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私の好きな、息子のぽっこりお腹  【文藝大賞2026参加作品】

(本文はここからです)
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画面で流れていたのは、海外の過激なDNA鑑定番組だ。浮気疑惑を巡る夫婦の罵り合いに沸く観客。

VTRの中、金髪の綺麗な少女がコアラのように全身で父親にしがみつき、抱っこをねだっている。誰が見ても疑いようのない、愛に溢れた親子の光景。

しかし、司会者の「あなたは父親ではありません」の一言で空気が一変する。

崩れ落ちる夫の顔から、娘に向けられていた愛おしさが消え去る。血の繋がりがないと判明した瞬間、彼はあんなに愛らしかった娘を冷酷に切り捨てる。

愛情が一瞬で裏返るその氷のような表情は、人間の残酷さそのものだった。

カメラが追わない少女の未来を想像した。今夜、あの子は誰の隣で眠るのだろう。画面の向こうの冷酷なリアルに、胸の奥が冷たく冷え切っていく。

◇

動画が暗転し、冷めきったスマホ画面に自分の青ざめた顔が映る。悪寒に突き動かされるように、私は弾かれたように立ち上がっていた。

リビングのソファで息子がダラダラと転がっている。吸い寄せられるように駆け寄り、Tシャツをめくってその丸いお腹に顔をうずめ、両手で揉みしだいた。

手に伝わるのは、発酵したパン生地のような温かい肉の感触だ。呼吸に合わせて小さく上下するその丸みは、ただそこに命が生きているという、何より確かで無垢な温もりだった。血が繋がっているから愛するのではない。この温もりがあるからこそ、血の繋がりさえも愛おしくなるのだ。

「うわっ、手ぇ冷たい! なにするの!」

バタバタ嫌がる息子の腹は、私と同じぽっこりお腹だった。血縁の残酷さに人生を狂わされる人がいる一方で、私はこの情けない体型という遺伝を、狂おしいほど愛おしく思っていた。

「え? また出たかな? ママに怒られそう?」

腹をさする息子に、私は真顔で告げる。

「ぽっこりお腹検定一級の父として……ギルティ!」
「え〜!? 踊らなきゃ!!!」

そう叫ぶなり、息子は「ソーラン、ソーラン!」とお腹を叩きながら謎のダンスで襲いかかってきた。私も思わず「あ、どっこいしょ〜どっこいしょ〜!」と合いの手を入れる。……だが息子よ、ソーラン節にそんな激しく腰を振る動きはない。

お互いに腹を抱えて吹き出したとき、さっきまで感じていた冷たさはもうどこにもなかった。他人の悲劇に冷え切っていた私の心を解かし、温かい現実に繋ぎ止めてくれたもの。

これが、私の好きな、息子のぽっこりお腹だ。

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本文ここまで(977文字)

こちらの企画に参加させて頂きました。


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