
謎を脱いだら
Come Out And Play / OFFSPRING
Smells Like Teen Spirit / NIRVANA
Loser / BECK
なんだかよくわからない「謎」なものにばかり惹かれていた時代があった。
90年代に夢中で観たMVは、どれも階調反転したり下からライトを当てたり、昔の荒い映像を挿入したりしていて、そのせいでアーティスト本人のイメージがはっきりしない。
物語性や意味を明確に持たせないことで、謎めいた雰囲気や不気味な空気を作り出していた。こうやって文字にしていても自分でよくわからないが、その「よくわからなさ」が「カッコいい」と思っていた。
だけどアーティストも生身の人間。
売れるほど露出は増える。歯並びやらO脚やらのコンプレックスも撮られて映し出される。寡黙だったはずが長尺のインタビューに答えるようになる。笑わずに記者を睨んでいたはずが、ワハハと笑うようになる。
そして年をとり、変化する。
謎は徐々になくなっていく。
恐ろし気だったOFFSPRINGはすぐに、カリフォルニアの陽キャ軍団というイメージに変わった。ドレッド頭のデクスターは理数系の秀才だった。サマソニで観たステージはエネルギッシュで陽の気に満ちていた。
カート・コバーンは謎が残るうちに世を去ったが、デイヴが始めたフー・ファイターズは30年経ってもデカいステージでパワフルにやっている。オッサンむき出しの今、新たな魅力を発揮しているように見える。
一番イメージが変わったのはBECKだ。
あの、観る者を煙に巻くような訳の分からない『Loser』のMV。
ローファイ、宅録、オタク臭漂うひねくれた青年。
そんな彼が2001年のサマソニで観せたステージは、まさかのエンタメ感満載で心底驚いたが、とんでもなく楽しかった。
その後、月日が流れるなかでヒップホップだったりアコースティックだったり色んなカラーの作品を出し、いわゆる玄人好みのミュージシャンになった感のあるBECKが、40後半になって『Colors』というキラキラしたポップアルバムを出すと誰が予想しただろうか。
私は同じ人に2度恋をした気分になった。
昨年NHKホールで観たBECKは、細身にスーツでハットを被ってクルクルと踊るキュートな王子様だったが、大人になった2人の子供の父であり、私と1歳違い。ちゃんと年はとっている。
かつて幾重ものカラフルな謎につつまれていたBECKに、謎めいたベールはない。
そこに今を生きている「人間」BECKがいた。
直前のセトリにはなかった『Up All Night』のイントロが始まったとき、
歓喜のあまり私は奇声を上げ、通路に飛び出さんばかりにジャンプしていた。
年をとる過程で手放したものは私にもたくさんある。ふりかえるだけになった宝物もある。
それでも涙が出る。血が熱くなる。自分の体の中でまだ青春が暴れている。
「謎」を脱いだとき、もういちど心から好きと叫びたくなる経験に、
人生でいくつ出会えるものだろうか。
だから私は去年のBECKを忘れられない。
[完]