正しさの居場所| 『 減らしても残るもの 』
船は、最近少し不思議な航海をしている。
以前は、もっと積み込もうとしていた。
知識を。
言葉を。
人を。
予定を。
目的を。
正しさを。
たくさん積めば、
遠くまで行けると思っていた。
たくさん積めば、
安定すると思っていた。
………でも、どうやら少し違うらしい。
積めば積むほど、船は重くなる。
進んでいるはずなのに……
水面との摩擦だけが増えていく。
だから最近は、
少しずつ荷物を下ろしている。
音を減らす。
灯りを減らす。
説明を減らす。
答えを減らす。
予定を減らす。
そうしていると、不思議なことが起きる。
何もなくなると思っていた場所に、
何かが残る。
風の音。
船体の軋み。
波が船腹を撫でる音。
遠くで鳴く鳥の声。
そして、甲板に立つ者たちの気配……。
それらは、急に現れた訳じゃない。
ずっと、そこにあった。
ただ……、
聞こえなかっただけなのかもしれない。
最近、この船には少しずつ人が
集まっている。
音を見る人。
影を作る人。
居場所を探す人。
身体の反応を眺める人。
だけど…誰も同じ仕事をしていない。
でも、みんな少し似ている。
増やすことよりも、残るものを探している。
船は、それを眺めている。
誰かが荷物を下ろすたびに、
別の何かが浮かび上がる。
全部を照らさなくてもいい。
全部を埋めなくてもいい。
全部を説明しなくてもいい。
すると……、
少しだけ航路が見えてくる。
最近、船は気づき始めている。
正しさとは……
目的地そのものではないのかもしれない。
港でもない。
地図でもない。
羅針盤でもない。
それらを持ったまま、なお残っているもの。
その方が近い気がしている。
だから、船は急がない。
まだ測れる場所が残っているから。
遠くまでは測れない。
だから近くを測る。
全体は測れない。
だから継ぎ目を測る。
人と人の間。
音が途切れる瞬間。
影が生まれる場所。
言葉になる前の感覚。
そこを、一つずつ眺めている。
答えは、まだ見つかっていない。
でも、不思議と不安ではない。
何故なら、減らしても残るものが、
少しずつ見え始めているから。
そして船は、
今日も静かに岸辺に揺れている。
その時…
ひとつの大きな箱が船から運び出された。
その箱には、古びた紙にこう書かれていた。
『数』
箱が船から完全に降りた瞬間…
また少し軽くなったみたいだ。
今度は何処へ行こう。
マストが貼られる。
船は、波飛沫を受け…
船出のその時を待っているようだ。
