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貧困女子まひると毒舌占い師ルカの事件簿〜魔術師 最終話

    最終話ーー解決編

    魔術師のカード


    「えっ! なんでノーブラの写真持ってるんですか?」

    「どうでもよい暴露は置いておいて、この写真はおまえが、撮影したんじゃないのか?」

    「自撮りって言うやつですか?  私、そんな自己顕示欲ありませんから………って言うか、ノーブラで自撮りなんてーー絶対しません!」
    佐藤まひるは、癖っ毛のボブヘアを左右に振りながら、いつもは朗らかな顔に困惑と不満をいっぱいに浮かべ宣言したーーそして瞳を細めて続けて質問する。

    「って言うか、盗撮したんですか?」

    「オーララ、おまえはこの私が、いみじくも高貴な私が、下賤な犯罪者だと言うのか?」
    異国の人は呆れたように白銀のショートヘアを揺らし、冷たい氷のような瞳を向ける。

    その紫水晶のような瞳からは感情が読み取れず、彫刻のように整った顔は月の光を浴び一層神秘的で、その冷ややかな声には、嘲笑が混じっていた。

    「警察官って地方公務員ですよね?  税金の無駄遣いしてる地方公務員が高貴なんですか?  って言うか、警察官がなんで、恥ずかしい写真持ってるんですか?」
    まひるは頭をポリポリかきながら、不服そうに赤く染めた頬を膨らませている。

    「質問が多過ぎる。って言うかもーー多過ぎるぞ、佐藤まひる。この破廉恥な写真を撮られた記憶はないんだな?」

    「ありません! って言うか、その恥ずかしい写真、削除してください! プライバシーの侵害です」
    まひるは、まるで大切にしていたものを盗まれたかのように声を荒げた。

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    「これは詐欺事件の証拠だから、削除するのはムリだ」白銀の髪の人は瞳を細め、長い指で顎のラインをなぞりながら言葉を続ける。
    「しかし、なるほど………事件の全容が見えたぞ」

    「刑事さん、須長さんって言うんですよね?  本気で私を逮捕するんですか?」
    不満の中に戸惑いを含ませ、まひるは不安な表情で聞いたーーその彼女の指先は怒りで震えている。

    「佐藤まひる、佐藤まひると名乗る人物は犯罪者だ――そして人の善意を利用する悪は、もっとも許し難い」

    「えーっ!  私の自慢は、肌がモチモチしてること、それから、人を騙したことがないことなんですよ!」
    まひるはつぶらな瞳を丸くして大声を出した。

    「モチモチした能天気の、いったいどこが自慢になるんだ? 自慢出来る要素が、皆無なんだが」

    「かなり、傷つきました………責任取ってください」
    まひるは、唇を尖らせて、上目遣いに見上げる。

    「わかった、責任取ってやる」
    そう言って白銀の髪を払いながら彫刻のように整った顔を月に向けた異国の人は、冷ややかに抑揚を上げて言葉を紡いだ。

    「まず佐藤まひる、おまえは騙されたんだ。おまえを騙したのは絶対王女とか言うふざけた名前の詐欺師だ――おまえをマンションに泊めたのは、犯罪に利用するためと言うのが真相だろう」

    「絶対王女さん、優しかったですよ……悪口言わないでください」

    「オーララ、ここまで言っても、わからないのか?」
    整った額に長い指を当て、白銀の髪の人は嘲笑するように質問した。

    「わーん、わかりません」
    まひるは両手で顔を覆い、本当に泣き出しそうな声を上げる。

    「おまえをマンションに泊めた絶対王女の犯罪計画に、おまえは利用されたんだ。説明してやるからしっかり聞けよ」
    ほとほと呆れたように瞳を細め、白銀の前髪をはらりと払い、異国の人は一呼吸おくと淡々と説明を始めた。その声は、感情を挟まない冷たく澄んだ声だった。

    「まず、泊まる場所がないホームレスの女性を見つけてマンションに泊める。そして市役所に引っ越し申請して保険証を発行する。市町村により国民健康保険なら保険証は即日発行されるんだ。そしてその保険証を持って銀行の窓口に行くーーそして銀行のカードを再発行する」

    「私の銀行の預金?  銀行の預金なんて1000円もありませんよ…………通帳とハンコは失くしちゃったし」まひるは不安そうに少し赤くなっている指先をいじる。

     「まあ、聞くがよい、貧乏人。問題は銀行の防犯カメラだが、帽子を被ってマスクすれば、特定できないし、そもそも1000円も預金がない銀行カードの再発行に行員も慎重にはならない。そして再発行されたカードは、絶対王女が、おまえが知らない間に郵便受け取り人として受け取る――まあ、この時に捺印が必要だが、佐藤なんてありきたりの名前のハンコ、どこでも買えるだろ。銀行のカードは10日もあれば郵送されるだろうから、再発行カードを受け取ったら、おまえは用済みだ」

    「わ、私の1000円もない銀行のカード、再発行してどうするんですか?    意味不明なんですけど」
    まひるは不思議そうに首を傾げた。

    「おまえは山田花子という名前に、覚えはあるか?」

     「ありますよ、今夜、このベンチで深夜2時に待ち合わせた方です――私が泊まる場所がないって話したら、泊めてくれるって。その優しいお言葉に、希望を託して、藁にもすがる気持ちで来ました」 
    まひるは深夜の公園を見回しながら、小さく震える声で答えた。

    「佐藤まひると名乗る犯罪者に、山田花子は100万円振り込んだんだ」

    「えっ!   どうしてですか?」
    まひるの瞳がさらに大きく見開かれ、彼女の口は半開きとなった。

    「その理由は置いておこう――おまえの銀行預金に100万円振り込ませて、50万円限度額を2回引き出せば、2日で全額引き出せるだろう。最大の問題はATMの防犯カメラだが、眼鏡と、帽子、マスクで人物の特定は難しい。そもそもおまえの銀行預金なんだから、佐藤まひる、おまえが警察に重要参考人として事情聴取されるだろうな…………実際、おまえは絶対王女の容姿の特徴を覚えてないのだろう?」

    「ホクロが、ありましたけど」
    まひるは記憶を辿るように、その視線は宙をさまよっている。 

    「それはつけホクロだろう――つまり印象操作のミスリードだ」  

    「つ、つまり私が、山田花子さんから100万円騙し取ったと言うことですか?!」
    まひるは、大声を出してベンチから立ち上がった。

    「ウィ、そういうことだ」 
    異国の人は表情を変えずに静かに告げる。 

    「そ、そんな、絶対許せない! そんな酷いこと、私はしません!」
    立ち上がったまひるは、泣きそうな顔で拳を握りしめ、震える声で続けて告げた。

    「先輩たちに顔向けできないじゃないですか――伝統ある桜ヶ丘高校文芸部の卒業生としてあり得ない不名誉だし、私はお金はなくても、正義感だけはあるんです」

    「なりすまし詐欺と言うやつだーーつまり、犯罪者が佐藤まひるになりすました。おまえは利用されたんだ」 

    「刑事さん!  刑事さんは信じてくれるんですね? 
    いいですよ、逮捕でも、何でもしてください」
    まひるはまっすぐ異国の人を見つめた。その瞳は曇りなく、月光に照らされ輝いていた。

    「ノンノン、私は警察官じゃないんだ。国家の犬じゃないから、逮捕はできない」

    「えっ!  須長さんって警察官じゃないんですか?」
    まひるは前のめりになり、信じられないといった顔で異国の人を見つめた。

    「パルドン、おまえに見せた埼玉県警の名刺は本物だが、私のものではない。まあ、嘘というブラフをついたのは申し訳なかった――だいたい、ここは埼玉県じゃないだろ?」
    白銀を揺らしそう肩をすくめる人を馬鹿にした仕草ですら、どこか優雅である。

    「えっ!  あなたは、いったいナニ者なんですか?」
    まひるの混乱は極まり、頭の中は完全にパニック状態だった。

    「私は、ホウジョウイン、ルカだ」

    「ボンジョルノ、イルカ?」
    まひるは目をぱちくりさせる。

    「新種のイルカを勝手につくるな――ルカだ」
    紫色の神秘的な瞳の人物はそう言うと、タメ息をついてから冷静に言葉を続けた。

    「そして山田花子は約束通り、深夜2時に桜舞う公園に来ている」

    「えっ!  山田花子さん、どこにいるんですか?」
    まひるはキョロキョロと周りを見回した。その仕草は、まるで深夜の公園で迷子になった捨て猫のようだ。


    「ここにいる――私が山田花子だ」

    「イルカさんって、5秒前に言ったばかりじゃないですか!」
    まひるは驚きのあまり、瞳をさらに見開いた。

    「誰がイルカだ――山田花子は偽名だ。そもそもおまえはなんでネットで本名なんだ?  デジタルリテラシーがない後期高齢者か」
    呆れたように白銀の髪を左右に振る。

    「だって偽名なんて、良くないじゃないですか。って言うか、あなたがーー山田花子さんなんですか?」
    戸惑いと衝撃で、佐藤まひるの思考回路は、今、完全にオーバーヒートしていた。

    「ウィ、そうだ、もちろん偽名だけどね」

    「わ、わ、私が、あなたから、100万円盗んだって言うことですか?」

    「佐藤まひると名乗る別人が詐欺をしたということだ。そのマンションは最近よくある民泊施設かもしれないな。少なくとも絶対王女の部屋ではない。なぜなら絶対王女が一人暮らしならベッドが2つあるのは不自然だし、生活感もないのだから。そもそも絶対王女はめったに部屋に帰ってこなかったんだろ?」

    「そ、そんな………でも、確かにいつも1人でしたけど」
    まひるは呆然とした顔で呟く。

    「このノーブラ写真は、おまえが絶対王女のマンションだと言う部屋に泊まった最初の日、缶チューハイとか言う貧乏人が現実逃避するためのアルコールを過剰摂取した時に、撮られた写真だろうと推理出来る」
    紫色の神秘的な瞳を細め、ルカはそう淡々と説明した。

    「私、まったく知らなかったけど、山田花子さんから100万円騙し取ったって言うことですね? わかりました、100万円返します。すぐには無理ですけれど、必ず返しますから、信じてください!」
    佐藤まひるの声は真剣で、彼女の瞳には、強い決意の光が宿っていた。

    「信じてもよいが、100年も待てないぞ」

    「な、なんとかします」

    「オーララ、100万円などたいしたことない。この宝生院ルカを貧乏人と一緒にするな――その気持ちだけ、特別に受け取ってやるから感謝しろ」
    白銀の髪の美しい人は、どこまでも高慢な態度で言い放った。

    「えっ!   そんな………あ、あのーう、聞いてもいいですか?」
    まひるは戸惑いながらも、恐る恐る疑問を投げる。

    「ノンノン、私のブロックチェーンの投資手法は中央集権的ではないんだよ。そのボラティリティーのパフォーマンスを理解するなんて、金融リテラシーが致命的にない極東の島国の貧乏人には到底、無理な話しだ」
    ルカは、まひるの質問を見事に無視して、資本主義へのアンチテーゼをひけらかすように語った。

    「あのー聞きたいのは、不思議なことなんです」

    「極東の島国の愚民が思考停止している間に、世界は別次元へ移行してるんだーー別に不思議でもなんでもない」

    「なんで100万円も振り込んでしまったんですか?」
    まひるは諦めずに、もう一度尋ねた。

    「佐藤まひる――おまえに弟はいるか?」
    ルカの表情が、一瞬だけ、大きく揺らいだように見えたのは気のせいだろうか。

    「弟ですか………いませんけど、私は一人っ子ですから」
    まひるは、きょとん、とした顔で答えた。

    「そうか、おまえに病気の弟がいなくて良かったよ」
    そう安堵したルカの瞳は、遠くを見つめているようだった。

    「うーん、どういう意味ですか?」
    まひるは不思議そうに首を右に傾げた。

    「ウーフ、まあいい。おまえは伝統ある桜ヶ丘高校文芸部の卒業生なんだろ――今夜は私の豪邸に泊まるか?」

    「山田花子さん、私を泊めてくれるんですか?」
    まひるの顔に、一輪の花が咲くように光が差した。
     
    「おまえ、臭いから、まずシャワーを浴びろ」
    ルカは遠慮なく言い放った。

    「わ、わかりました、でも一緒にシャワーを浴びるのは………恥ずかしいから無理です」
    まひるは頬を赤らめて下を向いて答えた。

    「オーララ、いくら女同士でも、背中を流し合うなんて、そんなこと期待してないぞ!  な、なんて失礼なんだ!」
    ルカは心底呆れたように、そしてその冷たい表情を崩し、あからさまにに動揺している。

    「ありがとうございます!  この恩は一生忘れません」佐藤まひるは深々と頭を下げた。

    「来世では忘れるのか?  冷たいんだな」

    「って言うか、山田花子さんって女性なんですか?!」
     まひるは、今さらながらの大発見に瞳を丸くした。

    「アン? まったく失礼な奴だ――私を粗野な男性と一緒にするな。それに会話の世界線がズレてないか?    
    私は宝生院ルカだ。まあ、オマエは貧乏人のホームレスだから、空腹で血液が脳内まで循環してないんだろう」
    ルカは紫色の鋭い視線をまひるに向けた。

    「優しくしてくれて、本当にありがとうございます」
    まひるは、涙ぐみながらルカに感謝を伝える。

    「泣くことはないだろ?  私はルカ――そして職業は占い師、ノーブリスオブリージュだから気にするな」
    そう言いながら、白銀の髪のルカは深緑のスーツから1枚のカードを取り出した。

    そのカードを持つ手は白く、指は長く美しい。

     「ルカさんも、ノーブラなんですね」 
    佐藤まひるは恥ずかしそうにそう呟いた。 

     「オーララ、佐藤まひる、おまえは底なしの愚民だな――だがしかし、魔術師のカードが正位置で告げている。人はその気になればいつでも再起できる。再スタートできるんだ」
     ルカはスーツから取り出したタロットカードを見せた。

    その魔術師のカードは、未来への希望を暗示するように、桜の花びらのように優しく輝いている。

    桜舞う深夜の公園で、月は優しく2人を照らしていた。 
     
    おわり――

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    「最終話まで、応援本当にありがとうございます❤️」
    「貴方の未来に希望がありますよう、クールに願ってまず」

     
     
     
    ミステリー小説家の勿忘草、ワスレナグサです 障がいがあり、外の世界に出ることが出来ません。 だからこそ、ペンの力で、広い世界に出たいです✨ 犯罪被害の実話や、懸賞金問題を通じて、この残酷な世界に希望を届けられたら、嬉しいです。

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