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血判は昔のハンコだったのか?|印・花押・血判から見る「証明」と「誓い」の歴史

    月凪(つきなぎ)

    1. はじめに

    大河ドラマで武将が指を切り、血を垂らす場面を見たことはないでしょうか。

    初めて見た時、私は「昔のハンコみたいなものかな?」と思いました。

    だから朱肉って赤いの?都度指を切ってたの?痛いヤダァ!

    ところが調べてみると、どうも私の想像とは違いました。

    血判について調べ始めたはずなのに、途中から「印」や「花押」まで出てきます。

    ハンコがあって、サインのようなものまであったのなら、なぜわざわざ血まで使ったのでしょうか。

    気になって、日本の文書に使われてきた印・花押・血判が、それぞれ何のために使われたのか調べてみることにしました。


    2. 印―公的な文書を認証するしるし

    日本列島で確認されている古い印章の代表例として、「漢委奴国王」と刻まれた金印があります。

    『後漢書』には、西暦57年に後漢の光武帝が倭の奴国の使者に印綬を与えたことが記されています。現在、福岡市博物館が所蔵する国宝の金印は、この時に与えられたものと考えられています。

    ただし、この金印は中国王朝から与えられたもので、日本国内に印章制度が整っていたことを示すものではありません。

    日本で官印の制度が整えられていくのは、律令国家が形成された時代です。大宝律令では、天皇の内印や太政官の外印、各役所の印などが定められ、公文書の認証や官の権威を示すために使われました。


    ところで、最初に気になった「朱肉が赤いのは血と関係があるの?」という疑問も調べてみました。

    どうやら、これは血判とは関係なさそうです。

    印に使われる朱色は、黒い墨の文字の上でも目立ちやすく、退色や変色が少ないという特徴がありました。また、中国では古くから朱が高貴な色として扱われ、日本の印章文化にもその影響が伝わったと考えられています。

    昔の朱肉には、朱の原料となる丹砂を粉末にして油などと練ったものが使われました。

    血だから赤いわけではなかったのです。


    3. 花押ー武士たちのサイン

    中世になると、武士や公家は花押を使うようになります。

    花押は、名前の文字などをもとに図案化された署名です。

    例えば、源頼朝、足利義満、徳川家康などもそれぞれ独自の花押を持っていました。

    興味深いのは、花押が一生同じとは限らなかったことです。

    同じ人物でも、改名や立場の変化などに伴って花押を変えることがありました。

    花押の形の変化は、歴史研究でも文書の年代を考える手がかりの一つになります。


    4. 血判ー命を懸けた誓約

    一方、強い誓約を示すために使われたのが血判です。

    中世以降、神仏に誓いを立てる「起請文」などに血判が加えられることがありました。

    起請文には、誓いに背けば神仏の罰を受けるという内容が記されることがあります。血判は、その誓約をさらに強く示すために、自らの血を文書に付ける行為でした。

    つまり、血判そのものが「神仏の罰」を意味していたというより、神仏への誓いに、自分の身体から出た血まで添えたのです。

    実際、1582年に徳川家康が北条氏規へ宛てた起請文には、家康の花押があり、その花押には血判が捺されています。

    つまり家康は、花押だけで終わらせず、そこにさらに血判を加えていたのです。

    花押だけでも本人の署名になるのに、なぜさらに血判まで必要だったのでしょうか。

    調べてみると、花押と血判は同じ役割を持つものではありませんでした。

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    5. 実は役割が違った

    ここまで調べると、印・花押・血判は、古いものから新しいものへ単純に置き換わったわけではないことが分かります。

    印は、公的な文書の認証や権威を示すために使われました。

    花押は、本人が記した署名として使われました。

    そして血判は、起請文などの誓約をさらに強めるために加えられました。

    しかも、先ほど見た徳川家康の起請文のように、花押と血判が同じ文書に使われることもありました。

    三つはどれかがどれかの代用品だったのではなく、それぞれ異なる役割を持っていたのです。


    6. 歌舞伎や大河ドラマを見る目が変わる

    歌舞伎や時代劇で血判が登場すると、それだけ重い誓いであることが視覚的に伝わります。

    一方、文書に花押や印があれば、それが誰によるものなのか、どのような立場から出された文書なのかを見る手がかりになります。

    何気なく見ていた文書のシーンも、意味が分かると面白さが増します。


    7. おわりに

    最初は、血判を「昔のハンコみたいなものかな?」と思っていました。

    しかし調べてみると、印もあれば、花押もありました。それなのに、強い誓いを立てる時には、さらに自分の血まで使うことがあったのです。

    印は公的な文書を認証するために使われ、花押は本人の署名として使われる。そして血判は、起請文などの誓約をさらに重くするために加えられる。

    同じ文書に花押と血判が残っていることがあるのも、二つの役割が違っていたからでした。

    大河ドラマで何気なく見ていた血判から調べ始めたのに、気づけば「昔の人は、どうやって本人であることや約束の重さを示していたのか」というところまで話が広がっていました。

    次に血判の場面を見たら、私はたぶん「昔のハンコだ」とは思いません。

    「花押まであるのに、血まで付けたんだな」と思って見る気がします。


     
     
     
    Beyoncé、日本の歴史や文化、人の心や社会など、気になったことを調べて書いています。 「知るとちょっと見え方が変わる」読み物を。 憲法を物語で考える『憲法王国』も連載中です。 リンク集🔗https://lit.link/tsukinagi_moon

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