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008 第7章①|思ひ出の樹 — あなたがくれたもの —  ピンク系オレンジの長袖Tとバレンタイン

※この作品は「#創作大賞2026」「#恋愛小説部門」に応募しています。


 
01
 
土日を使って、子供たちが仙台から東京の病院にやって来た。
 
直樹(なおき)は、この1週間で、少しやつれたような気がするし、顔色も以前に比べたら、くすんでいる事はわかっていた。
 
麻美(あさみ)は子供たちがそれに気づいて怯えないように、直樹の顔色が良く見えるピンク系オレンジの長袖のTシャツを着せた。ノックの音がして、白い引き戸が開かれると、有人(ありひと)だけが入ってきた。
 
「あれ?ここだよね」
 
有人はそう言った。
 
麻美の顔を見ると、
 
「あ、そうだ、そうだ、ここでよかったんだ」
 
とにっこり微笑んだ。
 
「お父さん、すげー似あってる、いつもそういう色着ればいいのに」
 
有人が精一杯元気を出そうとしてるのを感じて、麻美はイイ子だね。あなたと私の子は、と心の中でつぶやき直樹を見た。
 
「お姉ちゃんは?」

直樹が有人に尋ねた。
 
「飲み物買ってから行くって。先行ってて、って俺おいてかれちゃったんだよ、途中で。部屋番号も姉ちゃんが知ってると思って、うろ覚えだったから、ナースステーションで聞いちゃったよ」
 
「覚えてないあんたが悪い」
 
入り口で、足を広げて仁王立ちになっている萌音(もね)がこちらを見て言い放った。
 
「お姉ちゃん、良く来たね」
 
直樹はそう言って、ちょっとだけ、微笑んだ。
 
麻美は
 
「飲み物買ってきたんだ。そう言うところ気付けるようになったんだね。偉いねぇ。もう立派な大人だね」
 
萌音は
 
「当たり前でしょそんな事」
 
そう言ってはいるものの、ちょっと誇らしげになっている。大人になりたてのJKの誇りみたいなものが見て取れて、嬉しくなった。
 
「もう、お父さん聞いてよ。こいつったらね。お父さんたち、いなくなったとたん夜一人でトイレいけなくなったんだよ。なんで、あたしがトイレまで付き合わなけりゃいけないのよ。夜中の3時に」
 
「だって広く感じちゃうんだもん。二人も足りないと」
 
直樹は、はははと大きな声をたてて笑った。それを見て一同が安心したようになったのを、麻美は見逃さなかった。
 
直樹が笑った。大声上げて。それから直樹は萌音の彼氏の事を聞きたがった。

そして有人が今年のバレンタインチョコレートをもらった子の中に、本命の子がいたらしいことを知った。そして、めでたくホワイトデーにお付き合いしてくださいって言えたことを聞いて、良かった良かったと頷いた。
 
窓から西日が差してきても、まだ話す時間が足りないとばかりに、麻美達は、どうでも良い話をした。
 
「明日も来るよ」
 
そう姉弟二人が言うと
 
「良い、良い、もう来ないでも。たまの東京、羽伸ばして来なさい」
 
と言ったのを潮に取り敢えずの家、「実家」へと子供たちは帰り「じゃぁ、一緒に」と麻美も帰った。
 
02
 
実家に帰ると、姉の家族は明るかった。
 
それは救いだった。麻美の家族も確かに明るくはあった。
 
どちらの家族も曲がることなく健全な心でいられている事が、両方同時に存在してる事が、何かの贈り物の様に思えた。

麻美は、姉がすでにキッチンに立って料理をしてるのを見て、直ぐに、手伝い始めた。萌音は、何をしたらいいのか料理なんかしたことないので、取り敢えずリビングで皆にお茶を淹れていた。
 
「そうだ、お茶と言えばね。私今日病室でお茶を飲まなくて、ペットボトルのお茶が一つ余ってるんだけど、お姉さんいる?」
 
麻美がそう言うと、姉は
 
「今は特にいらないけど、そうねぇ。冷蔵庫入れておけば?」
 
と返してきたので、麻美は
 
「そうね。わかった。そうするね」
 
そう言って、キッチンを離れ、麻美は客間に行った。部屋が薄暗かったので、麻美が電気を点けようとすると、
 
「つけないで!」
 
という有人の鋭い声がした。
 
目を凝らすと、部屋の中央で床にへたり込んでいる有人がいた。その声は泣いているようだった。麻美は傍に寄って、隣にひざまずくと有人の肩に手を乗せた。
 
有人は、手のかからない子だった。下の子と言うのは、上を見ているので、それを教訓に手がかからないようになると書いてある本もあった。
 
「お父さん、どうなるの?」
 
神様にしか分からない事を私に聞いた。
 
「お父さんがより良い状態になれるよう最善を尽くすわ」
 
有人は、口をへの字に曲げながら、くぐもった声で、うう、と漏らした。手探りで有人のもう一方の肩を探り当てると、ぎゅっと抱きしめてあげた。有人は、身を固くして、それに耐えた。

いつも明るかった陰で、こんな風に泣いた事も一度や二度ではなかったのだろうと推測すると、麻美は、可哀そうな事をしていたのだと改めて思った。そして、申し訳なさがあふれた。
 
「どうしようね、明日」
 
有人を赤ちゃんの様に抱きかかえながら麻美は言った。
 
「行くよ」
 
有人は即答した。
 
「東京には又来るから良い。遊びできても良い。でも、今回は病院に行きたいんだ。2日しかいられないし」
 
麻美はウンとうなずいた。
 
「あっこも、そうしなって言ったし」
 
あっことは、有人の幼馴染の女の子である。
 
「え?ホワイトデーに付き合ってくださいってあなたに言ったのって、あっこなの?」
 
驚いて麻美が言うと有人はなんでと言う顔で
 
「違うよ。別の学校の女の子。乃愛(のあ)」
 
あっこは、女にしておくのはもったいない程、さっぱりした女の子だ。今同じ中学の野球部にいるケイゴと、3人同い年で家が近かったので、よくつるんで遊んでいたのは知っていた。
 
「あっこは、良い奴。恋人にしちゃうのは勿体ない」
 
「あらあら、複雑ね。心の中」
 
「だってそうなんだもん。お父さんと乃愛の事とか相談できるかなと思ったけど、それどころじゃなかったな。今日は」
 
「相談?」
 
「ううん。いいんだ。」
 
気になる。
 
でも、これ以降、色々な事が重なり過ぎて、それを思い出すのを忘れたままになっていった。


第7章② ピンク系オレンジの長袖Tとバレンタインへ

思ひ出の樹 — あなたがくれたもの — 目次

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