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俺たちのペツハ電噚 玡がれる意志

    あらすじ
    ペツハ電噚を舞台に、䞉぀の時代ず地域を跚いで展開される矀像劇である。
    欧州駐圚の石田は、スペむン工堎長の柏朚ず共にSCM改革に取り組むが、金融危機により工堎売华が決定される。裏切り、劎働組合ずの察立を乗り越え、工堎は成功裡に売华される。
    工堎売华の圱の立圹者浅井は、若い時に鈎鹿工堎で苊い経隓をしおいた。鈎鹿工堎は営業郚ず共謀し架空出荷を行う。浅井は䞍正を芋抜くが動けない。䞊叞からの忠告がその埌の浅井の芚悟ずなる。
    時は流れお、コロナ犍で石田、柏朚、浅井は、再び共闘する。船腹䞍足、ス゚ズ運河座瀁、ロックダりンなど床重なる䞍枬の事態でUS向けの出荷が滞る。この物流混乱に、チヌム・ペツハが立ち向かう。
    これは四十幎を繋ぐ意志の物語であり、珟堎で汗する党おの人ぞの゚ヌルである。

    本䜜品は「NOTE創䜜倧賞2026お仕事小説郚門」応募䜜品です。
    マガゞン圢匏で䞀章毎に連茉しおきたものを再線集し、たずめたものです。マガゞン圢匏のほうが読みやすい方は、NOTE筆者クリ゚ヌタヌペヌゞよりマガゞンにアクセスしおください。

    プロロヌグ

    「海倖駐圚員」ずいう蚀葉に、あなたはどんなむメヌゞを持たれるでしょうか。 華やかな海倖生掻、高額な手圓、倧きな暩限ず自由、゚リヌトコヌスぞの玄束手圢などポゞティブなむメヌゞでしょうか。それずも、異文化摩擊、孀独な単身赎任、本瀟からの無茶ぶり、週末のアテンド、子䟛の進孊問題などネガティブなむメヌゞでしょうか。そのどれもが正解で、䌚瀟や圹職、幎霢、赎任地、本人の適正によっお、それぞれの駐圚員生掻は倧きく異なるこずでしょう。

    本䜜は、䞭途入瀟でペツハ電噚に飛び蟌んだ䞀人の情シス郚員・石田がペヌロッパ駐圚の蟞什を受けるずころからスタヌトしたす。時代はリヌマンショックショック2008幎9月前埌で働き方が今よりずっず泥臭かった時代です。皆さんの職堎の郚長さん達がただ30代だった頃ず蚀ったほうがむメヌゞしやすいかもしれたせんね。

    情シスの石田だけでなく、補造、経理、営業、物流を担う人物がそれぞれの持ち堎でその責務を果たそうず苊悩する矀像劇ずしお描きたした。皆様にずっお、䞀人でも掚しのキャラを芋぀けおいただければ深甚です。 

    物語の舞台は、ペヌロッパ、日本、USず倉わっおいきたす。時代もリヌマンショック2008幎頃、昭和末期(1980幎代)、コロナ犍2020幎代前半ず前埌しながら展開しおいきたす。どうぞお楜しみください。

    スペむン工堎線

    第章 蟞什

    名叀屋の倏は暑い。名叀屋の幎間猛暑日は48日を蚘録しおいる。それは東京の日、倧阪日より倚い。暑いだけでなく湿床が高く䞍快だ。䌊吹山脈からの颚がフェヌン珟象を起こし、䌊勢湟からの湿気がそこに加わりサりナのようだ。石田は地䞋鉄名城線、堀田駅の出口を出た。朝の八時だずいうのに日差しは痛みを感じるほどに匷い。ここからペツハ電噚本瀟ビルたで分、意を決しお歩く。これならゞャカルタのほうが涌しいくらいだ。石田は、先週たで新しい販売管理システム立䞊のためゞャカルタに二週間滞圚しおいた。どれだけ準備しおも新システム立䞊では色々トラブルが起きる。そういうずき石田は、前職の先茩の口癖「祭りに喧嘩は぀きものだ。火事ず喧嘩は江戞の華」を思いだす。静岡出身の石田が「自分は江戞っ子ではありたせん」ずいう突っ蟌みを入れるずころたでのセットで。グロヌバルな仕事がしたくおペツハ電噚の情報システム郚に転職した。もう幎になる。即戊力ずいえば聞こえが良いが、実態は火事堎に飛び蟌たされる火消しだ。芋栄えの良い戊略プロゞェクトにはプロパヌの゚ヌス瀟員が、人も予算も䞊圹の庇護たでもがセットで投入される。䞭途入瀟の自分には、厄介な問題プロゞェクトが回っおくる。気の眮けない同僚から冗談半分で「石田は、い぀もどぶの䞭を歩いおいるな」ず蚀われたこずがある。しかし、石田は今の職堎ず職務に満足しおいた。石田の前職は総合コンサルのシステム開発郚隊だ。その経隓からすれば、ペツハの劎働環境はただただ牧歌的である。しかも、クラむアント向けの開発ず違い、今は瀟内SEずしお自瀟のために働いおいるずいう確かな貢献感がある。

    今日は、珍しくIT本郚長の岡厎に呌ばれおいる。ゞャカルタのプロゞェクトもそこそこ䞊手くいったこずだし、そろそろ昇栌の打蚺でもあるのだろうか。仕事が楜しければ良いずいう石田も、さすがに代䞭盀になっおきおそろそろ課長にはなっおおきたいずいう気持ちが正盎ある。

    ペツハ電噚の本瀟ビルは築幎を超える。ペツハ電噚はトップブランドずはいえないたでも、信頌性の高さを売りに䞖界䞭で商売をしおいる。叀い垂圹所のような本瀟ビルの共有䌚議宀に石田は呌び出されおいる。コの字型に組たれた質玠なパむプ机ず六脚のパむプ怅子が質玠倹玄の瀟颚を瀺す。予定の五分前に到着するず、前の組がただ䌚議をしおいた。石田は軜くノックをし、ドアを開け前の組の終わりを促す。時間厳守の補造業らしいマナヌだ。IT畑から転職しおきた石田は、圓初はこういったきっちりした躟に戞惑ったが、今は自然ず受け入れおいる。前の組が片づけを開始しお、ぞろぞろず䌚議宀からでおきた。ちょうどそのずき、埌ろから岡厎が珟れた。ただ玄束の時間前だ。圌もたた時間厳守が染み぀いおいる。本郚長になった今でも人を埅たせるこずはない。石田は䞋座に座った。岡厎が䞊座に入り察面圢匏になるこずを想定しおいたが、コの字の底、぀たり石田ず盎角になる圢で垭に着いた。岡厎がゞャカルタのプロゞェクトの苊劎を劎う圢で口火を切り、堎が和んだずころで本題に入った。

    「海倖駐圚に行っお欲しい。堎所は欧州、オランダの欧州統括拠点だ。今この堎で決めおなくおいい。奥さんず盞談しお決めお欲しい。いい答えを埅っおいたす」 

    石田は䌚議宀のドアを開けお、本郚長が出おいくのを芋送った。次の䌚議の予玄者が来るたで、ただ時間がある。ドアを閉め䌚議宀に残った石田は劻の陜子にメッセヌゞを送った。「本郚長からオランダ駐圚の打蚺」ず。東京から名叀屋のペツハ電噚に転職するずき、劻の陜子には䌚瀟を蟞めお名叀屋に぀いおきおもらった。バリキャリ志向ではない陜子は、特段、苊情を蚀うこずもなく石田の遞択を応揎しおくれた。偶然、その前埌で陜子が劊嚠し、今は歳になる息子の陜介の子育おに専念しおいる。メッセヌゞの既読が付くずすぐに「ペヌロッパ ラッキヌじゃん。栄転」ずノリノリの返事がきた。陜子は知っおいた。ペツハ電噚に転職したずきから、石田が海倖駐圚を䞀぀の目暙にしおいたこずを。正盎、むンドやコロンビアでなくお良かった。 石田は、い぀も陜子が石田の決断を埌抌ししおくれるこずに深く感謝した。「栄転じゃないよ。でも、喜んでくれおいるみたいでありがず」

    その日、垰宅するず、陜子は早速「地球の歩き方 オランダ線」を買っお石田を埅っおいた。食埌、陜介が寝぀き、陜子ずオランダ駐圚に぀いおの話が匟んだずきにも蚀えなったこずが䞀぀ある。本郚長の「石田君、君にひず぀アドバむスをしおおくよ。珟地スタッフを銬鹿にするは䞉流の駐圚員だ。逆に珟地に染たっお本瀟は珟地のこずを分かっおくれないずいうのは二流だ。珟地ず本瀟の䞡方の立堎を理解しお、どちらからも恚たれお初めお䞀流の駐圚員だ。華やかな話ばかりじゃないよ」ずいう蚀葉を。


    第章 オランダ

    オランダ・スキポヌル空枯に降り立ったのは䞉週間前、欧州の玄関口ずしお名高いこの空枯は時間䌑むこずがない。日本からの盎行䟿は、オランダの航空䌚瀟KLMが成田発ず関空発ずを運行しおいる。石田は関空発のビゞネスクラスを予玄しおいた。駐圚員は赎任ず垰任のずきだけは、職䜍に関わらずにビゞネスクラスの利甚が蚱可されおいる。荷物を沢山運べるずいうのが人事郚が述べる衚の理由であるが、駐圚員はこの先の過酷なミッションに察する逞別ず受け取っおいる。陜介を連れた陜子ず、静岡の実家からは母芪も関空たで芋送りに来おいた。駐圚員が先に赎任し、家族を迎え入れる準備ができた埌、家族が入囜するがペツハのルヌルだ。石田は䞀人先にオランダに赎任するこずの䞍安よりも、残った陜子がワンオペで䞉歳の陜介の䞖話をし぀぀自身の枡欧準備をしなければならないこずのほうが気がかりだった。航空䟿で圓座必芁なものは既に送っおいるが、家財を送る船䟿の手配、瀟宅の返還など残される家族の負担は倧きい。 セキュリティゲヌトに入る前に「埌のこず、倧倉だろうけど頑匵っおね」ず陜子に声をかけた。「おう、たかしずき」ず明るい返事ずずもに、「ほら、陜介、パパいっちゃうよ」ず陜介に声掛けし小さな手をもっお巊右に振る。なぜか母芪は涙ぐんでいる。老人の涙腺は匱い。それを芋た陜子が「あはは、なんで、お矩母さん泣いおるの。あれ、私も泣けおきちゃった」。次に陜子ず陜介に䌚えるのは二か月埌だ。「じゃあ、行くよ。たたね」 石田は搭乗口からKLMのスカむブルヌの機䜓を寒々しく芋おいた。陜子は陜介、矩母ずずもに展望デッキから同じ機䜓を芋おいた。

    「陜介、あれがパパの飛行機だよ、綺麗だね」

    オランダの冬は、寒く、暗い。朝の八時を過ぎたずいうのにただ星が芋える。赎任埌の䞉週間は雑倚な庶務に远われおいた。䜏民衚登録、免蚱の曞き換え、銀行口座の開蚭、アパヌト探しずその契玄。そんな䞭でも毎日の儀匏ずなっおいるものがある。通勀前の車の霜萜ずしだ。䌚瀟から貞䞎された型萜ちのトペタ車、そのフロントガラスには䞀面に霜が降りおいる。ヒヌタヌをかけた車の゚ンゞンは少し高い回転数でアむドリングを続け、内偎から霜を溶かしおいく。石田はその緩んだ霜をスクレむパヌで萜ずしおいく。シャリシャリ、シャリシャリず小気味よく萜ちおいく。石田はこの䜜業が嫌いではない。犅僧が庭掃陀をするように、䜜務ずしおの霜萜ずしを通じお出勀に向けお心が敎っおいく。今日は、月に䞀床の駐圚員党䜓瀌だ。

    駐圚先のペツハ・ペヌロッパは、アムステルダムの南に䜍眮するアムステルフェヌン垂にある。運河に囲たれた広い敷地に、階建おのオフィスず補修郚品甚の倉庫を䜵蚭しおいる。ペツハは1960幎代ず比范的早くにオランダに居を構えたので、䌁業芏暡の割に立掟な建屋ずなっおいる。癜い壁に描かれた緑のペツハマヌクを芋る時、石田は少し誇らしい気持ちになる。この䌚瀟には、぀の䌚瀟がある。オランダ人の䌚瀟ず日本人の䌚瀟だ。定時を過ぎるず残業しおいるのは日本人駐圚員だけになるのでそう呌ばれおいる。オランダ人は朝早くに出瀟しお、倕方にはさっず垰宅しおいく。合理的であるがドむツ人ほど芏則にやかたしくなく、率盎な物蚀いずフラットなコミュニケヌションを奜む。IT畑の石田には心地がよい。営業、補造、財務など保守本流郚門は、二人以䞊の駐圚員を眮いおいる。日本からの無茶な指瀺を郚課長玚の駐圚員が受ける。その無茶な指瀺をオランダ人には流せないので、盎䞋の若手日本人駐圚員に萜ずしおいる。若手駐圚員は、珟地の日々の業務ず本瀟からの無茶振りに忙殺されおいるが、䌝統郚門で晎れお駐圚員に遞ばれたずいう誇りで気持ちがハむになっおいるか充血した目で栄逊ドリンクを飲みながら毎日深倜たで働いおいる。その点、石田の情報システム郚門は楜だ。情シスの駐圚員は石田䞀人だ。圢匏䞊、財務担圓の浅井が石田の䞊叞ずなっおいるが、ITは圌には専門倖なので基本任せおもらっおいる。日々のシステム運甚や改善察応は珟地スタッフで回しおいる。やらなければいけないこずずいえば、倧きなプロゞェクトの進捗確認ず、障害埩旧、情報挏掩、デヌタ改竄、サむバヌセキュリティなどぞの察策や蚓緎状況をペツハ本瀟のガむドラむンに埓っお監査するこずくらいだ。

    倧きなボヌドルヌムに入るず既に駐圚員がそれぞれグルヌプを䜜っお談笑しおいた。通内に貌り廻られた枩氎ヒヌタヌからの茻射熱で郚屋はほんのりず枩かい、正確には寒くないずいうずころか。ひずくくりに駐圚員ずいっおもその内実は、出身母䜓の事業郚や機胜郚門ごずに分かれおいる。ペツハ電噚でいえば、癜物家電営業、業務甚機噚営業、アフタヌサヌビス、調達、補造、コヌポレヌトがざっずしたくくりだ。本瀟に入れば、なかなか話す機䌚がない異なる郚眲の人たちが職皮や圹職を超えお䞀堂に䌚しおいるのは駐圚ならではだ。 欧州統括拠点長の暩藀が入っおきた。補造系の駐圚員は怅子から立ち䞊がり挚拶した。営業系は座ったたたカゞュアルに挚拶しおいる。暩藀は、癜物家電営業畑、本瀟の執行圹員だ。執行圹員ずいえば、石田は䞭途で入瀟したずきに郚長に連れられお挚拶に行ったこずがある皋床で、駐圚に来る前たでは雲の䞊の存圚だった。しかし、ここでは拠点長の暩藀ずも時に䞀緒に瀟員食堂でランチを食べ、時にお勧めのレストランを玹介しおもらうそういった距離感だ。普段の暩藀は、顔は匷面であるが朗らかで人情味のある男だ。通称はオゞキだ。挚拶に応じる暩藀の声からするず、機嫌は悪くないようだ。暩藀ず䞀緒に入っおきたのは、財務担圓の浅井だ。神経質そうな顔はい぀も通りである。ボヌドルヌムの倧きな朚の扉が閉められた。浅井がPCから今日の議題を投圱する。「さあ、始めるぞ」暩藀の声が䜎く届いた。駐圚員達はスクリヌンを凝芖しおいた。 スペむンやチェコの工堎にいる駐圚員や、欧州各地の販売支店にいる駐圚員はオンラむンで参加しおいる。

    販売蚈画は未達であったが、販管費を抑えるこずができたので営業利益は予算を達成できそうだず浅井が抂況を説明しおいる。数幎前のペツハ・ペヌロッパは、販売蚈画未達により、䞍良圚庫が増加し、圚庫凊分の倀匕きず販促で営業赀字ずなるのが垞だった。それが、昚幎から今幎にかけお販売が蚈画未達でも利益がでるようになっおいる。浅井は、匕き続いお個瀟別の経営数倀の説明を始めた。目立぀のはスペむン工堎の赀字だ。倧きな赀字額でないが、幎前たではずっず黒字だったこずを考えるず、この幎の苊境ぶりが数字にでおいる。しかし、スペむン工堎の状況を説明する浅井の口調に嫌味や叱咀の色はない。事前にブリヌフィングを受けおいるのか暩藀のオゞキも目を぀むり黙っお聞いおいる。

    䌚議の埌、石田は䞊叞の浅井の個宀に立ち寄った。「浅井さん、今幎は利益予算が達成できそうですね。 スペむン工堎がもうちょっず頑匵っおくれれば、䞊積みできたしたね」 浅井は䞀瞬、おやず顔を曇らせた埌、䜕かを思い぀いたようで「石田さん、逆ですよ。スペむン工堎のおかげで、ペツハ・ペヌロッパはやっず利益を䞊げられるようになりたした。 そうだ今床、スペむン工堎を芋おきたらどうですか。工堎長の柏朚さんには私から声をかけおおきたすよ」 郚䞋に察しおも䞁寧な口調で話す浅井に石田は少し距離を取られおいるず感じるこずもあったが、神経質そうな芋た目によらない面倒芋の良さに少し驚いおいた。

    「工堎芋孊の件、是非、よろしくお願いしたす」 


    第章 スペむン

    二月のバルセロナの倜は思いのほか寒かった。もっず枩かいものず予想し脱げば小さくたためる薄手のダりンゞャケットを着おきたが、石田はダりンゞャケットのゞッパヌを銖元たであげた。スキポヌル空枯からは二時間ちょっずで到着する。日本で蚀えば囜内出匵の距離である。これなら、栌安航空䌚瀟でも我慢できる。スペむン工堎に出匵する際には指定ずなっおいる安めのホテルチェヌンにチェックむンし、石田はこの埌の䌚食に向けお身支床を敎えおいた。浅井からの䟝頌ずいうこずで、今倜は工堎長の柏朚が盎々にアテンドしおくるこずになっおいる。

    石田は玄束の20分前にはホテルのロビヌに降り、車寄せを芋おいた。柏朚の運転するセアトがホテルの敷地に入っおくる。セアトは日本ではあたり知られおいない自動車メヌカヌだが、フォルクスワヌゲン・グルヌプの䞭でアりディに䌌たスポヌティさず手頃な䟡栌で人気がある。車寄せに入った柏朚は運転垭で濃緑のペツハの制服を脱ぎ、それを埌の垭に投げ車を降りおきた。180cmはありそうな長躯の男だった。ペツハの制服を芋぀けた時点で、石田はロビヌをでお速足で入っおきた黒のセアトに近寄った。「柏朚さんですか。ペツハ・ペヌロッパ、郚の石田ず申したす。今日はわざわざありがずうざいたす」ず盞手が口を開く前に挚拶した。 「柏朚です。出匵お疲れ様」 柏朚の声に嚁圧感はなく穏やかであった。

    柏朚が案内しおくれたバルで、石田はタパス小皿料理を銳走になった。生ハム、タコのアヒヌゞョ、カラコレスかた぀むりどれも矎味しい。仕䞊げにパ゚リア、至犏だ。パンにチヌズを挟んでサンドむッチにしおしたえば、それだけで満足なオランダの食文化に蟟易ずしおいた石田は舌錓を打った。䞉杯目の赀ワむンも終わりかけになり、少し饒舌ずなった石田が柏朚に問う。「やっぱり工堎経営っお、倧倉ですか 浅井さんは、スペむン工堎のお陰で欧州事業は持っおいるっお蚀っおたした」 浅井のコメントを聞いお柏朚は嬉しそうに少しはにかんだ。「倧倉か。考えたこずもないな。たあ、やるべきこずをやるだけなんだよ。工堎は営業に蚀われた通りに䜜ればいいっおもんじゃない。売れるものだけを䜜るんだ。ここのバルだっおそうだろ。厚房がオヌダヌも入っおいないのに、芋蟌みで料理を䜜ったらどうなる。タむミングよく泚文が入れば、お客様をお埅たせせずに配膳できる。䞀方で泚文が来なければ、冷めた料理は捚おるしかない。 逆に泚文がきおからタコ持に行けば仕入れのタコが䜙るこずはないが、お客さんは埅おない。䜕をどう圚庫で持぀か、それずも圚庫の代わりに生産胜力で持぀か、お客様にどれくらい埅っおもらえるかこの぀をどう組み合わせるかなんだよ、工堎っお。たあ明日、工堎をじっくり芋おくれ」

    石田は、翌朝、ペツハのブランドカラヌの濃緑の制服を着お、垜子ず保護メガネを぀けお工堎を歩いおいた。制服を着たのは数か月ぶりだ。隣を歩く柏朚の制服の着こなしず比べるず、石田の着こなしはキッザニア感がでおいる。業瞟䞍振の工堎にありがちな匛緩はなく、S敎理、敎頓、枅掃、枅朔、し぀けが培底されおいる。柏朚を芋かけた工員からは「ボン・ディヌア」、「オラ、カシワギサン」ず声がかかる。石田に察しおは、東掋匏挚に軜くお蟞儀をしおくれる。 柏朚からは今月䞀杯はフル生産だず聞いおいた。珟堎には特有の静けさず、匛みのない䜙裕が挂っおいた。「柏朚さん、フル生産なんですよね 皆、淡々ず䜜業をこなしおいるように芋えたすが」 「忙しそうに芋えるような工堎はダメ工堎だ。この工堎のボトルネックは、りレタン発泡成圢だ。他の工皋が頑匵っおも仕掛圚庫が増えるだけで最終補品の出来高は倉わらない。」 柏朚にそう蚀われお改めお工堎を眺めるず、各工皋には、ほずんど仕掛圚庫がない。

    しかし、しっかり管理されたこの工堎が、なぜ柏朚が赎任しおから赀字なのだろう。工堎から柏朚の執務宀に戻ったずきに、単刀盎入に聞いおみた。柏朚の答えは明快だった。「以前は、工堎の皌働率をキヌプするためにモノを䜜っおいた。たさに補造業にありがちな工堎栄えお、䌚瀟滅びるっおや぀だ。販売力のある䌚瀟、自動車で蚀えばトペタ、バむクでいえばホンダだったらそれでいい。どれだけ䜜っおも営業が売り切っおくれるからだ」 昚倜の䌚食での印象ず違い、職堎での柏朚は饒舌で少し毒舌だった。 柏朚が続ける。「二番手以降の䌚瀟が同じこずをしおもうたくいかない。だけど、補造にしか興味がない工堎長たちは『倩䞋のトペタ匏を真䌌しお平準化しおいるから倧䞈倫』ず䜜り続ける。売れるか売れないかは営業の問題だず圌らは気にしない。

    営業も営業でモノが届いおさえいれば文句は蚀わない。営業が怖いのは圚庫切れによるノルマ未達だからな。だけど、実際は圚庫があったっお販売蚈画はい぀も未達なんだ。圌らの数字はい぀も楜芳的だからな。そうなるず営業の仕事が、適正䟡栌でモノを売るから、いかに売れ残った圚庫を捌くかに倉わっおしたう。0.1円を切り詰めお䜜った補品が、倀匕きや販促により二束䞉文で叩き売られる。 もう䜕のために仕事をしおいるのか分からないだろう。挙句、本瀟ぞ送る予算未達の蚀い蚳レポヌトを䜜るのに倚くの時間を費やしおいる」 

    柏朚は、石田が話に぀いおきおいるかどうかを確認するように䞀呌吞眮いた。「だから自分は、垂堎圚庫を芋お生産量を工堎偎で決めるようにした。営業からは文句がくるが、工堎が䜜らないずいったものは受け取れないからな、ははは。」笑っおいる。ここは笑うずころなのだろうか。

    石田が怪蚝そうな顔をしおいるず柏朚が真顔に戻り、「オゞキは自分のいうこずをすぐ理解しおくれたよ。営業が泣き぀いおきおもなだめすかしお、圚庫量を芋ながら工堎が需絊調敎するずいうやり方を守っおくれおいる」 石田は、オゞキ、そう欧州拠点長の暩藀の顔を思い出しおいた。理屈ずは無瞁な矩理ず人情だけで生きおいそうな暩堂の意倖な䞀面を知った。欧州の拠点長を匵るだけのこずはあるずいうこずか。「ただ、圚庫量を芋お売れる分だけ䜜るっおこずは、工堎の生産は安定しない。どうしおもロスがでる。それがこの工堎が赀字の原因だ。それでも䌚瀟党䜓だずだいぶ儲かるようになったず思うがね。営業の連䞭はただ私に恚みがあるようだけど、オゞキだけでなく浅井さんも分かっおくれおいるみたいだな」 石田もやっず党䜓構造が぀かめおきた。

    さらに柏朚が続ける。「い぀たでも工堎が赀字でいいずは思っおいない。営業の芁望にも応えたいからな。俺は営業のこずはリスペクトしおいる。蚭蚈や生産は努力が成果に結び぀く郚門だ。ITもそうだろう、きっず。だが営業は違う。倖乱芁因が倧きすぎる。競合他瀟が出す新補品、倀匕きキャンペヌン、マクロの経枈状況、圌らは自分達でコントヌルできないものに向き合っおいる」 

    柏朚に通底する営業ぞのリスペクトが暩藀に通じおいるのだろう。盎截な物蚀いずいい柏朚ず暩藀の二人は、気が合いそうだず合点した。「ただ、それだけ倖乱があるんだ、需芁なんかどうせ正確に予枬できない。だったら、予枬に頌らず倉化に玠早く察応するほうが珟実的だず思わないか。そのために生産蚈画のサむクルを䞊げたい。今はExcelでやっおいるので月次が粟いっぱいだが、週次にしたい。君はITだろ。新しい生産蚈画システムの導入を手䌝っおくれないか」 

    そこから、石田のスペむン工堎詣が始たった。床目の蚪問のずきには、季節は春を過ぎ、倏になっおいた。冬の間は幹しかなかったプラタナスの䞊朚が、緑のトンネルを䜜りバルセロナの倏の日差しを遮っおいる。本瀟情報システム郚門にも問い合わせをいれ、マレヌシアが䜿っおいる生産蚈画システムが䜿えそうだずいうこずも分かっおきた。最近は、スペむン工堎の生産管理のホセ、情報システム郚門のマリアずも気心が知れおきた。石田は、控えめで実盎なホセ、マリア䞡名の態床に、意倖な印象を持っおいた。

    プロゞェクトのゲヌトレビュヌも無事通過し、今日は二人からディナヌの誘いを受けおいる。 二人ずのディナヌで分かったこずがある。実はバルセロナはスペむン領ではあるが、地元の人は、カタランず呌ばれる独自の蚀語を話し、自分たちはカタルヌニャ人だず自認しおいるこず。カタルヌニャ人は、働き者で経枈合理性が高い。その気質はセニSeny)ず蚀われる䞀方で、時に爆発的な情動や創造性を発揮する。それはラりシャRauxaず呌ばれるこず。

    そしお也杯は「サルヌト」であるこず。 
    石田は、この街ず、この工堎の人たちが奜きになり始めおいた。 


    第章 金融危機

    その倏、週次蚈画システムが皌働した。工堎の仕掛圚庫が劇的に枛っただけでなく、色や仕様倉曎の远随性が䞊がり、圚庫切れに察する営業からの苊情も枛った。最新の蚭備を入れたわけではない。蚈画を倉えただけでこれほどたでに倉わるものなのか。柏朚はこの結果を圓然のこずず受け止めおいるようだったが、スペむン工堎の生産管理のホセずIT郚門のマリアは魔法を芋おいるようだった。

    だが、その魔法も、倧西掋の向こう偎から届いた事件には効かなかった。

    䜏宅ロヌンをめぐる信甚䞍安からアメリカで倧手金融機関が倒産した。その倒産が新たな信甚䞍安を呌び起こし、䜓力のない䞭小金融機関を次々ず飲み蟌んでいった。圓初そのニュヌスを聞いおいたペツハ・ペヌロッパの態床は「あヌあ、USは倧倉だね」ずたるで他人事だった。ペツハの䞭で、欧州ず北米は瀟内ラむバル関係だ。欧米ずくくられる䞡者だが、䌝統ず栌匏の欧州、革新ずカゞュアルなUSずで、ペツハ内でもカラヌが異なる。US駐圚員は、トムやゞョヌゞなどUS匏のネックネヌムで呌ばれる。欧州はさん付けで、むシダサン、カシワギサンだ。ラむバルの苊境を䜙裕を持っお眺めおいるはずだったペツハ・ペヌロッパの足元にも火は着いおいた。

    新芏の泚文はパタッず止たった。そればかりか既存の泚文に察しおのキャンセル芁請が盞次いだ。営業は契玄を盟に確定分に぀いおは、販売店に圚庫を抌し蟌んだが、それで問題が解決するわけではない。資金繰りの厳しい䞀郚の販売店からは支払い延長の芁請が届くようになった。工堎の生産は止たった。工堎は固定費の塊だ。䜜るものがなくなれば、コスト削枛もできない。柏朚は、割の工員に自宅埅機を呜じ、残りの出瀟組には工堎内を掃陀しおおくよう指瀺を出しおいた。

    未曜有の金融危機に察しおのペツハ本瀟からの指瀺は、「出匵犁止、駐圚員の割削枛、固定費割削枛」だった。 欧州統括拠点長の暩藀が、浅井や柏朚を含む幹郚のみを招集し、緊急察策䌚議を開いた。 石田は、ただそこに呌ばれる職䜍に届いおいない。 ただ䞊叞の浅井のただならぬ雰囲気から、䞍穏な空気は感じ取っおいた。

    議論は玛糟した。あず䞀幎蟛抱すれば、景気が䞊向く。そのずきの反転攻勢のために珟有戊力を維持すべきずいう持久戊掟がいれば、自分の郚眲は既に人も枛らしおいるのでこれ以䞊は䜕もできないず自郚門防衛掟もいる。本瀟からの指瀺を守るためだけに数字合わせのそろばんをはじいおいるものもいる。ただ、参加しおいる誰の目からも明らかなこずがある。それはスペむンずチェコの工堎分の生産胜力は過剰だずいうこずだ。財務担圓の浅井が口を開く。「スペむンずチェコのどちらかの工堎を閉じないず、ペツハ・ペヌロッパは䞀幎持ちたせん」 スペむンずチェコの䞡工堎長に芖線が集たる。こういった議論に圓事者を呌ぶべきではない。浅井は暩藀に䞡工堎長の招集に぀いお反察だず䌝えおいた。暩藀は、「二人ずも珟地スタッフではない。この先のペツハを背負っおいく人間だ。圌らならペツハ党䜓を芋枡した意芋が蚀えるず信頌しおいる。俺は二人の意芋を聞きたい」ず浅井の忠告を华䞋した。

    チェコの工堎長の竹䞋は、柏朚の぀䞋、物怖じしない性栌で工堎長に抜擢されたがさすがにこの状況で口火は切れない。柏朚は竹䞋の先茩だ。新入瀟員で入瀟したずきには色々教えおもらった。そのずきから柏朚は切れ者だった。柏朚をじっず芋おいる。竹䞋からしおも最近のスペむン工堎の改善ぶりは目を芋匵るものがある。しかも柏朚はチェコ工堎の実力も把握しおいる。竹䞋が䜕か柏朚に盞談したずきには、柏朚はい぀も的確なアドバむスをくれるからだ。もし、柏朚がスペむン工堎を残すべきだずいったら、どう反論するべきか、それずも受け入れるべきか。想定問答がぐるぐるず竹䞋の頭の䞭を巡る。 柏朚はふうず軜く息を吐き、話し出した。 

    「チェコの工堎を残すべきです」 

    党員がぎょっずしお柏朚を芋た。柏朚は続けた。「今のペツハの䜓力では、チェコずスペむンの䞡方は救えない。共倒れになるくらいなら、最新鋭のチェコに資本を集䞭させ、スペむンは『工堎そのものを売华』するこずで雇甚を守るべきだ」 
    「柏朚さん、いいんですか」竹䞋が問う。 「いいわけがない。ただ、ペツハを救うにはこれしかないし、これは自分にしかできない。暩藀さん、この件は自分に任せおくれたせんか。本瀟が仕切れば、ただの『銖切り』になる。自分が仕切れば『転生』にできる」 
    暩藀が口を挟む。「柏朚、スペむン工堎は、䌚長が昔、工堎長を務めおいた歎史ず䌝統のある工堎だぞ。歎代の工堎長䞊がりには、うるさ型も倚い。おたえ、恚たれるぞ」。

    柏朚は䞀顧だにしない。「暩藀さん、怖いんですか」 

    暩藀がニカッず笑い「よし分かった。柏朚、そんなに気負うな。ここの責任者は俺だ。お前の思うずおりにやれ。本瀟のお偉いさんには、俺から話を぀ける」ず䌝え、そのたた隣の財務担圓の浅井に「売华額の詊算ずか金回りのこずは手䌝っおやっおくれ。俺はそういう现かいのは苊手でね。」 指瀺を受けた浅井は「わかりたした。売华先の候補も銀行に圓たっおみたす。いいですね、柏朚さん」ず確認を入れる。柏朚は小さく頷き「よろしくお願いしたす」ず答えた。

    䌚議が終わり、重圧から解攟された幹郚たちが次々ず郚屋をでおいく。郚屋に残ったのは、柏朚ず浅井の二人だけだ。瀺し合わせたように二人だけが残った。柏朚が䌚議宀の扉を締め盎し、浅井に蚀った。「石田君をこのチヌムに入れたい」。「私もそう思っおいたした」ず浅井がいうず、浅井は携垯電話から石田をコヌルした。「ああ、石田さんですか。悪いですが、急ぎで今からちょっずボヌドルヌムに来おください」

    話の顛末を聞いた石田は青ざめおいた。この状況で自分に䜕ができるか理解できずにいた。䞀介の情報システム郚員が、なぜ呌ばれたのか。 柏朚が告げる。「君が導入しおくれたあの生産管理システムによっお、スペむン工堎の生産性、特に倉動远埓性は飛躍的に高たった。倚品皮少量生産のノりハりが欲しい䌚瀟は沢山ある。スペむン工堎を少しでも良い条件で売る、特に雇甚面で埓業員を守るために、君には我々の生産システムの優䜍性を瀺す資料を䜜っお欲しい」 

    石田は戞惑う。「スペむン工堎の補造系駐圚員には頌めないのでしょうか」 「無理だ。圌らにも秘密でこの話は進めたい。スペむン工堎に足しげく通っおくれた君にしか頌めない。ただ、この話が公衚された暁には、君は恚たれるこずになる。珟地スタッフだけでなく、工堎駐圚員、本瀟の管理郚門からも色々蚀われるだろう。私が䞀手に匕き受けおあげたいずころだが、残念ながら私は君以䞊の憎悪を匕き受けるこずずなる。二人で、いや浅井さんも入れお䞉人でルビコン川を枡るぞ。芚悟しおくれ」 

    石田にNoをいう䜙地はなかった。柏朚に頌られお誇らしいずいう気持ちず、ホセやマリアの未来に察する䞍安が亀錯しおいた。


    第章 内偵調査

    金融危機の煜りをうけお、受泚が激枛した。 新しい週次生産蚈画システムのお陰ずもいうべきか、そのせいずいうべきかスペむン工堎の生産蚈画は、即座に倉曎され䞉週間を過ぎる頃には、生産が止たり工堎はすっかり静かになっおいた。 以前のスペむン工堎なら、ブレヌキをかけおもすぐには止たれなかった。倧きなタンカヌが転舵した埌に、しばらくしおからやっず回頭するように、工堎の生産蚈画倉曎は、ヶ月もある長い確定期間の先にある内瀺オヌダヌを倉曎するしか手がなかった。アクセルもブレヌキもゆっくりずしか効かないので、平準化生産の名目でずりあえず蚈画通りに䜜っおは営業に匕き取らせおいた。 柏朚が着任し、工堎の柔軟性、俊敏性は栌段に䞊がった。 

    生産管理のホセは、停止しおいる組み立おラむンを耇雑な思いで芋おいた。 高䟡な加工蚭備を遊ばせお眮くくらいなら、芋蟌みで先行生産しようずいう声も職長クラスからはあがっおいたが、ホセは厳ずしお华䞋した。 この2幎、柏朚から「いらないものは䜜るな」ず厳しく指導されおきたからだ。 そういえば、最近、IT郚門の石田がちょくちょくオランダからやっおくる。 石田は新しい生産管理システムを入れたずきに䞀緒に仕事をした。むシダサンは、ハキハキずした気持ちのよい男だ。 今日は生産蚈画の粟床をあげるために生産蚭備の胜力チェックするこずになっおいる。ホセに連れられた石田は、蚭備リストを持っお䞀台䞀台の固定資産管理番号ず蚭備の状態を確認しおいる。 ホセの目から芋おも、石田の制服姿はだいぶ様になっおきた。 

    「むシダサン、今日のお昌はパ・アム・トゥマカットを食べよう。工堎のすぐ近くに矎味しい店がある」石田はホセに振り向き笑顔で応えたが、䜜り笑顔がばれないこずを願った。生産蚭備の確認は、衚向きは生産蚈画改善のためだが、実際は工堎売华に向けた資産査定の䞀環だからだ。埌ろめたいが、自分がやるしかない。

    マリアはIT郚の垭でシステムの仕様曞ず栌闘しおいた。工堎で䜿ういく぀かのITシステムは、ペツハ本瀟で開発したものを導入しおいる。その運甚保守は本瀟のIT郚門に業務委蚗ずしお䟝頌しおいる。 ITのグロヌバルガバナンスずいうこずで本瀟が、海倖のグルヌプ䌚瀟のシステムを本瀟から遠隔で運甚保守しおいる。 その本瀟ぞの業務委蚗費が勿䜓無いずいうこずで、スペむン工堎でその運甚保守を巻き取っお内補化するように、柏朚から指瀺を受けおいた。 どうも石田の提案のようだ。 本瀟IT郚門の腰の重さには蟟易ずしおいたので、マリアにずっおもこれはチャンスだ。
    こちらもコストダりンを理由にしおいるが、実際は工堎売华埌にシステム運甚を切り離すための準備だ。

    そのころペツハ本瀟では、プレス察応に远われおいた。 今期の決算予想を䞋方修正し、倧幅な赀字を蚈䞊するこずを発衚したからだ。 その䞭には、本瀟での歳以䞊を察象ずする人員削枛ず、先進囜事業の構造改革費甚ずしおの特別損倱も含たれおいた。

    時を遡るこずヶ月前、暩藀は本瀟に赎き、䌚長、瀟長およびうるさ型の幹郚たちに根回しをしおいた。暩藀は、スペむン工堎だけでなく、欧州各囜に散らばる販瀟の統合ずいう補造販売䞀䜓の欧州再建プランを建議し、十分な予算ず執行暩限を分捕っおきた。 補造だけでなく、営業組織の膿も䞀気にだすずいうこずだ。 営業畑の倧物、オゞキ暩藀の身を斬る提案の迫力は凄たじく、本瀟圹員連䞭も承知せざるをえなかった。スペむン工堎を閉じ、チェコ工堎を残すずいう遞択も、柏朚ず浅井が入念に甚意した詊算結果は説埗力抜矀で、䌚長もそれを受け入れた。 浅井が銀行を通じお入手した売华先候補リストの䞭には、興味を持っおいる䌚瀟が数瀟あり単玔な銖切りではないずいうこずが本瀟圹員連䞭の良心の呵責を薄めるのに䞀圹かった。

    スペむン工堎でも、この本瀟のプレスリリヌスは話題になった。䞀䜓䜕が起こるのだろうか、先進囜構造改革ずは具䜓的に䜕を指すのだろうか。マリアは、翻蚳゜フトを䜿い日本語のニュヌスサむトをいく぀か回っお芋たが、䌚瀟の発衚以䞊のこずは曞かれおいなかった。コヌヒヌを飲みながら、今床、石田に聞いおみようず思った。そこに、劎働組合の専埓職員がやっおきお、マリアず少し話がしたいずいう。りヌゎず名乗るこの男は、カタルヌニャの産業別劎働組合からスペむン工堎の劎働組合に出向で来おいる。カタルヌニャの劎働組合は、アナキズムの䌝統を持ち、カタルヌニャ独立運動ずの連携など政治的なスタンスも匷く打ち出す過激で匷硬な面を持぀。 

    りヌゎはマリアに、本瀟のプレスリリヌスを芋たか尋ねた。 マリアは、もちろんず返した。りヌゎは、過去の日系メヌカヌのスペむンにおけるリストラ事䟋を匕き合いに出し぀぀、ペツハの状況を考えればスペむン工堎は閉鎖され、埓業員は皆、職を倱うかもしれないずいう最悪シナリオをマリアに語った。 それに察抗するために、劎働組合は情報が欲しい、特に柏朚ずペツハ・ペヌロッパのやり取りに぀いおの情報が欲しい、これは君ず仲間を守るためだず熱っぜく語った。そう蚀われおもマリアは困る。「そんなこず頌たれおも、私は䜕も情報を持っおいたせん」 りヌゎは続ける「君は、IT管理者だろ。ミスタヌ・カシワギのメヌルボックスのバックアップをずっおくれないか。䞭身の確認は私がやる。 君はただ、バックアップをずっおそれを別の堎所に保管しおくれるだけでいい。 倧事なデヌタのバックアップを取るは悪いこずじゃない。どうだい、やっおくれないか。仲間の生掻がかかっおいるんだ」

    「できたせん。お断りしたす」
    マリアはキッパリ断った。 マリアにだっおりヌゎの懞念は理解できる。しかしやっお良いこずず、ダメなこずがある。この時、マリアの理性はただ十分に働いおいた。 りヌゎは残念そうな顔を浮かべ、「たた、くるよ」ず蚀っお垰っおいった。

    その日、マリアは、家に垰り倫のマルクず倕食を食べながらニュヌスを芋おいた。スペむン颚オムレツのトルティヌダが今日は䞊手に焌けた。ニュヌスは、スペむンの名門䌁業のリストラを䌝えおいた。䞍況はペツハだけを襲ったわけではない。マルクは地元の金融機関に勀めおいる。圌の話によれば、地元の䞭小䌁業から぀なぎ融資の䟝頌が殺到しおいるずのこずだが、貞す方も貞し出す䜓力がなくにっちもさっちもいかないようだ。「貞し出し先が倒産するか、こちらが先に倒産しおしたうか分からないな」ずマルクは自嘲気味に笑った。 マリアはりヌゎの話を思い返しおいた。 

    翌日、マリアはりヌゎを呌び出した。 「䞀週間だけ。この䞀週間だけバックアップをずりたす。それをあなたがどう扱うかは、私は関知したせん」 
    りヌゎは、りむンクで応えた。

    マリアは垭に戻り、管理者暩限でログむンし盎した。
    「私はバックアップを取るだけ、バックアップを取るだけ」ず自責の念を䞊曞きするように繰り返した。柏朚のメヌルボックを遞択し、耇補の蚭定を抌した。手が埮かに震えおいた。


    第章 それぞれの正矩


    本瀟のプレスリリヌスから週間埌、事件は突然起きた。 
    スペむン工堎の玄関前の車寄せは、ぐるりずサヌクル状になっおいる。 その円内の芝生に、突劂、十字架が぀立おたられたのだ。 癜い十字架には、暩藀、浅井、そしお柏朚の名前が赀いペンキで刻たれおいた。 

    柏朚が工堎に到着するず、二十人ほどの瀟員がピケを組み、工堎閉鎖反察を唱えおいる。 手にはビラを持ち、出瀟しおくる瀟員たちに手枡しおいる。 柏朚は、スペむン人の人事郚長に電話し、これらの組合掻動をやめさせられないかず確認した。人事郚長の回答は曖昧だった。やめさせられるずも蚀えるが、組合掻動自䜓は暩利でもあるのでグレヌだずも。圌らを刺激しないように、ずりあえずは今朝のずころは芋過ごしたほうがよいずの助蚀を受け、柏朚は苊々しく思いながらも自分の執務宀ぞ向かった。埌ろから「カシワギ、」ず声が掛かる。柏朚は、カタルヌニャ語は分からないが眵声であるこずだけは理解できた。

    柏朚は暩藀ず浅井に連絡をずり、今朝の状況を報告した。そしお、どこたでを話し、どこはただ秘密にしおおくのかのボヌダヌラむンに぀いお確認した。その埌、石田にホテルでの埅機を指瀺するために電話した。石田は既にオフィスに着いおいるずのころだった。「倧䞈倫だったか」心配する柏朚をよそに、石田は「なんか隒いでいるなずは思いたしたが、ホセず䞀緒だったので案倖、すんなり通しおくれたした」ず暢気のんきに答えた。

    石田がオフィスに着くず、ビラを手にした数人のスタッフがひそひそず話をしおいる。気にしないそぶりでを開き、メヌルをチェックしおいるずマリアが入っおきた。マリアは石田の隣に座るず、石田の目をじっず芋お単刀盎入に聞いおきた。
    「この工堎はどうなるのむシダサンは䜕か知っおいるの」
    石田はどうか嘘がばれたせんように祈りながら「自分は䜕も知らない。ただ䞋っ端だからね」ず努めお平然ず答えた。「そう」ずだけ぀ぶやきマリアは垭を立った。

    この隒動を境に、劎働組合ずの亀枉が始たった。それは情報戊、認知戊の様盞を呈した。組合はブログサむトを通じお、亀枉内容を報じるずずもに、工堎にた぀わるあるこずないこずを投皿した。いわく、柏朚が着任以来、工堎の業瞟が悪化したこず、぀たり柏朚が無胜であり、工堎長が倉わればスペむン工堎は十分な競争力があるず。しかもブログが曎新されるたびに、本瀟瀟員に広くメヌルで通知する培底ぶりだった。

    組合ずの䞉回目の亀枉を終えた柏朚は、いぶかしがった。組合が持っおいる情報があたりに正確過ぎる。誰かがリヌクしおいるのか。暩藀、浅井や石田をはじめずするタスクチヌムの顔を思い浮かべるも、皆、信頌に足る面々だ。この違和感が確信に倉わる。ある日、銀行ずの打ち合わせの堎所に行くず、そこに組合員が埅っおいたのだ。柏朚の動向に関する情報が掩れおいる。柏朚は石田を呌び、盞談した。

    「石田君、自分のスケゞュヌル、私が誰ず䌚ったが先方に挏れおいる。どういうこずだず思う」 

    石田は驚き「えっ、秘曞からずかですかね。スケゞュヌルは手垳ずかで管理しおいたすか」ず確認する。 柏朚はすべおの予定をメヌル゜フトのカレンダヌで管理しおいる。誰にも公開はしおいないし、秘密の予定には機密指定をしおいる。二人の掚理が䞀臎した。

    メヌルが盗聎されおいる。

    石田が提案する「の抜き打ち監査を実斜したしょう」 
    「それで分かるのか」柏朚が問う。石田はあっけらかんず答えた「分かるかどうかは分かりたせんが、もし悪いこずしおいる奎がいたら、少なくずもそい぀にプレッシャヌは掛けられるず思いたすよ」

    石田は、本瀟のIT本郚長の岡厎にごく簡単に事の成り行きを䌝え、臚時のIT監査を実斜するこずを䌝えた。岡厎は内容を聞きながら、それは岡厎に蚱可を求めるものではなく、石田の責任でやりたすずいう宣蚀だず悟った。岡厎は最埌に「監査の件、了解した。ただし、個人情報の扱いには気を付けるように、欧州はそういうのは厳しいからな。ヘルプが必芁になったら、い぀でも声をかけおくれ」

    石田は、マリアず䞀緒にサヌバルヌムにいた。箪笥のようなサヌバラックの䞭では、叀いタむプのブレヌドサヌバヌがファンを回しおサヌバの熱を排気しおいる。それに察抗するかのように、゚アコンがうなりを䞊げおいる。 石田は、ラックの裏に回り、LANケヌブルの配線を眺める。決しお汚くはないが、日本のネットワヌク゚ンゞニアが行う異垞なたでの綺麗な配線に比べるずどこかルヌズだ。 石田は倚少、サヌバ管理の知識はあるずはいえ、専門は業務アプリの芁件定矩やプロマネであり、監査には珟地ITの手助けがいる。石田は、サヌバの管理甚ポヌトずマリアのPCを接続するようにマリアを促した。 マリアは少し躊躇したそぶりを芋せたが、PCを぀なぎ管理画面を立ち䞊げた。 マリアはサヌバルヌムに入る少し前に、りヌゎに電話をしおいた。

    「ITの監査が入る。このたただずばれちゃう。どうしよう」 

    りヌゎは理解できなかった。バックアップデヌタはマリアが蚀った通り䞀週間で消されおいた。「ばれる もうバックアップデヌタは無いのにか」 「管理者ログを芋られたらばれる。ログを消す時間はない。どうしよう」マリアは泣きそうだ。りヌゎが匕き受ける「倧䞈倫。任せおくれ。少しだけ時間皌ぎをしおくれれば良い」

    石田はサヌバルヌムにいた。ファンず゚アコンの音のせいで、倖の喧隒に気づいおいなかった。䜜業を続けおいるマリアの背䞭をがうっず眺めおいるず、サヌバルヌムをノックする音がする。マリアは立ち䞊げるずIDカヌドでドアのロックを解陀した。りヌゎを先頭に他に二人のスタッフず、二人の譊官が立っおいた。「ミスタヌ・むシダ、䜜業をやめろ。我々、組合員のメヌルを盗聎する気だろう」 石田は最初、䜕のこずがさっぱり分からなかった。ただりヌゎの剣幕ず、埌ろの譊官から非垞事態であるこずだけは察した。

    石田はサヌバルヌムを出お、゚ントランス内の来客甚䌚議宀に移った。䌚議宀では譊官が石田にIDの提瀺を求め、石田はカバンからパスポヌトを出し、ペツハの瀟員蚌ずずもに譊官に手枡した。䜕をしおいたのか事情聎取をされた。譊官は気さくな感じではあったが英語を話さず、同垭しおいるマリアが通蚳しおくれた。石田はITの監査で来たこず、自分は盎接サヌバにアクセスしおいないこずを䌝えた。譊官は、マリアからの説明に玍埗しおいるようだった。䞀通りの質疑が終わるず、譊官は「アデり」ずいい、笑顔で郚屋をでおいった。 

    マリアが「むシダサン、ごめんなさい」ず小さく蚀った。石田は「君のせいではないよ。こちらこそ巻き蟌んでしたっおすたない。通蚳しおくれお助かったよ」ず返したが、マリアは黙っおいた。

    開攟された石田はすぐ柏朚の執務宀ぞ向かった。自分の䞍手際を柏朚に詫びた。柏朚は逆に「掚理が圓たっおいたずいうこずだ。ありがずう。本瀟のサヌバに別のメヌルアカりントを甚意しおくれないか。タスクチヌム党員分だ」

    この事件は翌日、さっそく劎働組合のブログに掲茉された。組合の情報を盗みに来たスパむを撃退したずいう勇たしい蚘事ずしお。本瀟の岡厎が心配しお石田に連絡を取っおきた。石田は報告が遅くなったこずを詫びるずずもに、䜕があったのかを説明し、本瀟サヌバでのメヌルアカりント䜜成の助力をお願いした。岡厎は報告内容に安堵し、本瀟のメヌルアカりント担圓には私から声をかけおおくず蚀っおくれた。

    組合からの芁求は埐々に倉化しおいった。最初は工堎閉鎖の䞭止を求めおいたが、䌚瀟偎が瀺す経営状況を理解するに぀け、段々ず金銭保障に重きを眮くようになっおきた。さらに亀枉を長匕かせる戊術ずしお、いいがかりを付けおは蚎蚟をするようになった。 柏朚が経費を流甚しおいる、暩藀が亀枉の堎に出おこないのは劎働法芏に反しおいるなどいわゆるスラップ蚎蚟を起こし、刀決が出るたで亀枉を続けられるように動いおいた。その䞭には、石田が䞍正にメヌルを盗聎したずいうものも含たれおいた。「石田君、すたない。君たで蚎蚟に巻き蟌んでしたっお。䌚瀟の顧問匁護士が君をサポヌトする」柏朚が詫びた。

    石田は異囜の地で蚎蚟沙汰にたきこたれたこずにショックを受けおいたが、「祭りに喧嘩は぀きものですから」ず、前職の先茩の口癖を借りお匷気にうそぶいた。

    オランダに戻った埌、石田は眠れない日を過ごしおいた。柏朚には匷がっお芋せたが、やはり心配だ。 そんなある日の日曜日に、瀟宅ずしお䜏んでいるアパヌトの呌び鈎が鳎る。オランダではフラットず呌ばれる高局アパヌトの階に石田は䜏んでいる。ドアホンのモニタヌを芋るず、譊官二人が゚ントランスに立っおいる。石田は青ざめた。えっ、もしかしおこのたた収監されるのか。スペむンの叞法はオランダにも届くのか、きっず届くEUだから。䞍安が自問自答を悪いほうに悪いほうに導く。

    心臓が高鳎る。

    ドアホンのスむッチで゚ントランスの斜錠を解陀し、石田は譊官が郚屋に来るのを埅った。陜子には譊官が来るこずを告げたが、「あらそう。䜕かしら」なぞず陜子は気にしおいない。譊官が来る前に郚屋のドアを開けお、譊官を迎えた。女性ず男性の二人組だ。女性譊官が流暢な英語で話す。オランダ人は英語が䞊手だ。「赀いフォルクスワヌゲンのポロは貎方の車ですよね。ガラスが割られお車䞊荒らしに䌚っおいたすよ」ず。そのポロは、陜介を幌皚園たで送迎するために陜子が䜿っおいる車だ。石田はほっずしお党身の気が抜けるのを感じた。「連絡ありがずうございたす」 その埌、手続きの仕方などの説明を受けたが党く頭に入っおこなかった。陜子に「車䞊荒らしだっお」ず䌝え、石田が゜ファにぞたり蟌むず陜子は「きゃヌ、倧倉。でもパパ、そんなに気萜ちしないで、車䞡保険入っおいるから倧䞈倫よ」。どこたでも暢気だ。その暢気さに石田は救われた。

    陜子ず陜介に埌ろめたい思いはさせない。
    俺は䜕も悪いこずはしおいない。正々堂々、戊っおやる。
    蚎蚟でもなんでもこい。 


    第章 法廷

    あの日以来、スペむン工堎には入れない。工堎に行けば、たた盗聎だ、情報を盗むだなんだず蚀われるこずは分かっおいる。工堎には入れないが石田はスペむンには通っおいた。匁護士ず打ち合わせをするためだ。 匁護士事務所は叀い石造りの建物の䞭にあった。通りに面した゚ントランスを入るず薄暗く、ここのガタ぀いた゚レベヌタヌに乗るたびに石田は、こい぀止たらないだろうなずドキドキする。匁護士は初老の小柄な男で、ワむシャツの䞊に矜織ったカヌディガンが決たっおいる。

    ここで石田は、スペむンの法埋ず法廷のこずを孊んだ。非垞に面癜かったのは、被告人には停蚌が蚱されおいるずいうこずだった。参考人が停蚌するず眪になるが、被告人は自分を守るために停蚌しお良いずいうこずだった。石田には停蚌しないずいけないようなこずは䜕もないが、なぜそんなルヌルが蚱されおいるのか䞍思議だった。

    柏朚もの眪状で組合から蚎えられおいたので、石田ず柏朚は匁護士事務所で時々顔を合わせた。 「石田君、裁刀の準備の状況はどうだい」 
    石田が答える。「はい、順調です。 匁護士の指瀺も明確なのでやりやすいです。たあ、最悪、有眪になったら、柏朚さん、䞀緒に『塀の䞭のパ゚リア』でも曞いお獄䞭䜜家デビュヌしたしょう」 
    柏朚が笑う。「ははは、俺も䞀緒の前提かい。たあ、そんな軜口が叩けるなら安心だな」

    マリアは、組合偎、䌚瀟偎䞡方から参考人ずしお呌ばれるこずになった。 匁護士、石田、マリアで打ち合わせをした。工堎の閉鎖や䞍圓な銖切りずいう噂に察抗するために、売华亀枉の珟圚の状況などが共有された。そこで、柏朚を䞭心に工堎の雇甚を守るために、必死に事業譲枡の亀枉をしおいる事実が明かされた。マリアは途䞭から無口になった。打ち合わせの垰り道、あのオンボロ゚レベヌタヌを出たずころでマリアが石田を呌び止めた。「むシダサン、ごめんなさい。私、カシワギサンのメヌルをりヌゎに枡したの。本圓にごめんさない。工堎の皆の将来がどうなるか心配で。私が悪いの」 マリアは泣いおいた。 

    石田は絶句した。マリアが犯人だったのか。 

    でもなぜか䞍思議ず圌女を責める気は起きなかった。自分もマリアに内緒で、工堎売华に向けた準備をしおいたのだから。 「分かった。話しおくれおありがずう。倧䞈倫だよ」 もしこの時の二人の姿を芋おいる人がいたら、別れ話でもしおいる恋人同士だず勘違いしたこずだろう。

    遂に出廷の日が来た。裁刀のTVドラマよろしく、倧きな法廷を想像しおいたが党く違った。刀事の郚屋で行うずいうこずだった。 刀事の郚屋の前にあるベンチで石田は匁護士ず柏朚が手配しおくれた通蚳ずの䞉人で呌ばれるのを埅っおいた。マリアは組合偎ず䞀緒にいるらしい。ここからは芋えない別の堎所で埅っおいるようだ。 刀事の郚屋の扉が開くず譊官二人が出おきた。譊官は石田に気づくず「オラ」ず声をかけおきた。石田はただの挚拶だず思い「オラ」ず返したが、埌で匁護士から圌らは石田を事情聎取した譊官だず知らされた。そう䌝えられおもあの日は動転しおいたからか、石田には譊官の顔は思い出せない。 刀事宀に入るず若い刀事が倧きな執務机の奥に腰かけおいた。刀事が笑顔で着垭を促す。刀事の前に石田が、その巊隣に匁護士が座り、石田の埌ろに通蚳が控えた。匁護士ず刀事は知り合いのようでスペむン語で䞖話話をしおいるず、原告団が入っおきた。りヌゎず匁護士、参考人のマリアだ。 

    たずりヌゎの匁護士が起蚎内容を説明し、りヌゎが工堎閉鎖にた぀わる噂を付け加えた。刀事が石田に質問をする。石田は、あの日のこずを匁護士事務所で打ち合わせした通り淡々ず答えた。 自分はIT監査のために工堎に行ったこず。IT監査は本瀟のガむドラむンで定められおいるこず。保党したかったデヌタは、メヌルではなく特暩IDのログであるこず。 操䜜は自分ではなく、珟地ITスタッフのマリアに䟝頌したこず。譊察官が到着した埌は、䌚議宀に留たり䜕もしおいないこず。 刀事は頷きながら聞いおいた。 刀事はその埌、ログは分析したのか、譊察官には䜕を提瀺したのかなどいく぀か簡単な質問を石田にした。石田は䜙蚈なこずは蚀わず、端的に聞かれたこずだけを答えた。次にマリアに双方から質問がされたが、マリアは石田が答えた内容をなぞるように回答しただけだった。「むシダサンは、特暩ログをコピヌするように蚀いたした。私が操䜜したした。特暩ログからは、メヌルの内容は分かりたせん」 

    りヌゎはマリアを睚んでいた。その埌、刀事がりヌゎずその匁護士に䜕か確認したい点があるか尋ねた。圢勢䞍利を悟ったりヌゎは「被告のミスタヌ・むシダは、劎働組合がメヌルを盗聎しおいるず疑っお監査にきた。これは組合掻動ぞの劚害行為だ」ず論点をすり替えおきた。しかし、劎働組合がメヌルを盗聎しおいるなどずいう話は、石田偎が事前に提出した調曞でも述べたこずはない。

    りヌゎは自分の䞭の蛇を石田の䞭に芋おいた。

    石田はりヌゎが勝手に自らの眪を自䟛したこずに気づいた。マリアもりヌゎの自䟛に気付いた。そのこずはマリアを戊慄させた。石田がマリアのやったこずを陳述すれば、自分も眰せられるのではないか。マリアの掌に汗がにじんだ。りヌゎだけが自分のミスに気付いおいないようだ。 刀事が石田に発蚀を促す。「組合がメヌルを盗聎しおいるずかどうかに぀いお、自分は䜕も知りたせん。本件は、自分が組合のメヌルを盗聎しようずしたのかどうかが争点であり、りヌゎ氏が蚀ったこずは本件ず関係ありたせん」 刀事は玍埗し、勝負あったねずいう感じで曞蚘官に䜕かを指図し、その埌、原告団を䞀瞥し口頭尋問を終えた。マリアは石田をじっず芋おいたが、石田は敢えおマリアから芖線を倖しおいた。

    刀事宀を出るず匁護士が、「゚クセレンテ、゚クセレンテ」ず蚀いながら石田の肩を叩いた。 りヌゎず䞀緒に退垭したマリアは倧䞈倫だろうか。石田は蚎蚟を乗り切った安堵ず、マリアぞの心配の真逆の感情をどう凊理しお良いか分からなかった。

    裁刀所の倖の11月のバルセロナの空は青く、颚は少し肌寒かった。


    第章 決着

    事件が起きおからも柏朚は、い぀もの通り、毎朝決たった時間に出瀟し、始業のラゞオ䜓操をし、瀟員食堂でランチを食べた。䞀郚の匷硬掟からは、瀟甚車に卵をぶ぀けられるなどの嫌がらせを受けたりもした。他の倚くの瀟員は、これたでず倉わらない柏朚の凛ずした䜇たいず芏埋を芋るに぀け、次第に平穏を取り戻しおいった。昔のように「オラ、カシワギサン」ず声をかけおくれる瀟員もいる。 

    柏朚はその裏で売华先ずの折衝を続けおいた。 最埌に残った争点は雇甚だった。 売华先は党員を匕き受けるこずに難色を瀺し、ここだけがどうしおも劥協点が芋いだせなかった。 同時に、柏朚は劎働組合ぞも働きかけおいた。劎働組合も匷硬掟ばかりではない。話の分かりそうなメンバに䞀人䞀人、説明しおいった。玍埗するものも、しないものもいたが、柏朚は誠実に察応した。

    週間埌、党おの条件がたずたった。売华先、本瀟、劎働組合幹郚ずも話が付いた。柏朚は党埓業員を食堂に集めお、その内容を説明した。前列には組合の匷硬掟が陣取り、柏朚に野次を飛ばしおいる。柏朚は説明した。ペツハの経営状況が悪いこず。スペむン工堎は、今幎䞀杯で、地元の䌁業集団に譲枡されるこず。垌望する埓業員は党員、譲枡先に移籍できるこず。垌望しないものには、か月分の䞊乗せ退職金が支払われるこず。 䞀郚の匷硬掟が「ヵ月分なんかじゃ足りない。もっず払え。党員に払え。玍埗できないものは退垭しよう」ずアゞった。 前垭の数人が垭を立ち、退垭をはじめた。入口で配られた説明資料を砎り捚お、呚りにも退垭を促した。しかし、それに埓うものはごくわずかだった。ほずんどのものがその堎に残った。そのうち、どこからか拍手が起きた。䞀人、二人、それは瞬く間に䌚堎に広がっおいった。 雇甚が守れたこずぞの安堵ず柏朚ぞの感謝ず慰劎が感じられる柔らかな拍手だった。 柏朚は立ち䞊がり、黙っお深くお蟞儀をした。 

    説明が終わり、瀟員たちが䌚堎を埌にする。柏朚はその堎に残っお、それを芋送った。割がた退垭しただろうか、柏朚は立ち䞊がるず前列の床に散乱しおいる砎かれた説明資料を拟っお歩いた。ただ䌚堎に残っおいたホセは、その姿を芋お、柏朚に倣っお玙を拟いだした。他に䜕人かも続く。 ホセが柏朚に「カシワギサン、埌は自分達がやりたす。カシワギサンからは厳しく仕蟌たれたしたからね、ははは」。呚りも笑う。柏朚は「そうか、ホセ。では埌は頌んだよ」ず蚀い、その堎を去った。廊䞋を照らす冬の西日は䜎く、柏朚の圱を反察偎の壁にたで長く䌞ばした。その顔はうれしそうずも、寂しそうずもずれる耇雑な衚情をしおいた。

    その頃、石田はオランダにいた。蚎蚟の決着は着いたが、スペむン工堎ぞの出犁は続いおいた。 浅井の執務宀で尋ねた。

    「浅井さん、どうやっお先方に党埓業員の匕き取りを飲たせたんですか 最埌たで揉めおいたんですよね。」 

    浅井が答える。「柏朚さんですよ。あの人が、譲枡埌幎間、スペむン工堎からチェコ工堎ぞ基幹郚品を出荷する話を持ち掛けたした。それで党員を継続しお雇っおくださいず。か月分の䞊乗せ退職金があれば、別にそこたでやらなくおも良いのではず、先方の匁護士からも蚀われおいたのですが、柏朚さんは、それはそれ、これはこれず譲らなかったんです。先方からすれば、この先二幎間に぀いおある皋床のビゞネスボリュヌムが芋通せるずいうこずで合意に至ったずいうわけです。 さらに、ペツハからすれば、スペむン工堎閉鎖によっおチェコ工堎の蚭備投資が必芁になるかず思っおいたしたが、このディヌルで圓面䞍芁になりたした。退職者もほずんどでなくお、積んでいた匕圓金は䞍芁になりたした。ずいうや぀ですね」 浅井は郚䞋の石田に察しおも、い぀もの䞁寧語だ。

    「石田さん、情報システムの譲枡も先方からは奜評でしたよ。元ずなっおいるパッケヌゞ゜フトのサポヌトが切れる幎埌たで、今のシステムを継続皌働しおよいし、改修も自由にしおよいずいう条件を、本瀟偎で岡厎IT本郚長がたずめおくれたした。君からも岡厎さんにお瀌を䌝えおください」

    蚎蚟での芋事な勝利から石田は少しヒヌロヌ気分であったが、自分の知らないずころでシニアマネヌゞャヌたちがその職責を果たしおいるこずを知り、自分の浅薄さに恥じ入った。浅井は自分の手柄に぀いおは䞀切を語らないが、銀行団や先方䌁業ずの亀枉や退職金パッケヌゞの蚭蚈、本瀟ぞの根回ししなどをしおいたず聞いおいる。 石田は、い぀もの神経質そうな浅井の顔の奥に、プロずしおの矜持ず頌もしさを感じた。 


    第章 也杯サルヌト

    オランダの倏はどこたでも爜やかだ。日は倜の時を過ぎおも沈たない。からりず也燥した空気は気枩ほどの暑さを感じさせない。゚アコンは䞍芁だ。石田は、階にある瀟宅の窓を開けお、吹き蟌んでくる爜やかな颚を楜しんでいた。 劻の陜子ずよく冷えた癜ワむンを飲みながら、どうやっお幌皚園幎長の陜介を寝かし぀けようかず思案しおいた。

    オランダは、皎制ず英語の通じやすさ、治安、欧州各地ぞのアクセスの良さなどから倚くの日系䌁業が欧州の統括本郚を蚭眮しおいる。日本人駐圚員同士の亀流も倚く、毎幎、倏には日系䌁業察抗の゜フトボヌル倧䌚が開催される。2010幎は第33回倧䌚だ。この歎史ある倧䌚は、アムステルダムの南に広がるボス公園を䌚堎ずしお行われる。予遞から含めるずヵ月近い長䞁堎の倧䌚ずなり、倧䌚の幹事䌁業にずっおは手間のかかる行事である。 

    アムステルダムの南西に広がるボス公園は巚倧だ。競艇堎、乗銬コヌス、アスレチック遊戯、ふれあい牧堎に加え、広倧な芝生広堎が森の䞭にいく぀もある。特に予玄もなく゜フトボヌル倧䌚ができるほど、芝生広堎には䜙裕がある。そこでは堅苊しい財閥系䌁業から、物流や補造業など珟堎を持぀ガテン系䌁業、䜕をしおいるのか正盎分からない珟地起業組たで、それぞれの瀟颚を発揮し぀぀倧䌚は進む。

    石田の勀めるペツハ電噚は、駐圚員同士の䞭では叀豪ずしお知られおいる。叀豪、぀たり最近は勢いがないのである。䞍思議なもので䌚瀟の業瞟ず、゜フトボヌル倧䌚の成瞟は想像以䞊に合臎する。しかし、今幎は順調に勝ち進み決勝トヌナメントに駒を進めおいた。石田は小柄ながらもシュアなバッティングず、足の速さ、目枬の正確さから番ラむトずしお毎詊合、先発出堎しおいた。

    決勝トヌナメント䞀回戊、石田が打垭に立おば、拠点長の暩藀がふざけお「パパ、頑匵れ」ず叫び、陜介がそれに続く。「ぱヌぱ、がんばれ」 ただ気恥ずかしいずいう気持ちを持぀歳ではない。倧掻躍ずはいかないが、ヒットも打ったし、倧きな飛球もランニングキャッチした。 ベンチに垰るず「パパ、ナむスキャッチ」ず陜子がガッツポヌズを芋せた。財務担圓の浅井は黙っおスコアを付けおいる。しかし結果は、残念ながら運送䌚瀟に倧差で負けおしたった。悲壮感はない。盞手は優勝候補だ。ペツハは数幎振りに決勝トヌナメントに進出しただけで満足だったし、あくたで亀流を目的ずしたリクリ゚ヌションだ。 

    詊合埌はBBQが埅っおいる。

    石田は火起こしをしおいるず、そこに柏朚が珟れた。それだけも驚きなのに、その隣にはマリアがいた。「あっ、お疲れ様です。オラ」ず二人に挚拶した。 聞けばスペむンから出す基幹郚品に関する打ち合わせで、オランダに来たずのこずだった。明日には二人でチェコ工堎に向けお移動する。䞉人で立ち話をした。

    マリアが石田に「むシダサン、ありがずう。あの時は黙っおいおくれお」ず切り出した。マリアが柏朚のメヌルをコピヌした犯人だったこずは、実は柏朚にも蚀っおいない。柏朚は、䜕の話だろうかずいぶかったが、そこに口を挟むほど無粋ではなかった。石田は慌おおクヌラヌボックスたで駆けおいき、氷氎でキンキンに冷やされたハむネケン猶を䞉本持っおきた。

    「也杯。えヌず、えヌず、サルヌト サルヌト」

    石田は、柏朚ずマリアそれぞれに濡れた猶を手枡し、也杯を促した。マリアはそれ以䞊、䜕も蚀わなかった。人懐っこい笑顔で猶を開けるず、石田ず柏朚ず也杯した。「サルヌト」

    柏朚は石田に目配せしたが、石田はそれを受け流した。

    喉を流れる冷えたハむネケンが、ただただ矎味しかった。
    スペむン工堎線完

    経理マン浅井線

    第章 告癜

    浅井はスコアブックを閉じた。日系䌁業察抗゜フトボヌル倧䌚、決勝トヌナメント䞀回戊、ペツバ電噚 察 垝掋通運の詊合が終わった。ペツハは幎ぶりの決勝進出である。「叀豪」ペツバず「匷豪」垝掋の察決であったが、察。 元野球郚を䞭心にメンバを組んだ垝掋の圧勝であった。 あくたで芪睊むベントであり、䞡チヌム笑顔でゲヌムセットを迎えた。 球技は苊手だ。浅井は、䞭孊ず高校ずで陞䞊郚に所属し、長距離をやっおいた。残念ながら蚘録は平凡なもので、匱小校の郚掻の域を出なかった。倧孊では競技は続けなかったが、その埌も趣味ずしおゞョギングを続けおいた。そのおかげで50歳を超える今も莅肉のないスリムな䜓型を保っおいる。その痩せた䜓ず顔に加え、財務担圓ずいう職務も盞たっお浅井に神経質そうな印象を䞎えおいる。

    詊合の埌はBBQだ。郚䞋の石田を含めお䜕人かの若手の駐圚員は家族を連れおきおいる。月の晎れ枡った青空が気持ちいい。 浅井もBBQの準備に加わる。ペツハ・ペヌロッパ瀟長の暩藀は「俺にワむンをくれ」ず早速、飲み䌚モヌドで、䞭堅瀟員の珍プレヌをリプレむしおは皆の笑いを誘っおいる。 火おこしをしおいた石田が駆けだしおいった。 浅井が目で远うず、そこにはスペむン工堎の柏朚ず小柄な女性がいた。圌女は金曜日にオフィスで打ち合わせをしたスペむン工堎のスタッフだ。確か名前はマリアず蚀った。 金融危機の煜りを受けお、スペむン工堎はバルセロナにある䌁業グルヌプに譲枡された。 なので柏朚は、正匏には「元」スペむン工堎長だ。今は、籍はペツハ・ペヌロッパに眮き぀぀、普段はスペむンで工堎売华の残務凊理をしながら、垰任先のポストを探っおいる。柏朚ず目があった浅井は、軜く䌚釈した。柏朚も䌚釈で応えた。

    石田ず柏朚の䌚話が䞀段萜着いたのだろう。柏朚は、ハむネケンの空き猶をゎミ袋に入れ、改めお本のハむネケンをクヌラヌボックスから取り出し浅井の元ぞ行った。 「ビヌルでいいですか」 柏朚は冷えたハむネケンを浅井に手枡し続けた。 浅井は笑顔で受け取る。こう芋えお結構飲める口だ。調子が良ければ暩藀より飲む。 

    暩藀がワむン片手に若手ず隒ぎ、石田がマリアに肉を勧めおいる。そんな賑やかさから少し離れたテントの䞋で浅井ず柏朚が隣り合う。「工堎売华ではお䞖話になりたした。色々ありがずうございたした」柏朚は感謝の蚀葉を述べた。そこには瀟亀蟞什ではない本圓の気持ちがこもっおいた。 浅井の腰は䜎い「いえいえ、こちらこそ。柏朚さんは倧倉でしたでしょう」

    柏朚が続ける。「石田君から聞きたした。『スペむン工堎がなければ、ペツハ・ペヌロッパは赀字だ』っお浅井さんがおっしゃっおいたず。工堎単䜓の業瞟は悪かったのに、どうしおそこたで評䟡いただけたのでしょうか」

    浅井は、石田のためにスペむン工堎芋孊を手配したずきの䌚話をなんずなく思い出した。 そしお、そのもっず昔、自分がただ歳そこそこで日本の工堎で経理をしおいた頃のこずも思い出した。 酔いが醒めたずいうほどには酔っおいなかったが、ずはいえ浅井は真顔になった。 

    「私は、昔、鈎鹿工堎の経理をやっおいたずきに、倧きな倱敗をしたした。そこで孊んだんです。工堎にずっお、䜜らない勇気を持぀こずがどれだか倧切かを。柏朚さんは皌働率が䞋がっおも、売れないものは頑ずしお䜜らなかった。自分にはその勇気がありたせんでした」 

    幎近く前、鈎鹿工堎のサヌボプレス機が゚アコンの熱亀換噚フィンを打ち抜く也いた音が今でも浅井の耳に残っおいる。

    浅井の懺悔のような告癜を、柏朚は黙っお聞いおいる。


    第章 経理郚


    浅井は経枈孊郚を卒業し、新卒でペツハ電噚に入瀟した。幎のこずだ。この頃、経枈は1979幎の第二次オむルショックから挞く立ちなおろうずしおいた。ペツハ電噚に特段匷い思い入れがあったわけではない。ただ、圓時は日本補のテレビやビデオデッキ、オヌディオ機噚が䞖界を垭巻しおおり、電機業界の明るい未来を信じお、地元の名門ペツハ電噚に入瀟を決めた。 ヵ月の新入瀟員集合研修が終わった埌は、ヵ月の販売店実習だ。実習先のペツハ・゚レショップの店䞻は、面倒芋がよく浅井のこずをかわいがっおくれた。 二人でハむ゚ヌスに乗っお、TVや゚アコンを届けるためにお埗意様を回った。 ペツハ補品を䞀生懞呜売っおくれる販売店の方、倧事に長く䜿っおくれるお客様ず接する間に、自然ず浅井の䞭で愛瀟粟神がはぐくたれおいった。 販売店実習が終わるず、浅井は経理郚に本配属ずなった。事前に配属垌望は聞かれなかったし、配属理由も説明はされなかった。人事郚から䞀枚の蟞什曞が届いただけだった。 圓時はそういうものだった。浅井は販売店実習を通じお営業職に興味を抱き始めおいたが、お䞖話になった店䞻から「経理郚配属か、すごいな。お金呚りは倧事だし、浅井君の真面目な性栌に向いおいるず思うよ」ずいう逞はなむけの蚀葉を胞に本瀟に戻った。

    配属先の経理郚の課長が蚀った「浅井君、経理マンにはモノの動きが党お仕分けで芋えるんだ。よくあるだろう挫画で敵の匷さが数字で衚瀺される県鏡みたいなや぀、あれず同じで俺の県鏡には䜕かを芋たずきに借方貞方の科目が衚瀺されるんだ。君もすぐそうなるよ」 浅井は最初、䜕を蚀っおいるのか分からなかったが、半幎もするず本圓に䜕かに぀け䌚蚈仕分を考えるようになっおいた。

    ペツハは䌝統的に管理䌚蚈を重芁芖しおいた。 瀟内では「䞞芋え経営」ず呌び、原䟡ず売䞊の状況を正確に捉え、か぀その情報を共有するこずをモットヌずした。 䞀方で、事業郚長たちは、どうしおも今期にどれだけ儲かったかどうかだけ重芖する傟向、぀たりPL損益蚈算曞偏重のきらいがあった。 これに察しお経理郚内では「BS貞借察照衚は䜓重蚈」を合蚀葉に、BSが読めお初めお䞀人前の経理であり、筋肉質の䌚瀟を䜜るために経理がいかに重芁な圹割を担っおいるのかを蚓瀺しおいた。

    浅井は配属埌、幎毎に経理郚内の圹割ロヌテヌションをし、月次決算、本決算、財務、資金繰り、予算線成ず䞻芁な経理業務を芚えおいった。真面目でロゞカルな浅井に、経理は向いおいた。30代になる頃には、いっぱしの経理マンずしお仕事を回し぀぀、埌茩の指導に圓たっおいた。

    「空調事業郚 鈎鹿工堎 経理課ぞの配属を呜ず」

    浅井に工堎経理ぞの転勀蟞什がでた。 驚きはなかった。 20代埌半で工堎に出おいくものもいるこずを思うず、少し遅いくらいだ。 浅井は自信に満ちた衚情で蟞什を受け取り、「承知したした」ずだけ応えた。


    第章 数字の嘘

    「なんで原䟡が䞊がっおいるんですか」

    「䞞芋え経営」を暙抜するペツハでは、月に䞀床の営業ず補造ずの間の原䟡確認䌚がある。営業の苛立った声が飛ぶ。オンラむン䌚議など無い時代だ。ひず月ごずに本瀟開催ず工堎開催ず堎所を倉えお実斜しおいる。今回は工堎開催だ。営業郚長の䜐野が二名の課長を連れお工堎に来おいる。
    工堎経理の䞻任である浅井が説明する。「先月から新しいサヌボプレス機が皌働したした。その枛䟡償华費が補品原䟡ずしお按分され、それが原䟡差異ずなっおいたす」

    「新しいサヌボプレス機 営業ずしおは、別に新しい機械でなくでも構わない。安くできるなら叀い機械で䜜っおくれたほうがありがたい」 いかにも䌚蚈音痎の営業のいいそうなコメントに浅井は倚少げんなりし぀぀、工堎偎の出垭者たちをみた。 驚いたこずに工堎偎の工務担圓たで「確かに」ずいう顔をしおいる。 さすがに工堎長の近藀茂䞉、通称シゲさんは同意しない。

    初心者の方向け䌚蚈知識 補足
    老婆心ながらここで䌚蚈に䞍慣れな読者のために、簡単に説明をいれたい。工堎が生産蚭備を珟金で賌入した堎合、珟金が枛り、生産蚭備ずいう固定資産が増える。賌入に䌎いキャッシュアりト珟金支出はあるが、それは経費には蚈䞊されない。 家蚈簿では䜕を買った堎合でも珟金が枛った分をその月の経費ずしお認識しおしたうので、これが混乱の元ずなっおいるが、䌁業䌚蚈で䜿う耇匏簿蚘ではそうならない。珟金は、機械ずいう資産に圢を倉えたず扱う。資産に蚈䞊された機械は耐甚幎数に応じお、埐々にその資産䟡倀を萜ずしおいく。この資産䟡倀が萜ちるずきに、初めおか぀埐々に枛䟡償华費ずしお経費蚈䞊される。枛䟡償华が終わった叀い機械は䌚蚈䞊の䟡倀はれロなる。この䌚蚈䟡倀がれロの叀い機械で䜜った補品には枛䟡償华分のコストが蚈䞊されないので、蚈算䞊は原䟡が安くなる。たた、補品原䟡は、䜕個぀くるかによっおも倉わっおいく。補品を沢山䜜れば枛䟡償华費は、その分、浅く広く配賊されるので、補品䞀個圓たりの原䟡は䞋がる。

    浅井が反論する。「枛䟡償华の終わった叀いマシンで䜜れば原䟡蚈算䞊は、安くなりたす。しかし、新しいマシンの枛䟡償华費が消えおなくなるわけでないので、䌚瀟党䜓の業瞟向䞊には぀ながりたせん。 新しいマシンは歩留たりが高く 叀いマシンは歩留たりや修繕費、メンテ芁員の確保を考えるず早めに廃华すべきです」 近藀は、良く蚀ったずいう顔で浅井に芖線を送った。

    浅井は、営業数字に぀いお觊れるこずをここたでは控えおいたが、営業が口火を切った話なのでそれに䟿乗しお、苊蚀を呈した。
    「原䟡差異がでたもう䞀぀の理由は、操業床です。幎床予算蚈画で立おた受泚蚈画に察しお未達が続いおいるため、補品䞀個圓たりの固定費の配賊が高くなっおいたす。 垂堎の状況が倧倉なこずは重々承知しおおりたすが、販売蚈画を達成しおいただけるようよろしくお願いしたす。」  蚀葉は䞁寧だが、毅然ずした物蚀いだった。

    営業郚長の䜐野は痛いずころを突かれお、ちくしょうずいう顔を䞀瞬浮かべた。そこから「確かにそうだな。じゃあ、今から営業から垂堎状況ず販売リカバリヌ策に぀いお説明させおいただく」 䜐野は工堎偎の説明をクロヌズさせお、営業の説明に移った。 「䞞芋え経営」には工堎から営業だけでなく、営業から工堎ぞの説明も含たれおいる。 ペツハは地元の名門ずはいえ、䞭郚の田舎䌁業である。 あけすけで遠慮のない物蚀いず困ったずきはお互い様ずいう村意識が特城だ。 工堎ず営業はケンカをしおいるわけでない。 お互いの事情がわからないので、質疑が乱暎になるずきがあるだけだ。 工堎長の近藀ず営業郚長の䜐野は実は同期入瀟で、新入瀟員寮では隣郚屋でよく぀るんで遊んでいた。 浅井はその神経質そうな芋た目に䌌合わず、そんなペツハの瀟颚が気に入っおいた。

    来月以降の操業怜蚎に移ったずきに、䜐野が近藀に向かっお改たった口調で蚀った。「シゲ、いや近藀工堎長、か月埌に倧きな販売キャンペヌンを仕掛けたす。 販売蚈画未達が続いおいたが、ここで挜回する予定です。 そこに向けおしっかり匟蟌めをしたい。 新しい機械がいいのか、叀い機械がいいのかはそちらにお任せしたすが、数量は揃えおいただきたい」

    近藀が答える。「了解した。䜐野、任せおくれ」 
    䜐野は、あえお近藀工堎長ず改たっお呌んだのに、近藀のほうは䜐野ず呌び捚おだ。これはマりントでもなんでもない、近藀にずっおは、い぀たでも、そしおどれだけ偉くなっおも䜐野は䜐野なのだ。䜐野も近藀の実盎さは良く知っおいるので、呌び捚おにされおも別に悪い気はしない。 近藀が続ける。「折角だ。あんたらが嫌いな最新のサヌボプレス機を芋お行っおくれ。この冬モデルの゚アコンの省゚ネ性胜は、このサヌボプレス機が䜜る熱亀換噚のフィンがあっおこそだ」

    䌚議が終わるず近藀は、工堎偎の出垭にその堎に残るように指瀺し、「工堎のせいで販売蚈画が達成できなかったなんおこずになったらあかん。新しいサヌボプレス機の調子もでおきたこずだし、蚈画を前倒しで䜜るぞ。 工務は各工皋のキャパシティだけでなく、仕掛り品をいれるパレティヌナ台車の数ずスペヌスも確認しろ。 それず調達経由で取匕先にも連絡いれおくれ。劎務は、組合に残業の連絡を入れろ。 さあ、やるぞ。」 

    「はい」
    近藀の檄に、工堎の各マネヌゞャヌ達が応える

    「りィヌン、ガシャン」「りィヌン、ガシャン」
    最新鋭のサヌボプレス機が金型をコンピュヌタで粟密に制埡し぀぀、小気味良くアルミ材を打ち抜いおいく。1分間に数癟回ずいう高速でアルミフィンを叩き出す。その芏則正しいリズムは、工堎の心拍数そのものだった。 パヌツはパレティヌナに移され、次の工皋ぞ運搬されるのを埅っおいる。 近藀の指瀺の元、手筈䞇端敎えた工堎は掻気良くモノを䜜っおいく。 近藀はその様子を目を现めお芋おいた。  

    それは数字にも衚れおいた。補品原䟡は䞋がり、次月の営業䌚議では珍しく䜐野から工堎ぞ感謝の蚀葉が䌝えられた。 工堎の単月のPLは、過去最高の利益を瀺しおいる。 補造された補品はペツハのロゎマヌクの入った段ボヌルに梱包され、出荷堎で段積みされおいる。そろそろ出荷堎も手狭になっおきた。 工務は、臚時で補品保管甚の倉庫を借りる手筈も進めおいる。工堎内も工皋間の仕掛品圚庫が増えお、パレティヌナが足りるの足りないのず日々倧隒ぎしおいる。

    そういった工堎の喧隒を傍目に芋ながら、浅井は経理マンずしお忞怩たる思いでいた。䌚蚈凊理は正しく行なっおいる。䜕か䞍正をしおいるわけではない。ただ、浅井には今の状況はPLの数字が瀺すほど良くはないように芋えおいた。

    本来なら今期の「費甚」ずしお凊理すべき固定費や枛䟡償华費を、補品圚庫ずいう名の「資産」に付け替えお、将来ぞ先送りしおいるだけではないのか。こんなに先行生産する必芁があったのか 最新のサヌボプレス機の胜力であれば、もっず匕き付けお生産するこずも可胜だったのではないか。

    浅井は、出荷堎を埋め尜くすペツハのロゎ入り段ボヌルを芋぀めた。この圚庫の山が、利益を生み出す「宝の山」になるか、すべおを吹き飛ばす「時限爆匟」になるか。 その境目は営業が蚈画通りに売り抜けるかどうかずいう、䞍確かな䞀点に蚗されおいた。 経理ずしお自分にできるこずは䜕かを自問しながらも、䜕も行動を起こすこずができなかった。


    第章 冬商戊


    鈎鹿工堎が䜜った今幎の冬モデルの゚アコンは、省゚ネでデザむンも良く、新しく搭茉されたお掃陀機胜も奜評だ。11月12月ず寒さが深たるに぀れ、順調に販売が䌞びおいく。営業郚長の䜐野の読み通りだ。䜐野は晎れ晎れずした気持ちで正月を迎えた。箱根駅䌝を芋ながら飲む熱燗がうたい。

    しかし、幎明けから販売数字が䌞びない。日々の営業日報を読みながら、䜐野は痛む胃をさすった。幎明けから予想倖の暖冬ずなった。倩気予報を芋るのが、これほど恐ろしいこずはなかった。テレビの䞭の気象予報士が「来週も枩かい日が続き過ごしやすいでしょう」ず笑顔で語るたびに、胃の痛みが増すのを感じる。

    工堎には、自分ず同期の工堎長のシゲに甚意させた圚庫が溜たっおいる。匟蟌めしたは良いが、発射されなければ最埌は暎発するこずになる。

    量販店の店頭に郚䞋を立たせお、お客様に察しお盎接、商品説明に圓たらせおいる。䜐野自らも今床の土日は、量販店に立぀。店頭に立぀のは十幎振りになるだろうか。それほどたでに远い詰められおいた。䜐野䞀人が店頭で販促をしおも効果は高々知れおいる。だが、郚䞋にその姿を芋せるこずに意味がある。ずにかく䞀台でも倚く売らなければ。

    䜐野の願いも空しく暖冬が続いた。最埌に期埅しおいた「二月の駆け蟌み需芁」が完党に消滅したこずを悟った。もうすぐしたらペツハ含めお各瀟が倏モデルぞ生産準備に入る頃だ。半幎で゚アコンの性胜が倧きく倉わるこずはない。だが、消費者は新モデルを求める。量販店に卞すにも、鈎鹿工堎にある圚庫は旧モデルずしお倧幅な倀匕きを求められる。 䜐野の所属する空調事業郚では月期末決算に向けお、予算必達の号什がかかっおいる。䞀方で決算期を芋透かしお量販店の態床は匷気だ。「割匕きなら、匕き取っおあげたすよ」ず。 

    二月末の本瀟での営業報告䌚、事業郚長の芖線は氷のように冷たかった。「䜐野君、圚庫の山を抱えお新幎床を迎える぀もりか 評䟡損ロスだけで数億出るぞ。どんな手を䜿っおでも、䞉月䞭に掃き出せ。いいな、どんな手を䜿っおでもだ」

    抱えた圚庫、足元をみる量販店、事業郚長からのプレッシャヌ、䜐野の酒量は日々増えおいった。ずはいえ、䜐野も営業郚長にたでなった男である。懇意にしおいる量販店に頭を䞋げお䜕ずか頌み蟌みギリギリ狙った䟡栌で匕き取っおもらっおいった。あずもう少し、あずもう少しのころたで来た。だが、それがどうしおも届かない。

    月も日を過ぎた頃の倕刻、䜐野はシゲに電話を入れた。「シゲ、頌みがある。どうしおもあず200台、月末に売らないずいけないんだ」 䜐野は声を朜め、呚囲を䌺いながら、぀いに䞀線を越える蚀葉を口にした。 「䞉月末に200台出荷しおくれ。もちろん出荷䌝祚は切る。だが、その200台は客先の郜合で返品される。その返品を期初に受け取っおくれ」

    静寂が流れた。シゲの沈黙が、䜐野には氞遠のように長く感じられた。 「出荷の指瀺があれば出す。その先のこずは俺は聞いおいない。返品䌝祚が来れば、受け取る。それだけだ。その先の算段は付いおいるんだろう、䜐野」「それでいい。助かる。物流業者には俺から指瀺を出しおおく。四月になれば、新モデルの品薄を狙っお別の販路ぞ流すから心配無甚だ」 嘘だった。そんな算段など、どこにもない。 䜐野は電話を切るず、深く息を吐いた。胃の痛みは消えなかったが、これで「数字」は䜜れる。

    䜐野は続けお斉藀運茞商店に電話を入れた。クレヌムや䞍良品の匕き取りで付き合いのある地元の物流業者だ。 「もしもし、䜐野さんですか たいど、どうされたした」 なじみの営業が愛想よく応察する。 

    「月末にトンのりむング車を䞀台、仕立おお欲しい。それで鈎鹿工堎で゚アコン台を受け取っおもらいたい」
    「はいはい、トン車䞀台ですね。ペツハさんのオヌダヌですので、最優先でご甚意させおいただきたす。で、行先はどちらたで」
    「そうだな、琵琶湖を䞀呚しお翌日の昌過ぎに鈎鹿工堎に戻っお欲しい」 「はい琵琶湖を䞀呚ですか ご冗談ではなくお」
    「真面目に蚀っおいる。そちらは蚀われたこずを黙っおやっおくれればよい。」

    䜕かを察したのであろう斉藀運茞商店の営業はそれ以䞊には口を挟たず、「承知したした。お任せください」ずだけ応じた。

    䜐野は電話を切り、䞀人喫煙宀ぞ向かった。掌にはじっずりず汗がにじんでいた。


    第章 謎のトラック

    浅井は期末の棚卞の準備に远われおいた。期末の3/30、3/31は、原則ずしお生産も出荷も止めお、システムが出力した棚卞垳祚の数字ず、実際の圚庫の数が合臎しおいるかどうかを確認する「実棚」を工堎党䜓で行うためだ。3/31午埌には、工堎を管蜄する事業ずは異なる事業郚の郚課長玚が本瀟から工堎に掟遣され、棚卞監査を行うのがペツバの慣䟋だ。浅井は、経理偎の実務責任者ずしお、職堎ごずの実棚の進捗ず差異報告の理由確認に远われおいた。 

    その䞭で䞀点、気になっおいるこずがある。この期末に䟋倖的な緊急出荷ずいうこずで、200台の゚アコンが出荷堎に䞊んでいるこずだ。 工堎長の近藀シゲさんからも、営業が期末に抌し蟌んでくれた成果だから、特䟋で出荷を認めるように蚀われおいる。 売䞊䌝祚には、倧手量販店タナカデンキの名前があった。 ペツバは出荷基準で売䞊を立おる。今日䞭に無事、出荷できれば䌚蚈ルヌルには沿っおいる。

    倕方になっおタナカデンキ向けの10トントラックのりむング車が出荷堎に暪付けされた。出荷堎のプラットフォヌムの高さはりむング車に合わせおあり、降りおきた運転手がフォヌクリフトを操䜜しながらパレットに積たれた゚アコンを荷積みしおいく。珟圚では、荷積みや荷䞋ろしずいった運送以倖の付垯䜜業は送料ず別料金を払うか、荷䞻偎が行う必芁があるが、圓時はただ運送䌚瀟偎にやっおもらうこずが普通だった。

    浅井は、各郚眲から掟遣された監査人の応察をしながら傍目に出荷䜜業を芋おいた。 監査人の䞀人がそれに気づいた「珍しいな。期末に出荷ずは」
    浅井は「はい、営業郚が期末ギリギリで受泚したずいうこずで、特別に凊理しおいたす」ず答えた。 タナカデンキほどの倧手埗意先であれば、ペツバの自瀟トラック䟿で出荷するこずが倚いが、今回は斉藀運茞商店のトラックが来おいる。これの期末の特別察応の䞀぀なのだろう。 積み蟌みを終えた運転手は、出荷堎の担圓から出荷祚に怜印をもらい、工堎の敷地を出お行った。 守衛所の脇の桜が満開だった。

    斉藀運茞商店のトラック運転手の吉野は、奇劙な指瀺に銖を傟げた。3/31の16時にペツハの鈎鹿工堎に行くこず。 そこで200台の゚アコンを積んだら、琵琶湖を䞀呚するこず。 途䞭にある米原のトラックタヌミナルで䞀泊しお、翌日たた鈎鹿工堎に戻っおくるこず。高速は䜿わないこず。 

    これではただの琵琶湖䞀呚ドラむブではないか。

    ただ、走行距離ず拘束時間で日圓が入っおくるので、吉野からすればお金さえもらえれば、別にどこに行こうが関係ない。深く考えるのはやめた。荷䞻は、い぀も暪柄でわがたただ。 ただただ、事故が無いように走り切ればよい。 亀山から湖南に抜けるルヌトを遞択し、囜道䞀号をゆったりず走った。そこから県道27号、504号を抜けお西呚りで琵琶湖の湖岞を走った。倜、米原のトラックタヌミナルに着くず、そこに斉藀運茞商店のペツハ担圓営業が埅っおいた。出荷䌝祚を寄越せずいう。 営業担圓はそこに「匊瀟郜合による返品 4/3」ず曞きなぐり、これをもっお明日の朝むチ、鈎鹿工堎に行くように指瀺した。 さらに二千円を手枡され、倕飯の足しでもしおくれず蚀っお営業担圓は垰っおいた。 吉野は、益々もっお怪しいず感じたが、厄介ごずに巻き蟌たれるのはごめんだ。 今日はか぀䞌でも食べお寝ようず決めた。

    翌4/1の朝、600の開門に合わせお吉野はトラックを鈎鹿工堎に入れた。入庫堎には、工堎長の近藀が埅っおいた。 近藀は、吉野から出荷䌝祚を受けるず返品受領ずサむンした。日付は意図的に空癜にしおおいた。 そしお吉野に「悪いが、荷物を降ろしお、あそこの奥のスペヌスたで運んでおいおくれないか」ず頌んだ。 吉野は応じ、荷䞋ろしを始めた。 近藀は、早番の出荷堎のスタッフに「返品だ。䌝祚は俺が凊理しおおく。荷物はしばらくあそこに眮いおおいおくれ。邪魔にはならんだろう」ず蚀い、執務゚リアに戻っおいた。

    浅井は決算凊理に远われおいた。浅井は倜遅くたで机に噛り付いお、垳簿ず栌闘しおいた。 暊日の4/1ず4/2は、経理システム䞊は3/32、3/33ずいう倉則日扱いにしお遅れお入っおくる䌝祚を受け入れられるようにしおいる。これを過ぎるずハヌドクロヌズで、もう新芏も倉曎も前期のデヌタは受け付けるこずはできない。 鈎鹿工堎の決算は、最埌の台の出荷の緊急出荷もあり、予算達成、もも綺麗な数字が䞊んだ。 4/2の倜、近藀に決算数字を報告し承認を埗た。 その日の深倜、決算デヌタが本瀟䌚蚈システムに䌝送された。 経理にずっお䞀番倧事な仕事が終わった。

    翌4/3の昌過ぎに、近藀が申し蚳なさそうに経理の島に来た。「浅井君、申し蚳ないが客先郜合で返品があった。あの200台、期末に緊急出荷した奎だが、客先で話が通っおなかったらしく垰っおきた。 営業の䜐野、君も知っおいるだろう。圌が猛抗議したが、だめらしい。 幞先悪いが、新期の損倱ずしお凊理しおくれ」
    「えっ」浅井は蚀葉を倱った。 あれだけ特別察応した200台が戻っおきた 逆なのか、特別察応するようなこずをしたから戻っおきたのか いずれにしおも決算は終わっおいる。どうするべきか 

    「本圓に戻っおきたんですか その圚庫は、今どこにありたすか」 

    浅井が問うず近藀は面倒くさそうに「入庫堎にあるらしい。ずにかくマむナス出荷ずしお凊理、頌んだぞ」ずいっお、そそくさずその堎を埌にした。 浅井は出荷䌝祚を受け取り、怜収欄の「匊瀟郜合による返品 4/3」ずいう䞍揃いな文字を芋た。 浅井は立ち䞊がり、入庫堎に向かった。経理ずはいえ、補造業の瀟員だ。 䞉珟䞻矩珟堎、珟物、珟実には忠実だ。

    入庫堎に着くずそこには確かに゚アコンの圚庫があった。パレットの数からしお確かに党数戻っおきおいる。 入庫堎のスタッフに「これ、い぀戻っおきたした」ず聞くず、その人は「自分はちょっず分からないですね。他の人に確認したしょうか」ずのこずだった。 確認ず折り返しの連絡をお願いし、浅井は経理の島に戻った。

    しばらくするず、先ほどのスタッフから折り返しの連絡があった。 「浅井さん、さっきの返品の件ですが、早番のや぀に聞いたら4/1の朝むチで受け取ったずのこずです。保管堎所の指瀺は、シゲさんから受けたず蚀っおいたす」 3/31の倕方に出荷したものが、4/1の朝に戻っおきお、近藀がその保管指瀺を出しただず。しかも䌝祚日付は4/3で。 

    浅井はピンずきた。架空出荷だ。背䞭に悪寒が走るのを感じた。


    第章 食い違う蚀い分

    状況蚌拠は、期末の架空出荷を裏付けおいた。 ただし、モノは動かさずに売䞊䌝祚だけ出すのず違っお、停装の手が蟌んでいる。 わざわざトラックを手配し、本圓に圚庫を出荷し、翌日こっそりず戻しおいる。 絶察に䞊の人間が絡んでいる。事実、工堎長の近藀シゲさんは翌日の返品時に立ち䌚っおいた。 浅井は神経質ではあるが、猜疑心が匷いほうではない。そんな浅井でも、工堎長、そしおその同期の営業郚長の䜐野のラむンで䜕かが仕組たれおいた可胜性を吊定できない。

    浅井は、近藀の元に行った。「工堎長、返品の件で話がありたす。お時間よろしいでしょうか」
    近藀は「いいよ」ず短く返事し、浅井を工堎長専甚の䌚議宀に連れお行った。 「どうした」 近藀の声から動揺や緊匵は感じられない。
    「返品された゚アコンです。䌝祚の日付は本日4/3ですが、どうも4/1の朝に返品を受領したらしいんです」 浅井は敢えお近藀の名前を䌏せお探りをいれた。

    「で、4/1ず4/3だず䜕が問題なんだ」

    「はい、4/1であれば前期が締たっおいないので、売䞊の取り消し凊理ができたした。4/3ですず、前期の数字は原則ずしお倉えられたせん。今期のマむナス売䞊ずしお、マむナス・スタヌトずなりたす」
    近藀が応じる。「この工堎の経営も厳しいから、今期のマむナス・スタヌトは厳しいが、ただ始たったばかりだから挜回できるだろう」 近藀は、前期の問題ではなく、今期の問題だずいう認識を瀺した。

    「工堎長、違いたす。私は今期の心配をしおいたせん。前期の決算の心配をしおいたす。 前期の売䞊に含めるべきでないものが入っおいたら、それは架空売䞊です。 前期の修正決算が必芁になりたす。」
    「でも、䌝祚日付は4/3なんだろう。4/3で凊理すればいいじゃないか。別に圚庫が消えおなくったわけじゃないだろう」
    どこたでも癜を切る぀もりの近藀に、浅井が静かに迫る。「入庫堎の人は、シゲさん、、、いえ、工堎長が、4/1に返品に立ち䌚っお、保管堎所を指瀺したず蚀っおいたすよ」

    近藀は浅井がそこたでの情報を埗おいるず掚枬枈みだったのだろう。それがどうしたずいう感じで「知らん。䌝祚の日付で凊理しろ。逆に䌝祚日付の倉曎は認めん」ず蚀っお垭を立った。

    近藀が去った埌の䌚議宀には、重苊しい沈黙だけが残った。 壁を隔おた向こう偎からは、「りィヌン、ガシャン」ずいうサヌボプレス機の音が聞こえおくる。 誇らしく感じおいたその音が、今ずなっおは疎たしく聞こえる。

    近藀は垭に戻るずすぐに営業郚長の䜐野に電話をした。「おい、䜐野。うちの経理が勘づいおいるぞ。こっちは抌さえおおくが、営業郚内で蟻耄は合わせおおいおくれよな」
    䜐野は「ああ、すたなかったな。分かった」ずだけ蚀い電話を切った。タナカデンキ担圓の課長ず担圓を呌び、「実は俺の責任でタナカデンキ様ず進めおいた取匕があったがスリップした。もし鈎鹿工堎の経理から䜕か問い合わせが入ったら、俺に回しおくれ。」 「タナカデンキ様はお埗意様だ。こちら先方にも䜕も話すな。恥をかかすわけにはいかない」

    浅井は垭に戻るず空調事業郚営業郚の同期に電話を入れた。タナカデンキの担圓を教えおもらうためだ。 そこから同期に教えおもらったタナカデンキの担圓に電話入れたが、「さっき䜐野郚長から呌ばれお、その件は、盎接、郚長に぀なぐように指瀺がありたした。自分は本圓に䜕も知りたせん。䜕かあったんですか」浅井は「期末の売䞊凊理で確認事項があるだけです」ず詳现を明かさずに電話を切った。 盎接、䜐野に聞くしかないのか。 意を決しお浅井は、䜐野に電話をした。 

    䜐野は浅井からの電話を受けるず先に詫びを入れた。「期末の出荷の件は、申し蚳なかった。 バむダヌずは話を぀けおいたんだが、その䞊の䞊の人が突然、そんな買い取り認めんずなったらしい。バむダヌの方も色々粘っおくれたんだが、ダメだった。 工堎経理の君にも私から連絡を入れるべきだったが、連絡が遅くなったこず申し蚳ない」 䜐野は、頭を䞋げるのは営業のスキルの䞀぀だず思っおいる。浅井のような若造に察しおだっお、頭を䞋げるこずになんの躊躇も恥じらいもない。そんなちんけなプラむドは営業珟堎からの叩き䞊げにはない。

    浅井が尋ねる。「タナカデンキ様には買い取りの意思があったずいうこずですね。申し蚳ないですが、先方のバむダヌずいう方はどなたでしょうか」  「君、たさかタナカデンキ様にコンタクトする぀もりか この件は先方でもちょっずしたトラブルになっおいるんだ。 これ以䞊、バむダヌさんに恥をかかせるわけにはいけない。連絡先は教えられない。 倧䜓、䌝祚があっお、モノだっお耳を揃えお戻っおきたわけだろう。 䜕が問題なんだ」 䜐野は意図的に蚀葉に怒気を含たせた。 浅井が答える。「返品日ず、䌝祚日付が異なるような気がしおおりたしお」
    䜐野がぎしゃりず蚀い返す。「そういうモノの管理は工堎の責任だろう。工堎内で確認しおくれ。私の立堎から蚀えるのは、䌝祚の通り凊理しれくれずいうこずだけだ」

    䜐野のいうこずは確かにその通りだ。浅井は「はい、申し蚳ございたせん。こちらで確認を進めお、䜕かあればご連絡いたしたす。お忙しいずころありがずうございたした」ず瀌を蚀っお電話を切った。

    ふヌっ、電話を切った浅井は深く嘆息した。

    工堎長、営業郚長、双方が「䌝祚が正」の䞀点匵りだ。 それを受け入れおも誰も䜕も困らないどころか、皆がハッピヌだ。 自分は䜕をしたいのか、そしお䜕をするべきなのか。 䌚瀟の䞭の掻動のすべからくを、䌚蚈ずいうスクリヌンに正確に写像する。 それが経理マンの絶察の正矩だ。 その正矩が今、揺らいでいる。 浅井は、事務机の匕き出しから頭痛薬を取り出し、すっかり冷めたお茶でそれを飲んだ。


    第章 盞談の行方

    「はっ、はっ、はっ」 浅井は、鈎鹿青少幎の森のランニングコヌスを走っおいた。 䞭高校時代は陞䞊郚で長距離走をやっおいた。 タむムは平凡であったが、走るこず自䜓は奜きだった。 瀟䌚人になった今でも時間を芋぀けおは、ゞョギングをしおいる。 垰宅したのは倜の時だが、もやもやした気持ちを晎らすためにランニングシュヌズを履いお、倖にでた。 花寒だが、走るのにはちょうどよい。倧分長いこず走ったが、架空売䞊疑惑の件をどうしたら良いのか答えはでなかった。 守衛所に残っおいた入出庫のトラックのナンバヌプレヌト蚘録からも、3/31出荷のトラックが4/1の朝に戻っおきたのは明らかだ。 そもそも鈎鹿工堎ず矀銬にあるタナカデンキの物流センタヌの距離を考えれば、その時間には戻っおこられない。

    䌝祚日付の4/3は虚停だ。

    この時代、コンプラむアンスは今ほど厳しくなかった。ペツハでは通報窓口はただ未敎備だった。ずはいえ、圓時の瀟䌚芏範においおもお金にた぀わる䞍正は、䞍正ず認識された。
    翌朝、浅井は䌚議宀から本瀟経理郚長の宇䜐矎に電話を掛けた。 宇䜐矎は、浅井を鈎鹿工堎に送った本瀟の䞊叞筋にあたる人物だ。
    「郚長、決算でお忙しいずころ恐瞮ですがご盞談がありたす」
    宇䜐矎は、浅井の声色から真剣な話だず悟ったのだろう。静かに応じる。 「浅井君、今は時間がある。倧䞈倫だ。どうした」

    浅井は、これたでの経緯に぀いお、事実ず自分の憶枬をしっかり切り分けながら宇䜐矎に䌝えた。 宇䜐矎は、の確認をしたが、党䜓を通じおは静かに聞いおいた。 䞀通り聞き終わるず、よく通る声で

    「たずは報告ありがずう。で、浅井君、君はどうすべきず思っおいる」

    ず問いかけた。
    浅井は少し逡巡し、返す「正盎、分かりたせん。 迷っおいたす。」 浅井が続ける。 「この架空売䞊を告発すれば、シゲさん  近藀工堎長を本瀟に売ったように感じたす。 工堎長が私利私欲でやったこずずは思えたせん。 自分さえ黙っおいれば、誰も困る人はでたせん。 ただ、数字を預かる経理の責任ずしおそれを蚱しおいいのかどうか。 自分でもただ分かりたせん」
    宇䜐矎は「改めお、たず報告しおくれたこず、本圓にありがずう。この件は、私が匕き取る」

    翌日、本瀟から監査チヌムが鈎鹿工堎に乗り蟌んできた。 ずは蚀っおも、それほど仰々しくはない。 経理郚の課長玚が、若い䞻任を連れおやっおきただけだ。 ペツハ電噚は連結で二兆円に迫る売䞊がある。今回の䞍正売䞊は、゚アコン200台で二千䞇円皋床だ。本瀟ずしおも察倖発衚が必芁なほどの䞍正だずは思っおいない。ただ、正すべきは正すずいう姿勢を瀺さないずいけない。 宇䜐矎は既に、財務担圓圹員及び空調事業郚管掌の圹員に䞀報を入れおいる。 もう倖堀は埋めおある。 近藀は工堎長垭から真っ赀な顔で浅井を睚んでいたが、䜕もできない。 埌はなるべく事が倧きくならないように、慇懃いんぎんに監査チヌムを迎え入れた。 浅井は、近藀の芖線に耐えながら、先茩にあたる経理郚の課長玚の指瀺に埓い、垳簿ず䌝祚を提出し、出荷堎および守衛所の蚘録を提出した。 正盎、この日の蚘憶はあたりない。 工堎の仲間を売っおしたったような埌ろめたさず、これで解攟されるずいう安堵の気持ちが入り混じっおいた。
    同日、空調事業郚営業郚にも同様の監査が入ったず聞いおいる。
    工堎長の近藀ず、営業郚長の䜐野は、埌日、本瀟に呌び出されお盞圓、絞られたらしい。 ただ、ペツハは田舎の優しい䌚瀟だ。 この二人は、7/1付けの定䟋異動の䜓でそれぞれ、巊遷ずは蚀い切れないような埮劙なポゞションに異動しおいった。 宇䜐矎の蚈らいで浅井だけが急遜5/1付けで本瀟垰任ずなり、月䞭旬から埌任ぞの匕継ぎを開始した。 

    宇䜐矎は、本瀟に戻っおきた浅井を䌚議宀に呌んだ。
    「今回の件は、報告ありがずう。倧倉だったね、君も。 浅井君、君には期埅しおいる。だから、少し苊蚀いやアドバむスをしおおきたい。 

    たず君が本圓のプロになるなら、倧事なこずは自分で決める癖を぀けなさい。 

    私がもし、君の報告を握り぀ぶしたら、君は玍埗できたか できないずしたら、答えは出おいたはずだ。 䞍正は倧小に関わらず、正さなければならない。それは䞍正を行ったものを凊眰するためではない。 䌚瀟が䌚瀟ずしお正しく機胜するための最䜎限の芏埋だ。 小さな䞍正は必ず倧きな䞍正の枩床ずなる。迷うな。 

    次に、䟋倖凊理を簡単に認めるな。 通垞の出荷日であれば、お埗意様行の通垞䟿がある。 仮に返品があったずしおも締め日たでに確実に間に合うリヌドタむムずなっおいる。 業務スケゞュヌルが、なぜそうなっおいるのかには理由がある。 経理などのコヌポレヌト郚門は、ずかく圹所仕事だの、融通が利かないだの文句を蚀われがちな圹回りだが、それでいいんだ。

    最埌に、君は気付いおいたのではないか 鈎鹿工堎が䜜りすぎおいるこずを。BSは䜓重蚈だ。その䞭身が筋肉化、莅肉なのか、どこかで気付いおいたのではないか」

    「はい。秋口には先行生産が進み過ぎおいるず思っおいたした。ただ、営業のやる気ず、工堎の掻気を前にしお、自分はそのこずを䞊申できたせんでした」

    「そうだろう。君がそのこずを問える勇気を持っおいれば、違った結末があったやもしれない。勘違いしないでくれ。君を責めおいるんじゃない。 経理の人間は、将来、海倖拠点に行けば、必芁であれば拠点長にものを申す立堎だ。 そのずきに自らのプロフェッショナリズムに掛けお真摯に恐れなく、ものが蚀える経理になっお欲しい」

    「はい」 浅井は泣いおいた。

    30歳を過ぎおたさか人前で泣くずは自分でも思っおいなかったが、自らの䞍甲斐なさず、宇䜐矎の期埅に自然ず泣いおいた。 宇䜐矎は「期埅しおいるぞ」ず浅井の肩を叩いお、静かに郚屋を出お行った。


    オランダ、ボス公園のBBQ䌚堎。 遠くで石田たちの笑い声が聞こえる䞭、浅井は最埌の䞀口のハむネケンを飲み干した。苊い。それがビヌルの味のせいなのか、思い出のせいなのかは分からない。
    「  圓時の経理郚長、宇䜐矎さんに蚀われたんです。B/Sに溜たった莅肉、぀たり䞍良圚庫に気づいおいたはずだ、ず。 あの日、私は自分の未熟さを突き぀けられたした」

    柏朚は、隣で静かに浅井の話を聞いおいた。 「だから、スペむン工堎が、操業ロスのダメヌゞを受けながらも枛産調敎を行ったこずを評䟡しおくださったんですね。あれは、鈎鹿工堎での経隓があったからなんですね」

    浅井は小さく頷いた。 「柏朚さんの操業調敎の意図が分かりたした。その効果も分かっおいたした。 あれは圓時の自分が、工堎長に進蚀できなったこずです。 過去を倉えるこずはできたせんが、今、頑匵っおいる人を支えるこずはできるず思ったんです。なので暩藀さんにも数字を説明しお、柏朚さんが行っおいる工堎による需絊調敎方匏を続けおさせお欲しいず䌝えたした。 宇䜐矎さんが期埅しおくれた自分に少しでも近づけるように日々粟進です」

    柏朚が話を受ける。「だからか、暩藀のオゞキが『浅井はうるさくおかなわん』っお、蚀っおたしたよ。 拠点長に嫌われおも、蚀うべきこずは蚀う。ちゃんず守れおいるじゃないですか」

    「恐瞮です」 浅井はどこたでも謙虚だ。

    「浅井さヌん柏朚さヌん ゚ビ、焌けたしたよ スポルトラヌンのずころの魚屋のや぀だから、これ絶察うたいですよ」 石田の明るい声が響く。

    「石田さん、ありがずう。 あヌ、いい匂いがしたすね。 柏朚さん、゚ビ、食べたしょう。 あそこの魚屋のや぀なら間違いないですよ」  浅井は立ち䞊がり、軜く膝を䌞ばした。 50歳を過ぎた今も、ゞョギングを続けおいるおかげで足取りは軜い。

    BBQの癜い煙が、オランダの初倏の青空に吞い蟌たれおいく。
    経理マン浅井線完


    COVID-19ç·š

    第章 裏目

    ペツハでは、原則ずしお5幎間を駐圚期間の区切りずしおいる。毎幎、毎幎満期を迎えたものが本瀟に垰任し、たたは䞀郚のものは暪移動で別の赎任地に向う。その抜けた穎を埋めるべく、埌任が新たに送られおくる。本瀟の垰任先は、元の事業郚門や機胜郚門ずなるので、バラバラずなるが駐圚䞭に知り合い、䞀緒に苊劎した仲間意識は䞀生のものずなる。

    幎、幎前にスペむン工堎長だった柏朚は、いたや執行圹員 補造本郚長だ。 柏朚はスペむン工堎の売华をたずめあげお、日本に垰任した。 垰任埌は保守本流ずいえる囜内にいく぀かある「由緒正しい」工堎の工堎長を歎任しおいた。長い歎史を持぀ペツハでは、工堎間に栌の違いがあるのである。ペヌロッパから垰任埌も、幎の東日本倧震灜、その半幎埌のタむ措氎、その幎埌の幎には熊本地震ず断続的にサプラむチェヌンを混乱させる倩灜が起きおいる。 柏朚は盎接的、間接的にそういた倩灜に巻き蟌たれながら、生産珟堎を切り盛りしおきた。 そんな修矅堎をくぐり抜けおきた柏朚にずっおも、未曜有の䞖界的な混乱が襲い掛かる。新型肺炎、である。

    なお、柏朚の欧州駐圚時代の欧州拠点長 暩藀は、欧州の販瀟改革をやり切りそれを花道ずしお匕退した。名叀屋䌏芋にある高玚マンションに匕っ越し、悠々自適なリタむア生掻を楜しんでいる。

    財務の浅井は、財務本郚長を経お今は監査圹に収たっおいる。 物腰はか぀おず同様に柔らかいが、経営䌚議で発する質問の鋭さに、圹員連䞭でさえしばしば額に汗をかきながらしどろもどろに回答を迫られおいる。

    情シスの石田は、欧州の販瀟統合をIT偎から支えた埌に、日本に垰任した。元々は業務アプリケヌション畑だったが、垰任の際に郚内ロヌテヌションずいうこずで、むンフラ担圓課長を拝呜した。ロヌカルのメヌルサヌバには痛い目にあっおいるので、ロヌカルサヌバのクラりド移転を匷力に進めおいた。そんな矢先の幎WannaCryずいうコンピュヌタ・りむルスが䞖界的に蔓延し、日立やJR東日本など日本のいく぀かの䌁業も被害を受けた。 ペツハの海倖拠点でも䟵入が確認されたが、石田は詳现調査を埅たずにネットワヌクを遮断しお、被害を最小限に食い止めおいた。 突然のネットワヌク遮断に、事業郚からは苊情もでたが、欧州時代の人脈を頌りに䜕ずかなだめすかしお察策を進めた。たあ、スペむンの裁刀所に呌び出されるこずに比べれば、瀟内で倚少怒られるこずなど屁でもない。 あの事件を経お、石田には倉なくそ床胞が぀いおいた。 その埌幎には、圌は掚進宀長を拝呜しおいた。

    幎月、ダむダモンド・プリンス号の乗客の䞭に新型肺炎の眹患者がでた。その察応に぀いお専門家同士でさえ意芋が分かれ、ワむドショヌによる扇動もあり日本囜内は倧隒ぎずなっおいた。幎末に歊挢で謎の肺炎が流行っおいるずいう噂がでおから、わずかか月でその肺炎は日本にも䞊陞しおきた。 が䌝えるパニックに察しお、柏朚は恬淡おんたんずしおいた。半分はただ別の䞖界のこずのように感じおいたこずもあるが、半分は自分のコントヌル倖のこずに心を乱さない蚓緎によるものだ。 明日は臚時の執行圹員䌚がある。 この新型肺炎ぞの察応を協議するこずになっおいる。 瀟員の安党が最優先になる。 䞀方で工堎の操業はどう担保するか。 そもそも工堎の操業よりも、䞖界恐慌の到来による需芁の蒞発のほうが蓋然性が高いのではないか。 自宅のリビングの゜ファに座りながら、柏朚はいく぀かのシナリオを考えおいた。

    翌日の執行圹員䌚では、営業担圓からは垂況の䞍透明さが䌝えられた。 幎前の金融危機の際にはリスク芋積もりが甘く、鷹揚に構えた結果、本瀟での1,000名近い早期退職者ず、スペむン工堎含むいく぀かの生産拠点の閉鎖ずいう蟛酞をなめるこずずなった。 今回、経営陣の刀断は果断だった。 需芁想定を最䜎のずころに眮き、各工堎には䌑業を含む最䜎限の皌働を決定した。

    しかし皮肉にもこの決断が、埌日、矹あ぀ものに懲りお膟なたすを吹いおいたず知るこずになる。 蒞発するず思っおいた需芁が、新型肺炎による巣ごもり需芁で逆に爆発したのだ。 特にでは、圚宅勀務の拡倧に䌎い䜏宅投資が増えた。 パ゜コンやディスプレむだけでなく、家具や家電たでが品薄になった。 半幎もするず、ペツハはの瀟から「コンプレッサヌを早く玍入しろ」ず矢のような催促を受けるこずずなる。 瀟は、屈指の家電メヌカヌで、特に高玚な倧型冷蔵庫は囜内で高いシェアを誇る。 ペツハは冷蔵庫の心臓郚のコンプレッサヌを日進工堎から、のテキサスにある瀟の工堎に出荷しおいる。

    幎の秋口、瀟の調達担圓スティヌブ・マシュヌズから、ペツハ営業担圓 真壁健に泣きが入る。 

    「ケン、コンプレッサヌを早く玍入しおくれ。俺のボスは、期日たでに玍入なき堎合は、契玄に基づき賠償金を請求するず蚀い始めた」


    第章 牙をむくコンテナ


    「たるで空気を運んでいるみたいやないか。もっず積めぞんのか」

    RR瀟向けのコンプレッサヌを䜜っおいる日進工堎の工堎長 岡本は、フィヌトハむキュヌブのコンテナを芗き蟌みながらがやいおいた。 日進垂は、名叀屋垂ず豊田垂に挟たれたベッドタりンで、囜道153号線呚蟺にはいく぀かの䌁業が亀通の䟿の良さを掻かしお工堎を構えおいる。ペツハもここ日進で叀くから工堎を構え、囜内マザヌ工堎の䞀぀ずしおコンプレッサヌなどを補造しおいる。

    コンテナには様々なサむズずタむプがある。倧昔はフィヌト玄が䞻流だった。そのため、コンテナ船のサむズは今でもこのフィヌトコンテナがいく぀詰めるかで衚珟される。その単䜍をTEUTwenty-foot Equivalent Unitずいい、珟圚最倧のコンテナ船は䞇TEUを超える。 船のサむズはフィヌト換算だが、実際に䜿われおいるコンテナは、フィヌトが䞀番倚い。さらに40フィヌトコンテナにも背の高さ違いで、スタンダヌド2.6mずハむキュヌブ (2.9m)がある。このフィヌトコンテナは、畳ほどの広さがある。 济宀や玄関を含めおワンルヌムマンションず同じくらいの広さだ。 䞀隻のコンテナ船の倧きさは、䞀䞇宀のワンルヌムマンションに匹敵するず考えるずそれがいかに巚倧かが想像できるだろう。サむズずは別に機胜の差もあり、リヌファヌコンテナず呌ばれるものは冷凍冷蔵機胜を持぀。アメリカから日本ぞの牛肉の茞出などに䜿われおいる。なお、JRの貚物コンテナは、倧きさずしおはフィヌトコンテナに近いが、貚物列車甚の囜内独自芏栌であり海䞊コンテナには䜿えない。

    海䞊コンテナの歎史はそれほど叀くない。ビルゲむツが倏䌑みの掚薊図曞ずしお激賞したこずで有名になった著曞「コンテナ物語」によれば、幎代に発明され、ベトナム戊争のずきにその有甚性が匷く認識されるに至った。アメリカからベトナムに軍事物質がコンテナで運ばれ、その空のコンテナを利甚しお日本からアメリカぞ倧量の補品が茞出された。その意味で、戊埌のペツハの成長゚ンゞンであったUS向けの電化補品の茞出は、このベトナムからの戻り䟿のコンテナによるずころが倧きい。コンテナが発明される前の枯での荷物の積み蟌みは、人力で行っおいた。 この荷圹行う䜜業チヌムのこずをギャングず呌ぶ。このギャングずいう単語に犯眪組織の意味合いはないが、珟圚に至るも枯湟劎働者は独特の気颚ず堅い団結をもっおいる。

    コンテナが海䞊茞送の䞻流ずなるず、サヌビスの差別化が難しいコンテナ船業界は芏暡の競争ずなり、珟圚は぀の倧きなアラむアンスに集玄されおいる。航空業界ず䌌た構造だず思っおいただければよいが、人に察するサヌビスがないだけコンテナ業界のほうがより差別化が難しい。 日系の日本郵政、商船䞉井、川厎汜船も、長幎のラむバル関係を捚おコンテナ船事業をONEずいう新䌚瀟に統合せざるを埗なかった。 2010幎代になるず海䞊コンテナ茞送サヌビスは、グロヌバルなコモディティずしお誰もが安䟡に利甚できる時代になった。 その時代、フィヌトコンテナは暪浜からロスアンれルスたで30䞇円ほどで運ぶこずができた。 この枯れた業界がたさか牙をむくずは誰も想像しおいなかった。 閑話䌑題。

    日進工堎の出荷堎でコンプレッサヌの積み蟌みをしおいるが、コンテナの内は半分も埋たっおいない。

    ペツハはAEO Authorized Economic Operator認定を受けおいるので、工堎の出荷堎でコンテナの積み蟌みバンニングができる。AEOは、管理䜓制のしっかりした事業者に蚱された茞出手続きの簡玠化の仕組みである。AOEが無ければ、䞀床、荷物を枯たで運びそこで、海貚ず呌ばれる専門業者にバンニングず通関手続きをしおもらう必芁がある。

    「スカスカやないかい」 岡本の関西匁がうるさい。

    物流担圓の瀬戞が答える。「しょうがないですよ。 コンプレッサヌは鉄の塊ですから、先に重量制限のほうにひっかかっおしたうんですよ。 工堎長だっお知っおいるでしょ」

    「せやかお、瀬戞。ただただコンプレッサヌはあるんやで。それにこのコンテナ䞀本、なんがするのか知っおるやろ。100䞇円、100䞇円やぞ。 どんだけがったくんっおるんじゃ、足元を芋やがっお船瀟の奎ら」 岡本の関西匁がたすたすうるさい。

    USの巣ごもり需芁で、RR瀟向けの倧型冷蔵庫甚のコンプレッサヌの増産芁請がきおいた。 経営陣の需芁枛の予枬は裏目にでたが、そこから日進工堎は増産モヌドに切り替えお察応しおきた。新型肺炎察策で、工堎は厳戒態勢だ。マスク、怜枩、黙食、䌑憩時間も密にならないように離れお座った。 かりに工員に感染者が出た堎合に、呚りの人が濃厚接觊者ず刀定されないように最倧限の泚意を払っおいた。そこたでの苊劎をしお䜜成したコンプレッサヌが出荷できずにいる。 巣ごもり需芁による物流量の増加に新型肺炎による枯湟の皌働率の䜎䞋が重なり、海䞊茞送が枋滞しおいるのだ。 そのためたず船腹が予玄できない。船腹が取れおも今床は、コンテナが手配できない。 荷䞻䌁業の船腹ずコンテナを求める争奪戊により、海䞊茞送の料金は倍以䞊に倀䞊がりしおいた。 それでも金を積めばコンテナが確保できるならただマシで、今はどれだけ金を積んでも物理的にコンテナの確保ができなくなっおいた。 モノはあるのに、海䞊茞送がボトルネックになっお運べない。そんな事態が21䞖玀に起きようずは。

    「瀬戞、来週確保できたコンテナも本だけやんな。そうなるず、この出荷堎だけじゃ、収たりきれんな。どこか別に逃がし甚の倉庫を確保しおくれ。このたたじゃ、堎所が足りひん。 コンプレッサヌの重さで、そのうち出荷堎の床が抜けおたうぞ」

    䞀台20キロほどのコンプレッサヌであるが、パレットに積んで段積みにすれば1平米に1トン近い荷重がかかる。 日進工堎の床荷重は2 トン/m2ある。「さすがに床は抜けたせんよ」瀬戞が突っ蟌む。

    「分かっずるわ。いいから、逃がし倉庫を探しおおいおくれ」


    第章 䞭郚の巚人

    瀬戞は、銎染みの倉庫業者に電話をかけおいた。 ペツハぞの玍入ベンダヌが䜜る緑葉䌚りょくようかいの物流郚䌚のメンバヌだ。 地元の地䞻が始めた倉庫業者で、蚭備は叀いが安いのが魅力だ。 出荷埅ちのコンプレッサヌには防錆凊理がしおある。 保管に空調蚭備は䞍芁だ。 雚颚が防げお、それなりの床荷重がある倉庫ならそれで十分だ。 い぀もは愛想の良い若瀟長の声が暗い。 創業者の息子で数幎前から、家業を匕き継ぎ瀟長をしおいる。
    「瀬戞さん、すいたせん、倉庫の空きがありたせん。実は先月、䞭郚自動車さんから空いおいる倉庫を党郚借りたいずいう話があり、䞭郚自動車さんに貞しおしたいたした。 珟圚、契玄しおいただいおいる分は匕き続きご利甚いただくのは、もちろん保蚌いたしたすが、新期の契玄はできないです。 本圓に申し蚳ございたせん」 

    自動車産業のサプラむチェヌンも混乱しおいた。 平準生産で鳎らす䞭郚自動車自䜓も半導䜓の確保に四苊八苊しおいるようだった。特にマレヌシアのロックダりンは、その巚人のサプラむチェヌンを混乱させた。 䞭郚自動車自䜓は、二時間前に確定玍入オヌダヌを出すので、䞭郚自動車の工堎は平静を装っおいられるが、その䞋のティア、ティア以䞋の玍入ベンダヌは内瀺からのブレに苊劎しおいた。䞭郚自動車はそういった郚品ベンダヌが困らないように、倉庫の確保に動いおいるようだった。 そういったリスク管理はさすがである。 ただし、その巚人が起こす波はペツハを含む他の産業にずっおはあたりに倧きい。

    瀬戞はその埌も䜕件か倉庫業者を圓たり、日進工堎から車で分ほど離れたみよし垂 犏谷うきがいに300坪ほどの倉庫を借りるこずができた。 逃がし先倉庫でのコンテナ詰めはできないので、䞀旊逃がしたコンプレッサヌは船積みに合わせお再床日進工堎に戻す必芁がある。 倉庫代に加えお、茞送代もかさむ。 背に腹は代えられないずはいえ、これで䞀䜓、採算は合うのだろうか。

    補造郚門長䌚。補造本郚長の柏朚を議長ずする工堎長および補造技術の統括郚長以䞊が出垭する䌚議だ。補造系の最高意思決定機関ず蚀っおも良い。 柏朚が始める「補造郚門長䌚、始めたす。 たず私からですが、皆さん、安党第䞀で操業しおください。各工堎、入出庫の乱れで非定垞䜜業が増えおいるず思いたす。 むレギュラヌな察応をするずきは、必ずリスクアセスメントを実斜しおください。 たた、人繰りが厳しい工堎䞭心に、倖囜籍の掟遣䜜業員が増えおいたす。 コミュニケヌションミスが無いように、必芁に応じお通蚳を入れおください。 通蚳の費甚は、補造本郚の共通経費で賄いたすので遠慮なく。 最埌に物流業者から倀䞊げ亀枉があった堎合は、少なくずも亀枉の垭に着くように。 物流危機ずいうこずで、政府ず監督官庁が盞圓厳しく芋匵っおいたす。 バタバタしおいるずきこそ、安党ずコンプラむアンスを忘れずに」

    事務局が次の議題、執行圹員䌚からの決定事項共有に移る。
    そこでは郚品の割り振りルヌルが共有された。 同じ郚品や玠材を異なる事業郚、異なる工堎で共通で䜿うこずがある。 そういった共通郚材が䞍足したずきに、どの事業に優先的に割り振るのかを執行圹員䌚で議論しお決めおいた。 各工堎長からすれば、自分の工堎に優先しお欲しいので調達やサプラむダヌに「俺のずころにもっおこい」ず怒鳎りこむものがいお、党瀟的なルヌルが必芁ずなっおいた。

    今䜿っおいるお客様を困らせるわけにはいかないので補修郚品が第䞀優先、特にの工堎蚭備向け補修郚品分が最優先に確保されるこずずなった。 ずはいえ、これは芁求数が少ないので倧勢に圱響はない。 第二優先、ここからが運呜の分かれ目だ。第二優先は、の基幹郚品。向けは玍入数が指定されおいる。足りなければ眰金もあり埗る。 第䞉優先は、向け。その䞭でも利益率に応じお優先順䜍が蚭定された。 先日の執行圹員䌚ではここが揉めた。向けの各商材の営業担圓執行圹員からは、やれ海倖販瀟が぀ぶれるだの、囜内販売チャネルが維持できないなどず泣き萜ずしに近いアピヌルがあった。そのずき、オブザヌバヌ参加の監査圹の浅井がコメントを差し蟌んだ。 「出荷すればすぐに売れる状況が続いおいおおり、キャッシュコンバヌゞョンサむクルは過去最短です。海倖販瀟も販売店も最っおいたすよ」 浅井が続ける。「それに販促金が䞍芁なので、出荷数量が枛っおいるのに過去最高益を達成する勢いです。䜕か問題があるずは思えたせん」 営業担圓執行圹員は黙るしかなかった。 柏朚は䞋を向いお笑いを堪えおいた。さすが浅井さん、蚀いにくいこずもずばりず蚀う。

    堎面を補造郚門長䌚に戻そう。 日進工堎のコンプレッサヌはB2Bの基幹郚品で、優先割り圓おがもらえるこずに岡本は胞をなでおろした。 その埌、各工堎の操業報告があり、最埌にたた本郚長からたずめの䞀蚀ずいう圢で柏朚に発蚀機䌚が回っおきた。

    「たずは生き残れ、儲けるのはそれからだ by ゞョヌゞ・゜ロス」

    柏朚は、著名投資家 ゞョヌゞ・゜ロスの蚀葉がスクリヌンに倧写しにしお、読み䞊げた。 工堎長達からは、くすりず小さな笑いが起きた。 柏朚が続ける。「新型肺炎はい぀収たるか分かりたせん。 私の芋立おでは、新型肺炎が地䞊から無くなるこずは倚分もうないので、瀟䌚がそれを受け入れられるようになるたでこの隒動は続くでしょう。その意味で、新型肺炎ずの戊いを関ケ原の決戊みたいな短期決戊ずずらえおはいけない。 ぀たり、䞀日限りの倧決戊で、勝負が぀くようなものではない。 これは戊圹、英語でいえばキャンペヌンず考えるべきです。 いわば持久戊です。 この先も色々起きるでしょう。 䌑逊ず補絊をしっかりしお、長く戊う必芁がありたす。 そこで改めお、『たずは生き残れ、儲けるのはそれからだ』。 

    今日の補造郚門長䌚、終わりたす。 お疲れ様でした」 


    第章 迂回路

    ペツハの営業 真壁健、通称ケンは、疲れ果おおいた。 このずころ毎日、瀟調達のスティヌブ・マシュヌズから、玍期確認の電話が来る。 瀟のケンタッキヌ工堎は、家庭甚の倧型冷蔵庫を補造しおいる。その冷蔵庫にペツハのコンプレッサヌが䜿われおいる。 高性胜のむンバヌタヌ制埡のペツハのコンプレッサヌは、その静粛性ず耐久性から幎前にはサプラむダヌ衚地を受けおいた。 ケンタッキヌ工堎の近くには、倧きな門前倉庫を構えおいる。 ベンダヌからの玍入郚品はここで䞀時預かりされ、工堎からの玍入指瀺で工堎に玍入される。 門前倉庫はいわば郚品のダムずしお、北米だけでなく䞖界䞭から郚品が集められる瀟の足の長いサプラむチェヌンを支えおいる。 この巚倧な門前倉庫のお陰で、RR瀟は補造を続けられおいた。逆にいえば、それだけ䜙剰圚庫を抱えながら操業をしおいるわけで、平時ならば耒められたものではないが、サプラむチェヌンが混乱しおいる今は効果を発揮しおいた。 ずはいえ、い぀たでも倉庫の圚庫だけで操業できるわけでない。調達担圓のスティヌブは、玍入先それぞれにコンタクトをずり玍入蚈画の確認ず催促を繰り返しおいた。 ペツハ日進工堎補のコンプレッサヌは、名叀屋枯で本船に積み蟌たれ、LAのロングビヌチ枯で降ろすルヌトを䜿っおいる。 最近、ロングビヌチ枯の枯湟䜜業が滞り、枯に入れず沖埅ちしおいるコンテナ船が増えきた。 コンテナ船は、AIS船舶自動識別装眮の搭茉が矩務぀けられおおり、ほがリアルタむムでどこにいるかが分かる。 むンタヌネットで「コンテナ船 䜍眮情報」ずでも怜玢すれば、読者の皆さんも無料のサむトで参照可胜だ。

    営業の真壁は、日進工堎の物流担圓の瀬戞ずビデオ䌚議をしおいた。テキサス州のUS䞭郚時間ではもう深倜だ。 US駐圚が぀らいのは、日䞭がっ぀り働いた埌、日本の皌働時間に合わせお倜からの䌚議があるこずだ。 石田が駐圚しおいた欧州は逆で、欧州の出瀟時間は日本の倕方に圓たるので、欧州ずの䌚議は日本偎が残業で察応しおくれるこずが倚い。その点だけはUS駐圚より欧州駐圚はマシず蚀える。真壁は、䞀旊垰宅しお倕食を取った埌、家の広いリビングから䌚議に参加しおいた。䌚議の画面には、もう日も沖埅ちしおいるコンテナ船が移っおいる。 さらに悪いこずに、間もなくロングビヌチ枯を含むUS西海倖の枯湟劎働協玄が幎毎の曎新亀枉に入るずのこずだった。前回幎前の亀枉では枯湟劎働組合がストラむキを実斜し、西海岞の物流倧混乱になっおいた。 新型肺炎に䌎う物流混乱に加えお、枯湟ストラむキの危機、真壁は胃が痛くなるのを感じた。

    「瀬戞さん、なんずかなりたせんか」

    「䜕ずかっお蚀われおもなあ。どれだけ金を積んでも本船スペヌスがずれないんだよ。 ロングビヌチの枋滞のせいで船の回転が萜ちおいるからずいう船䌚瀟の蚀い分もその通りなんだよ。 そうやっお船の回転が萜ちるず今床は抜枯っおいっお、途䞭で寄枯するはずだった枯をスキップしやがる。名叀屋枯はしょっちゅう、抜枯されおいるよ」䞭囜の䞊海枯や韓囜の釜山枯が抜枯されるこずはたずない。日本の枯が抜枯されるのは、䞻に二぀の理由がある。䞀぀は、日本の枯は劎働芏制が厳しく、時間皌働しおいる枯が少なく、自動化も進んでいないため、ハブ枯ずしお機胜ず地䜍を確立できなかった。さらに぀目ずしお、長幎に枡る日本の補造業の空掞化により、荷量そのものが枛っおきおいるずいうこずがある。

    瀬戞が続ける。「でも別の぀のオプションがある。䞀぀は、西航路を䜿い、ス゚ズ運河経由でUSの東海岞に持っおいく。ゞョヌゞア州のサバンナ枯は比范的スムヌズに荷揚げができおいるらしい。 もう䞀぀は、メキシコで揚げおメキシコからRR瀟のテキサス工堎たで陞送するルヌトだ。 どっちもコストは䞊がるし、茞送リヌドタむムはかかるけど、名叀屋でコンテナ船のスペヌスが空くのを埅぀よりはマシだず思う」

    真壁が確認する 「ス゚ズ運河経由ですか パナマ運河経由ではなくお」

    「そう、ス゚ズ運河。 パナマ運河経由はスペヌスが取り難いし、どうも枇氎で皌働率が萜ちおいるらしい」

    ペツハずRR瀟の間の取匕建倀はFOB契玄ずなっおいる。貿易においおは、売䞻ず買䞻の責任分担の境界を定めるいく぀かの取匕パタヌンがある。むンコタヌムズずいう囜際芏則で類型が定められおおり、EXW工堎枡し、FOB本船枡し、CIF運賃保険料蟌み、DDP関皎蟌持蟌枡しなどが代衚的な建倀である。FOB契玄ずは、船に積み蟌んだ時点で買い手責任になる、぀たり荷物を積んだ船が沈没したもペツハには責任がないずいう意味ず、運賃や保険料は品代ずは別に実費を請求するずいう意味がある。

    真壁の顔が少し䞊気した。「分かりたした。RR瀟のスティヌブに、ス゚ズ経由ず、メキシコ経由のオプションを提瀺しおみたす。 瀬戞さんは、䜕月の船積みからできるのかず、運賃がいくらになるのかを確認しおもらっおいいですか」

    「了解」瀬戞が短く答え、今日の䌚議を終えた。

    䌚議が終わるず、早速、真壁はスティヌブにメヌルを曞いた。 送信ボタンを抌しお、すぐベッドに向かった。


    第章 むンランド・タヌミナル

    瀬戞は、平組に電話を掛けた。 平組は、茞出入通関を行う海貚、もしくは乙仲ず蚀われる業者で、名叀屋枯では老舗だ。名叀屋枯から日進工堎たでのコンテナの茞送ドレヌゞも平組が行っおいる。 このドレヌゞには、ヘッドず呌ばれる専甚車で行われる。

    平組に、ス゚ズ経由サバンナ揚げず、メキシコ揚げの船の予玄状況を確認しおもらったが、どちらも䞀杯ずのこずだった。どうもこちらにも䞭郚自動車の手が回っおいるらしい。 平組の営業は平身䜎頭、お詫びを繰り返しおいる。 瀬戞は思案した。 日進工堎から近い枯は、名叀屋の次は豊橋、その次は枅氎だ。豊橋枯は、自動車の茞出入台数日本䞀を誇る。䞀方、枯の氎深が浅く超倧型のコンテナ船は入っおこない。 枅氎枯は、倩然の良枯で氎深は12Mある。静岡県内の補造業、スズキ、ダマハ発動機、矢厎総業やそれに連なる郚品䌚瀟などの貚物を倚く扱っおいる。 ペツハも客先指定により、䜕回か単発で枅氎枯を䜿ったこずがあるが倧量の貚物を定垞的に運んだこずはない。 瀬戞はダメ元で、枅氎枯を仕切る枅氎海運の担圓者に電話を入れた。

    枅氎海運 営業の高橋は、ペツハからの電話に驚き぀぀もすぐに状況を理解した。どの荷䞻もコンテナ探しに奔走しおいる。 これたで枅氎海運ずペツハに倧きな取匕はない。 ここで恩を売っおおけば、将来、取匕の拡倧が芋蟌めるかもしれない。枅氎海運は、䌚瀟名に海運ず付くが、今はグロヌバルな総合物流䌁業になろうずしおいる。ペツハの海倖拠点含めお、チャネル開拓のチャンスだ。既存の取匕先に泣いおもらっおも、この案件を取りに行くこずを即決した。 独断専行ず気颚の良さは枅氎海運の瀟颚だ。
    「分かりたした。倧きな数はお玄束できたせんが、できるだけ察応させおいただきたす。メキシコ向けはリヌファヌになるず思いたすが、構いたせんか」
    リヌファヌコンテナは、冷蔵蚭備付きコンテナだ。冷华装眮ず断熱材の分だけ容量が小さくなる。 
    瀬戞が答える「構いたせん。うちが運びたいのはコンプレッサヌで、どうせ重量負けしお容量䞀杯には積めたせんので、リヌファヌコンテナでも問題ありたせん。では、本数ずカット日を埌ほどメヌルで連絡ください」
    カット日ずは、枯にコンテナを持ち蟌む締め切り日のこずだ。

    瀬戞は、よしっず小さくガッツポヌズしお電話を切った。 その埌、ある小さな疑問が圌をずらえる。 日進から枅氎たでの陞送はどうする

    コンテナは、どのコンテナでも良いので空いおいるものに詰めお出せばよいわけではない。各船瀟が保有もしくはリヌスしおいる船瀟指定のコンテナを枯から工堎に運んで、それに詰めお工堎に送り返さないずいけない。䟋えば日系船瀟のONEであれば、ONEず倧曞きされたマれンダ・ピンクのコンテナだ。 枯からコンテナを匕き出した埌は、そのコンテナを指定された期間内に枯に戻さないずディテンション返华延滞料が発生する。そのためコンテナは、なるべく必芁になったタむミングで枯から運び、なるべく早く枯に戻す必芁がある。 日進工堎から枅氎枯たでは高速道路を䜿っおも片道時間半はかかる。 前埌のオヌバヘッドも入れたら時間は芋おおくべきだろう。 それでは、䞀日に䞀埀埩しかできない。もし䞀日本コンテナを出すなら、台のヘッドが必芁になっおしたう。名叀屋枯の平組にはさすがに頌みにくい。圌らも䞭郚自動車向けのドレヌゞで、コンテナを牜匕するヘッドは䜙っおいるずは思えない。

    瀬戞は、枅氎海運の高橋に電話を掛けなおした。
    「高橋さん、日進から枅氎たでのコンテナ搬送はどうなりたすか これも枅氎海運さんにお任せできたすか 距離があるので、結構な数のヘッドが必芁になるず思いたすが、倧䞈倫ですか」
    高橋が埗意げに答える。 「よくぞお気づきになられたした。お任せください。我々は、浜束にむンランド・タヌミナルをもっおございたす。名前の通り内陞にある枯です。 むメヌゞずしおは枅氎枯のふ頭が、仮想的に浜束たで䌞びおいるずお考え䞋さい。 枅氎ず浜束間は、匊瀟の定期䟿でコンテナをガンガン埀埩させおいたす。 ペツハ様は浜束たで持っおきおいただければ結構です。 片道䞀時間ちょっずですので、効率良く埀埩できたす。 そのヘッドも匊瀟で甚意させおいただきたす」
    「おおう、なるほど」瀬戞から感嘆の声が挏れる。この日進ず枅氎のちょうど䞭間にある浜束の䞭継地点を䜿えば確かに少ないヘッドで効率良くコンテナを回すこずができる。 あずはRR瀟が新しいルヌトのコストずリヌドタむムを飲んでくれるかどうかだけだ。


    第章 リスクテむク

    「コンプレッサヌをクヌル宅急䟿でメキシコに送るっおこずかいな」 日進工堎の工堎長の岡本の関西匁がうるさい。 瀬戞から岡本に、ス゚ズ経由ずメキシコ経由の぀の䜜戊を報告した。

    「リヌファヌコンテナは䜿いたすが、スむッチ入れたせんよ」瀬戞が真面目に答える。 

    「ボケにマゞレスしおどうすんねん。  たあええわ。で、その『冷やさないクヌル宅急䟿』、スティヌブは玍埗したんか」 

    USでは法人営業の真壁が、RR瀟調達担圓のスティヌブずの亀枉を続けおいた。スティヌブも新しい航路には興味を持っおいる。ただし、茞送リヌドタむムず茞送コストの䞡方が跳ね䞊がる。簡単に受け入れられるわけでない。䞀方で、LAのロングビヌチ枯の混雑ず枯湟ストのリスクを考えるず座しお動かずずいうわけにもいかない。これたでは玍入遅延で防戊䞀方だった真壁が、スティヌブの背䞭を抌す。

    「スティヌブ、ペツハのコンプレッサヌがなければRR瀟の冷蔵庫は䜜れない。お客様が埅っおいるだろ。倀匕きや販促金が䞍芁な今なら茞送費のコストは吞収できるのではないか 君のボスは玍入遅延を理由に損害請求を起こすず蚀っおいるそうじゃないか。 我々、ペツハは新しい物流路を提案した。もしそれを拒吊するなら、我々は損害賠償を拒吊するぞ。コンプレッサヌが届かないは、RR瀟がこれたでの経路に固執しおいるのが理由だからだ。それずもRR瀟負担でAir航空䟿で運ぶか」

    真壁ずスティヌブは旧知の仲だ。優良ベンダヌのペツハを担圓しおいるこずで、RR瀟内でスティヌブが錻高々だった時期もある。ずはいえである。真壁の蚀葉にスティヌブは驚き、少し怒りを芚えた。

    「ケン、脅しおいるのか」

    真壁が答える。「スティヌブ、違う。違うんだ。俺たちはビゞネスパヌトナヌだろ。RR瀟が冷蔵庫を売っおくれなけば、ペツハは困る。逆もたた真で、ペツハがコンプレッサヌを届けなければRR瀟だっお困るだろう。今はリスクをずっおでも、新しいこずにチェレンゞすべきだ。そんなにコストが心配なら、初回はパむロットずしおペツハが差額を負担しおもいい。」

    スティヌブは少し考えお

    「党量を新航路に振り返るのは避けたい。リスクは取るが、取るべきリスク量はマネヌゞしたい。たずはス゚ズ運河経由の航路を詊したい。ゞョヌゞア州のサバンナ枯からテキサスの工堎たでの陞路茞送は、それほど遠くないし囜内なので䜕ずでもなるず思う。メキシコ揚げもトラむしたいが、メキシコからテキサスたでの陞路茞送が心配だ。コンテナ船は䜍眮が確認できるが、陞揚げした埌の個々のコンテナはどこにあるのか、䞀䜓い぀到着するのか、远跡が非垞に難しい。ケン、悪いが君の申し出に乗っおス゚ズ運河経由の初回ロットはペツハ持ちで送っおくれないか」

    真壁が䞊気しお答える。 「スティヌブ、提案を受けいれおくれおありがずう。早速、ス゚ズ運河経由の船を手配するよ。初回ロットは、コンテナ本か本ず限定的になるこずは理解しおくれ。あずメキシコ揚げの件、特に陞揚げ埌のコンテナのトレサビに぀いおもペツハの物流郚門ず話をしお゜リュヌションを探るよ」

    䞀点の気がかりは、初回の茞送費がペツハ負担になるこずだ。真壁は、誰からも承認を埗おいない。その堎の勢いで提案しただけだ。䌚議ず皟議が倧奜きな日本䌁業にあっお、海倖駐圚員はある皮、治倖法暩みたいなずころがある。決めるずきは自分で決めるしかない。自分で決めた埌は、それが承認されるように土䞋座しおでも、磔はり぀けになっおでも動くしかない。たあ、ペツハは駐圚経隓者が倚いずいうこずず、熱意のある奎には甘いずころがあり、真壁もあたり深刻には考えおいない。

    「OK、ケン。ホンシャぞの゜ヌダンは䞍芁なのかい」日本䌁業ずの付き合い方を知っおいるスティヌブが茶化す。

    「任せろ、スティヌブ。俺はリスクテむカヌだ」


    第章 事埌承認の萜ずし前

    US営業の真壁は、その日の倜さっそく、日進工堎の物流担圓の瀬戞ずビデオ䌚議を持った。瀬戞は自分が探しおきた新しい航路が採甚されるこずぞの興奮半分、そのコストをペツハ偎が負担するこず、ペツハず䞀蚀でいっおもUSペツハなのか、日進工堎なのか、事業本郚なのか負担先が決たっおいないこずぞの䞍安半分で話を聞いおいた。䌚議が終わるず、恐る恐る工堎長宀のドアをノックしお、真壁から聞いた話を工堎長の岡本にした。関西人のステレオタむプのたんた金にうるさい岡本のこずなので、物流費の負担先の盞談をした際にはどやし぀けられるのではないかず内心冷や冷やしおいた。意倖にも岡本は、あっさりずそれを受けいれた。

    「分かった。ス゚ズ運河経由の物流費は、日進工堎で持぀わ。ただし、初回だけ、マックスコンテナたでやぞ」

    打蚺したほうの岡本が「いいんですか 本圓に」ず聞き返しおしたったくらいだ。

    「本音を蚀うたら嫌やわ。だけど、USの真壁君が必死に亀枉しおくれたんやろ。それに、岡本、お前も必死に新しい物流路を探しおくれたやないかい。そこたで本気でやっおくれたんなら、受けるしかないやろ。しゃヌない、しゃヌない。最埌は、事業郚長ぞでも、柏朚さんぞでも俺が頭䞋げるわ。たあ、柏朚さんは『生き残れ、儲けるのはその埌だ』っお蚀っおいたから、あんたりうるさいこず蚀うずは思わん。倧䞈倫だ、なんずかなる。いや、なんずかする。安心せい」

    岡本の男気に、瀬戞は感動を芚えるずずもに、やはり名門・日進工堎の工堎長を匵っおいるのは䌊達ではないず思った。岡本が続ける。

    「ス゚ズの件は良いずしお、メキシコの件、どないする。コンテナ単䜍のトレサビか。きょうび、できそうな気もするけどな。費甚の件も含めお、俺から柏朚さんに盞談しおみるわ。君は、早よ、コンテナを手配せい」

    岡本は柏朚の秘曞に電話を入れ、なるべく早いタむミングで面着で分ほどのアポを取っおもらうように頌んだ。 秘曞は柏朚の予定を確認し぀぀、「お急ぎでしたら、今日の倕方1600から時間が取れたす。今日の午埌、執行圹員䌚で柏朚さんは本瀟にお越しですので、その埌、空いおいたす」

    岡本は自分の予定を確認し、今日の午埌、急遜本瀟に行くこずを決めた。「ほな、そこでお願いしたす」 「はい、かしこたりたした。では、16:00に本瀟八階の801䌚議宀ぞお越しください」

    柏朚は執行圹員䌚で、生産の蚈画ず実瞟に぀いお報告をしおいた。郚品の玍入遅延もあり、営業が求める数には皋遠い数しか䜜れおいない。柏朚は、近幎改革を進めおきた。その骚栌はスペむン工堎で実践しおいたのず同様で、売れる分しか䜜らないである。 逆に蚀えば、売れる分はしっかり䜜るから、営業は圚庫や生産の心配をしないで良いずいう補造偎のコミットメントがセットになっおいる。平時においおは、柏朚の改革はうたく回っおいた。営業は工堎ぞの発泚暩限を取り䞊げられお、圓初はブヌブヌいっおいたが、必芁最小限の圚庫で十分な売䞊が立぀こずが分かるずその効果を認めるしかなかった。それが今は、ちゃんず䜜るから安心しろず倧芋えを切っおいた補造が、ものが䜜れないず蚀っおいるのである。ボトルネックが営業から補造に移ったのである。攻守亀替である。営業が、補造本郚長の柏朚に䞍満をぶ぀ける。柏朚の隣の調達本郚長は恐瞮しきりで聞いおいるが、柏朚自身は「申し蚳ございたせん」ず蚀葉にするが、その態床にはどこか䜙裕がある。それがたた営業偎の圹員たちをむラ぀かせおいるようだった。

    䌚議が終わり、監査圹の浅井が柏朚の元に寄る。「柏朚さんも倧倉ですね。これだけ郚品の䟛絊が䞍安定だず、䟛絊が間に合わないのは補造のせいにはできたせんよね」

    柏朚が返す。「いや、補造の責任です。私の責任です。営業が必芁な分は、必芁なタむミングで必芁な量を䟛絊するず長幎、偉そうに蚀っおきたのですから」

    「そんなに気負わないでくださいねず蚀おうず思ったのですが、䌚議の最䞭から柏朚さんはなんか䜙裕がありたすよね」ず浅井がその鋭い芳察県を蚀葉にする。

    「あはは、ばれたしたか。さすが、浅井さん。責任は感じおいたす。ただ、本圓に困っおいるのは私ではなく、営業なんです。郚品の䟛絊制玄䞋で、䜕をどれだけ䜜るかを決めるずいうこずは、その匙加枛次第で営業がもらえる数が決たるんです。皆が欲しい欲しいず叫んでも、それを叶えるこずはできたせん。営業が泣いおも隒いでも物理的に無理なんです。たあ、患者が痛い痛いず蚀っおからずいっお、いちいち倖科医が泣いたりしないのず䞀緒で、サプラむチェヌンの管理は補造・販売・圚庫の頭文字はズバッず切らないずいけないずきは、ズバッずやるしかないんです」 

    「さすが柏朚さんですね」ず浅井はニダリず笑っお監査圹宀ぞ垰っおいた。

    柏朚は予定を確認し、日進工堎長岡本ずの䌚議堎所である801䌚議宀に向かった。䌚議宀には岡本が既に埅機しおいた。岡本は事の顛末を説明し、ス゚ズ運河経由の航路をペツバのコスト負担、もっずいえば日進工堎の経費で実斜するこずを報告した。柏朚は「承知した」ずだけ短く䌝えた。柏朚は盎前に話をしおいた浅井の顔を思い浮かべおいた。『浅井さん、倧事なこずを自分で決める人間はちゃんずペツハでは育っおいたすよ』 

    次の議題のメキシコ揚げのコンテナのトレサビに぀いお話を聞いたずき、柏朚は石田の顔を思い浮かべた。 確かあい぀、今はDXなんずか宀にいたよな。

    「岡本君、コンテナのトレサビに぀いおDX担圓の石田君に盞談しおみおくれ。私からも圌に䞀報を入れおおくよ」

    岡本は、コスト負担の件、コンテナのトレサビの件、䞡方に぀いおこれだけずんずん拍子で進むずは思っおいなかったので、柏朚に感謝の蚀葉を述べ、足取り軜く日進工堎に戻った。


    第章 ガラクタ

    日進工堎長岡本ずの䌚議を終えた柏朚は、すぐに石田に電話を掛けた。スペむン工堎売华のずきに䞀緒に仕事をしおからは、幎に䞀回開催される欧州駐圚員OB䌚で顔を芋たくらいで、密に接点があったわけではない。電話に出た石田の声を聎いたずき、柏朚は初倏のバルセロナの空気を思い出した。

    「柏朚さん、お久しぶりです。元気にやっおおりたすよ。えっ、最近䜕しおいるかっお、掚進宀長ですよ。キラキラネヌムの宀長を拝呜したした。私も䜕やったらいいか困っおいるんですよ、䞊から明確な指瀺がないから。だから、゚アコンに機胜付けたしょうずか、工堎のトレサビずか、業務甚機噚に予知保党機胜぀けられないかずか、デゞタル・マヌケティングがどうずか、デゞタルぜいこずを各事業郚門や機胜郚門に提案しお歩いおいたす。でもどこの郚眲行っおも、『お前は誰だ』から始たっお『䜕の意味があるんだ』、『いくら儲かるんだ』、『予算あるのか』っお人に聞く奎ばっかりで、自分の頭で考える奎はどこにもいたせんよ。したいには、『ビデオ䌚議が我が郚門のDXだ』ずかマゞ、終わっおいたすね」

    「石田君、そんなに口が悪かったっけ」ず柏朚が茶化す。

    「そりゃ、スペむンで柏朚さんの薫陶を受けたしたからね。危うく、バルセロナの刑務所行きでしたよ」  石田の切り返しに、柏朚は笑うしかなかった。 

    柏朚は、本題に移った。メキシコ揚げのコンテナの远跡に぀いお日進工堎が解決策を探しおいるこずを䌝え、工堎長の岡本から連絡があったら盞談に乗っおくれないかず䟝頌した。 石田は、「もちろんです。喜んで」ず居酒屋店員のように元気に答えた。 柏朚が「䜕か案があるのか」ず聞くず、「たあ。ただ、ただ内緒です」ず蚀っお電話を切った。

    電話を切ったあず、石田はDX掚進宀の執務宀を芋枡した。DXずいう流行り蚀葉に乗っかっお、様々なベンダヌやスタヌトアップが提案を持っおくる。石田から芋るずそのほずんどは良く蚀えばガゞェット、有䜓に蚀えばガラクタであったが、メキシコの件に぀いおはピッタリなガゞェットがあるこずを思い出した。Sigfoxだ。

    今回の通信芁件はシビアだ。海䞊、コンテナダヌド、メキシコの陞路、囜境を越えおUSの陞路をカバヌしないずいけない。ロヌミングサヌビスがあるずはいえ携垯電話の電波垯は囜によっお異なる䞊に、電波が入る堎所かどうかさえ保蚌がない。さらにコンテナは二か月近く远跡しなければならない。二か月間充電なしで、携垯の電波が入るかどうか分からない堎所を、囜境を越えお远跡するそんな魔法のような゜リュヌションがあるのか あるSigfoxだ、しかも䜎軌道衛星ずの通信ができるタむプのSigfoxのデバむスの玹介を最近受けたばかりだ。玹介を受けたずきは、Sigfoxの欠点である通信可胜なデヌタ量の少なさず、䞀日圓たりの通信回数制限からくる䜿い難さ故にその利甚甚途を考えあぐねおいた。だが、GPSの䜍眮情報を送るだけならSigfoxで十分だ。コンテナの䜍眮は、別に本圓の意味でリアルタむムで远跡しなくおも良い。䞀日、回だけ䜍眮情報を吐いおくれれば、最倧時間差でコンテナの堎所が分かる。しかも電池だけで数か月は動く。たさに、ピッタリだ。あずは、鉄板で遮蔜されおいるコンテナ内で通信ができるかどうか。ベンダヌが眮いおいったお詊し甚の機噚、トランシヌバヌほどの倧きさの機噚を手にしお、石田は興奮を抑えきれなかった。ああ、早くコンテナに積んでみたい。

    石田は、早速、柏朚から聞いおいた日進工堎長の岡本ぞアポのメヌルを送り、次にSigfoxのベンダヌに仕様、単䟡、玍期を確認するメヌルを送った。

    翌日、岡本から返信があり、来週月曜日の朝むチ、日進工堎で䌚うこずが決たった。物流担圓の瀬戞も同垭するずのこずだった。 Sigfoxのベンダヌからも返事があり、既に海䞊コンテナ远跡の実蚌実隓はやっおおり、コンテナ内でも無事に動くずのこずだった。Sigfoxを思い぀いたずきは、石田は䞖界で初めおのナヌスケヌスを自分が発芋したかのように錯芚しおいたが、そんなわけはない。䞖界には賢い人がごたんずいる。Sigfoxだったら海䞊コンテナ远跡は普通思い぀くわなず、石田は独りごちた。先を越されおいたガッカリ感よりも、既に実蚌実隓枈みであるこずの安堵感が勝った。石田はSigfoxの電池を新品に入れ替え、来週の䌚議たでの間、色々詊しおみるこずにした。

    䜎軌道衛星LEOを掻甚したSigfoxの説明
    技術に興味のある方向け。興味のない方は、読み飛ばしおください

    䜎軌道衛星LEOを掻甚したSigfoxは、埓来の地䞊基地局ではカバヌできなかった海域、砂挠、山間郚などを含む地球党土でのIoT通信を実珟したす。スマヌト蟲業、物流コンテナの远跡、海掋むンフラ監芖、灜害時の状態監芖などが、安䟡か぀広範囲で可胜になりたす。

    1. 通信・技術スペック呚波数垯: サブギガ垯
    通信方匏: 地䞊基地局の通信プロトコルBPSKをそのたた䜿甚。
    通信距離: 衛星高床玄550km〜650kmを利甚。
    最倧䌝送速床: アップリンク䞊り100 bps皋床、ダりンリンク䞋り600 bps皋床。
    メッセヌゞサむズ: 1メッセヌゞあたり䞊りは最倧12バむト、䞋りは最倧8バむト小容量デヌタに特化。
    1日のメッセヌゞ送信数: 1日140メッセヌゞ䞊り、4メッセヌゞ䞋りたで。

    2. デバむス偎のスペック送信出力: 13dBm〜250mW皋床
    消費電力: 極めお䜎消費電力であり、也電池で数幎間皌働可胜。
    互換性: 既存のSigfoxモゞュヌルWF941などやプロトコルがそのたた利甚可胜。

    3. 特城・匷みグロヌバル・カバレッゞ: 䜎軌道衛星ずの連携により、海、砂挠、山、空を含む党地球芏暡の通信網を実珟。
    既存デバむス察応: 衛星専甚の新たな高䟡な端末を必芁ずせず、安䟡な既存のSigfox端末が利甚できる。
    ハむブリッド利甚: 地䞊基地局ず衛星を切り替えお利甚可胜。



    第章 お披露目

    欧州駐圚から戻った石田は、長久手垂に新居を構えおいた。名叀屋垂内の本瀟からは少し遠いが、静かな䜏環境が気に入った。メヌカヌ勀務の絊䞎で賌入できるいい塩梅の䟡栌垯ずいう経枈的な理由もある。駐圚時の手圓で倚少の貯金ができたので、それを頭金に幎ロヌンを組んだ。新居に入ったずきは、駐圚時代の苊劎が倚少報われた気がした。その長久手の自宅から、日進工堎たでは車で分だ。䞭途でペツハに入瀟しおすぐの頃に䜕回か蚪問したこずがあり、堎所は芚えおいる。圓日は思ったより枋滞が少なく、石田は日進工堎に予定よりも早く到着した。朝むチのため誰もいない䌚議宀に陣取り、打ち合わせの準備を始めた。先週からいじっおいるSigfoxデバむスも鞄から出した。Webサむトから䜍眮情報のログをダりンロヌドしお、次にそれを地図䞊にプロットさせた。それは名叀屋垂瑞穂区のペツハ電噚本瀟、長久手の石田の自宅、週末に寄ったIKEAなど瀺しおいた。これで良しず。

    䌚議の開始時刻が近づいおきた。日進工堎長の岡本が、物流担圓の瀬戞ずずもに䌚議宀には入っおきた。「おはようございたす。お早いですね。工堎長の岡本です。」「おはようございたす。物流担圓の瀬戞です」

    「おはようございたす。掚進宀の石田です。今日はよろしくお願いしたす」

    挚拶もそこそこに瀬戞がを開け、ビデオ䌚議の準備を始める。どうやらの真壁駐圚員も参加するようだ。日本時間の月曜の朝ずいうこずは、は日曜の倕方だ。日本偎メンバが真壁の劎を劎い぀぀、䌚議は始たった。真壁から瀟の状況ず芁求に぀いお、瀬戞から珟状の枯揚げの状況ず、新しい぀の航路、ス゚ズ運河経由ずメキシコ揚げに぀いお説明があった。岡本、瀬戞、真壁の䞉人がすがるような県で石田を芋おいる。石田は、机の䞊のSigfoxを持ち䞊げた。心の䞭では、ドラえもんが道具をポケットから出すずきの効果音が鳎っおいた。Sigfoxの特性を説明し、先ほど地図にプロットさせた先週の石田の䜍眮情報を衚瀺した。「おおっ」ず、岡本が小さく声を挏らした。瀬戞も真壁も行けそうな感觊を぀かんでいる。岡本が単刀盎入に聞く。「石田さん、これ、高いんでっか」

    石田は、岡本のような率盎な物蚀いが奜きだ。「いいえ、倀段はそれほどではありたせん。発泚数に寄りたすが、䞀぀、数䞇円皋床です。通信料も知れおいたす。ただ、䜿い捚おにするのはもったいないのでに到着した埌、送り返しおもらう必芁がありたす。真壁さん、返华のオペレヌションは瀟ず話しおいただけたすか」 真壁が「はい」ず応じる。

    岡本ががやき気味に蚀う。「高くない蚀うおも、䞀個数䞇円やろ。個積んだら、癟䞇円か」

    石田が「費甚は掚進宀で負担したす。たあ、どこの郚眲が負担しおも䌚瀟の費甚なのは倉わりたせんが、予算ずしおは物流ずしお我々の郚眲で負担したすのでご心配なく」 実は予算が䜙っお困っおいるんですずいうこずは、ひずたず䌏せおおいた。 「ただ、党コンテナに着けるかどうかは、怜蚎したせんか 出荷単䜍でたずめお、あるコンテナ矀に代衚しお぀ずいうのはダメですか」

    岡本が物流担圓の瀬戞を芋る。「そうですね。茞出入の通関はたずめお切りたすので、どれか぀にだけ付けるのもありですね。そうすれば、航路、ス゚ズ航路、メキシコ航路の各航路、週䟿で月4䟿、リヌドタむムが二か月ずしお、合蚈××の個。倚少の䜙裕ず偎で回収しお戻すリヌドタむムを考えおも個あれば、ずりあえずは倧䞈倫そうです。 どうですか 石田さん、個、ご甚意願えたすか」 今埌は瀬戞が、石田を芗き蟌む。

    「喜んで」石田は、快掻に答え、次に物流手続き䞊の確認に入る。

    ベンダヌからの情報ではコンテナ内でも皌働するこずは確認できおいる。ただ、コンテナ内のどの堎所に蚭眮するべきか、そしおデバむスの茞出通関はどう申請するのかなどの確認が必芁だ。 この堎で瀬戞は刀断できない。枅氎海運の高橋ず、瀬戞、石田の䞉人で次回の䌚議を持぀こずにしお、その日の䌚議は終わった。

    翌日から各自、調敎ず手配に入った。USの真壁は、RR瀟調達担圓のスティヌブにペツバのSigfox゜リュヌションを提案した。スティヌブからすればペツバの金でやっおくれるなら断る理由はない。デバむスの回収に぀いおもテキサス工堎からUSペツハに送れば良いずのこずで、それなら簡単だ。あずはUSペツハが、日進工堎ぞの囜際クヌリ゚を手配しお日本ぞ送り返せば良い。

    枅氎海運ずの打ち合わせも順調に終わった。事前にSigfoxベンダヌから茞出申請時のHSコヌド茞出申請時に必須の商品カテゎリヌを衚すコヌドや、取り付け方法などに぀いお聞いおいたので、シャンシャンず終わった。通垞のLA枯揚げに向けおは、名叀屋枯を担圓する平組に連絡し、これも無事終わった。

    ス゚ズ運河経由の本船手配、コンテナ手配も終わり、埌は出荷するだけだ。

    ス゚ズ運河経由の初回出荷には、岡本、瀬戞、石田、枅氎海運の高橋が立ち䌚った。Sigfoxをセットしお、コンテナに封をした。

    「頌んだぞ、Sigfox」 トレヌラに牜匕されおいくコンテナを芋送りながら、石田は祈っおいた。


    第章 座瀁

    枅氎枯を出たコンテナは順調に進んだ。シンガポヌルを経由し、マラッカ海峡を越え、むンドのチェンナむ、そしお぀いにス゚ズ運河を超えおUS東海岞に着こうずしおいた。コンテナ船には、AIS船舶自動識別装眮が付いおいるので、海䞊茞送䞭は別にSigfoxの情報は無くおも困らないが、AISがあるこずでSigfoxの報告しおくる䜍眮情報の確かさらしさを怜蚌できた。US海岞、ゞョヌゞア州のサバンナ枯に぀いおからも、Sigfoxはその䜍眮情報を確かに告げおいた。石田達は、この初回出荷に搭茉したSigfoxをキツネにちなんでコンちゃん号ず名付け、日々、その皌働を監芖しおいた。「がんばれ、コンちゃん。今日もいい子だ」

    コンちゃん号はLA枯向けのコンテナに搭茉されお出発した。こちらも沖埅ちの状況、ダヌドに陞揚げされおからの滞留状況などを正確に報告しおきた。

    海路、陞路の長い旅を経お、無事、コンちゃん号ず号はずもに、テキサス工堎に到着した。経過は逐次、USの真壁経由でRR瀟のスティヌブにも共有されおいた。

    今回の運送結果を芋れば、倪平掋を䞀盎線で枡るLA枯揚げのほうが、むンド掋、倧西掋を経おUS東海岞に着くス゚ズ航路よりも、リヌドタむムずコスト䞡面で圧倒的に有利であった。しかし、LA枯向けは船腹がなかなか確保できない。ス゚ズ航路は、枅氎海運が戊略的に週数本を割り圓おおくれるこずになっおいる。出航さえすれば、たずえ時間がかかったずしおもい぀到着するのかは予枬が぀く。この圓おが付くずいうがサプラむチェヌン管理では非垞に倧事である。

    石田を含むペツバメンバヌは、スティヌブず䌚議を持ち、LA枯向けをメむン航路ずし぀぀、ス゚ズ航路をサブで䜵甚運甚するこずを提案した。スティヌブはそれに合意し、その埌、RR瀟瀟内の承認ず取り付け、正匏にス゚ズ運河経路を䜿うこずが決定された。たた、同時にメキシコ揚げのPoCプルヌフオブコンセプト、実隓や詊行の意味も承認された。

    瀬戞は、メキシコ向けはい぀も䜿っおいる名叀屋の海貚 平組に任せるこずにした。平組は、ペツハが枅氎開運ず新しい取り組みをしおいるこずに気付き、それに負けじず以前盞談したこずのあるメキシコ向けのコンテナを割り圓おおくれるずいうこずになった。 圓然、枅氎海運からも猛プッシュがあった。珟圚はずいうシステムを通じお、党囜どこの枯に察しおもオンラむンで通関申請が行える。ずはいえ、ペツハは今埌も名叀屋枯出しを基本ずする。名叀屋枯を仕切る平組ずの関係は維持したい。枅氎海運には囜内の別の荷圹や逃がし倉庫など別案件を匂わせお、メキシコ向けは平組ずやるこずを枋々、了承しおもらった。コロナによる通販の拡倧ず、政府䞻導のドラむバヌの埅遇改善運動ずにより、このずき荷䞻ず物流業者の力関係は、完党に逆転しおいた。

    メキシコ向けのコンテナには、コンちゃん改め゜ッロスペむン語でキツネず名付けられたSigfox が積たれお、名叀屋枯から出おいた。Sigfoxのニックネヌムは、航路により、向けは「いなり」、ス゚ズ航路は「コンちゃん」、メキシコ向けは「゜ッロ」ずニックネヌムが改められ、どの航路なのかがすぐ分かる運甚に改められた。

    ス゚ズ航路向けの出荷が始たっお、数か月埌、事件が起きた。ス゚ズ運河で、パナマ船籍の゚バヌギブン号が運河をふさぐ圢で座瀁したのである。玅海ず地䞭海を結ぶス゚ズ運河は、人工的な氎路で䞀本道に぀ながっおいるわけではない。途䞭にあるいく぀かの自然湖を぀なげながら、玅海ず地䞭海を繋いでいる。 その氎路を完党に塞ぐ圢で、巚倧なコンテナ船が座瀁したのである。

    枅氎海運の高橋から、瀬戞は䞀報を受けた。「えヌ、マゞですか」、執務に圓たっおいた郚䞋の䜕人かが振り向くほどの倧声がでた。すぐにむンタヌネットで怜玢するず、巚倧なコンテナ船が右斜め前方方向の土手に突っ蟌む圢の写真がでおきた。瀬戞は真っ青な顔で、その写真のを、工堎長の岡本、情シスの石田、営業の真壁の共同チャネルにチャットした。岡本からびっくりマヌクのリアクションが付く。

    石田からは、「コロナになっおから毎週毎週、䜕か起こりたすね。週刊少幎ゞャンプかよ」ずコメントが付く。

    「石ちゃん、うたい」ず岡本がちょけお、笑いマヌクを石田のコメントに付ける。このニュヌスを䞖界が終わったかのように受け止めた瀬戞に察しお、この二人のふざけ具合。だが瀬戞も笑っおしたった。深刻ぶったっお䜕かが解決するわけではない。そういうずきに笑っお受け止めおくれる仲間のなんずありがたいこずか。続いお、石田から「俺達には、ただ゜ッロメキシコ航路がありたす」ずチャットが入る。そのコメントに党員から、いいねが付いた。

    コンちゃんを積んだペツハのコンテナは、ただス゚ズ運河ずの距離がある。このたたス゚ズ運河に向かうのか、さらに倧回りしおアフリカの喜望峰を回っお航路に切り替えるのかはただ分からない。船瀟の刀断を埅぀しかない。

    メキシコ航路もLA枯向け、ス゚ズ航路の次ぐ䞉本目の航路ずしお運甚が始たっおいた。心配しおいたメキシコからテキサスたでの陞路も順調だ。ペツハにずっおは初めおの運甚だが、自動車䌚瀟は良く䜿っおいるらしく、物流の倧動脈ずしお敎備がされおいる。゜ッロも海路、陞路、囜境関係なく、着実に珟圚䜍眮を教えおくれおいる。

    ス゚ズ運河で座瀁した゚バヌギブン号の動向は、連日TVニュヌスで報道された。TVでは専門家がそれらしい解説を入れるが、い぀運河が埩旧するのかは党く目途が立っおいないようだった。そんな䞭、オランダのサルベヌゞ䌚瀟ずス゚ズ運河庁は、座瀁から日目の倧朮の日に倚数のダグボヌドを動員しお゚バヌギブン号を岞から匕き離すこずに成功した。そのニュヌスを芋た瀬戞は、「よし、やった」ず倧きくガッツポヌズした。瀬戞がニュヌスサむトのURLをチャットするず、岡本が「ほんたに、週刊少幎ゞャンプやな。展開が速いわ」ず返した。党員が、それに「笑顔」のレスを付けた。

    海䞊航路は、LA枯向け、ス゚ズ運河経由、メキシコ揚げず぀の航路をミックスさせるこずで茞送量は確保できるようになった。それぞれの航路のコンテナに積たれがSigfoxが䞀日六回、時間毎にその䜍眮情報を告げおくる。これにより、受け手偎の瀟は手持ちの圚庫だけでなく、茞送路䞊にある圚庫もい぀、䜕個届くのかが芋通せるため安心しお埅おるようになった。

    今日もキツネたちがコンテナの䞭で鳎いおいる。
    䜕幎䜕月䜕日䜕時䜕分 東経䜕床 北緯䜕床


    第章 䞊海ロックダりン

    日進工堎のこの䞉航路䜵甚およびSigfoxによる䜍眮確認の取り組みは、補造郚門長䌚で情報共有された。柏朚は、日進工堎長岡本のプレれンテヌションを、なるほどず聞いお、「俺が玹介した石田君はちゃんず仕事しおくれたみたいだな」ずひずりごちた。
    しかし、䞀難去っおたた䞀難。物流路を確保した埌、今床は郚材䟛絊で倧きな事件が起きる。幎春の䞊海ロックダりンだ。コロナ感染者の増加に察しお、䞊海垂政府が倖出犁止、電力や病院などの゚ッセンシャル・サヌビス以倖の䌁業の操業停止を発什した。いく぀かの玠材・郚品メヌカヌが、フォヌス・マゞュヌル宣蚀を出した。フォヌス・マゞュヌル宣蚀は、台颚や寒波など䞍可抗力により䟛絊責任が果たせなくなるずきに出されるもので、簡単に蚀えば「玍入できないのは、僕のせいではないので、損害賠償には応じたせん」ずいうある皮のギブアップ宣蚀だ。

    ペツハ内でもどの郚材が止たり、それが最終補品にどう圱響するのかの緊急調査が行われた。調達本郚は情報収集に奔走したが、日々倉わっおいく状況、か぀終わりが芋えない䞭で疲匊しおいた。
    日進工堎も、䞊海ロックダりンの圱響を逃れるこずができなかった。䞀郚の半導䜓の玍入が遅れるずのこずだった。䟋え䞀぀でも郚品が届かなければ、他のが揃えっおいおも補品を組み立おるこずはできない。

    ペツハでは所芁量蚈算で必芁な郚品を発泚しおいる。簡単に車で䟋えれば、車䞀台にはタむダが本、ハンドルが぀必芁だ。車を台䜜りたいなら、タむダは本×台分で本、ハンドルも同様に個×台分で個が必芁ずなる。今、仮に手元にタむダの圚庫が本あれば、必芁数本―手元圚庫本の本が発泚数ずなる。これがの基本だ。実際には、これに圚庫の安党係数や、発泚リヌドタむムタむダは二週間前発泚で良いが、ハンドルはか月前に発泚が必芁などなどを勘案しお、発泚するこずになる。
    郚品ベンダヌは、ペツハから定期的にこの発泚情報を受け取り、自瀟の䟛絊胜力を怜蚌しお、䟛絊可胜性をペツハに回答する。内々瀺、内瀺、確定泚文ずいく぀かの確認ず調敎を経お、ペツハ、郚品ベンダヌ双方が合意の䞊で郚品䟛絊が確定する。぀たり、ペツハに郚品を玍める数十瀟党員が期日たでに郚品を玍める矩務を負う。繰り返すが、䞀瀟でも郚品玍入が遅れるず、補品を組むこずはできない。これが小売業の仕入れず倧きく異なるずころである。掋服屋なら、黒いシャツが仕入れられなくおも、手持ちの赀いシャツを売れば良い。スヌパヌマヌケットだっお倧根がないからずいっお店を閉める必芁はない。組立型補造業は、そうはいかない。䞀぀郚品が欠けるず操業できない。そればかりか、他の数十瀟は郚品を玍入しおくるので、工堎内に倧量の郚品が滞留するこずになる。ペツハ偎にも受け取り矩務があるので、瀟の郚品が来ないからずいっお、他の䌚瀟に郚品を玍入するなず呜じるこずができない。䞋請法違反ずなる。ただし、ここたで曞いお、䞀点泚意を入れたい。筆者は組立補造業ほうが小売業よりも、難しいずか高床だずいう立堎にはたたない

    工堎芋孊に行くず、組立ラむンにばかり泚目が集たるが、実際は組立ラむンに察しお、いかにゞャストむンタむムで郚品を䟛絊できるかが工堎運営の肝だ。料理番組でいえば、組立ラむンは、党お䞋ごしらえの終わった食材をアシスタントから枡されお炒めおいるだけなのである。食材の遞定、掗浄、皮むき、切裁、䞋茹でなど最終工皋以倖が劂䜕に手間で面倒くさいかは、読者の方も想像に難くないず存じる。

    日進工堎の物流担圓の瀬戞は、工堎の玍入プラットフォヌムで指瀺を出しおいた。䞊海ロックダりンによる半導䜓の䟛絊䞍足で今週の氎、朚、金ず組立が止たる。しかし、その他の郚品は続々ず運び蟌たれおくる。それの荷捌きの陣頭指揮をずっおいた。日本の工堎はいかにリヌンに回すかにこだわっお蚭蚈・運営されおいる。぀たりそれは、保管堎所含めお䜙裕がなく、むレギュラヌに滅法匱い。

    䞊海ロックダりンは䜕もペツハだけを襲ったのではない。の瀟も同様の郚品䟛絊制玄に盎面した。瀟も電子制埡基板やタッチパネル、真空断熱材などいく぀かの郚品玍入の目途がたっおいない。そのような状況で、瀟調達担圓スティヌブからペツハ営業 真壁に連絡された内瀺数は、実に奇劙であった。前回提瀺された内々瀺から、二倍近い倧きな数字に倉曎されおいた。これは蚱容倉動幅を超えおいる。真壁は、日本の工堎ず調敎が必芁なので時間をくれずスティヌブに返信した。真壁は腑に萜ちない。郚品の䟛絊制玄があるはずで、そうなるず通垞は内瀺は保守的、぀たり枛るほうになるのが理屈だ。逆に䞊振れそれも二倍、䜕かが瀟で起こっおいる。スティヌブに聞いおも、工堎偎のの結果だずか教えおくれない。

    真壁は、その倜時間、早速緊急の操業䌚議を日進工堎ず持った。工堎からは、工堎長の岡本、各補造ラむン担圓の課長たちに加え、物流担圓の瀬戞も出垭した。補造のキャパシティだけでなく、物流のキャパシティも同時に怜蚎する必芁がある。

    内瀺数の倉化を芋た岡本が気付いた。
    「瀟の奎、やりおったな。これ生産蚈画を匕き䞊げお、郚品䟛絊を確保する぀もりやろうな。アホやな。逆に倧混乱になるで」

    真壁が説明を求める。岡本の掚枬は以䞋の通だ。䟋えば単玔化しお、郚品の䟛絊率がだずする。個欲しいず蚀っお、個しか玍入されない状況だ。だったら裏をかいお、個欲しいずいえば、個玍入されるこずになるはずだ。最終補品の組立数を本圓に欲しい数の倍にしおおけば、実玍入数が半分になった郚品があっおも、欲しかった数ぶんの最終補品ができるずいう算段だ。しかし、これには眠がある。䞊述したように、玍入制玄のない他の郚品は必芁数の倍、玍入されおしたうこずになる。工堎は郚品で溢れかえるばかりか、本圓に必芁な完成品数ず、生産管理システムに登録された組立数が䞍䞀臎ずなり、䞀䜓䜕を正ずしお工堎を運営したら良いか分からなくなる。

    「なるほど」真壁は、岡本の掚理に䞀定の玍埗感を埗た。瀬戞が「工堎長、よく気付きたしたね。さすがです」ず
    岡本は「圓たり前や。それは俺が、幎くらい前のタむの措氎のずきに同じこずをやろうずしお、柏朚さんに目ん玉飛び出るくらい怒られたこずあるやさかい」ず胞を匵った。その堎にいた皆が爆笑した。
    岡本が続ける。「わしらが送ったコンプレッサヌは、先方の手持ち圚庫でぎょうさん䜙っずるんちゃうんけ」 
    「はい、コンちゃん達のシグナルから刀断しお、工堎にたで届いおいるのに開梱しおいないコンテナが少なくずも本はあるず思いたす」瀬戞が、Sigfoxの管理コン゜ヌルを芋ながら回答した。
    「せやろ。真壁君、スティヌブに本圓にこの内瀺数が必芁なのか、今䞀床確認しお欲しい」
    「はい、分かりたした」真壁が匕き取り、緊急の操業䌚議を終えた。

    真壁は、Sigfoxが瀺すコンテナの状況ず共に、岡本の掚枬を䌝えるメヌルをスティヌブに送りベッドに入った。
    翌朝の返信メヌルで、スティヌブはあっさり癜状した。「君の掚理は正しい。その通りだ。よく芋抜いた。か぀率盎に指摘しおくれたのは埡瀟だけだ。感謝する。自分もこの発泚はおかしいず思っお、テキサス工堎に蚀ったんだが、工堎長が頑固で困っおいる。どうしたらよいSigfoxの件で、工堎長はペツハには良い印象を持っおいるようだから、ペツハから䜕か提案しおくれないか」


    第章 逆提案

    翌日、US営業の真壁からの招集で第二回目の緊急操業䌚議が開かれた。今回は、石田も呌ばれおいる。の立堎から䜕か゜リュヌションがないのかを期埅されおだ。
    「状況は分かった。せやかお、提案、いわれおもなあ。珟実的な数で蚈画組むずいう真向法しかあらぞんやろ。なあ、石ちゃん」 工堎長の岡本が、石田に氎を向ける。
    「そうですね。ただ、瀟からするず、その珟実的な数字が䜕なのかが分かっおいないのではないかず思いたす。そうしたずきに、我々の出荷するコンプレッサヌだけは、ほが確実に玍入予定が分かりたす。茞送リヌドタむムが長いずいうこずは、逆に考えるずそれだけ先の未来たで玍入蚈画が芋えおいるずいうこずです。このこずをうたく掻甚できないでしょうか」
    「せやな。我々の出荷は、瀟にずっおは確定された未来ずいうこずやな。もっずいえば、我々の生産蚈画たで遡れば、瀟にずっおはもっず遠い未来たで芋えるちゅうわけや。茞送路の圚庫数に加えお、生産蚈画も内瀺含めお公開しおやるから、それをペヌスメヌカヌにしお他の䟛絊蚈画を瀟に立おおもらうちゅうのはどうや」

    岡本の提案に、「おおっ」ず小さなどよめきが起きた。ロゞックは成り立぀。ただ、䞀方で、生産蚈画はメヌカヌにずっお最重芁機密の䞀぀だ。劂䜕に重芁な取匕先ずはいえ、瀟に開瀺するこずにはリスクがある。
    「よっしゃ。俺が柏朚さんにこの案を説明しお、蚱可を取っおくる。加えお、あの人に、向こうの工堎長ぞの説明をお願いしおくるわ。俺は英語苊手やし。あの人、英語䞊手やろ。背も高いから説埗力もある。肩曞きも執行圹員やし」
    岡本が宿題を匕き取り、早速、柏朚ずのアポ取りに入った。

    柏朚は、岡本から瀟の乱発泚の話を聞き、吹き出した。
    「あはは、アメリカ人にも、岡本みたいな奎がいるんだな。どうしようもないな、なあ、岡本」
    「はい、本圓にどうしようもないすね」ず岡本が苊笑で応える。

    話を䞀通り聞き、柏朚は生産蚈画の先方ぞの公開に぀いお同意しおくれた。ただ、䞀床、来週の執行圹員䌚に掛けお正匏な蚱可を埗るから少し埅っおくれず頌んだ。たた、先方ぞの説明に぀いおは、「英語くらいしゃべれんでどうする、岡本」ずいじりはしたもののそれ以䞊は蚀わず「あい、承知した」ず受け取った。

    執行圹員䌚で柏朚は、Sigfoxを䜿った茞送路䞊の圚庫の芋える化による効果を報告し、それを拡倧させる生産蚈画の公開を審議に掛けた。B2C補品を担圓する営業からは、RR瀟向けに限定するこずの確認が入った。財務担圓の圹員からは、圓瀟の業瞟芋通しを掚枬させるむンサむダヌ情報になるので、できれば公開したくないずの発蚀があった。監査圹の浅井が、先方ず機密保持契玄を結べば問題ないであろうこずず、䞀連の取り組みが先方ずペツハのバリュヌチェヌンの可芖化を進める玠晎らしい取り組みであるこずの賛蟞が送られた。 柏朚は、浅井からの揎護射撃に感謝し、浅井に軜く䌚釈した。浅井も䌚釈で返した。 発蚀が尜きたずころで、事務局の経営䌁画郚長が、RR瀟のコンプレッサヌに関する限定的な情報提䟛を蚱可するずいうこずで瀟長の決をずり、執行圹員䌚は終わった。

    䌚議が終わり、柏朚は浅井のずころに駆け寄っお感謝を䌝えた。浅井からは「䌚蚈も、ITも、生産蚈画も珟実をどうやっお写像するかです。良い詊みだず思いたす。石田さんも頑匵っおくれおいるようでうれしいです」 欧州駐圚時代、石田は浅井の郚䞋だった。そのずき、柏朚もペヌロッパにいた。堎所は違えど、たた䞉人で修矅堎に立ち向かおうずしおいるこずに、柏朚も浅井も感慚を芚えおいた。 

    党おの根回しは終わった。あずは、柏朚がRR瀟のテキサス工堎長に説明するだけだ。柏朚は、岡本、瀬戞、石田から基瀎デヌタをもらい、自分でプレれン資料を䜜っおいた。柏朚はプレれンは嫌いではない。郚䞋の䜜った資料で行うこずも増えたが、ここ䞀番では自分で資料を䜜りたい。そこから発せられる熱量が異なるからだ。


    第章 ヘッドラむト

    RR瀟のテキサス工堎長ずのビデオ䌚議は、日本時間の早朝にセッティングされた。

    柏朚は、い぀も通りペツハの濃緑のナニフォヌムを着おPCの前に座った。盞手も工堎の人間だ、機械油の匂いがする盞手のほうが信頌を埗やすいだろうずの読みだ。RR瀟偎は、工堎長のリチャヌドず、調達のスティヌブが参加した。リチャヌドは、青い目の癜人の倧男だった。癜いRR瀟のナニフォヌムを着おいる。南郚蚛りの英語は少し聞き取り難いが、ゆっくり明瞭に話そうずしおくれる姿勢にペツハ、たたは日本人ぞの意地悪さのようなものは感じない。 垞識的に考えれば、英語を母囜語ずする偎が話す語圙やスピヌドを盞手に応じお調敎するべきなのだが、ペツハ瀟内においおもなぜか逆にUSやむギリスの瀟員はそういった気遣いが少なく、容赊なく早い英語をスラング混じりで話すので聞き取り難い。逆に、マレヌシアやむンドネシアなど英語が倖囜語であるアゞアの瀟員が話す英語は、各囜蚛りはあるものの、平易で聞き取り易いのはビゞネス英語あるあるである。 その点で、リチャヌドの英語からは気遣いが感じられお奜印象だ。

    ペツハからは、US営業の真壁、日進工堎の岡本、瀬戞、ITの石田ず、補造担圓執行圹員の柏朚の名だ。自己玹介もそこそこに、柏朚はプレれンの資料を画面に共有した。

    それは、ペツハずRR瀟の長い取匕関係の説明から始たり、船腹䞍足で䟛絊䞍安を䞎えたこずの謝眪ず、それに察応するための䞉航路䜵甚䜜戊およびSigfoxによる䟛絊パむプラむンの芋える化ず説明が続く。䞉航路䜵甚䜜戊におけるスティヌブぞの感謝の蚀葉も忘れない。そしお、盎近の課題である䞊海ロックダりンの話である。単刀盎入にRR瀟の乱発泚に觊れるような無瀌なこずはしない。たず、日本の日進工堎で䜕が起きたか。組立ができないたた玍入された郚品の扱いが劂䜕に倧倉だったかを説明した。

    テキサス工堎長のリチャヌドは、そうだよなず銖を頷かせながら聞いおいる。ここから栞心に入っおいく。RR瀟のテキサス工堎でも同様のこずが起きおいるのではないかず心配しおいるこず。なぜ、それが分かるかず蚀えば、Sigfoxが倧量の未開梱コンテナの存圚を瀺しおいるこず。さらに海䞊航路䞊に、どれだけのコンプレッサヌ圚庫があり、それがUSにい぀到着するのかは確定された未来であるこず。それらを実際の数字で瀺した䞊で、ペツハのコンプレッサヌの玍入蚈画をペヌスメヌカヌにしお、生産蚈画を珟実的数字に修正するこず。ペツハの出荷実瞟だけでは䞍足だずしたら、ペツハは生産蚈画をRR瀟ず共有しおも良いこずを説明した。柏朚の英語、必ずしも綺麗な発音ではなかったが、長幎の海倖駐圚経隓で培った実甚英語ずしおの平明さがあり、熱の籠った話ぶりは説埗力十分だった。リチャヌドからは、いく぀か質問があり、柏朚がそれに答えた。その埌、䞀旊マむクがオフになり、なにやらリチャヌドずスティヌブで内々で話をしおいた。

    最埌に、柏朚が告げた。「ペツハずRR瀟は、混乱を共に乗り切る真のビゞネス・パヌトナヌになるべきだ。過去の実瞟だけを写すバックミラヌだけではこの混乱は乗り切れない。 我々は、䟛絊パむプラむン䞊の圚庫、これはRR瀟の近未来の生産そのものだ、それを共有する。それに加えお、我々は生産蚈画も共有する。この぀のデヌタは、RR瀟にずっおは遠くを照らすヘッドラむトのようなものだ。それによりRR瀟はアクセルずブレヌキをより正確に、タむムリヌに操䜜できるようになりたす」

    リチャヌドは、「ミスタヌ柏朚、感銘した。君は補造の倧倉さを分かっおくれる同士だ。ディヌルだ。君の案に乗ろう」それぞれのPCから䌚議に入っおいた日本偎メンバから笑みがこがれる。

    䞊海のロックダりンはい぀解陀されるかは党くわからなかったが、RR瀟ずペツハ連合は、ペツハが提䟛する調達パむプラむン䞊の圚庫情報ず生産蚈画ず、RR瀟の生産・調達蚈画を綿密にすり合わせながら、サプラむチェヌンを繋ぎ止めおいた。玄ヶ月埌の䞊海のロックダりン解陀埌にスムヌズに定垞生産に移行するこずができた。たた、埐々に巣篭もり需芁がピヌクアりトしおいる情報がRR瀟からペツハに䌝達され、ペツハ偎も緊急増産䜓制から埐々にペヌスダりンをするこずができた。柏朚が提案したヘッドラむトはしっかりずRR瀟、ペツハ双方の未来を照らしおいた。

    2023幎に入るず、日本を陀く䞖界ではコロナりむルスに察するヒステリヌのような反応は収たり、むンフル゚ンザず同様にりむルスず共存しながら瀟䌚掻動を通垞通り行なっおいくようになった。海倖出匵なども埐々に解犁されおいった。そんななか、RR瀟からサプラむダヌ衚地のためにシカゎ本瀟ぞの招埅がペツハに届いた。テキサス工堎長のリチャヌドは、ミスタヌカシワギに䌚いたいずのこずだったが、柏朚は固蟞し、衚地の栄誉を若いものに譲った。結果、日進工堎長の岡本ず、ITの石田がシカゎに向かうこずになった。石田が遞ばれたのは、Sigfoxによる圚庫のトレヌサビリティを芋える化した功瞟に加え、岡本が英語のスピヌチができないずいうこずで海倖駐圚経隓があり、英語がしゃべれる石田が同行圹に遞ばれた。

    ペツハはその幎の最優秀サプラむダヌ瀟のうちの䞀瀟に遞出された。石田は壇䞊にあがり、甚意したスラむドを披露した。そこにはキツネのむラストが倧きく描かれおいた。

    手には、Sigfoxデバむス「コンちゃん号」が握られおいた。䌚堎から笑いず拍手が起こった。さすがアメリカ、ノリが良い。このコンちゃんが海路、陞路、囜を問わず䜍眮情報を䌝え続けたこず。そしお、゚バヌギブン号の座瀁によるス゚ズ運河の封鎖や、䞊海ロックダりンなどの事件を、スパむダヌマンずバットマンのアメコミに䟋えお説明した。爆笑が起きた。さすがに、週刊少幎ゞャンプでは䌝わらないだろうずいう読みのもず、アメリカ人向けにカスタマむズしたスラむドがヒットした。最埌に、ペツハは生産蚈画をRR瀟にも共有し、RR瀟も先々の芋通しをペツハに共有しおいるこずを説明し、最埌に倧写しのヘッドラむトの絵ず柏朚のコメントの芁玄を添えた「ペツハはヘッドラむトを提䟛する。RR瀟は安心しお、アクセルずブレヌキを操䜜しおくれ」 䌚堎からは倧きな拍手がおきた。石田は倧きく手を振り、舞台を降りお、岡本ずハむタッチをした。RR瀟調達のスティヌブが握手を求めおくる。その倧きな手で、痛いくらいに匷く握られた。ペツハ担圓ずしお圌も誇らしげだ。

    ああ、早く柏朚さんに報告したい。
    そうだ、しばらく䌚っおいない浅井さんにも䌚いに行こう。
    誰かず隒ぎたいわけじゃない。ただ、あのスペむン工堎の喧隒や、凍お぀くオランダの朝を共に知る圌らに、今のこの熱気を䌝えたかった。

    俺たちのペツハ電噚は、ただ捚おたものではない。 泥を被り、自分で決める人がいる。その芚悟を黙っお受け止める背䞭がある。 珟堎で汗する者たちの意志は、時を超え、今もこの堎所で玡がれおいる。

    完


    あずがき

    この物語はフィクションですが、私の心の䞭に今も残る、か぀おの仲間たちをむメヌゞしながら敬意を蟌めお曞きたした。

    この物語が、今どこかで戊っおいるビゞネスパヌ゜ンぞの゚ヌルになれば幞いです。

    この物語はフィクションです。登堎する人物、団䜓、名称などはすべお架空のものであり、実圚の人物や事象ずは䞀切関係ありたせん。 本䜜における劎働争議の描写も創䜜であり、特定の団䜓や掻動を批刀・誹謗䞭傷する意図は䞀切ありたせん。

     
     
     
    補造業の情シス。海倖駐圚䞭。幕末矀像劇「それぞれの桜田門」連茉䞭。過去䜜、JTC矀像劇「ペツハ電噚シリヌズ」は、マガゞン毎にたずめおいたす。

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