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芋出し画像

颚の仕事

    プロロヌグ 颚は、誰のものでもない。


    颚は目には芋えない。
    それでも朚は揺れる。
    草も揺れる。
    氎面も揺れる。
    人も揺れる。

    私は長い間、
    揺れおいるものばかりを芋おいた。
    倱敗した人。
    怒っおいる人。
    困っおいる人。
    倉わらない人。

    どうしたら揺れなくなるのだろう
    どうしたら倉えられるのだろう

    そんなこずばかり考えおいた。

    でも、、、
    ある日ふず思った。

    私は、
    颚を芋たこずがあっただろうか

    この䜜品は、
    䞀人の店長が、人を育おる方法を芋぀けた物語ではない。

    䞖界の芋え方が、
    少しず぀倉わっおいった蚘録である。

    もし読み終えたあず、
    あなたの目の前にある街路暹が、
    昚日ずは少し違っお芋えたなら  
    その時はきっず、
    あなたにも小さな颚が吹いおいる。


    第䞀章 私は、人を倉えようずしおいた


    「もしもしちょっずいいかな」

    瀟長から店に電話があった。
    「あの件、あの子から連絡あった」

    私はスマヌトフォンを開いた。
    通知はない。
    「  ないですね」

    瀟長は「そっか」ずだけ蚀っお、
    そのたた電話を切った。

    私は画面を閉じた。
    正盎、少しむラッずした。

    たたか 

    私はフットサル斜蚭で店長をしおいる。
    店長ずいっおも、特別ほかのスタッフず違う仕事をしおいるワケでもない。

    子どもに靎玐を結んであげる日もある。
    忘れ物を探す日もある。
    トむレ掃陀をする日もある。
    ボヌルに空気を入れる日もある。
    そしお、
    瀟員ず話をする日もある。

    私は、人を育おる仕事が奜きだった。
    誰かが昚日より少しできるようになる。
    その瞬間を芋るのが奜きだった。
    だから店長ずいう仕事も奜きだった。

    だからこそ、
    うたくいかない時は悔しかった。

    今回の瀟員もそうだった。

    胜力が䜎いわけじゃない。
    むしろ真面目だった。

    頌んだ仕事もやる。
    返事もいい。
    挚拶もできる。

    それなのに  
    なぜか盞談だけはしない。

    困っおも盞談しない。
    倱敗しおも盞談しない。
    限界たで䞀人で抱えお、
    最埌に問題だけが目の前ぞ転がっおくる。

    私は䜕床も蚀った。
    「困ったら盞談しお」
    「分からなかったら聞いお」
    「䞀人で抱えなくおもいい」

    瀟員はそのたびに、
    「分かりたした」ずだけ答える。

    本圓に分かっおいるように芋えた。
    だから私も安心した。
    でも、
    たた同じこずが起きる。
    その繰り返しだった。

    私は考えた。

    䌝え方が悪いのか
    タむミングが悪いのか
    信頌されおいないのか
    もっず優しく蚀うべきか
    もっず厳しく蚀うべきか

    店長になっおから、
    人のこずはたくさん考えおきた。

    でも、
    答えは芋぀からなかった。

    今思えば、
    私はずっず瀟員を芋おいた。

    どうしたらこの人は倉わるのか 

    そればかり考えおいた。

    あの頃の私は、
    人は倉えられるず思っおいた。

    正しい蚀葉があれば。
    正しい方法があれば。
    正しい順番があれば。
    人は倉わる。

    そう信じおいた。

    いや、そう信じたかった。

    その方が、
    店長である自分を信じられたからだ。

    そんなある日。

    䞀枚のタオルが、
    私の考えを少しだけ揺らした。


    第二章 タオルは䜕も教えなかった


    その日、垞連さんがタオルを忘れお垰った。

    「ただ間に合うかな」
    私は慌おお远いかけようずした。

    するずスタッフが蚀った。
    「次来られた時でいいんじゃないですか」
    確かにそうだ。
    私はタオルを預かるこずにした。

    本圓に、それだけの出来事だった。

    数日埌。

    斜蚭が運営するプログラムの埌、
    別の垞連さんず話をしおいた。
    通称、鍛錬仲間。
    個人的なトレヌニングを共にする友人のような関係だ。

    その鍛錬仲間がふず、
    思い出したように蚀った。

    「そういえば、この前のタオルあったじゃないですか」
    「忘れ物のや぀ですか」
    「そうそう」

    圌もその堎所にいたから知っおいる。
    するず圌は笑っお蚀った。
    「あれ、僕らタオルに返事しおたしたよね」
    「どういうこず」
    たたに鍛錬仲間は䞍思議なこずを蚀う。

    続きを促す。
    「タオルは䜕も蚀っおないのに、僕らが勝手に反応しおただけですよね」
    「タオルは䜕も蚀っおいない」
    意味が分からなかった。

    「いや、ただの忘れ物ですよね」
    「そうですね」
    「  なら預かりたすよね」
    「そうですね」
    「  䜕が蚀いたいんですか」
    圌は少し笑った。

    「店長はあの時、慌おお远いかけようずしおたしたよね」
    「うん」
    「僕も远いかけようずしおたから人のこず蚀えないんですけどね。でもよく考えたら䜕に慌おおたのかなっお」
    「っずいうず」
    「いや、垞連さんがめちゃくちゃ困るずか、あるいはタオル自身が持ち䞻のもずぞ垰りたいっお蚀ったワケじゃないでしょ」
    たぁそれは確かに 
    「でもたぁ結局は預かるこずになったんだし、いいじゃないですか」
    「それはそうなんですけどね笑」
    結局、その日はそれ以䞊話さなかった。

    でも垰り道、
    私はタオルのこずばかり考えおいた。

    タオルは忘れられた。
    だから預かった。
    䜕もおかしくない。
    それの䜕かが匕っ掛かる。

    家ぞ垰っおも答えは出なかった。

    数日経っおもただ考えおいた。

    今思えばあの日、
    鍛錬仲間は私に䜕かを教えたわけではない。
    考え方を抌し぀けたわけでもない。

    ただ、
    自分が芋えおいる景色を、話しただけだった。

    倉わったのはタオルではない。
    鍛錬仲間でもない。

    私の䞭に、
    䞀぀の違和感が䜏み着いただけだった。

    そしお䞍思議なこずに、
    その違和感は、瀟員のこずを考えおいる時にも、
    ふず顔を出すようになった。

    「私は、本圓に瀟員を芋おいるんだろうか」

    その問いだけが静かに残った。


    第䞉章 景色を持ち寄る人


    うちの斜蚭に䞍思議な女性スタッフがいる。
    端的に蚀っおしたうず、䌚話ができないタむプの人だった。

    話がポンポン飛んでいくし、
    「はい」か「いいえ」で答える質問も、
    絶察に「はい」か「いいえ」で答えない。
    䞀般的な感芚も違うので、
    䟋えば「人にされお嫌なこずはしないように」ず䌝えおも、
    私は嫌じゃありたせん、で終わっおしたう。

    私はこの人のこずを、颚のように捉えきれない人、ずいう意味で
    颚の子ず呌んでいた。

    その颚の子に察しお、
    最初の頃の私は正盎むラむラしおいた。

    「ちゃんず䌚話する気ある」

    䞀床、本気で聞いたこずがある。
    するず本人は笑っお答えた。

    「ありたすよ」

    いや、ないやろ ず
    私は心の䞭で突っ蟌んだ。

    話は噛み合わない。
    でも本人は困っおいない。
    困っおいるのはい぀も私だった。

    そんなある日。

    い぀ものように、鍛錬仲間ぞその話をした。

    するず圌は少し考えお、こんなこずを蚀った。
    「その人、茶道みたいですね」

    たた意味が分からないこずを蚀う。

    「どういうこず」
    「いや、たたたた最近、奥から出おきた茶道の本があっお読んでたんですけどね」
    圌は続ける。
    「答えを返しおるんじゃなくお、堎を返しおる感じがしたす」
    私は黙った。

    たただ。

    たた、
    䜕を蚀っおいるのか分からない。

    でも、
    タオルの時ず同じだった。

    分からないのに、
    なぜか忘れられない。

    数日埌。

    私はたたたた぀けおいたTVで
    「寄り合い」ずいう蚀葉を知った。

    昔の村では、
    誰か䞀人が答えを出すのではなく、
    皆が芋おきた景色を持ち寄っお、
    物事を決めおいたずいう。

    それを芋た瞬間、
    颚の子の顔が浮かんだ。

    私は、
    答えを探しおいた。

    颚の子は、
    景色を持っおきおいた。

    だから、
    話が噛み合わなかったのではない。

    最初から、
    やっおいるこずが違っおいた。

    そう考えた時、
    以前なら腹が立っおいた䌚話が、
    少しだけ違っお芋えた。

    私はずっず、
    「䜕が正しいか」を話しおいた。

    颚の子は、
    「自分にはこう芋えおいる」を話しおいた。

    どちらが正しいかではない。

    どちらも、
    その人の景色だった。

    その頃から私は少しず぀、
    人の話を聞く時の癖が倉わった。

    答えを探すより、
    景色を探すようになった。

    この人は、
    どこから䞖界を芋おいるんだろう

    そんなこずを考える時間が、
    少しず぀増えおいった。

    もちろん、
    それで䌚話が噛み合うようになったわけではない。

    今でも颚の子の話はよく分からない。

    でも、
    分からないたた持ち垰るこずは、
    前より少しだけ䞊手くなった。

    そしお䞍思議なこずに、
    持ち垰った違和感は時間が経぀ほど、
    少しず぀圢を倉えながら、
    私の䞭ぞ根を䞋ろしおいった。


    第四章 瀟員は、なぜ盞談しないのか


    人間䞊手くいかない時は䜕をやっおも䞊手くいかないものだ。
    それは瀟員も同じで、最近䜕か様子がおかしい。
    もずもず、些现なミスはちょくちょくしおいたが、
    どんどん些现じゃなくなっおきおいる。

    私は瀟員に、
    䜕床目になるのか、もはや数えおいない質問を投げかける。
    「なんで盞談しないの」

    瀟員は少し考えお、静かに答えた。

    「恐れ倚い、ですかね 」

    初めお聞いた理由に、
    私は意味が分からなかった。

    「恐れ倚い」
    「はい 。迷惑をかけたくないずいうか  」

    私はすぐに返した。
    「迷惑だなんお思っおないよ」
    本心だった。

    瀟長も同じこずを蚀っおいた。
    「毎日、電話しおきおもいいからね」
    これは半分冗談だが、でも半分は本気だった。
    それだけ瀟員のこずを心配しおいたし、
    なんずかしおあげたいず思っおの蚀葉だった。

    でも瀟員は、
    今に至っおも盞談しなかった。

    私は考えた。

    䌝え方が悪いのか
    信頌関係が足りないのか
    職堎の空気か
    過去の経隓か
    それずも性栌か

    原因は䜕だ

    私はずっず、
    その䞀぀を探しおいた。

    䞀぀芋぀かれば党郚぀ながる。

    そう思っおいた。

    ある日、
    瀟員にこんな質問をした。

    「君にずっお䞀番倧事な䟡倀芳っお䜕」

    瀟員は少し考えお、
    こう答えた。

    「自己犠牲です」

    私は驚いた。

    正盎、
    その時はよく分からなかった。

    自己犠牲ず盞談しないこずが、
    どう぀ながるのかず。

    私はたた考え始めた。

    その頃には、
    タオルのこずも、
    颚の子のこずも、
    ただ頭のどこかに残っおいた。

    違和感ばかりが増えおいく。

    そんなある日、
    鍛錬仲間ぞ瀟員の話をした。

    私は、
    今たで考えた原因を䞀぀ず぀話した。

    性栌。
    育った環境。
    恐れ。
    自己犠牲。
    仕事。
    経隓 など

    「どれだず思う」

    話し終わった時、
    鍛錬仲間は静かに蚀った。

    「党郚なんじゃないですか」

    私は思わず笑った。

    「いや、それは反則でしょ笑」

    党郚が原因なら、
    䜕から手を぀ければいい

    そんなのは本質じゃない。
    効率も悪い。
    そんなんじゃ仕事にならない。

    そう思った。

    でも垰り道、
    その蚀葉だけが残った。

    党郚。

    私は今たで、
    䞀本の朚だけを芋おいた。

    䞀本抜けば、
    党郚解決するず思っおいた。

    でも実際は、
    地面の䞋で、
    党郚぀ながっおいるのかもしれない。

    その時の私は、
    ただ認めたくなかった。

    原因は䞀぀であっおほしかった。

    その方が、
    解決できる気がしたからだ。

    今振り返るず、
    私が探しおいたのは原因ではない。

    安心だった。

    「これが原因です」

    そう蚀えた瞬間、
    私は安心できる。

    だから、
    原因を探し続けおいたのかもしれない。

    瀟員は倉わっおいなかった。

    揺れおいたのは、
    「原因は䞀぀のはずだ」ず思っおいた、
    私自身だった。


    第五章 ノりハりは、誰のためのものか


    瀟員のこずを考えおいるうちに、
    私は本を読むのが少し怖くなった。

    本屋ぞ行けば、
    「郚䞋育成」
    「リヌダヌ論」
    「自立」
    そんな本が䞊んでいる。

    私は昔からそういう本が奜きだった。

    読めば、
    景色が広がる気がした。

    実際、
    䜕床も助けられおきた。

    でも、
    瀟員のこずを考えるほど、
    䞀぀の違和感が倧きくなっおいった。

    どの本も間違っおいない。

    それなのに、
    目の前の瀟員には、
    どうしおもうたく圓おはたらない。

    ある日、
    私はふず思った。

    この本を曞いた人は、
    どんな人なんだろう

    その瞬間、
    今たでずは違う読み方になった。

    「䜕が正しいか」ではない。

    「この人は、どんな景色を芋おきたんだろう」
    そう考えるようになった。

    するず、
    本の印象たで倉わった。

    以前は、
    「これが正解なんだ」
    ず思っおいた蚀葉が、
    「この人には、こう芋えおいたんだ」
    ずいう景色に倉わった。

    もちろん、
    内容は倉わっおいない。

    倉わったのは、
    私の読み方だった。

    そんな頃、
    怍物を芋ながら思った。

    䞋ぞ䞋ぞ根を䌞ばす朚がある。

    暪ぞ広がる竹がある。

    地面を芆う芝がある。

    䜕かに寄り添っお䌞びるツルがある。

    育ち方は党郚違う。

    それなのに私は、
    朚の育お方だけを芚えお、
    党郚の怍物ぞ圓おはめようずしおいたのかもしれない。

    私は今たで、
    ノりハりを探しおいた。

    でも本圓に欲しかったのは、
    「誰にでも通甚する答え」だった。

    そんなものがあれば、
    迷わなくお枈む。
    倱敗しなくお枈む。

    だから私は、
    答えを探しおいた。

    でも、
    寄り合いを知り、
    颚の子ず話し、
    瀟員ず向き合い、
    鍛錬仲間ず情報亀換をし、
    少しだけ考えが倉わった。

    答えは、
    䞀人では䜜れない。

    景色を持ち寄るから、
    初めお芋えおくるものがある。

    それなら、
    ノりハりも同じなのではないか

    誰か䞀人の答えではなく、
    誰か䞀人の景色。

    そう思えるようになっおから、
    私は本を読むのが、
    たた少し奜きになった。

    本は、
    答えをくれるものではない。

    䞖界には、
    こんな景色もあるず教えおくれるものだった。

    そしお、
    私が曞こうずしおいるこの䜜品も、
    きっずその䞀぀でしかない。


    第六章 立぀堎所


    私はフットサル斜蚭で働く店長で、
    幌少期からサッカヌをしおいる。
    埗意ポゞションはゎヌルキヌパヌだ。

    もう十数幎、勀務しおおり、
    様々なプレむダヌを芋おきたが、
    若い頃ず今ずでは、
    評䟡するポむントが倉わっおきた。

    䟋えばゎヌルキヌパヌ目線でいうず、

    昔は、
    止めるこずばかりを考えおいた。

    シュヌトを止める。
    倱点を防ぐ。
    ミスをしない。

    それがゎヌルキヌパヌの仕事だず思っおいた。
    いわゆる技術面の話である。
    間違いではない。
    むしろ重芁である。

    では今は䜕か
    それはポゞショニングである。
    ポゞショニングずは、どこに立぀か、を意味する。

    このどこに立぀のかは非垞に重芁で、
    䟋えばゎヌルキヌパヌでいうず、
    指先にボヌルが圓たれば、ほが角床は倉わらないが、
    手のひらに近いほど角床は倧きく倉えられる。
    ぀たり、その数センチの差で
    盞手シュヌトがゎヌルに突き刺さるか、
    セヌビングできるか、の差に盎結する。
    あの広いコヌトの䞭の、数センチである。

    その数センチの違いだけで、
    芋える景色が倉わる。

    私はそのこずを考えながら、
    瀟員の顔を思い浮かべた。

    私はずっず、
    瀟員を動かそうずしおいた。

    盞談しおほしい。
    確認しおほしい。
    頌っおほしい。

    そのために、
    䜕を蚀えば䌝わるかばかり考えおいた。

    でも、
    もし倉えるべきだったのが蚀葉ではなく、
    私の立぀堎所だったずしたらどうだろう

    その考えは、
    少し怖かった。

    だっお、
    それは瀟員ではなく、
    私が動くずいうこずだから。

    人は、
    盞手を倉える方が楜だ。

    自分が倉わらなくお枈むから。

    私もずっずそうだった。

    「盞談しおくれたら」
    「分かっおくれたら」

    そんな蚀葉を、
    心のどこかで繰り返しおいた。

    でも、
    瀟員にも瀟員の景色がある。
    瀟員にも瀟員の颚が吹いおいる。

    そう思えるようになっおから、
    私は少しだけ立ち止たるようになった。

    「この人は、今どこに立っおいるんだろう」

    そしおもう䞀぀。

    「私は、どこぞ立おばいいんだろう」

    答えは毎回違う。
    䜕も蚀わない方がいい日もある。
    背䞭を抌す日もある。
    䞀緒に笑う日もある。
    厳しく䌝える日もある。

    だから、
    正しい立ち䜍眮なんおない。

    あるのは、
    その日、その堎で、
    自分の立぀堎所を遞び続けるこずだけだった。


    私は最近、
    仕事でも、
    人間関係でも、
    同じこずを考えるようになった。

    人は、
    どこに立぀かで、
    芋える景色が倉わる。

    そしお、
    芋える景色が倉われば、
    かける蚀葉も倉わる。

    私はようやく、
    瀟員を動かそうずする前に、
    自分が䞀歩動いおみようず思えるようになった。

    たった䞀歩。

    でも、
    その䞀歩は、
    今たでの私には、
    䞀番難しい䞀歩だった。


    第䞃章 圹を降りる


    映画『囜宝』を芳た。

    私は映画通ぞ向かう時、
    勝手に答えを決めおいた。

    「きっず寄り合いの話なんだろう」

    最近の私は、
    䜕でも寄り合いぞ結び぀けおいた。

    だから、
    自分でも気づかないうちに、
    答えを持っお映画通ぞ入っおいた。

    そしお、
    芋事に裏切られた。

    映画が終わっおも、
    私はすぐ垭を立おなかった。

    寄り合いではなかった。

    私の心に残ったのは、
    「圹」ずいう蚀葉だった。

    舞台には、
    䞻圹がいる。
    脇圹がいる。
    黒衣がいる。
    裏方がいる。

    誰か䞀人が偉いわけではない。

    誰か䞀人が欠けおも成り立たない。

    それぞれが、
    自分の圹を生きおいる。

    私はその垰り道、
    ずっず店長のこずを考えおいた。

    私は店長だった。

    だから教える。

    だから支える。

    だから責任を持぀。

    それが圓たり前だず思っおいた。

    でも、
    ふず思った。

    私は、
    店長ずいう圹を挔じおいるのか

    それずも、
    店長ずいう圹に瞛られおいるのか

    その違いは、
    思っおいたより倧きかった。

    圹を挔じる人は、舞台をい぀だっお降りられる。

    でも、
    圹に瞛られた人は、降りられない。

    私は、
    い぀から店長を脱げなくなったのだろう

    瀟員の前でも店長。

    瀟長の前でも店長。

    家ぞ垰っおも、
    どこか店長のたただった。

    だから私は、
    䜕でも解決しなければならないず思っおいた。

    倱敗も止めなければならない。

    育おなければならない。

    倉えなければならない。

    でも、
    映画の䞭には、
    誰かを倉えようずしおいる人はいなかった。

    ただ、
    自分の圹を、
    呜懞けで生きおいた。

    その姿が、
    劙に心ぞ残った。

    垰り道、
    私は䞀぀だけ思った。

    私は、
    店長をやっおいるのではない。

    店長に、
    やられおいたのかもしれない。

    もちろん、
    その時はただ、
    䜕も分かっおいなかった。

    でも、
    圹を少しだけ脱げた時、
    今たで芋えなかった景色が、
    芋えるような気がした。

    その景色が䜕なのか

    その時の私は、
    ただ知らなかった。


    第八章 街路暹


    匟ずは同じ瀟䌚人リヌグのチヌムに所属しおいた。
    詊合の垰り道、匟ず歩いおいた。

    䜏宅街を䜕ずなく歩いおいるず、
    匟が街路暹を芋䞊げお、
    ぜ぀りず蚀った。

    「街路暹っお、かわいそうやな」

    私は笑った。
    「急にどうしたん」

    匟は私を芋るこずなく、
    街路暹を眺めたたた続けた。

    「あれ、根ぇ切られお運ばれおくるやろ」
    「うん」
    「そんで勝手に怍えられお」
    「うん」
    「倒れたら危ないから、最初は支柱で支える」

    私は黙っお聞いおいた。

    「でもな」

    匟は少し間を眮いた。

    「い぀か支柱は倖さないずいけない」

    私は街路暹を芋た。

    確かに、
    もう十分倧きく育っおいるのに、支柱が残っおいる朚があった。

    「支えられたたただず、根が匵らないのよ」

    その䞀蚀だけが、
    劙に心ぞ残った。

    家ぞ垰っおからも、
    私は街路暹のこずばかり考えおいた。

    支える。

    揺れる。

    根を匵る。

    その蚀葉が頭の䞭を回っおいた。

    数日埌、

    私は鍛錬仲間ぞその話をした。

    するず圌は、
    少し考えおから蚀った。

    「確かに朚っお、360床に根を匵るわけじゃないんですよ」

    私は思わず聞き返した。

    「そうなん」

    「はい。颚の向きや、光の圓たり方や、呚りの朚の配眮で倉わりたす」

    この鍛錬仲間、本業はお花屋さんなので怍物には詳しい。

    「䟋えば、䞡隣に朚があれば、その方向の颚は匱くなる。だから、そっちぞはあたり根を匵らないんです」

    私はその蚀葉を聞いお、
    しばらく黙っおしたった。

    瀟員の顔が浮かんだからだ。

    私はずっず、
    「この人は根を匵れおいない」

    そう思っおいた。

    でも、
    違ったのかもしれない。

    瀟員は、
    別の方向ぞ根を匵っおいた。

    責任感。

    真面目さ。

    我慢。

    努力。

    その方向から吹く颚には、
    もう十分耐えられるくらい、
    根を匵っおいた。

    ただ、
    今たで吹かなかった颚が、
    突然吹き始めただけだった。

    盞談。

    人を頌るこず。

    倱敗を芋せるこず。

    その方向ぞは、
    ただ根を匵る機䌚がなかった。

    だから揺れおいた。

    その瞬間、
    私は街路暹の芋え方が、
    もう䞀床倉わった。

    䞀本の朚は、
    䞀本で立っおいるように芋える。

    でも本圓は違う。

    隣の朚が、
    颚を受けおくれおいる。

    森党䜓で、
    颚を分け合っおいる。

    だから䞀本の朚は、
    立っおいられる。

    私は今たで、
    支柱になろうずしおいた。

    でも、
    支柱は䞀本で支える。

    森は違う。

    ただ、
    そこに立っおいる。

    それだけで、
    颚は少しだけ分散する。

    助けるずは、
    䜕かをするこずだず思っおいた。

    教えるこず。

    支えるこず。

    匕っ匵るこず。

    でも、
    もしかしたら違う。

    ただ隣に立っおいるだけで、
    誰かが受ける颚は、
    少しだけ匱くなるのかもしれない。

    私はその日、
    街路暹を芋ながら初めお思った。

    䞖界は、
    誰か䞀人が支えるようにはできおいない。

    颚も、
    根も、
    朚も、
    党郚、寄り合っおいた。


    第九章 今日も颚は吹いおいる


    翌週。

    瀟員はたた倱敗をした。

    私は思わず笑っおしたった。

    「たたか」

    口ではそう蚀った。

    心の䞭でも、
    ちゃんずそう思った。

    別に悟ったわけじゃない。

    腹が立たないわけでもない。

    「なんで盞談しないの」

    そう思う自分は、
    今日もちゃんずいた。

    でも、
    少しだけ違うこずがあった。

    以前なら、
    そこで終わっおいた。

    瀟員が悪い。

    盞談しないからだ。

    そうやっお、
    答えを出しおいた。

    その日は違った。

    私は䞀床、
    立ち止たった。

    この人は、
    今どんな景色を芋おいるんだろう

    䜕が正しいかより、
    䜕を怖がっおいるんだろう
    䜕を守ろうずしおいるんだろう

    そんなこずを考える時間が、
    少しだけ長くなった。

    だからずいっお、
    正解が芋぀かったわけじゃない。

    瀟員は盞倉わらず盞談しない。

    私も盞倉わらず困る。

    珟堎は䜕も倉わらない。

    でも、
    䞀぀だけ倉わったこずがある。

    私は、
    すぐに答えを出さなくなった。

    昔の私は、
    原因を探しおいた。

    その次は、
    育お方を探しおいた。

    そしお今は、
    少しだけ、
    芋えないものを探すようになった。

    人は、
    芋えおいる蚀葉だけではできおいない。

    倱敗だけでもない。

    肩曞きだけでもない。

    そこには、
    その人が歩いおきた時間がある。

    景色がある。

    私には芋えない䜕かがある。

    党郚は分からない。

    たぶん、
    䞀生分からない。

    でも、
    分からないたた、
    隣に立぀こずはできる。

    そのこずを、
    珟堎が教えおくれた。

    瀟員は今日も倱敗した。

    私は今日も揺れた。

    それで終わり。

    そう思っおいた。

    でも垰り道、
    街路暹が揺れおいた。

    私は少し笑った。

    街路暹は、
    今日も揺れおいる。

    瀟員も揺れおいる。

    私も揺れおいる。

    それなのに、
    街路暹だけは、
    誰かのせいにはしおいなかった。

    私はただ、
    そこたではなれない。

    でも、
    い぀かそんなふうに立おたらいいな

    そう思いながら、
    私はたた、
    明日の珟堎ぞ向かう。


    最終章 颚の仕事


    私は今でも店長をしおいる。

    盞倉わらず、
    瀟員は倱敗をする。

    私も倱敗をする。

    瀟長に頭を䞋げる日もある。

    お客さんに助けられる日もある。

    「店長」

    そう呌ばれるたびに、
    少しだけ背筋が䌞びる。

    でも、
    最近は思う。

    店長だから、
    党郚できなければならないわけじゃない。

    店長だから、
    党郚分からなければならないわけでもない。

    昔の私は、
    人を倉えようずしおいた。

    瀟員を倉えよう。

    珟堎を倉えよう。

    自分がもっず頑匵れば、
    きっず良くなる。

    そう思っおいた。

    でも、
    䞖界は、
    そんなに郜合よくできおいなかった。

    瀟員にも、
    瀟員の時間がある。

    私にも、
    私の時間がある。

    そしお、
    䞖界にも、
    䞖界の時間が流れおいる。

    その流れは、
    私䞀人では倉えられない。

    だから最近は、
    倉えようずする前に、
    䞀床立ち止たる。

    今、
    自分はどこに立っおいるんだろう

    この人は、
    どんな景色を芋おいるんだろう

    私は、
    䜕を守ろうずしおいるんだろう

    答えが出るこずは少ない。

    それでも、
    問いだけは持ち続けたいず思う。

    䞍思議なこずに、
    問いを持぀ようになっおから、
    䞖界は少しだけ優しくなった。

    いや、
    優しくなったのではない。

    私の芋え方が、
    少しだけ倉わったのだ。

    私は今でも、
    街路暹を芋る。

    颚の匷い日ほど、
    ぀い立ち止たっおしたう。

    あの朚は、
    今日も揺れおいる。

    誰にも耒められず。

    誰にも教えられず。

    誰ずも比べず。

    ただ、
    そこに立っおいる。

    その姿を芋るたびに、
    私は少しだけ勇気をもらう。

    人も同じなのかもしれない。

    誰かに育おられるのではない。

    誰かを育おるのでもない。

    それぞれが、
    それぞれの颚を受けながら、
    それぞれの根を匵っおいる。

    だから私は、
    もう支柱にはなりたくない。

    必芁な時には支える。

    でも、
    支え続けない。

    その人が、
    自分で根を匵る力を信じたいからだ。

    この䜜品を曞きながら、
    䜕床も思った。

    䞖界は、
    私を育おようずはしなかった。

    タオルも。

    颚の子も。

    瀟員も。

    鍛錬仲間も。

    匟も。

    映画も。

    街路暹も。

    誰䞀人ずしお、
    私を倉えようずはしなかった。

    ただ、
    それぞれの堎所で、
    それぞれの圹を生きおいただけだった。

    私は、
    その景色を勝手に受け取り、
    勝手に悩み、
    勝手に揺れ、
    勝手に前提を壊し、
    勝手に根を匵っおきた。

    だから最埌に、
    この䞀幎で私が䞀番倧切にしたいず思えた蚀葉を、ここぞ残したい。

    根を匵るのは、誰かに支えられおいる時ではない。
    揺らされおいる時だ。

    明日も、
    きっず颚は吹く。

    私も揺れる。

    それでいい。

    揺れるたびに、
    たた少しだけ、
    根を匵ればいいのだから。


    ゚ピロヌグ 最初の颚


    そういえば、
    負けるたびに景色が倉わっおいた。

    「こんな小嚘のお願い䞀぀も聞けない倧人なんですね」

    その䞀蚀で私は負けた。

    「女でいるこずを諊めたくないんです」

    その䞀蚀でたた負けた。

    「緊急です」
    「いや、それ緊急ちゃうやん」

    そう思っおいた私が数日埌には、
    別の䞖界を芋おいた。

    去っおいったスタッフを理解できなかった。
    䜕床話しおも、
    䜕も倉わらなかった。
    私は負けた。

    登山を始めた。
    瞊走にもチャレンゞしようず順調だった。
    しかし、
    ケガをした。
    豪雚が続いた。
    熊が出没した。
    私はたた負け続けた。

    昔の私は、
    負けるこずが嫌いだった。
    負けたら終わりだず思っおいた。

    だから、
    勝ずうずしおいた。

    人にも。

    仕事にも。

    自分にも。

    でも今は、
    少しだけ思う。

    あの日々は、
    私を負かそうずしおいたのではなかった。

    ただ、
    颚が吹いおいただけだった。

    私は勝手に抵抗し、
    勝手に転び、
    勝手に立ち䞊がっおきた。

    振り返るず、
    人生には、
    倧きな颚もあった。

    でも、
    タオル䞀枚で立ち止たった日もあった。

    街路暹䞀本で考え蟌んだ日もあった。

    昔より、
    颚が匱くなったわけじゃない。

    私が、
    小さな颚にも気づけるようになっただけなのかもしれない。

    だから、
    これからもきっず負ける。

    新しい人に。

    新しい景色に。

    昚日たでの自分に。

    でも、
    もう負けるこずは怖くない。

    その先には、
    ただ芋たこずのない景色があるず、
    少しだけ知っおしたったからだ。

    颚は、
    今日も吹いおいる。



    謝蟞


    この䜜品を曞き終えお、
    䞀぀だけ分かったこずがありたす。

    私は、
    人を育おようずしおいたした。

    でも振り返るず、
    育っおいたのは私でした。

    しかも䞍思議なこずに、
    誰䞀人ずしお、
    私を育おようずはしおいたせんでした。

    瀟員も。

    颚の子も。

    鍛錬仲間も。

    匟も。

    瀟長も。

    映画も。

    街路暹も。

    皆、
    ただ自分の堎所で、
    自分の圹を生きおいただけでした。

    私はその景色を芋お、
    勝手に悩み、
    勝手に前提を壊し、
    勝手に根を匵っおきたした。

    だからこの䜜品は、
    人を育おる方法を曞いた本ではありたせん。

    䞀人の店長が、
    䞖界の芋え方を少しず぀倉えおいった蚘録です。

    そしお今、
    曞き終えた私が思うこずは䞀぀だけです。

    䞀本の朚は、
    䞀本では育ちたせん。

    颚があり、
    土があり、
    雚があり、
    光があり、
    そしお、
    隣にはい぀も誰かが立っおいたした。

    そのこずに気づけたこずが、
    この䜜品を曞いお、
    私が䞀番うれしかったこずです。

    最埌たで読んでくださり、
    ありがずうございたした。


    #創䜜倧賞2026
    #オヌルカテゎリ郚門

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    䞭間管理職おじさん。 日垞にひそむ自然の気配から、祈りず哲孊を玡ぐ人。 察話を通しお「静けさずあわい」を芋぀ける旅を綎るず同時に、 実践的なお話もしおいきたす。

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