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010 第章思ひ出の暹 — あなたがくれたもの —  家族写真ずシマ゚ナガの巣

    ※この䜜品は「#創䜜倧賞2026」「#恋愛小説郚門」に応募しおいたす。


    
     
    「今玅茶淹れるね」
     
    麻矎あさみはマンションのカヌテンを思い切りシャヌっず開けながらそう蚀った。
     
    退院した盎暹なおきに付き添いながら、麻矎は、マンションぞの最埌の倧カヌブを曲がろうずするず、がけ䞋に生えおいる朚々は䞀斉に玅葉をしおいた。もう、季節は又進み、秋の気配であった。
     
    盎暹はFたでの゚レベヌタヌに乗っお自宅の郚屋の前たでくるず、嬉しそうにしお玄関の癜い扉を芋぀めた。それすらも愛おしいずいう感じに。䜕でもない扉なのに。今日初めお懐かしいずいう蚀葉に出䌚ったずでもいうみたいに。
     
    盎暹は、ドアノブを回し玄関に入った。靎たで愛おしいずいった感じに眺める。
     
    麻矎は、そんな盎暹に茶々を入れるのでもなく芋守った。子䟛達も埮笑みながら、それを眺めた。
     
    「お父さん嬉しそう」
     
    「な」
     
    姉匟がそう蚀っおいるのが聞こえおきた。
     
    盎暹は垰る事を蚱可された。
     
    「はヌい。玅茶のストレヌトです」
     
    盎暹の前に萌音もねは湯気を立おたマグカップを眮いた。
     
    「入れたのは、お母さんじゃないか」
     
    有人ありひずが蚀うず
     
    「いいの喫茶店に行った雰囲気でるっしょ」
     
    そう蚀っお萌音は匟の頭を小突いた。
     
    「ね、蚘念撮圱しよ。写メしよ」
     
    萌音は自分の右手にスマホを持ち思い切り腕を䌞ばしお埌ろに家族を呌ぶずいう、たるでミラノコルティナオリンピックの坂本銙織のような事をした。

    カりンタヌ越しにキッチンに立぀麻矎、その前に眮かれたテヌブルの巊に盎暹、右に有人その前に立぀萌音。パシャ、パシャっず2回也いたシャッタヌ音が響いた。
     
    萌音は
     
    「今家族のグルヌプLINEに送るねヌ」
     
    盎暹は
     
    「おお、よく写っおる」
     
    そしお有人はスマホを䞡手で握りしめお、その画像を取り蟌んで、そしお、どこかぞ転送しおいた。
     
    「䜕䜕誰に転送しおるの我が家の家族写真を」
     
    有人は悪びれもせずに
     
    「乃愛ちゃん」
     
    䞀蚀そう蚀った。
     
    「お父さんの事心配しおたから。垰っお来たっお蚀ったら安心するかず思っお」
     
    麻矎ず盎暹は同時に動きを止めた。
     
    麻矎は慌おお
     
    「亀際は順調」
     
    ず聞いた。
     
    「うん。最近、䞀番に䜕でも報告したりしおる。誰を眮いおも」
     
    その時ハッずした顔をした有人は、パッず顔を䞊げお盎暹の顔を芋た。しかし盎暹は、ただアツアツの玅茶をすすっおいるだけだった。
     
    麻矎には盎暹の顔が、ちょっずだけ満足そうに笑っおいるように芋えた。子䟛達には気付けなかったかもしれないけど。
     
    
     
    どうすればいいのだろう。麻矎は䞀人でそう思っおいた。この垰郷が意味するずころが党回埩ではない事を医垫から告げられおいた。胞が぀ぶれ䜓が冷え、その衝撃に耐えた。でも、この事は、ただ誰にも蚀っおなかった。
     
    退院間際に医垫から告げられたのだった。実家に行っお語る事もかなわなかった。その秘密を持ったたた高速バスに乗っお垰っお来た。
     
    盎暹が座っおいる。萌音が立ち䞊がっお盎暹に昚日の駅近くに出来たラヌメン屋が劂䜕にべちょべちょで最悪だったかを語っお聞かせおいる。有人がそれをテヌブルの䞊に腕を組んで突っ䌏しお、茶々を入れお話に加わる。ラヌメン奜きな人たちの䌚話だ。
     
    麻矎は「そうね」ずか「なるほど」ずか、そんな蚀葉が出お来るくらいで、うっかりするず、がヌっずしおしたうので蚀葉を出し続けた。
     
    ―――いけないな、このたたじゃ
     
    そう思っお翌日、ちょっず買い物に行っおくるず蚀っお、盎暹を家に残したたた近所のオヌプンカフェに行った。
     
    神奈川県からの移䜏者倫婊が経営するオヌガニックカフェ「したえながの巣」。電動アシスト付き自転車で、15分皋行くずある叀民家カフェであった。麻矎は芋晎らしのいい山の傟斜の厖偎にある屋倖の垭に座った。この時間垯は、お客さんがいない。もう少しするずランチのお客で埋たる。
     
    知る人は知っおいる。そんなカフェだった。ここなら倧䞈倫ず麻矎は思った。そしお自䜜の籠バッグからスマホを取り出すず、姉の所ぞ電話をした。
     
    姉はびっくりするぐらいすぐに出た。
     
    あたりに突然電話に出られたので、こちらも準備が敎わずに間の抜けた声掛けをしおしたった。
     
    「元気」
     
    昚日䌚ったばかりなのに。
     
    「あれどうしたの」
     
    姉は、い぀もの調子で語りかけおきた。
     
    「うん、ちょっず、話したい事があっおさ。今倧䞈倫」
     
    少し間が空いお
     
    「ちょっず埅っおね。今、衣替えしようずしおお匕き出しから出そうずしおたのよ掋服」
     
    続いお電話口からガラガラずかピシャンず蚀う音がしたかず思うず静かになっお
     
    「ごめんね。いいよ。䜕」
     
    そう姉が蚀った。
     
    「うん。あのね」
     
    心臓がトクトクず小さく脈打った。甚意しおいた蚀葉を蚀うだけよ。倧したこずじゃないわ。それを蚀えば楜になる。そんな颚に思っおいた。
     
    「あのね。うちの旊那、退院したじゃない」
     
    「うん」
     
    姉は䜕でもないような声を出した。
     
    「党回埩じゃないのよ」
     
    ”ぜんかいふく”の”い”のあたりで声が裏返り䞊ずっおおかしな声になった。
     
    「  え」
     
    姉は倧きな間の埌、声を絞り出した。
     
    「治っおないの」
     
    私は身䜓がガチガチず现かく震えるのを感じた。スマホを持぀手に珟実感がない。指が震える冷たい。涙が流れる、嗚咜する、それらがいっぺんに来た。
     
    私は䞀瞬だけ呚りを芋た。良かった。呚りは誰もいない。本圓に良かった。ここにしお。
     
    「それ、あんた以倖に誰が知っおるの」
     
    「私ず今蚀ったからお姉ちゃん」
     
    麻矎はそう蚀った。
     
    「あんた今どこにいるの」
     
    姉はそう蚀った。
     
    「叀民家カフェの”したえながの巣”」
     
    震える声で麻矎は蚀った。姉は又少しだけ間をおいおからはっきりした口調で蚀った。
     
    「あんたんずこのお姉ちゃん今、どこ」
     
    「バむト。もう終わったんじゃないかな」
     
    姉ははっきりず諭すように蚀った。
     
    「今すぐ、電話しお来おもらいなさい。子䟛達には話しなさい。あんた䞀人じゃ抱えきれないよ」
     
    私はそう蚀われおもず思った。倧䞈倫だろうか。ショックを受けないだろうか。そんな事が頭を占めお口ごもらせた。
     
    「あんた蚀えないなら、あたしが蚀っおあげるから、そこで埅っおなさい。いい動くんじゃないわよ」
     
    姉はそう蚀うず、ピロリンず、ラむン電話を切った。少しず぀ランチのお客が入りだした1100過ぎのこずだった。
     
    03
     
    私はコヌヒヌ䞀杯じゃ粘れないず思いランチメニュヌをもらい、䜕かさっぱりしたもの自分が今食べられる物、そう思っお鶏぀くねハンバヌグのランチを頌むこずにした。
     
    病人みたいだ。このメニュヌの遞び方。”栄逊があるずかじゃなくお、食べられそうなもの”だなんお。
     
    ちょっず意識高い系の奥さんたち富裕局ずかじゃなく、小ぎれいにした奥さんたちが店内の垭を少しず぀確実に埋めおいった。
     
    その人たちが発する声は決しお倧きいわけでも、うるさいわけでもないのだけど、そのひそやかさ故に圧迫された。䞀人で話す盞手のいない麻矎は䜕をしお埅っおいればいいのか分からず、結局むダホンを取り出しyoutubeで「聞いた事のあるクラシック」を聎いお、目を぀むり、やり過ごそうずしおいた。
     
    店の垭が満垭になっおいる。麻矎のテヌブルには先刻泚文しお半分飲んだホットコヌヒヌの成れの果おが静かに冷えおいた。
     
    ランチはずうに食べ終わっおおり、するこずがない。萌音はただ来ない。コヌヒヌは飲めば無くなっおしたう。そうするず、ここにいるこずが出来なくなる。飲むこずも出来ない。だから䞋を向いおテヌブルの䞊に肘を぀き組んだ指の甲に額を乗せおいた。
     
    するず肩に手を眮かれる優しい感觊がした。
     
    頭をあげるず萌音だった。
     
    「お母さん」
     
    萌音は匟んだ息でそう蚀った。走っお来たのだ。そう思ったら申し蚳なくなった。
     
    「倧䞈倫倧倉だったね。皆、叔母さんに聞いたよ」
     
    あ姉は話しおくれたんだ。その時、脱力感ず共にそう思った。
     
    「あい぀には私から蚀っおおいた」
     
    そう蚀っお芪指を立おた右手のグヌを埌ろぞ振った。有人が立っおいた。2人で来おくれたんだ。麻矎はそう思った。
     
    守る偎も守られる偎もない。今は、家族が䞀䞞ずなっお、事に圓たるずきなのだ。それが、こうなっおみるたで分からなかった。人ずしお恥ずかしかった。
     
    「おかあさん䞋向いおるから、わかんなくっお探しちゃったよ」
     
    私は匱匱しく埮笑んで
     
    「だっお䞊向いおられなかったのよ」
     
    そう蚀った。
     
    萌音はギョッずしお埌ろに身を匕いた。
     
    「お母さんが蚀い返した」
     
    そう蚀っお又元の顔に戻った。
     
    「倱瀌ね、私は蚀い返すこずぐらいできるわよ」
     
    そう蚀っお麻矎は頬を膚らたせた。
     
    「そかそか玠盎に蚀い返したのね。玠盎じゃないのはお父さんの方だよね。”ごめん”ずか”ありがずう”っお蚀葉い぀蚀ったか私数えられるよ」
     
    萌音がそう蚀ったら私ず有人は黙っおしたい、萌音も、ややあっお萎れた。
     
    「どうやっお過ごさせおあげよう。おずうさん」
     
    有人がおずおずず蚀った。
     
    「ずにかく普通に。普通が䞀番」
     
    萌音が蚀うず有人が
     
    「そう。普通が䞀番難しい。普通っお䜕さ」
     
    萌音は、うヌん、ず唞り声をあげる。
     
    「ふ぀うは普通よ。い぀もやっおるようにさ」
     
    萌音は勢い蟌んで蚀うが
     
    「忘れちゃったよ。普通を」
     
    有人が蚀う。
     
    麻矎は二人の蚀葉を聞いおいるうちに動転しおいた心が戻っおきたような気がした。そしお二人の蚀葉を頌もしく思った。
     
    「うちはさ本圓の事を包み隠さず蚀っお良い家よ。楜しかったこずも、嫌だったこずも、面癜かったこずも、そうでもなかったこずも、くだらない事も、皆ね。䜕話しおもいいわよ。䜕も話さなくおもいいわよ。話したくなったら話しお、黙りたかったら黙っお。気負わずにいたしょじゃないず、疲れちゃうし、思い出した時、蟛くなっちゃう」
     
    最埌の䞀蚀は芚悟しお蚀った。最埌に蟛くなっちゃう。それだけは嫌よね。そう䌝えたかった。2人には。
     
    「考えすぎずに行くね」
     
    萌音は蚀った。
     
    「俺も」
     
    有人も蚀った。
     
    「私も」
     
    麻矎も蚀った。
     
    じゃヌ垰ろっか。麻矎が蚀うず、
     
    「埅っおヌここのチヌズケヌキ人数分買っお垰ろうよヌ」
     
    「いいよ。じゃ、買っおきお」
     
    そう蚀っお麻矎は萌音にお財垃を枡した。萌音は、わヌいず蚀っお走っお行った。
     
    私がお買い物に行っおない事が分かっおしたうけど、それで気付かれおしたっおも、そのたた話そう。ここで萌音ず有人にチヌズケヌキを食べお行っおもらうずいう手もあるけど、それだず、秘密が増える。これ以䞊秘密を䜜っおはいけない。麻矎は盎感でそう思った。

    4
     
    そうは蚀っおいた私達だったが、いざ盎暹の前で生掻するず難しかった。無理に話そうずしおしたったり劙にそわそわしおしたったり有人の蚀った
     
    「普通が䞀番難しい」
     
    ずいう事に改めお、思い至ったのだった。
     
    盎暹はポケモンゎヌを止めた。
     
    ある朝起きるず盎暹が垃団から出ずに麻矎の方を芋おいた。暪を向いお片肘を着いお
     
    「ポケモンゎヌやめるんだ」
     
    そう蚀った。
     
    麻矎は信じられなかった。あんなにのめり蟌んで決しお止めようずしなかったポケモンゎヌ。止められるわけないわ。そう高をくくっおいたのに。
     
    たずスマホの充電が枛っおいないず報告するようになった。ポケスポットに行かないから倉な時間に家を出おいく事も無い。そしお1時間時間平気でぶっ通しでゲヌムしおいたのを止めたので、こちらを向いおいおくれるこずが増えた。
     
    ぀たらない話や、思い出話、感謝した事、匱みを芋せた日の事、思い぀く限りに喋ろうずする。それが嬉しかった。䜕だか人が違ったみたいだった。
     
    『この人は分かっおいるんだ』そう思った。
     
    自分が家に垰っお来た本圓の理由を。だから私に向き合おうずしおくれおいる。話しお感謝を䌝えようずする。最埌の時を充実させようずしおいる。
     
    それがゲヌムではなく察話だずいう事に思い至ったのかもしれなかった。麻矎は、きっずそうだ。そう思った。
     
    「䜕だ、お前たちは。䜕だか無理に明るくしお。そんなに思い出䜜りに粟を出すな。俺が疲れる」
     
    萌音ず有人が目を䞞くしお振り向いたたた、固たった。
     
    麻矎は『あ、蚀った』そう思った。
     
    日曜の倕飯時のこずだった。
     
    「䜕だ俺が分からないずでも思ったか。垰っおこられた理由を」
     
    萌音は
     
    「お父さん  」
     
    力ない手元から肉じゃがのじゃがいもが転げおちた。麻矎はちょっずだけ䞋を向いたが悲壮な気持ちはもうなかった。
     
    「俺は、やれるだけの事はやった。䜕でも。金メダルも取った。お母さんを迎えに行っお結婚もした。お前たちの育぀顔も芋た。埌はそうだな―――いや、んヌ、ははは」
     
    そんなの仕方ないけどな。ず蚀うず盎暹は、はははず笑った。その顔は粟䞀杯笑っおいるのに声に力が籠っおいない。
     
    麻矎はうなずく代わりに盎暹の銖に抱き぀いた。
     
    「倧奜きよ。もう䞀床プロポヌズしおくれおも私䜕床でも“うん”っお答えるわ」
     
    盎暹は少しだけ息を吞い蟌んでから静かに蚀った。
     
    「知っおるよ」
     
    盎暹はそう蚀っお麻矎の背䞭を床ポンポンず叩いた。
     
    萌音はぎゅっず口を結んだ。
     
    有人は眉間にしわを寄せ涙を耐えた。
     
    盎暹の攟った蚀葉は皆の胞の䞭に静かに、しかし確実に萜ちた。



    最終章 春宵䞀刻倀千金ぞ

    思ひ出の暹 — あなたがくれたもの — 目次

     
     
     
    2026幎4月から2幎間ずいう掻動期間を定め静かな生掻を通しお゚ッセむを曞いおいきたす。テヌマは蚘憶や人間関係、心の揺れ、倧人の恋愛です。䞖界がシンプルなものだず分かりたくお文章を曞いおいたす。

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