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Photo bymomoro66

こむぎさん日和⑬

    きっと旦那さんも
    こんなふうに最期を戦っていたんだろうな。

    駆けつけた時、上半身裸で、
    少しのけ反るような体勢だったな。


    電気ショックこそなかったが、
    先生はこむぎさんに
    心臓マッサージを続けていてくれていた。

    黙っているのがいたたまれず、口を開いた。

    「…もう、難しいですか。」

    「そうですね…。
    もしかしたら、
    もう、かなり限界だったのかもしれませんね。
    今2分ほど経過してますが、
    ちょっと戻る様子がないですね。」

    2分。

    もっと永く感じた。

    1秒1秒を、肌で感じるような永い時間。

    先生はマッサージを続けてくれている。

    こむぎさんを見る。

    もう…
    もう、来たんだ。

    覚悟を決める時が。

    口を開いた。

    「もう…いいです。終わりにしてあげてください。」

    命を諦めたい訳じゃない。

    だけど、これまでの経験から、
    命を延ばすだけが
    幸せじゃないことも知っている。

    先生が手を止めた。

    時計を見て、
    時間を言ってくれたけど、耳に入らなかった。

    「こむぎさん、💩出てるから、
    キレイにしてからお返ししますね。」

    また、待合へ。

    ソファに座る。
    泣けてくる。
    こむぎが死んでしまった。

    しばらくすると、
    看護師さんがむぎを抱いてきた。

    「お母さん、
    今日まで、ほんとうによく頑張られましたね。
    私たちみんな、
    こむぎちゃんが大好きでしたよ。」
    と、言ってくれた。

    「ありがとうございます…」

    他に、言葉がみつからない。

    「また、今後のことで
    何かお困りなことがあったら、
    いつでも相談してくださいね。」

    頭を下げて、車に乗った。


    「家に、帰ろうね。」

    まだ寝ているであろう息子が居る家。


    “ごめん。むぎさっき病院で亡くなっちゃった“
    “今から連れて帰る“

    いきなり連れ帰って
    死んじゃったと言うよりいい気がして
    LINEした。

    帰り道を半分行ったくらいのとこで、

    “分かった“
    と、返信が来た。


    家に着いて、
    「お家に着いたよ〜。」と、むぎを抱き上げる。

    まだほんのり温かい。

    玄関を開けて中に入る。
    1階は出てきた時と変わらなかった。

    でも、全然違うようにも見えた。

    まだ2階か。

    わたしは階段の下から。

    「帰ったよー。」
    声をかける。


    しばらくむぎを抱いたままソファに居たけど。

    来ない。

    え?
    こんな時なのに?

    なんかちょっと
    イラッとしそうになってもう一度、

    「おーい」

    と、声をかけた。
    するとすぐ、

    「分かってる!」

    ちょっと、強めの声が返ってきた。


    なんとなくそれで
    来ない理由が分かった気がして。

    こむぎと一緒に待つことにした。


    ドン。
    ガチャ。 
    トントン。

    息子がロフトベッドから降りて、
    ドアを開け、
    階段を降りる音が聞こえた。

    やがて、ちょっと仏頂面の息子が降りてきた。

    わたしはソファの隣りを案内して、
    「抱いてあげて。」
    と、むぎをそのまま渡した。

    「今日、パパの命日。」
    「うん。被ったね。」

    気づいてないと思ったから言ったのに、
    気づいていた。


    病院へ行ったこと。
    お会計の時のこと。
    車で倒れて、
    心臓マッサージをしてもらったこと。

    起きたことをそのまま話した。


    ぼろぼろぼろ。
    息子の目から、涙が溢れ出た。

    わたしは知っている。
    この涙を。

    旦那さんの時にも、
    息子はこんなふうに泣いていた。

    あの時は、手を握るしかできなかった。

    わたしは息子を抱きしめた。
    髪を撫でて、手を握った。

    「悲しいね。
    たくさん、泣いていいんだよ。
    こむぎさん、お兄ちゃんのこと、
    大好きだったもんね。
    いつも、お兄ちゃんがソファに座ると
    必ず隣に行って、くっついてたもんね。」

    ちょっと、何を話したかちゃんと
    覚えてないんだけど、
    たぶんこんな感じのことを言っていたと思う。


    ひとしきり泣いて。
    と言ってもそんな長くないかな。

    少し黙って過ごして。

    「…シャワー浴びてくる。」

    息子が立ち上がった。

    学校、行くのかな。

    病院でキレイにしてもらった💩が
    また少し出ていて、
    手についたので洗うため、
    むぎをベッドに寝かせた。


    寝てるみたい。
    旦那さんの時も、思ったこと。


    シャワーを浴びた息子が降りてきた。

    学校に行くの?と聞くと、
    どうしようかな、と迷っていた。

    まだ、朝ごはんを食べていなかった。

    朝もこむぎのオシッコを
    浴びたりしていたので、
    わたしも食べてなかった。

    お腹すいたな。

    「とりあえず朝ごはん食べようか。
    なんもないから、コンビニに行ってくるよ。」

    淡々と、家を出た。

    旦那さんの時と違う。
    旦那さんの時は悲しい、
    とかの感情もなく、
    何をしていいか分からなかった。

    でも今は、悲しい。

    悲しくて、悲しくて、辛い。
    でも目の前に居る息子にも、自分にも、
    ご飯を食べさせてあげたかった。


    今のわたしは知っている。

    大好きな存在が亡くなっても、
    何事もなかったかのように
    わたしたちの人生は続いていく、
    ということを。


    だから大丈夫。
    いま、できることをしよう。

     
     
     

    mikko

     
     
    40代後半死別シングルマザー。 アルコール依存で病気になった旦那さんを亡くし、高校生の息子とフレンチブルドッグのこむぎさんと暮らしてます。 人生に迷ったのをきっかけにCITTA手帳に出会い、ずっと自分になかった自己を肯定するチカラを育てています。

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