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正しさの居場所|『 船出に憧れて… 』

一応、船は順調に作られていると思われた。しかし、どうやら高雄が作っていたのは、船ではなかったようだ…。

だが…船の部品にはなる。そう海斗に教えてもらった。だけど、設計図はない。

私と高雄は、工房で散らかる部品らしきものを眺め…完成した船の姿を思い描く。

しかし、一向にイメージが浮かばない。

困り果ててる高雄の肩を叩いた後、私は言葉を添えた。

「いいじゃん、最終的に船が作れなくても」

しかし、私の言葉に高雄は反論する。

「船じゃなきゃ、
 航海に出られないじゃないか!」

彼の言葉はもっともだ。

実際、他の工房では立派な船が、次々に帆を海へ浮かべ出港していく。

高雄は、船影を見送り続けるのが…とても歯痒いと漏らしていた。

私は再び高雄の肩をポンっと叩き、静かに言葉を添えた。

「出港した彼らの船は立派だし、
 彼らの景色は私達には見えない」

遥か水平線に私は目をやる。青空と青い海の境界が分からないほど…澄み渡っていた。

「でもな、この工房で作業している私達の
 景色もまた、彼らからは見えない」

高雄はゆっくり振り返り、私を見た。

「私達は、他の船と航海を競うために船を
 作っているのか?
 それとも、他の船と比べるためか?」

床に散乱した木材を手にした私は、ゆっくりと優しく撫でた。

「この木材を…森へ行って木を切り倒し…
 ここで加工して、一つのカタチにした。
 でも、これは私達しか知らない物語だ。
 他人から見ると、ただの角材に見えると
 思う」

「……」

「俺達は…
 造船が目的で始めたわけじゃない。
 この物語を船に積んで、星や海、雲や島影
 時には魚の群れ。
 そういったものを眺めたいから……
 船を作り始めたんじゃなかったのか?」

高雄はハッとした表情になる。

「そうだったな…お前の言う通りだよ。
 いつの間にか、俺の正義や正しさの中身が
 すり替わっていたよ……」


ガチャ。


「こんにちは〜」


高雄が立ち上がったタイミングで、工房へ一人の小柄な少年が入ってきた。

「お〜、隆二。遊びに来てくれたのか?」

「うん。八百屋さんで、キュウリとアボガド
 買ってきた。この工房暑いから、夏バテに
 ならないようにしてねー」

「ありがとう」

私は隆二からキュウリとアボガドを受け取り、その中から一本のキュウリを食べた。

瑞々しさと、ほんのり青臭さを感じる。しかし、疲れた身体に染みた。

「同じキュウリでもな、大陸が変われば
 カタチも味も変わるかもしれないな」

ボソッと呟くように高雄は私のキュウリを奪いとり…食べた。

「だろ?
 それを直に確かめたいし、見たい。
 その為には船が必要なんだよ。
 だから、俺達は船を作ってる。
 出港していく他人の船や、持ち帰ってくる
 ものは…そりゃ珍しくて羨ましいさ」

「そうだな。
 だけど、それはその時で終わってしまう。
 俺達には残りにくいな」

高雄は、船体らしきものをバンと叩いた。

「でも、ここにあるコイツには積めるし
 染み込む。
 だから、何度でも……」

その瞬間、隆二が呟いた。

「えっ?
 おじちゃん達…それって船なの?」

思わず、私と高雄は顔を見合せた。

角材や板を無造作に張り付けたソレは…船と呼ばれるカタチというより……言い表せない何かだった。

「いいんだよ、俺は船を作ってる!」

私は自身満々に答えた。

「……浮かぶのか?これ…」

高雄は不安げな表情を浮かべた。

「こんなの船じゃないよ〜」

隆二は笑いながら、ソレを指差して笑った。

「いいんだよ。
 浮かばなくても、荷物が積めなくても。
 本来のカタチが分からなくても。
 俺は、コレを船って呼ぶんだ」

その時、一人の老人男性がタバコを咥えたながら工房へ入ってきた。

「おー、長井さん。いらっしゃい」

「皆、がんばっちょるか?」

長井さんはそう言って、私の指差す船を眺めた。そして、新しくタバコに火を付け私に言った。

「松明にしちゃあ〜立派よのぉ〜」

「違う!船!」

長井と私のやり取りに、隆二はお腹を抱え笑い転げた。

「船?それなら試しちゃる」

そう言って、長井はソレに火の付いたタバコを放り込んだ。ソレは冗談のように燃え上がった。

私も高雄も隆二も、そして長井も急いで工房の外へ逃げた。

勢い良く燃えるソレと工房。その炎を消す術はなかった。私達は、ただ炎が収まるのを眺めるしかなかった。

「よぉ燃えたじゃろ?いい松明じったな」

カッカッカっと笑う長井の横顔が、あまりにも楽しそうだったので、私も一緒に笑った。

隆二は私達を見ながらお腹を抱えて笑い転げる。

高雄は火が消えないように、地面に転がる木片を炎へ投げ込んでる。

その日、私達は星空の下、燃え盛る灯を囲んで踊って…歌った。

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