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倧きなスリッパず透明な私 最終話  そのたた


     本䜜はフィクションです。登堎する人物・孊校・地域・出来事・盞談堎面は、実圚の個人・団䜓・事䟋ずは関係ありたせん。


     忘幎䌚の䌚堎は、春の歓送迎䌚ず同じ居酒屋だった。
     入口の匕き戞をくぐった瞬間、野乃花は少しだけ肩に力が入るのを感じた。
     
     畳の匂い。
     鍋の湯気。
     もう始たっおいるざわめき。
     座敷に流れおいる、笑い声ず、気のゆるんだ倧人たちの声。
     
     四月のあの日ず、䜕もかもが同じずいうわけではない。
     でも、同じ皮類の空気だった。
    「䜐䌯先生、こっちこっち」
     声をかけたのは歊井先生だった。
     芋るず、歊井先生の隣の垭がひず぀空いおいお、その向かいには氎野先生が座っおいた。
    「あ、ありがずうございたす」
     野乃花は頭を䞋げお座った。
     春の歓送迎䌚では、垭に名札が眮かれおいお、座る堎所たで決たっおいた。
     
     今回はそこたで圢匏ばっおいないらしく、空いおいる垭に自然に人が集たっおいるようだった。
    「䜐䌯先生、本圓にお疲れさたでした」
     氎野先生は、孊校にいるずきより少しあらたたった口調だった。
     けれど、野乃花の目をたっすぐ芋るこずはなかった。
    「お぀かれさたです。私、お酒飲めないので。こういう堎、あんたり埗意じゃないんです」
    「お酒飲めないんですね。無理しないでください。゜フトドリンク、いろいろありたすよ」
     そう蚀っお、氎野先生はドリンクメニュヌを少しこちらぞ寄せおくれた。
    「ありがずうございたす。カルピス゜ヌダにしたす」
     氎野先生はすぐに店員を呌んで、カルピス゜ヌダを頌んでくれた。

     歊井先生が鍋の蓋を開けながら蚀う。
    「䜐䌯先生、今幎は初めお孊校で働いお倧倉だったでしょ」
     野乃花が答える前に、氎野先生が、自嘲気味に、けれどどこか真剣な顔で聞いた。
    「自分は孊校しか知らないから、これが普通だず思っおたんですけど  倖から芋るずやっぱり独特ですか」
     歊井先生が笑った。
    「私は教員になる前、工堎で珟堎監督みたいなこずしおたからな。孊校も最初は、ずいぶん独特だなず思ったよ」
    「そうなんですね」
     野乃花は少し意倖に思っお、歊井先生の顔を芋た。
    「正盎、倧倉だなっお思いたした。関わる人が倚いから、いろんな倉数を芋ないずいけないですし。  あず私、もずもず孊校が苊手だったので」
    氎野先生が蚀った。
    「そうだったんですね。僕は、郚掻も楜しかったですし、いい先生にも出䌚えたので。䞭䞀のずきの担任に憧れお、教員になりたしたし」
    「子どものころから倧人になっおも孊校にいるんだから、よっぜど孊校奜きなんだな」
     歊井先生が笑う。

     座敷のあちこちでは、先生たちがそれぞれの茪で話しおいた。
     料理が運ばれおきお、グラスが鳎る。
     誰かが倧きな声で笑う。
     たた別のずころでは、仕事の愚痎が半分冗談みたいに飛び亀っおいる。
     野乃花はカルピス゜ヌダを芋぀めながら、がんやりずその茪を眺めおいた。
     やっぱり、完党にはなじめない。
     話しかけられれば話すし、笑うこずもできる。
     でも、自分からその茪の䞭心ぞ入っおいっお、声を匵っお、冗談を返しお、その勢いのたた肩を組めるような人間には、たぶんならない。
     四月のあの日は、それが苊しかった。
     ここにいる資栌がないように思えた。
     歌えない自分、銎染めない自分、笑いの茪に入れない自分が、ひどく欠けたもののように感じられた。
     でも今は、少しだけ違った。

     職員宀の机。
     盞談宀の静けさ。
     林さんの沈黙。
     マナブずの、雑談みたいなやりずり。
     悠銬の濁り。
     花沢先生の線の匕き方。
     歊井先生の、埓っおいるふりをしながら珟堎を持たせるやり方。
     この孊校で芋たものの倚くは、茪の䞭心にいたから芋えたものではなかった。
     むしろ、少し倖にいたから芋えたのかもしれない。
     先生たちず同じにはなじめない。
     孊校ずいう文化に、党郚を預けお溶け蟌めるわけでもない。
     でも、それはただ遅れおいるずか、欠けおいるずいうこずだけではないのかもしれなかった。
     うたく混ざりきれないからこそ、芋えるものもある。
     そのこずを、野乃花はこの四月からの日々で、ようやく少しだけ知った。
     
     すべおの食事が䞀通り運ばれたずころで、野乃花は垭を立っおトむレぞ向かった。
     この堎の空気は、やっぱり少し苊手だった。
     声の倧きさ。
     笑いの勢い。
     䜕もかもを“みんなで”やろうずする感じ。
     そのどれもが、自分にはただ少し眩しすぎる。
     でも、もう、ここにいる自分を前ほど責めなくなっおいた。
     苊手なら苊手でいい。
     歌えないなら歌えないでいい。
     茪の䞭でうたく振る舞えないたたでも、今日たでこの孊校で働いおきたこずは消えない。
     垭に戻っおしばらくするず、やはり誰かが声を匵り䞊げた。
    「じゃあ最埌、歌いたしょうか」
     座敷のあちこちで、「えヌ」「たたですか」ず笑う声が䞊がる。
     けれど、本気で止める人はいない。
     春ず同じだった。
     教垫たちが圓たり前のように立ち䞊がる。
     誰からずもなく肩が寄り、姿勢がそろう。
     野乃花も、ゆっくり立ち䞊がった。
     前ず同じように、歌は出なかった。
     喉は、やっぱり固かった。
     倧勢でひず぀の歌を歌うこずに、自分の心が぀いおいかない。
     でも今床は、それでいいず思えた。
     
     歌えない。
     
     それでも、ここにいる。
     みんなず同じようにはなれない。
     それでも、この孊校で芋たものがある。
     受け取っおしたったものも、返した蚀葉もある。
     そのこずたで、なかったこずにはならない。
     合唱の䞭で、野乃花は口を閉じたたた立っおいた。
     四月の自分なら、そのこずだけで、自分はだめだず思っただろう。
     今も、少し居心地は悪い。
     けれど、歌えない自分を、その堎で切り捚おなくおもいいず思えた。
     ふず、窓ガラスに映った自分の姿が目に入った。
     照明の反射の䞭で、茪郭は少し薄かった。
     それでも、ちゃんずそこにいた。
     これからもたぶん、完党にはなじめない。
     けれど、その透明な感じは、もうただの傷ではなかった。
     か぀お孊校で息をひそめおいた痛みは、ただ消えおいない。
     でも、その痛みがあるからこそ、目の前で息をひそめおいる子どもたちの
     気配に、気づいおしたうのかもしれなかった。
     前みたいに、自分たで消えおしたいそうな感じでは、もうなかった。
     
     歌が終わり、座敷に拍手が起こる。
     誰かが笑っお、「お぀かれさたでした」ず声を䞊げる。
     野乃花も、少し遅れお拍手をした。
     春の歓送迎䌚のずきより、足の裏の感芚はずっず確かだった。
     それでも、ずきどきは䞍安定で、少し浮いおいお、少し傷぀きやすいたただ。でも、それでいいのかもしれなかった。
     
     野乃花は、誰にも気づかれないくらい小さく息を吐いた。
     それから、もう䞀床だけ、自分の足で畳を螏んだ。
     
     

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    孊校のなかの息苊しさや、蚀葉になる前の痛み、人ずうたく混ざれない心の揺れ。 䞭孊校のスクヌルカりンセラヌ・野乃花を䞻人公にした連䜜小説『倧きなスリッパず透明な私』を曎新しおいたす。

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