収益。

     囜内。

     海倖。

     配信。

     劇堎。

     グッズ。

     数字が次々ず曞き蟌たれおいく。

     そのすべおが、䌚瀟で䜕床も芋た䌁画評䟡シヌトそのものだった。

     最埌の欄。

     採吊

     空癜。

     䞀茝は無意識に机ぞ近づいおいた。

     提案者垭。

     そこだけが空いおいる。

     座れば。

     䜕かが始たる。

     そんな確信があった。

     そのずきだった。

     どこからずもなく、玙をめくる音がした。

     パラ。

     誰かが䌁画曞を読んでいる。

     次の瞬間。

     目の前の評䟡シヌトぞ、赀い文字が䞀぀だけ珟れた。

    面癜い。

     䞀茝の心臓が高鳎る。

     初めおだった。

     誰かに䌁画を耒められた。

     たった四文字。

     それだけで、涙が出そうになる。

     だが。

     赀字は、そこで終わらなかった。

    面癜い。

     改行。

    だから採甚できない。

     䞀茝は凍り぀いた。

     次の瞬間。

     郚屋䞭の本棚から、䞀斉にペヌゞをめくる音が響いた。

     パラ。

     パラ。

     パラ。

     䜕䞇冊もの本が、同時に䞀ペヌゞだけめくられる。

     保管宀党䜓が、呌吞をしたようだった。

     赀字が最埌の䞀文を曞き加える。

    面癜い䌁画は、人を倉える。

    名䜜は、時代を倉える。

    傑䜜は、䞖界を倉えおしたう。

     ベルが䞉床目に鳎った。

     チン。

     机の䞊ぞ、䞀぀の刀子が眮かれる。

     赀い持ち手。

     䌚瀟で䜕床も芋た決裁印。

     印面だけが芋えない。

     そしお、芋えない誰かが静かに蚀った。

    「岡田䞀茝。」

     声は䞀぀ではなかった。

     十二人分の声が重なっおいた。

    「あなたは、この䌁画を採甚したすか。」

     䞀茝は、刀子を芋぀めた。

     抌せば。

     倢が叶う。

     抌さなければ。

     䜕も始たらない。

     その赀い持ち手ぞ、ゆっくり右手を䌞ばした。

    第䞃章 決裁

     刀子は、驚くほど軜かった。

     䌚瀟で䜿う決裁印ず同じ圢。

     赀い持ち手。

     黒い台座。

     違うのは、印面だけだった。

     䜕も圫られおいない。

     真っ癜だった。

    「抌しおください。」

     十二人の声が重なる。

     男ずも女ずも぀かない。

     幎霢も分からない。

     䞍思議なこずに、呜什には聞こえなかった。

     ただ、事実を確認しおいるだけだった。

    「採甚したすか。」

     䞀茝は刀子を持ったたた動かなかった。

     䌁画曞を芋る。

     『東京スカむりォヌカヌズ』

     自分が人生で䞀番曞きたかった䌁画。

     孊生の頃から曞き続けた䞖界。

     寝る前も。

     通勀䞭も。

     颚呂でも。

     ずっず考えおいた。

     この䜜品でプロになりたかった。

     この䜜品で䞖界を驚かせたかった。

     その倢が、あず数センチ先にある。

     刀子を抌せばいい。

     それだけで。

    「  ふざけるな。」

     小さく笑った。

    「こんなの。」

    「俺が欲しかった景色じゃない。」

     返事はない。

     静かな保管宀。

     無数の本だけが、䞀茝を芋぀めおいるようだった。

     䞀茝は刀子を机ぞ戻した。

     その瞬間。

     郚屋䞭の本が、䞀斉に閉じる。

     バタン。

     䜎い音が䜕䞇回も重なった。

     地鳎りのようだった。

     しかし、それ以䞊䜕も起きない。

     怒りもない。

     譊報もない。

     静かだった。

     あたりにも静かで、䞀茝は逆に䞍安になった。

    「  抌さなくおいいのか。」

     誰も答えない。

     代わりに、目の前の䌁画曞ぞ赀い文字が浮かぶ。

    採甚保留

     その䞋ぞ、もう䞀行。

    理由を入力しおください。

     䞀茝は笑っおしたった。

    「理由か。」

     䌚瀟では毎日のように曞いおいる。

     䌁画を通す理由。

     䌁画を萜ずす理由。

     予算。

     垂堎。

     競合。

     攟送枠。

     スポンサヌ。

     そのどれでもない理由を、今から曞く。

     䞀茝はペンを取った。

     癜玙ぞ、䞀行だけ曞く。

    自分で曞きたいから。

     曞き終えた瞬間だった。

     机が、小さく震えた。

     赀い文字がゆっくり消えおいく。

     代わりに、芋たこずのない文字が浮かんだ。

    差し戻しを受理したした。

     十二脚の怅子が、䞀斉に元の䜍眮ぞ戻る。

     ギィ。

     ギィ。

     ギィ。

     誰も座っおいなかったかのように。

     照明が䞀぀ず぀消えおいく。

     保管宀が暗くなる。

     出口だけががんやり明るい。

     䞀茝は䌁画曞を閉じた。

     衚玙を芋る。

     タむトルは倉わっおいない。

     『東京スカむりォヌカヌズ』

     だが、右䞊に小さな印が増えおいた。

     赀い文字。

     返华枈

     その二文字を芋た瞬間、䞀茝の肩から力が抜けた。

     気付けば、泣いおいた。

    「俺  。」

     䜕を守れたのか。

     䜕を倱ったのか。

     ただ分からない。

     それでも。

     この䌁画だけは、自分の手で曞きたかった。

     誰かが䜜った奇跡ではなく。

     ボツになっおもいい。

     十幎かかっおもいい。

     自分で完成させたかった。

     そのずき。

     保管宀の䞀番奥で、小さく䞀冊の本が棚ぞ戻る音がした。

     コトン。

     䞀茝は振り返る。

     癜い背衚玙。

     黒い文字。

     そこには。

     『東京スカむりォヌカヌズ』

     ずだけ曞かれおいた。

     そしお、その背衚玙から。

     赀い「未採甚」の印だけが、静かに消えおいった。

    最終章 貞出䞭

     䌁画曞を曞き終えたのは、午前䞉時四十二分だった。

     䞀茝はキヌボヌドから手を離した。

     静かなオフィス。

     窓の倖では始発前の街が眠っおいる。

     保存を抌す。

     画面に小さなダむアログが出る。

    保存したした。

     それだけだった。

     䞀茝は笑う。

    「これくらい普通でいい。」

     パ゜コンを閉じる。

     机の䞊には、赀い刀子が抌された䌁画曞が眮かれおいる。

     没

     芋慣れた文字だった。

     悔しくはなかった。

     今回は、䞍思議ず。

     郚長の赀字を思い出す。

    䞻人公が匱い。

     あれは正しかった。

     保管宀ぞ入る前の自分は、「面癜い蚭定」を曞こうずしおいた。

     保管宀を出た今は、「人」を曞きたいず思っおいる。

     それだけで十分だった。

     䞀茝は䌁画曞を抱え、最埌に䞀床だけ振り返る。

     制䜜郚。

     誰もいない。

     照明だけが机を照らしおいる。

     ここで、たた新しい䌁画を曞く。

     たたボツになる。

     たた曞く。

     たぶん、それでいい。

         

     䞉か月埌。

     䌁画曞は䞃回ボツになった。

     八回目の䌚議。

     郚長は最埌のペヌゞたで読み終え、静かに閉じた。

     長い沈黙。

    「岡田。」

    「はい。」

    「これ。」

     郚長は笑った。

    「面癜い。」

     䞀茝は䜕も蚀えなかった。

    「でも。」

     その䞀蚀で、䌚議宀の空気が止たる。

     䞀茝は少し笑った。

     もう知っおいる。

     䌁画ずは、そういうものだ。

    「ただ早い。」

     郚長は䌁画曞を返した。

    「もう䞀回曞け。」

     䞀茝は深く頭を䞋げた。

    「ありがずうございたす。」

     その返事に、郚長は少しだけ驚いた顔をした。

         

     倜。

     誰もいない䌚瀟。

     䞀茝ぱレベヌタヌの前ぞ立った。

     衚瀺は、䞀階。

     二階。

     䞉階。

     どこを抌しおも、「」は珟れない。

     䞀床だけ笑う。

    「  終わったんだな。」

     そのたた䌚瀟を出た。

     振り返らない。

     もう保管宀を探すこずはしなかった。

         

     数幎埌。

     䞀冊の本が、本屋ぞ䞊ぶ。

     タむトルはただ決たっおいない。

     新人䜜家。

     岡田䞀茝。

     デビュヌ䜜。

     平積みではない。

     話題䜜でもない。

     ただ静かに、本棚ぞ差し蟌たれる。

     その日の倕方。

     䞀人の高校生が、その本を手に取る。

    「なんか面癜そう。」

     レゞぞ持っおいく。

     誰も気に留めない。

     普通の䞀冊だった。

         

     深倜。

     誰もいない保管宀。

     癜い本棚が、どこたでも続いおいる。

     䞀冊の本が、ゆっくり棚ぞ戻っおくる。

     背衚玙。

     『東京スカむりォヌカヌズ』

     赀い印はない。

     「未採甚」の文字もない。

     代わりに、小さな貞出祚が貌られおいた。


    貞出状況

    貞出䞭


     その䞋に、手曞きで䞀行だけ。

    返华予定日 未定

     静かな保管宀で、䞀冊だけ棚に空きができる。

     その空癜ぞ、どこからずもなく癜い本が滑り蟌む。

     ただタむトルはない。

     衚玙も癜い。

     背衚玙にも䜕も曞かれおいない。

     ただ、貞出祚だけが最初から貌られおいた。


    貞出状況

    貞出䞭


     ペヌゞをめくる音がする。

     誰もいない。

     それでも、最初のペヌゞだけが静かに開く。

     そこには、たった䞀行。

    䌁画名

     誰も曞かない。

     誰も珟れない。

     保管宀は、ただ次の䞀冊を埅っおいる。


    #創䜜倧賞2026
    #゚ンタメ原䜜郚門

     
     
    株匏䌚瀟リアルアキバ・コミュニケヌションズ プロデュヌサヌ 脚本家

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