正しさの居場所|『 ただ…風に運ばれて 』
サナは幼いながらに思った。
タンポポの綿毛は…
風に乗って何処へゆくのだろう?
彼女の想像は、山を越え…
水平線の彼方まで広がる。
だけど……
分からなかった。
サナは二十歳になった。
タンポポの髪飾りを編みながら…
その柔らかな感覚や匂い…
ぼんやりとした色に想いを馳せる。
「この匂い……何かに似てる」
「この色…何処かで見た景色みたい」
「誰かと繋いだ…手の感触…」
今は溶けて、薄っすらとした記憶を辿る。
だけど…鮮明に思い出せない。
サナは二十八歳。
結婚して子供も授かっていた。
部屋の窓辺には、小さな花瓶にタンポポが
生けられている。
「なんで、他の花じゃないの?」
幼子のマリーはサナに問いかける。
だけど、答えはいつも同じだった。
「なんでだろうね?
マリーは、どう感じる?」
サナは三十四歳になっていた。
重い病……ベットに横になる日々。
ベットの横に添えられた…
小さなテーブルの上に、小さな花瓶。
そこにタンポポは生けられていた。
「もう長くないですね…」
少し空いた扉から…
医者の声が微かに漏れてる。
サナは窓の外を眺めながら呟く。
「何処へ…行くんだろう?」
マリーは二十歳になっていた。
窓辺には、小さな花瓶に……
タンポポが生けられている。
そして、タンポポへ囁く。
「行ってきます」
扉を開けると…
無数の綿毛が風に乗って舞っていた。
目を閉じる。
風の中に…小さな囁きが聞こえた気がした。
