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Photo bypandanokabu103

ハンバーグ定食というもの。

    松屋に行く。
    僕は決まってハンバーグ定食を食べる。
    友人たちは決まってその光景を好奇の目で見る。

    無理もない。
    お金のない僕たち大学生にとって安さとスピードを兼ね備えた牛丼だけが唯一の味方。そんな中で時間もかかり、尚且つ1000円を超えてくるこのメニューは中々選ばれないだろう。

    しかし、僕の中で松屋といえばハンバーグ定食なのだ。
    話は18年前に遡る。



    昔、住んでる近くにおもちゃ屋があった。
    店に入ると、いつも決まって足歩行の大きなキリンがお出迎えしてくれた。
    そして、決まってあの人は僕に小さなミニカーを買い与えてくれた。トミカより少し高い海外製のやつ。
    「母さんには内緒だぞ?」
    そう言って。

    その向かい、大きな国道を挟んだちょうど反対側に松屋があった。おもちゃ屋の後は松屋に行く。僕たちの中ではその流れが定番だった。
    小さかった頃、母は僕に外食をさせるのを酷く嫌がった。
    そんな母の優しさに反して私は外食が大好きだった。
    大変な親不孝者である。

    あの人はいつも決まってハンバーグ定食を頼んでいた。
    ハンバーグ定食といったが、正確にはハンバーグエッグ定食。ハンバーグ定食に目玉焼きが乗った少し豪華なあれ。

    当時の値段は知らないが、今だと目玉焼きがあるかないかで100円も違う。なんて世の中だ。お金のない私は迷わず、"目玉焼き無し"を選んでいる。





    そんな父は僕が物心がつき始める前に亡くなった。
    確か癌だったと記憶している。
    晩年はずっと病弱でずっと床に臥していた。

    もう随分と前のことになる。
    僕と沢山の秘密を共有した父の顔や声は日に日に薄れていく。今は思い出すことも少なくなり、記憶の片隅に残る程度。


    しかし、なんとも不思議なことに松屋のハンバーグ定食を食べるその間だけは記憶が鮮明に蘇ってくる。味もあの頃から変わっているだろう。足繁く通った店も今は残っていないはずだ。
    縁もゆかりもない東京の松屋で、あの頃を重ねる。

    買ってもらったばかりのミニカーで遊ぶ僕。
    その隣でハンバーグエッグ定食を食べる父。
    時折、私に食べさせてくれる。

    美味そうに食べる僕を見て
    記憶の父は、いつもぎこちない笑顔で微笑んでいた。



    今日も
    松屋に行く。

    僕は決まってハンバーグ定食を食べる。
    隣に座る後輩が好奇の目で見ている。

    「なんですかそれ。」

    「ハンバーグ定食。」

    「初めて見ました。」

    「一口食うか?」

    「良いんですか!?」

    そう言って、彼は一口というには少しばかり大きいハンバーグをとって口に運んだ。

    「美味いだろ?」

    そう言うと、僕はぎこちなく笑った。


    (おわり)

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