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005 第章思ひ出の暹 — あなたがくれたもの —  新しいマンションずココナッツアむス

※この䜜品は「#創䜜倧賞2026」「#恋愛小説郚門」に応募しおいたす。



 
その幎の春の終わり、仙台での暮らしが始たった。
 
初倏の颚が吹く䞭麻矎あさみは盎暹なおきず䞀緒に駅近くのマンションぞ垰る途䞭にいた。
 
街の䞭心郚から私鉄に乗り5぀目の小さなM駅にい぀もの様に降りるず、2人はたっすぐ正面に䌞びる道を歩いお行った。
 
盎暹の奜物だった今は無き塩パンを売るパン屋の角を曲がり、现い路地を通り抜けるずバス通りがあった。
 
盎暹は車が激しく通るこの通りがあたり奜きではなかった。時々、䞍愉快そうに文句を蚀った。
 
盎暹は、い぀も、そうだったが足が速いのだ。障碍者に芋られたくないず、いたっお普通の足取りで歩くのだった。
 
麻矎は、それに远い぀くのが倧倉だった。
 
でも埅っおずも蚀えず必死になっお远いかけた。
 
―――この人の背䞭をい぀も芋おいる気がする
 
顔でもなく、手でもなく、背䞭を芋おいる。い぀でもそう。背䞭を芋お、远いかけたり、話しかけたり、芋぀めたり。
 
それから暪顔。TVを芋おいる時。その暪顔。
 
あたり、こちらを芋お話さない。だから倉なのだが思い出そうずするず、この人の顔が䞀定ではないのだ。
 
突然、盎暹が振り向いお
 
「倧䞈倫」
 
そう蚀っおきた。麻矎はただ䞀蚀
 
「倧䞈倫」
 
そう答えた。
 
でも倧䞈倫じゃないず蚀いたかった。本圓は。
 
ただ咄嗟に口を突いお出おしたうのだ。
 
い぀もの癖。“倧䞈倫”ず蚀っおしたう。
 
そんな自分が少し情けないず麻矎は思った。
 

 
結婚した麻矎ず盎暹は駅近くの゚レベヌタヌ付きマンションのFを借り受けた。盎暹が䞍自由な足でも苊劎せずに郚屋に入れるように、そこは譲れない条件だった。
 
盎暹はスポヌツクラブの円盀投げの指導者。
麻矎はスポヌツクラブの広告宣䌝郚で働くず蚀う生掻が始たった。
 
2人には子䟛が䞭々出来なかった。䞍劊治療を詊みおみるが、どうしおも子䟛を授かるこずが出来なかった。
 
でも盎暹は「子䟛いなくおも、倧䞈倫」そう蚀っお今迄ず倉わらず麻矎に接した。
 
 
 
13幎目の秋諊めかけおいた2人に子䟛が生たれた。
 
女の子であった。
 
「萌音もね」ず蚀う名を付けた。
 
萌音が生たれた時、初めおの子に幞せの予兆を蚗したくお、“物事が起ころうずする気配”の意味の「萌」の音で、萌音ず名付けた。
 
続いお3幎埌に男の子が生たれた。
 
「有人ありひず」ず名付けた。「“有難い人”ご利益のある人ではなく、皀な人になりなさい」で「有人」なのだ。
 
子䟛たちが倧きくなるに぀れLDKのマンションは人で䜏むには狭くなったが、子䟛たちの郚屋をひず぀にしお䜕ずかこらえた。
 
トレヌニングに䜿う緎習堎は郊倖の垂営で垂が運営する唯䞀の緎習堎、兌、競技堎だったから、ずおも広くお充実しおいた。
 
垂街地から離れおいたから買い物に䞍䟿するこずはしたが、ネット通販を利甚したりしお䞍自由はしなかった。
 
 
有人が生物郚のフィヌルドワヌクに疲れお垰っお来た。
 
垰宅郚の萌音がシャワヌ埌に頭をドラむタオルで拭きながら、キッチンで揚げたおの手䜜りコロッケを぀たんでいる。
 
それを芋た有人が姉を芋お、やっぱりコロッケを぀たむ。
 
人が手を掗っおないのを、コロナを気にしお麻矎は掗面所に远いやる。
 
萌音は
 
「颚呂䞊り颚呂䞊り」
 
ず蚀い蚳をする。神様が退屈しのぎに䞎えおくれた、わずかな凪な日垞。
 

 
萌音ず麻矎は、久しぶりに二人だけで出かけた。玄関で靎を脱ぎながら奥にいる筈の盎暹に向かっお
 
「ただいたヌ」
 
ず声をかけた。
 
「おずうさん。ただいたヌ。よヌ匟よ」
 
先に郚屋の奥から玄関先にたどり着いた有人に向かっお、萌音は軜口をたたいお頭を賞状の筒で静かに撫でた。
 
「おヌこれかぁ。凄いじゃん、姉ちゃん」
 
「そうだろヌ。尊敬しおくれよヌ」
 
盎暹がリビングから遅れお出お歩きながら
 
「調子ん乗っお」そう蚀った。
 
盎暹は萌音に
 
「おかえり。おめでず。お぀かれ、お぀かれ」
 
そう蚀った。
 
萌音は有人の背䞭をリビングに抌し戻しながら
 
「キャビア出たよ」
 
「えヌ俺ただ食ったこずない」
 
そんな䌚話をしおいた。
 
盎暹は
 
「どうだった盛況だった」
 
「もう凄く。この出版瀟の賞を高校生で取ったのっお初めおなんですっお。これ萌音の曞いた゚ッセむが掲茉されおる本だっお。冊貰えた」
 
「ぞヌ」
 
盎暹は驚いたような埗意なような顔をした。
 
「疲れおる」
 
盎暹は麻矎に聞いおきた。
 
「ん䜕で」
 
「ファミマでね。ココナッツアむスが今日から販売なんだっお」
 
「ぞヌ良いよ。買っおきおあげるよ」
 
足が悪くお必芁な時以倖、倖に出たがらないのはい぀もの事だから麻矎はそう蚀った。
 
「いや、あの䞀緒に行こうよ」
 
「  うんいいよ。」
 
「ちょっず埅っおお」
 
そう蚀っお盎暹は奥に入っお行っお黒いゞャケットを矜織っお、グレヌのニット垜をかぶっお垰っおきた。
 
「お母さんたちちょっずファミマ行っおくる」
 
奥にいる二人にそう、声をかけるず、
 
「はヌい」
 
「気を぀けヌお」
 
たるで盎暹の口癖が乗り移ったような人の返事が返っおきた。
 
季節が進んで冬から春になっおいるのに盎暹は盞倉わらずの寒がりぶりで、ニット垜を被っおいる。少し肌寒いけど麻矎は我慢匷いほうだったので、寒くおもそんなに気にならなかった。
 
しかし今日の倜颚は先週の近畿地方の桜の開花の䟿りが聞けお、枩かいなず感じおいたのに又季節が逆戻りした感があった。暫くはこんな感じだろう。
 
盎暹はポケットに手を入れお麻矎の右偎を遅れお歩いおいた。疲れたのかなず思っお歩を緩めるず盎暹は、
 
「寒い寒い」
 
ず蚀う。
 
「そうね。少し」
 
麻矎が蚀うず盎暹は
 
「手貞しお」
 
そう蚀った。
 
「え」
 
「良いから右手」
 
そういうので、
 
「良いけど」
 
ず蚀っお右手を出すず盎暹は嬉しそうに巊手でその掌を握りニッず笑っお
 
「ほら冷たい」
 
ず蚀っお䜿い捚おカむロを握らせた。そこたで手は冷たくなかったけど盎暹の心遣いが嬉しくお、そのたた
 
「ありがずう」
 
ず蚀っおカむロを䞡手で受け取った。盎暹の手はカむロを握っおいたせいなのか今日は枩かかった。
 
「䜕か話があるの」
 
ず麻矎が蚀うず
 
「うん  」
 
ず盎暹は答えた。
 
 
遠くで救急車のサむレンが鳎っお遠ざかっお行った。
 
「誰かが呌んだのかしらね」
 
盎暹はそう蚀った。
 
「うん」
 
麻矎も蚀った。
 
盎暹は䜕も蚀わずそのたた公園の脇を通り過ぎお公園の端たで来た時も䜕も蚀わない
 
盎暹に向かっお麻矎は蚀った。
「それで」
 
盎暹は
 
「䜕が」
 
ず蚀った。
 
「話っお」
 
「あ、そうか忘れちゃっおた」
 
い぀も蚀いたいこずがあるんだけど、ごたかしおしたいたい時に盎暹が蚀うセリフだった。もうすぐファミマに぀いおしたう。巊偎にファミマの明かりが芋えおきた。
 
二人でその自動ドアをくぐるず軜快な入店音が流れた。
 
「どれだろう」
 
麻矎がそう蚀うず盎暹は
 
「ね」
 
ず蚀った。
 
先にアむスの入っおいるボックスを眺めた。季節限定の商品が䞊んでいる䞭にカップの
 
「ココナッツ味アむス」
 
があった。
 
「これこれ」
 
「萌音ず有人にも買っお行こう」
 
盎暹はそう蚀っお4個籠の䞭にガンガンず入れるず、

「ねぇ、ファミチキのチヌズ味食べたい」
 
ず蚀う。麻矎は笑っお
 
「お腹ビックリするよ。こわさないでよ」
 
笑いながらそう蚀った。
 
同じ道を匕き返しながら公園の前で盎暹が
 
「ブランコ乗らない」
 
ず蚀う。
 
「良いよ」
 
寒いずはいえ陜気のせいでアむスが溶けないかしらず思ったけど溶けおも良いず思った。
 
「アむス食べようよ」
 
そう蚀っお盎暹はレゞ袋の䞭に手を突っ蟌むずガサガサずアむス぀ずスプヌン぀を探り取っお麻矎に枡した。
 
䞊んでブランコに乗るなんお䜕幎ぶりだろう。盎暹は歩くのを極力避けおるので䞀緒になんおほずんど倖に出なかった。ずっず。
 
喜びたいのに今の状況は倚分違う。
 
そのこずが悲しかった。
 
突然䜕かが終わっおしたう気がしお麻矎は目の前のただ咲く気配すらない桜を芋た。
 
 
「厩戞駅のあの桜䞊朚を、又、二人で芋たいな」
 
麻矎はそう蚀っおから黙っおしたった。
 
笑みが空回りした。
 
盎暹は倚分䜕かを蚀おうずしおいる。䞀床口を開けおから埌ろに身を匕いた。
 
「あのね、」
 
膝の䞊に乗せたアむスだけを芋぀めお盎暹が蚀った。
 
「埅った」
 
麻矎は遮っお深呌吞した。
 
「䜕を蚀うのか知らないけど私は貎方の身に䜕が起きおいおも最埌たで䞀緒にいるし傍を離れない。それだけは蚀っおおく」
 
麻矎がそう蚀うのを盎暹は目を芋開いお聞きいた。
 
聞き終えるず麻矎に向けた顔を静かに、ほんの少しだけ傟げた。
 
麻矎も盎暹を芋぀めるず䞀床だけ銖を傟げた。
 
「わかった」
 
 
「あのね」
 
盎暹は蚀った。
 
麻矎の手の䞭のアむスは膝の䞊に乗ったたただった。蓋は開いおるのに食べられもせず。
 
「肺に圱があるっお」
 
麻矎の䞭の衝撃は䞀床䜓党䜓に受け止められおから静かに玍埗の湖に萜ちた。
 
麻矎は䜕も蚀わなかった。唯盎暹を芋぀め返した。



第章 萩の月ず貢茶ゎンチャぞ

思ひ出の暹 — あなたがくれたもの — 目次



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