河童
沼から河童が現れた。
紛れもなく河童だった。
「ああ、そうだよオイラは河童だよ。いまアンタが思ったとおりにね。」
どうやら河童は人の心が読めるらしい。
「何しに出てきたんだ?おれの尻子玉でも抜こうってのか?え?」
とわたしは河童に問うた。
「尻子玉なんて抜かないよ。そんなことをするのはオールドスクールのロートル河童さ。
オイラはモダンな河童なのさ。」
と河童は答えた。
「じゃあ一体何をしに現れたんだ?」
「いやいや、オイラもたまに水の外に出て、空気を吸わないといけないんだよ。えら呼吸じゃなくて、肺呼吸なんだ。人間の河童研究はぜんぜん進んでないんだな。しょうもない。」
と河童は吐き捨てるように言った。
わたしは呆気に取られながら、しばらく河童を眺めていた。
「しかし、尻子玉は取らないにしても、人間と鉢合わせたからには、何かを取らなきゃいけないな。それが河童界のルールなんだ。」
と河童は言った。
わたしは身構えた。
「何を取ろうってんだ。こちらもただでは何もさせないぞ。」
「そうだなぁ、お金は河童界には必要ないし、アンタの名前を取ることにしよう。」
「な、名前だって?!」
「そうだよ、アンタは今から名前のない(ななし)になるのさ。」
そうして、わたしは名前をもたない(ななし)になって、誰からも名前を呼ばれなくなり、わたし自身もわたしの名前を忘れ、尻子玉を抜かれ溺れることは無くても、社会的に「腑抜け」にされたのであった。
おしまい。
