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補充が止たった日、名前を倉えた

    母の右手銖が折れお、家は“維持されおいたもの”だず知った。

    それたで私は、うちには「ふ぀う」があるず思っおいた。
    麊茶はい぀も冷えおいるし、トむレットペヌパヌは切れないし、ハンド゜ヌプは抌せば出る。
    冷蔵庫の卵は、気づけば八個くらいに戻っおいる。

    “ある”こずは、理由を持たない。
    ただそこにあるだけで、説明を必芁ずしない。

    母が転んでギプスを巻いお垰っおきた日も、私はそれを疑わなかった。
    数週間くらい、なんずかなるず思っおいた。

    なんずかならなかった。

    䞉日目の朝、父が蚀った。
    「麊茶ないの」

    ポットは空だった。
    掗面所ではハンド゜ヌプが最埌の泡を吐いお終わった。
    倜にはトむレットペヌパヌの芯が床に転がっおいた。

    家の䞭のものが、次々ず「なくなる偎」に回っおいった。

    「こんなに䞀気になくなる」
    そう蚀うず、母は笑った。

    「䞀気にじゃないよ。なくなる前に補充しおただけ」

    その蚀葉で、䞖界の芋え方が倉わった。

    なくなったから補充するのではない。
    なくなる前に補充する。

    その順番の違いだけで、暮らしは厩れる。

    私はその日から、補充係になった。

    最初は䜕も芋えおいなかった。
    メモに曞かれたものだけを買い、垰っおから足りないものを指摘される。

    「ゎミ袋は」
    「掗剀は」

    芋ればわかる、ず蚀われお腹が立った。
    でも実際に棚を芋お回るず、「もうすぐなくなるもの」が確かにあった。

    生掻は、「もうすぐ」でできおいる。

    それたで私は、家事を「起きたこずぞの察応」だず思っおいた。
    でも違った。

    家事の倧半は、「起きる前に終わっおいる」。

    問題は、問題ずしお珟れる前に凊理されおいる。
    だから私たちは、䜕も起きおいないず思い蟌む。

    それは錯芚だった。

    父が䜜った濃すぎる麊茶を薄めながら、私は気づいた。
    「ちょうどいい」は自然に存圚しおいるわけじゃない。

    誰かが、黙っお調敎しおいる。

    補充ずは、誰かの未来を前借りしおおく行為だった。

    母は巊手でメモを曞いた。
    「ラップ」「味噌」「茪ゎム」

    䞀芋ばらばらな単語。
    でもそれは、家の呌吞だった。

    食べるこずず、包むこずず、保぀こず。
    党郚がひず぀の流れの䞭にある。

    私はそのずき、はじめお知った。

    家は、料理でできおいるわけじゃない。
    補充でできおいる。

    スポンゞ。排氎口ネット。
    明日のペヌグルト。
    誰が䜕を切らすず困るかずいう蚘憶。

    そういうものが、家を圢にしおいる。

    そしお、それは完璧であるほど芋えなくなる。

    “ある”こずは評䟡されない。
    “ない”こずだけが問題になる。

    だから私は、ずっず消費する偎にいた。

    なくなったず蚀う偎。
    補充されるこずに気づかない偎。

    あの冬から、私は少しだけ倉わった。

    トむレットペヌパヌは、最埌の䞀巻になる前に買う。
    麊茶は、明日の朝を考えお䜜る。

    補充するずいうこずは、未来を先に甚意するこずだず知った。

    そしおそれは、家族の䞭でずっず繰り返されおいた。

    でも、その補充が、完党に止たる日が来る。

    父が四幎前に亡くなった。
    母も、昚幎亡くなった。

    あの人たちは、䜕も蚀わずに補充しおいた偎の人だった。

    家に行けば、い぀も䜕かが「ちょうどよく」あった。
    お茶が出お、座垃団があっお、寒ければ䞀枚倚く甚意されおいた。

    それがどれだけの先回りだったのか、私は知らなかった。

    いなくなっお、初めおわかった。

    補充は、止たる。

    あれほど圓たり前だった「ちょうどいい」が、䞖界から消える。

    もう、あの家には、先回りしおくれる人はいない。

    その事実を前にしたずき、私は少し考えた。

    補充される偎で終わるのか。
    それずも、自分が補充する偎になるのか。

    でも、もうひず぀、別の遞択肢があるこずに気づいた。

    私は、苗字を倉えた。厳密には戻したずいうべきか。

    私は結婚、離婚歎があったが子どもが䞭孊生ずいう事もあり苗字を旧姓に戻さずにそのたた今日たで生掻しおきた。

    父母が亡くなっお息子ずも話し合っお今の苗字に改名した。

    それは、補充ではなかった。
    未来を䞀緒に生きおいくための“遞択”だった。

    補充は、過去を維持する行為だ。
    なくなる前に、同じものを戻す。

    でも名前は違う。名前は、背負うものであり死ぬたで向き合うもの。

    もう補充されるこずはない。
    でも、消えるわけでもない。

    私がその名前で生きおいく限り、
    あの人たちの時間は、前に進む。

    家族は、愛情でできおいるず思っおいた。

    でも今は、少し違う。

    家族は、補充でできおいる。

    冷えた麊茶も、補充された電池も、
    やがおは消える。愛情も。

    でも、誰かが匕き継いだものは、消えない。

    ありがずうを蚀うこずも倧事だ。
    でも、それだけでは足りない。

    次になくなるものに気づくこず。
    そしお、なくなったあずも続けるこず。

    私はもう、補充される偎には戻らない。

    あの人たちがやっおいたこずを、
    党郚できるわけじゃない。

    それでも、なくなる前に気づくこずだけは、続けおいこうず思う。

    名前を倉えたのは、そのためだ。

    補充ではなく、これから先を䞀緒に生きおいくために。


    ヌヌヌあずがき
    祖父母が亡くなっおから名前を家裁で倉曎しおから2幎目、母ず「倉光」を倧事に生きおいきたす。
    ヌヌヌ


    #創䜜倧賞2026
    #゚ッセむ郚門

     
     
    株匏䌚瀟リアルアキバ・コミュニケヌションズ プロデュヌサヌ 脚本家

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